悪役令嬢の出逢い
※クリスティーナ視点
行き慣れた店のトイレへと歩く。
「人が、少し多いわね」
来た時は、そうでもなかった従業員の数が倍近くになっている。それに、ほとんどの人が忙しなく動いている。
普通、従業員が多くなる事はない。
唯、王家の者が来た時は例外だ。一回、王妃様と訪れた時は凄まじいほどの従業員に出迎えられたのを覚えている。
「王家……まさか」
王子が来ているのか?
もしそうなら、かなりまずい。ここで騒動を起こしてしまうと、店に迷惑をかける。
私は急ぎ足でトイレへと向かった。
そのせいで周りが見えていなかった。
「わっ…!!」
「おっと…!!」
曲がり角で確認もせずに行ってしまった為、誰かにぶつかってしまった。
幸い、ぶつかった人はかなり鍛えている方だったようで、私がぶつかっても微動だにせず更に転けそうな私を受け止めてくれた。
「すみません、それに…ありがとうございます」
何という少女漫画のような展開。これでイケメンだったら…
「いえいえ、こちらもきちんと見ていなかったので」
その人は、王子顔負けのイケメンだった。完全に恋に落ちるやつだ。
それに、何故か顔に見覚えがある。
「黒髪黒目…」
「どうかしましたか?」
「その、貴方が私の知り合いに似ている気がしたので…」
「本当ですか?」
「え、ええ」
軽い気持ちで言ってしまった、と後悔する。
「ありがとうございます」
「いいえ、どういたし…まして?」
徐々に足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。リンが心配して探しに来たのかもしれない。
しかし、そんな考えを殴るかのような声が聞こえて来た。
「どこに行かれたのですか?」
声の主は王子の側近、彼がいるなら必ず王子もいるはず。誰かを探しているようだった。
「ま、まずいですわ…!」
「まずい?王子がくる事が?」
「え、ええ。あの人とは会いたくないのです!」
「分かった、ちょっとこっちにおいで」
「え!?!?」
そうして、私は知らない部屋に入れられた。
同時に王子側近があの人の前に来たようだ。間一髪だ。
「ここにいましたか!」
「すみません、一緒についていた護衛の気分が悪くなったようで…ちょっと部屋をお借りして休ませていました」
「そうでしたか」
「ええ、王子もお待たせしてすみません。すぐに行きますので、お先に行っておいてもらえませんか?」
王子達の遠ざかる足音が聞こえた。それにホッと息を吐く。
ガチャッと音がして、イケメンが入って来た。
「ありがとうございます!」
私はすぐさまお礼を言う。まさか助けてもらうとは思っていなかった。他人だし
「いいんです、たまたま可能だったからしただけです」
なんたるイケメンだろうか…!
「美しい銀髪に青い目。もしや、あの王子の婚約者殿ですか?」
「はい」
王子達といると言う事は、もれなくこの人も身分は高いはずだ。それに、この国の人ではないような気がする。
私の事を知っていてもおかしくないだろう。
「申し遅れました、私はこの国の王子の婚約者。クリスティーナと申します」
「丁寧にありがとうございます。私はエルトナ王国との和平を結びに来ました獣人国の王子、ジェナイトと申します」
「まぁ、獣人国の。通りで私の知り合いと似ている訳ですわ!」
確かに、獣人国とは近々和平を結ぶと聞いた。もう戦争が終わって15年経つ。
少しばかりの世間話の後に別れる。
「では、私は友人を待たせておりますのでこれで失礼しますわ」
そう言って部屋を出た。
「王子とは違って、素敵な方だったわ」
私はリンとウメの元へと急いだ。
お読み下さりありがとうございます
ヒーロー来ました!!恋愛経験少なめ令嬢です。