2.悪役令嬢、スライムだった?!
木造建築の少し古風な二階建ての建物。正面には扉が着いている。その上には、「ベアトリス」という木で出来た看板が掛けられている。そう、此処は「ベアトリス」という名が管理人の、宿なのである
「相変わらず、凄い宿ですわね」
「……否定はしないよ」
そうなのだ。この宿は、家賃が安いのである。何故安いのかというと、左右前後怪しい店が建ち並んでいるのである。身売りをする店や、薬物中毒者、乞食等がひしめき、暴力沙汰が後を絶たない所として、誰も立ち行かない場所なのである。そんな中、此処の管理人のベアトリスは宿を建てたのである。その理由は、
『酔って路上で寝るより、宿とかがあれば面倒事にならなくて済むじゃない』
らしい。扉を開けると、右手にガラス張りの部屋があり、その真ん中付近に少々小振りの机が突き出してある。机の上付近、真ん中の少スペースに物を出し入れ出来る穴が空いており、そこに家賃やら郵便物やらを受け取れるようになっている
前は郵便物を入れる宅配ボックスがあったのだが、宅配物を盗まれる、良からぬ物を入れられる等があった為、宅配物は管理人からの手渡しに変更された
管理人がいない場合は、それぞれの扉の隙間にメモ書きが入れられており、宅配物があるのと管理人がいる日が書いてある
ふと、管理人室を見ると今日は居るようだ。鎖骨付近に伸ばした茶髪で、ウェーブがかった髪に、とろんとした瞳、常に煙草を咥えている唇。白いワイシャツに黒いパンツを履いた管理人が、管理人の奥の机に頬ずえを付いて雑誌を捲っている
「ただいま」
その声に、管理人のベアトリスが顔を上げる
「あら、おかえり」
「ベアトリス、これ」
そう言って、リンは家賃を渡す
「今月の家賃」
ベアトリスは椅子から腰を浮かせ、ゆっくりと歩み寄って来る。リンが渡した家賃を数え、フッと微笑むと、
「ん。確かに」
「僕に郵便物は来てない?」
「無いわよ。手紙はあるけどね」
そう言って、数枚手紙を差し出す
「ありがとう」
宛名を確認すると、此処に来る前の知人の宛名ばかりであった
「ゲッ!また、ギルバード国からの案内だ」
その声に、マデリーンは手紙の宛名を確認する
「あら、本当ですわね。何用かしら?」
「大方、魔王討伐の案内でしょ。面倒なんだよねぇ」
「たまの依頼も、失敗しないといけませんわね」
そうなのだ。依頼を成功し過ぎると、実力者として偶に国から招待状が来るのだ
「君、行く?マデリーン」
「御冗談を。成功させてしまいますわよ」
「そっか〜、君もかなりの実力者だもんなぁ」
「そうですわよ。スライムとしては、かなりの実力者ですもの」
そう。このマデリーンは、スライムなのである。この世界においてのスライムは、コピーと能力を身体に投影させる事が出来る。そして、スライムにも属性がある
属性とは、炎・水・雷・木・闇・光である。炎属性持ちのスライムは、身体が丸く、色は赤い。マデリーンは隣にいるリンのコピーで、髪と瞳が赤い。そして、彼女には性格もある。一般的なスライムには、性格等無い。リンの隣にいるマデリーンは、暢気な性格。故に、人間がどんな感情を抱こうと興味が無いのである。如何にして、自分の能力でリンという名の主人を守れるか、それだけである
「そうだ!」
パン、とリンは両手を打った
「この手紙、送り返せば良いんだ!」
「あら、面白い悪戯ですこと」
「面白いわね、どんな反応が返ってくるかしら?」
「早速明日、郵便局に行って送り返してくる。じゃあね、ベアトリス」
「ええ。ごゆっくり」
ベアトリスは、ニコッと笑って、部屋に戻るリンとマデリーンを迎え入れた。そして、煙草の紫煙と共に溜め息を着くと、
「あの娘も大変ねぇ……。全属性の遣い手のせいで、厄介な手紙まで貰っちゃって………」
そう呟き、今度国からの手紙が来たら許可を貰って捨てようかしら、と思いながら、管理人室へと戻って行った




