表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/23

03:異変②

 

 キオンとシロは、医務室から客室に通されていた。

 シュカが用意したお茶菓子と紅茶を前に、フォスクロードについての話をきいていた。

 それは、魔王を倒してからのジュードの軌跡。フォスクロードを建て直すために奔走した、一人の魔族の話だった。

 キオンとシロにとっては、再会を約束したくせに自分は死んだ、酷い魔族の話だった。

 もちろん、その話だけではない。


「ということは、黒髪で金色の瞳の、すごく綺麗なあのひとは、ジュードさんの娘さん」


「はい。エルティア・フォスクロード。領主様です、……キオンさんの額を弾いて、気絶させたその人です……」


 そして、ついに判明した、現領主エルティア・フォスクロードの存在。殴る殴られないの話は、主にエルティアに向けられていたようだ。


「キオン……さては、」


 キオンは両手で顔を覆い、微動だにしない。キオンの魔族耳は、先までしっかり赤くなっていた。


「やっぱり、打撃で気絶したんじゃなかったんだね」


「……いわないでくれ」


 怪訝そうにするシュカに、シロは肩をすくめてみせた。大爆走しないだけマシだが、まさか領主様だったとは。とシロは思う。


「しかたないだろ……耳を……触られたし、額……を、つん、ってされたんだ……」


 ぼそぼそと、指の間からもれる理由は、混乱大爆走を経験したキオンにとって、十分すぎるものだった。

 シロも納得する。むしろ、魔法を暴発させて吹っ飛んでいかなかっただけの理性が残ってえらい、とまで思った。


 当初、シュカはエルティアの顔の良さを忘れていた。 

 キオンの反応に、領主が少々喧嘩っ早いことに驚いているのだと思った。

 しかし、よくよく見れば、驚きでも怯えでもない反応。耳の赤さ、そして返答。爆音の鳴る好意を“額をつん、”だなんて、なんと可愛らしい表現だろうか。


 機微に疎いわけではないシュカは、あ、と気付き、ここでやっと、エルティアがとても美しい外見をしていると思い出した。


「あの、シロさん……キオンさんはもしかして……」


 シロがこくりと頷いたことで、それは確信に変わる。

 恋だ。恋をしている。あのエルティアを相手に!


 ――しかしだ、とシュカは己を抑える。

 例えエルティアがやれ暴の化身、戦闘オタク、色恋より闘争など言われていても、敬愛する大切な領主だ。どこの者かも知れぬ男からの好意を、応援するには。


 でも、と思ってしまう。

 彼らはジュードの知り合いだ。それにフォスクロードの力になりたいと言う言葉に嘘はない、ように思えた。兄が助けてやってくれと紹介した者達でもある。


 エルティアに近しい、領主城事務官として働く自分の立場を抜きに、正直な気持ちになって良いのではないか。そう考えてしまったシュカは、


「お目の高さと、その度胸。私はとても好感をもちます!」


「ふ、ふふっ……!いいの、私達は、キオンは、いわゆるどこの馬の骨かもしれない、ってやつなのに」


「もし、嫌とかそういうのがあっても、エルティア様は殴って解決すると思いますし」


「嫌……?ヴッ……」


「まだ嫌と決まったわけじゃないですから!!大丈夫ですって!ほら、お友だちから!外の話も、ジュード様の話だって……、エルティア様はきっと聞きたがります!」


 キオンは力無く、ゆっくりと両手を下ろした。目は伏せたままで、顔はまだ赤い。


「俺も、俺たちも、会って話してみたいと思っていたんだ。ジュードさんには子どもがいる。ジュードさんは俺達に子ども達を重ねている、そう聞いていたから」


「誰を重ねていても、ジュードさんが私たちを可愛がってくれた事には変わりありません。私たちも会ってみたかった。――エルティア様の、お兄さんの方は、竜族で間違いないですか?」


 竜族、と聞いて反応するのはシュカではなくキオンだった。

 しおしおふにゃふにゃしていた目が切り替わるが、気付くのはシロだけだ。

 シロとしては、どおりで、と思う。

 外見の年頃は同じで、片割れは竜族。性別こそ違うが、重ねるのも無理はないと思ってしまう。


「はい、クロツグ・フォスクロード。血の繋がりはありませんが、エルティア様の兄です。クロツグ様は竜族ですが、所作はエルティア様とそっくりですよ」


「フォスクロードに竜族は彼一人だと聞いています、本当ですか?」


 シロの問いにシュカは頷く。その問いに驚きはなかった。

 何故なら、シュカの所にも“クロツグ様がナンパした!”という話は届いている。おそらく領主城を越え、下手すれば、軍属皆が知ることとなっていそうだ。

 それほどに、クロツグは色恋沙汰無縁の堅物扱いされていた。


「はい。私も、クロツグ様以外の竜族の方を見たことがありません。幼い頃、亡き奥方様に引き取られてと聞いています。……そのっ!ちょっと角と尻尾があるぐらいで!全く怖くないですからね!?なんならエルティア様より理性的です!!」


 力強く言うシュカを前に、もう一人の竜族については伝わっていないようだと知る。

 セルゲイを思い出し、口の固い男だな、とシロは思った。


 ――『別行動はするものじゃないな、油断した。ごめん』


 秘匿回線だ。どうして、とシロは思う。

 別行動中の、綺麗なお花とエリーゼさんの弟さんの話をきいた、おまけにキオンは想い人にまで会えたのに。

 少なくとも、シロにとって、この別行動は有意義なものだった。


 ――『いいや、大丈夫だよ、キオン。人間領とこっちの竜族は違うのか、ジュードさんのお子さんだったから違うのか、それはわからないけれど。私は別行動で良かったと思っている』


 キオンは竜族が嫌いだ。

 その原因はシロの扱いにある。キオンと同じく、シロ自身もやり返せるまでに強くなってしまったから、人間領での悪名の一因となってしまった。


「まだ話してなかったけど、キオンの侵入者扱いのお詫びってことで、私たち、美味しいご飯屋さんを紹介してもらえることになっています。クロツグ様に」


 キオンは目を丸くし、状況が飲み込めない、といったように口を開き、間をおいて。


「竜族の?」


「竜族で、ジュードさんの息子さん」 


「……怖くない?」


「大丈夫」


 シュカから「尻尾で城の壁にひびを入れてから気を付けるようになりました!」と飛ぶが、援護になっているか怪しい。


 先に私が会っていて良かったのかもしれない。シロは詰所での事を思い出す。

 もしキオンが一緒にいたとすれば、怯むシロの隣でキオンはほとんど反射的に攻撃体勢に入るだろう。

 相手は領主の兄、ジュードの息子でもある。誤解をといたとしても、こうしてゆっくり話をするまでは、かなりの時間を要したかもしれない。


「クロツグ様はジュードさんの息子さんだし、その妹はあのエルティア様だし、さ」


 竜族については納得したらしいが、エルティアの名を出せば、キオンの目も揺らいだ。ふにゃつく。


「どっちとも、仲良くなれるかもよ」


「いやちょっといきなり仲良くとかはハードルが高い。まずは遠くから見て、存在に慣れたい」


 あまりにもあんまりなことを言いきってしまったので、シュカは、いいでしょう、と隠していた事実を暴露する。


「“デコピン一発とはいえ攻撃に変わりないから、菓子折でも持って謝りに行くわ、美味しそうなのを見繕っておいてて”と頼まれています。私。エルティア様に。間違いなく、エルティア様から、会いに来るかと」


 キオンは、一見動揺がないように見えた。

 赤くもならず震えてもいない。目付きもしっかりしている、


「シロ、俺は君を一人にしてしまうかもしれない。けど身体は側にあるから、持ち歩いてくれると助かる」


 しかし、だめだった。


「遠回しに気絶します宣言」


「逆にこの反応の俺が、え、エ……領主様を前にして平静どころか意識を保てると思うか」


「無理かも」


「気絶する度に叩き起こすとか……どうでしょうか」


 おとなしそうな顔してなかなか物理的に考える、とキオンとシロは思った、が確かに今思い付くのそれぐらいだ。


「エルティア様は喜んで起こしにかかると思いま――いや、逆効果ですね。手加減が苦手な方なので」


「そう思います」


 キオンの即答は手加減云々に対してのものではないが、シロは指摘しないことにした。


「こう、キオンが面白いから、エルティア様が領主だって言わなかったのかな、と思っちゃうな」


 アリーズの四人の話だ。こんな特徴的な女性、彼らが知らないはずがない。

 領主の名を出さなかったのは、ジュードに関わる話でもあったからか、とも疑ってしまうが、


「兄たちの件については」


「待った。シュカさんからのそれは無しだ。俺たちも、何か理由があると考えているから、」


 シュカからの謝罪は、遮り止める。

 何故、領主の件を黙っていたのか。キオンとシロには、騙されたという怒りはない。

 もしあそこで明かしてもらえていれば、とは考える。

 ジュードが死んでいると知ったら、――居座るだろうな、とシロは思った。領主城には行かず、アリーズに留まっていたかもしれない。


「シュカさん、俺は、アリーズについて聞きたい。建物の作りがさ、人間領にある療養地に似てたんだ」


「……人間領にも、そうですか……その通りです。アリーズは療養地。一定の高い魔力濃度下でないと、内臓異常を引き起こしやすくなる、そんな体質の者たちが暮らしていた、小さな村でした」


 魔力を持つ生き物として考えるなら、魔族も人間も同じだ。ゆえに、同じ体質の者は種族問わず現れる。

 人間領では、と前置きし、キオンは続けた。


「魂は魔力そのものだと言われています。魂という名の魔力、その器が身体。保有魔力が違うように、器の大きさも個人で違います。魂の魔力が器より膨大すぎるために、器である身体が壊れてしまう」


 その症状は魔力中毒と似ている。違うのはその中毒の原因が魂そのものにあるということ。生きている限り、内にある魔力が身体を蝕む。


「祝福と、呼んでいました。天に祝福された魂だからこそ、膨大な魔力を持つ、と」


「祝福、ですか……ふふっ、なんとも、どう返せばいいのか、」


 身体の成長に伴い、器も大きく強固になる。

 身体が成長なら、魂は元に戻る、と言われていた。


 成長により芽生えた自我、魂もその自我に合わせ――まるで、小さく折り畳まれていたものが開かれ、元の大きさに戻ろうとするように。開かれ、開かれ、子どもの脆弱な身体では到底受け止められない魔力が、内に、溢れる。


 しかも、魔力は流動するのだ。より魔力が薄い方へ流れる性質があった。

 魔力は外からの内へは耐性により遮断がきくが、内から外への流動は、人が無意識下で魔力を外に滲み出してしまうように、自然に行われてしまう。

 内を通る魔力の流動は、内臓を撫でていくようなものだ。流動を制御するには魔法の才が必要で、魔法は魔力を扱い、結局は大なり小なり流動することとなる。

 療養地を、土地の魔力濃度が高い場所とするのは、こうした、外への膨大な自然流出を防ぐためだった。


「でも、似たようなものですね。魔族領では、先祖還りと呼んでいます」


 天界と魔界の神話から取っているのだろうと、察しがついた。

 そして二人は、一見して不調が見られないシュカを見る。視線に気付いたシュカは苦笑した。


「私は、先祖還りではありません。子どもの頃から魔力耐性が高かったので、兄と同じ場所で暮らすのを許されていただけなんです」


 祝福、先祖還り。

 共に成人を迎えるまでに生きる者は少ない。一握りと言ってもいい。そして、成人後であっても、魔力に器が潰されることは十分に有り得る。


「それに、兄たちも今はすごく元気なんです。四人そろって成人して、問題なく外で生活出来ているのは奇跡的だと」


「それは……良かった、本当に、」


 気にしてくれていたらしい。

 キオンとシロの心底安心した、と言うような頷き、シュカも――本来なら頷きたい所だ。頷く気持ちはある、あるのだが、話の流れで思い出してしまう、子ども時代、アリーズでの記憶。


「ふ、ふふ……大変だったんです、昔の兄たちは。体質から病弱ですぐ倒れて動けなくなるくせに、よくベッドを抜け出し遊びに出て、倒れているのを私が回収して…」


 そんな、思い出深いアリーズも廃村が決まってしまった。

 なんせ場所が悪い。アリーズを囲む山々は危険であるし、フォスクロードの人口も大きく減り、人を置くことは厳しくなった。

 領の端でもあり、領主城からも遠く、有事の際は危険だと。領内には他にも療養地がある。アリーズに残っていた住人は移住を完了させ、今アリーズの土地には誰もいないはず、なのだが。


 シュカは疑問に思う。兄たちはなぜ、アリーズにいたのだろう。


 そもそも、と考えてしまう。兄たちはそこまで他者に友好的ではない。兄ならまだしも、アレクとヴィオは人を敬遠するし、リベルは何を考えているかわからないと言われる筆頭だった。

 兄以外の三人の仲介役に駆り出されたのも、記憶に新しい。

 シュカは、見覚えのある、へんてこな形をしたヴィオのもどきを眺めた。もどきは、金髪と白髪の高低差を楽しむように飛び跳ねている。


「可愛いですね、おまんじゅうと、おだんご」


「そう、すごく可愛いと思う」

「このシンプルな形がいいんだ……おいで、」


 おだんごがキオンの頭から肩へ、伸ばした腕を転がり、手のひらで止まった。


 そして、ぽん、と跳ね――破裂した。


 “急激な魔力濃度の上昇を検知し、破裂する”。

 ヴィオの説明を思い出す。


「シロ!!!!」


 キオンが叫ぶ。シロはテーブルを乗り越えシュカの手をとり引いた。かばうように腕の中に収める。キオンは障壁を発動、爆風となった魔力が客間を抜けていく。その後に濁った魔力を残して。

 赤黒く、時に鈍く光って見える魔力が、周囲を満たしていた。


「……な、に……?」


 シュカは呆然としていた。

 事務官であり、戦闘経験はない。しかし、天才と呼ばれていた兄達の側にいたからこそ、知識はある。わかってしまう。


 この魔力濃度は有害だ、人が、死ぬ。

 シュカは自分を片腕に抱いているシロの顔を見上げた。冷めた視線が窓の外に向けられている。


「キオン」


「ああ、見てる」


 シュカも窓の外へ視線を向けた。

 庭園、城壁の向こうが見えるはずのそこには、壁があった。

 今、フォスクロード領主城は、巨大な壁に囲われていた。そして城内の魔力濃度は着実に濃く、致死までに高まろうとしている。


 シュカは唇を噛み「シュカ・アリーズ」と自身の名を呟いた。――大丈夫、大丈夫。まずは状況を把握して、自分に出来ることを。

 落ち着きを取り戻したシュカは、まずシロに例を言う。


「ありがうございます、シロさん。かばってくれて」


「うん、大丈夫?」


「はい。キオンさんも、障壁と障壁内の浄化、ありがうございます」


 キオンは問題ない、というように頷いた。


「シュカさん、一応きくけど、この状況、心当たりはある?」


「いいえ」


 シロはシュカを支え共に立ち上がった。

 通信を試すが、繋がらない。魔力を飛ばす通信魔法は、同じ魔力に阻まれてしまう。このような魔力濃度の高い場所では、ろくに繋がらないだろう。


 この城には民間人も出入りする。例え軍属の兵でも危険だ。攻撃を受けているのなら、早急に救助し安全な場所に誘導せねばならない。


「シロ、シュカさん、見てて」


 窓際にいるキオンが視線を促した。

 そして領主城を囲む壁に向けて、指を振ってみせる。次の瞬間、この距離からでも視認できるほど、壁に激しく大きな火花が散った。

 それだけだ、壁は何事も無かったようにそこにある。


「あれ、触れると、すごく痛いと思う。普通の人なら焼け死ぬんじゃないかな」


「壊す?」


「障壁の目的がわからない、今はやめておこう」


 窓に背を向け、キオンはシュカに向き直った。


「ヴィオさんの“もどき”は、元々愛玩用のものではなく、急激な魔力上昇を知らせるためのもの。俺達が欲しがったから、譲り受けた。それが破裂して、今の状況だ」


「はい、」


「ここは、ジュードさんの故郷。ジュードさんの城。俺達はこの状況をなんとかしたいと思っている。俺達は、……手を出してもいい、だろうか」


 これは、とシュカは思う。

 許可を求めているのだ。二人は外部の者、客の立場で、自身が攻撃されたわけでもない。本来ならシュカ含め、城の者の指示に従う立場だ。そう、わきまえているのだ。

 そんなもの、とシュカは頭を下げた。

 

「責任は全て私が負います。お願いします。私たちに協力を。私たちを、助けて下さい」


 キオンとシロは頷いた。

 許可は得た、とキオンは壁に触れた。魔力を流し、探る。


「まずは魔力濃度をどうにかしたい、この感じ、まだ魔力を垂れ流し続けている何かがある。そこをなんとかしないといけない、――あった、」


 キオンは壁から手を離し、「シロは、シュカさんを抱えて」と客室から飛び出した。言われるがままシュカは抱えられ、シロはキオンを追う。

 窓から飛び下りようとしたキオンは、ピタリと止まり、魔鉱石を一つ近くの部屋に投げ入れた。そして飛び下りる。


「あそこ、人がいる」


 シロはシュカと共に部屋に顔を出した。領主城で働くメイドの一人だ、隅で小さな障壁を展開し耐えていたようだ。飛んで来た魔鉱石を攻撃だと思ったらしい、震えていた。


「魔鉱石を拾って下さい!それは周囲の魔力濃度を下げます!」


 シュカの声に反応し、メイドは頷いた。確かに、魔鉱石の周辺に魔力の靄はない。

 次の言葉を待たず、シュカは連れていかれる。窓から飛び下りたシロはキオンの魔力を追った。

 赤い靄の中、駆ける。キオンにはすぐに追い付いた、がその前には人影がある、二つだ。


「ケイさん!ナナハさん!」


 シュカの呼び声が聞こえたのか、人影が抱えられたシュカに駆け寄る。

 なぜ抱えられて、と怪我を心配されるが、シュカを無傷であり、むしろナナハの顔色の方が悪い。


「私は無事です、移動のためにこの姿で。ナナハさんこそ」


「ぼくは大丈夫。それで、そっちとあっちの美人さんはだれ?」


「シロさんとキオンさん。協力してもらっています」


「セルゲイが言ってた子か、悪いがお連れ、すげー顔して動かないぞ。うちの天才さまみたいに感付いたりしてるんですかね、」


 ナナハの問いに答え、ケイは後ろ手にキオンを指差した。そして、


「魔王の魔力を感じるそうです、イツカが言っていました。今地下倉庫には裂け目とやらが開いていて、そこから魔力が流れ出ているそうです」


 魔王、と聞いて顔つきが変わるのはシュカだけではなく、シロもだ。

 「キオン!」と呼べば、ふらりと振り返る。シュカをおろし、シロはキオンへ駆け寄った。


「シロ、これ、魔王の魔力だ、地下、奥、殺したはずだ」


「そうだね、殺した。殺しきったはずだ」


 死後に残る魔法、これが全て?と思う。

 違う、とキオンは思った。


「これに魔王が関わっているなら、こんなものじゃない、何か来る、まだ何かある」


「キオンさん!シロさん!今、うちの、イツカさんが地下で裂け目を閉じているそうで!」


 合流し、情報を共有する。

 ケイとナナハに繋がった通信回線から、威勢のいい『閉じてやる!今すぐに閉じてやるからな!!」と男の声が聞こえた。

 どうもこの声の主が裂け目を閉じているらしい。


「空間の裂け目を一人で、ですか?」


「本人がいけると言っているから、問題はないと考えている。地下はここより魔力濃度が濃い。あれはほぼ致死だ。そこらのやつじゃ、行くだけ邪魔だ」


 キオンの問いにケイが答える。

 そして、その答えを裏付けるように、通信から『閉じた』と報告があった。この環境下で通信を繋げる芸当といい、地下にいる者はかなりの実力者らしい。


「通信を外に繋げるには、おそらく領主城を囲んでいる障壁に穴を開けることが必要だ。裂け目が閉じられれば、これ以上の魔力濃度があがることはないと思います。でも淀みがある、」


「魔物も出てくるってことか、」


「はい。必ず」


 くそ、とケイは毒づいた。

 闇雲に走り回って探すか、それしかないのか、と考える。間違いなく全員は拾えない。どうする、と考えるケイの横で、ナナハが声をあげた。


「これ、まずい」

「――ああ、これは……そうだな、」


 気付いたのはケイもだ。まさか、とシュカは訊く。


「通信が途絶えたんですか?」


「いや、違う。通信は繋がってる、でも多分何かあった」


 それは、付き合いの長さから来る、間、共にいたことによる慣れのような気付き。

 イツカは、吃驚しすぎると声が出なくなる。まるでネタのような話だが、仲間としては笑い事ではない。その、息をのんだような間が、あったのだ。

 ナナハはキオンの腕を引き、頼む。


「ねえ、キオンさん。君、第一部隊とにおいが似てる。僕に魔力耐性を付与してほしい。できるよね」


「できます」


 キオンはナナハの腕を取り、付与するのは魔力耐性。

 続いて手持ちの魔鉱石を砕いた。割れ鋭利になった鉱石で、腕に一線、血が滲んだ。己の血痕付きのそれをナナハに握らせた。


「あは、本当に、第一部隊みたいなことする」


「その鉱石が身代わりになります」


「ありがと。じゃあ、行ってくる」


 ナナハはほとんど消えるように駆け出し、赤い靄の中へ。シロも周りを見てくると言い、手近な塔の外壁を飛び登っていった。


「あの人、魔力耐性はもう付与できないほどされてる。あなたも、起点展開されている障壁と、浄化の魔法の構築が綺麗だ。術者はその通信相手ですか」


「ああ」


「もしや空間把握魔法を使える方では?俺達を視てた」


「……いや、空間把握発動してるやつに実体はないだろ。何で視えるんだ」


「俺達、目がいいので。会釈したら、ちょっと引いた顔してましたよ」


 強そうだ、と言った理由がわかった。

 ルカのような例外はあるが、第一部隊には独特の雰囲気がある。

 ナナハも言っていた、シュカの前では言えないが、キオンも同じだ。違う次元にいるというか、人みがない、というか。


「キオン」


 赤い靄が動いた、人影が戻ってくる。シロだ。


「三分だ。この範囲なら、三分だけなら散らせる。細かいところまで、とはいかないだろうけど」


「わかった」


 頷き、キオンはシュカとケイ、二人に向き直った。


「――城内の、通信回線の一時的な復旧、空間把握魔法の発動と城内に点在する者たちへの同期。方法があります。アンカーの色が変わる前に、全員拾いましょう」







 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ