修道院へ
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ユリアが執務室を飛び出して行った後、継母ビビアンは執事ベンジャミンを呼び、急いで馬車を用意するよう指示をした。
子爵家の家紋入りではなく、質素な目立たない馬車を。
そして、ユリアを乗せたらすぐさま出られるようにと。
「なぁ、ビビアン本当に上手くいくと思うか?」
「‥‥‥なんとかなるわよ」
「はぁ‥‥」
「それよりも、貴方も早く手紙を書いてちょうだいな。ユリアが出奔したことをエルジー伯爵に伝えるのよ」
「そうだな、書くとしよう」
「そうそう、私達はユリアの女性としての幸せを願っていると付け加えるのを忘れないでね。エルジー伯爵にユリアを幸せにしてもらいたいとね」
「勿論だとも。きっとエルジー伯爵は行動を起こす。エルザ義姉上の娘を逃さないだろう」
「えぇ」
ダグラスは書状を認めると、急ぎエルジー伯爵に届けるよう指示を出した。
ビビアンはその様子を見ながらホッと息をついた。
(あの娘がこの家からいなくなれば、私の息子ライアンは安泰だわ。これで安心して過ごせると言うものよ)
「ビビアン、私達の息子は次期子爵に決まったも同然だな」
「えぇそうね、ダグラス」
ビビアンは後ろからダグラスにそっと抱きついた。
(ダグラスはライアンを自分の息子だと信じているけれど、あの子は正真正銘トマスの息子よ。子爵家の正統な跡取り。何も心配いらないわ)
ビビアンの思いなど知らぬダグラスは、笑顔で彼女の手に自らの手を重ねるのだった。
∗ ∗ ∗
鞄を持ったユリアは玄関前に横付けされた馬車に乗り込むと、ばあやに手を振った。
「ばあや、元気でね。落ち着いたら手紙を書くから、心配しないで」
「お嬢様。どうか、お身体に気を付けてくださいまし。ばあやはお嬢様からの手紙を待っておりますよ」
「うん!‥‥馬車を出して。行き先は、ネロリとの国境近くのリモーネ修道院よ」
「はっ。かしこまりました、お嬢様」
ユリアが行き先を告げると御者はゆっくりと馬車を動かした。
だんだんと速さが増す馬車を見送りながら、マギーは手を組み合わせユリアの無事を祈った。
(ユリアお嬢様がご無事でありますよう。幸せになられますように)
ユリアを乗せた馬車が屋敷を出てから間もなく、書状を携えた使者が乗った一頭の馬が子爵家を出て行った。
∗ ∗ ∗
馬車は順調に街道を進んで行く。
クラナッハ子爵家の領地は、オランジュ王国の北西部にある小さな領地で、領地の南端は隣国ネロリと接している。
そのネロリとの国境近くのリモーネ村にリモーネ修道院がある。
街道のほとんどは安全と言えるのだが、リモーネ村の手前だけ街道は森の中を通っていた。
オランジュ王国の森には恐ろしい魔獣は確認されていないが、野生の獣や盗賊は時々出没するので注意が必要だった。
それ故、明るいうちに森を抜けられるよう馬車は急ぐのだった。
街道を進み馬車が森に入り暫くした頃、ユリアは動き出した。
(此処までは順調に来たわ。あとは、計画を実行するのみ)
ユリアは馬車の壁をコンコンと叩き、御者に声をかける。
「あの、悪いんだけどね、馬車を止めてもらえるかしら?」
「え?此処は森の中ですよ?こんな処で停車なんてしてたら危険です」
「それは分かるんだけど、‥‥‥花を摘みたいのよ」
「え?‥‥‥あぁなるほどそうですか‥‥仕方ありませんね」
そう言うと御者は馬車を止めて、街道の端に停車した。
ユリアは扉を開けて降りると御者へ声をかけに行く。
「ありがとう。彼方の木の陰に行くから、待っていてね」
「わかりました。お気をつけてくださいよ」
「えぇ」
旅行鞄はそのまま馬車に残し、ウエストのポーチ(魔法の鞄)と外套を身に付けたユリアは小走りで大きな木へ向かって行った。
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:*(〃∇〃人)*: