襲撃
見つけてくださり、ありがとうございます✨
(よし、いい感じ。花を摘みに行くって言えば止めるしかないものね。お漏らしは困るだろうし)
ユリアはにんまりと笑いながら木の陰に隠れ、辺りを見回した。
(森を抜ける道はあるかしら?)
人が通るような道らしきものは見当たらないが、とても細く獣しか通れないような道が目に入った。
(あれって‥‥所謂‥‥獣道ってものかしら?何処まで行けるかわからないけど、とりあえず行ってみましょう。大丈夫、私にはあれがあるもの)
ユリアは周囲を確認しながら細い道を歩き出した。
ユリアがあれと言っていたもの。
それは、彼女が父親にさえ秘密にしていたもの。
母から受け継いだ、魔法の才能。
幼い頃、母から何回も念を押され隠し通してきたもの。
母も祖母から言われ、祖父に悟られないように隠してきた。
もし、祖父が魔法の事を知ったら、己の為に王家や高位貴族に売り飛ばし使い潰されてしまうだろう。
祖母が母を守ったように母はユリアを守ってくれたのだ。
この国、いや、この世界にはかつて多くの魔法使いや魔女達がいた。
魔法を使えない者達はその力を畏れ敬っていたが、次第に恐怖心が強くなって排斥するようになり、そして弾圧が始まった。
ユリアの住むオランジュ王国があるミズル諸国と呼ばれる地域は、特に魔法使いや魔女への弾圧が強かった。
『魔女狩り』と呼ばれるようになった頃には魔法を使う者は僅かとなり、それからは逆に珍重され、力ある者に囲い込まれるようになった。
我が子を守る為に祖母と母は魔法が使えることを隠してきた。
そして、誰にもわからないようにこっそりと魔法を教え練習してきた。
祖母から母へ、母からユリアへ。
ユリアは魔女の家系だったのだ。
(お母様から教わった魔法はちゃんと練習してきたし、私は魔力が多いって言ってたわ。大丈夫。自分の身は自分で守るわ)
ユリアは獣道を進む。
相変わらず道は細く、両側の草が繁って道を隠す勢いだ。
森の木々も鬱蒼としてきた。
(この道、本当に獣道なのかしら。なんの足跡も無いわ。‥‥足跡‥‥‥‥あっ、私の足跡!)
後ろを振り向く。
獣道にしっかりとユリアの足跡が残っていた。
「やだ、これじゃ、見つけてくださいって言ってるようなものじゃない。消さなきゃ。何を使う?‥‥風かな」
手をふわりと動かし、小さな風を起こす。
小さな風は獣道へと向かい、地面を軽く削り均していく。
-----ザザザザッ、ザザザザッ。
あっという間にユリアの足跡は消えていった。
「よし、これでいいわ。風さん、足跡を消しながら私に付いてきてね」
そう言うとまた獣道を進んで行った。
∗ ∗ ∗
「お嬢様、遅いなぁ~。見に行くわけにもいかないし‥‥‥くそっ、どうすりゃいいんだ」
御者はユリアが向かった方を眺めながら、ぶつぶつと呟いた。
-----ドドドドッ、ドドドドッ。
「ん?何の音だ?」
音のする方を振り向くと、御者は真っ青な顔でその場にへたりこんだ。
高く土煙を上げ、何頭もの馬が向かってくる。
馬に乗っているのは、帯剣し目だけ出した黒装束の男達。
「だ、だから嫌だったんだ。こんなところで停まるのは。どうみてもあれは、盗賊じゃないか‥‥」
ガクガクと震え、馬車にしがみつく御者。
男達は馬に乗ったまま、ぐるりと馬車を取り囲んだ。
一人の男が御者に声をかける。
「おい、抵抗するなら命は無いと思え」
「ひ、ひぃ~~、はい」
「積み荷と乗客を寄越せ」
「つ、積み荷は、か、鞄だけで、ば、馬車の中です!」
違う男が馬車の扉を開ける。
「鞄が1つ。‥‥誰もいません!」
「なんだと?鞄だけ?おい、乗客はどうした!」
「ひぃ~~」
「どうしたと言っている」
「も、森の方へ‥‥」
「は?森?」
「花を、摘みに‥‥」
「花を摘みに?‥‥‥そういうことか‥‥」
男は他の男達と目配せする。
「行くぞ」
「「「 はっ! 」」」
男達は馬車を残し、森へと入って行った。
読んでくださり、ありがとうございます✨
皆さんに良いことがありますように✨
:*(〃∇〃人)*: