1.悪役令嬢、冒険者になる
「マデリーン・フォレトス!お前との婚約は、破談とする!!」
煌びやかなシャンデリア。色とりどりのドレスを着た淑女、ピシッと決まったタキシードに色々な花を差した男性達。皆、令嬢や公爵、伯爵等の身分のある者ばかりだ
そんな中、皆より一段高い所に豪奢な玉座に金髪の男性が立っている。他の男性は灰色や黒、紺などの地味目なタキシードに対し、その男性は白色のタキシードに蒼い薔薇の花を差している
金髪の男性の名は、ガイル・ローゼン。ローゼン帝国の一人息子にして、次期国王候補と見込まれている。さらさらの金髪に水色の瞳、すらりとした長身の男性で、多くの女性を虜にし、男性側からは嫉妬と羨望……半々の反応が見られる
そんな中、一人の女性から距離をとるようにして、ざわめきが起きている。赤いウェーブがかった、腰まである長い髪、水色や桃色の宝石の着いた黒いカチューシャに、黒いドレスを着た女性。そう、彼女こそがマデリーン・フォレトス。その人である
髪の色と同じ瞳で、釣り目がちの眼を更に釣り上げ、
「何故ですの?」
と、問いかけた
「分からない………と、言うのか?」
ブルブルと身体を震わせながら、そう問いかけた。この震えは、怒りであろう
「しらばっくれるな!!アリスにした仕打ちを、忘れたとは言わさないぞ!!」
そう怒鳴るガイルと、呆れたように溜め息を着くマデリーン
(そういう問い掛けでは無いのに………)
彼女の「何故ですの?」という問いかけは、「何故このような場で婚約破棄を言うのか?」という意味の、問いかけである。決して、「何故、婚約破棄をするのか?」という問いかけでは無い
「アリス?」
「そうだ!」
「どなたかしら?知らない名ですわね」
「知らないと言うのか?!」
(一々、怒鳴る方ですわね)
と、また溜め息。それとは対称的に、ガイルは更に怒りで震えている
(あんなに怒鳴って………血管が切れないのかしら?)
「良いだろう………アリス!此方に来い」
アリスと呼ばれた少女は、呼ばれた途端ビクッと肩を震わせたが、おずおずとガイルの傍に着いた。水色のリボンを着け、金髪のロングヘア、水色のドレスと、質素な感じのある少女である
「この者の名は、アリス・フォックス。私と婚約をした者だ」
明転。突如の爆発で、辺り一面何も見えなくなる。光が落ち着いた後、一人の少女が立っていた
ボブヘアーの赤い髪。赤い瞳で、釣り目。口をキュッと引き結び、顔のあちこちに土埃を着けている。外傷防止用の肩当、胸当て、膝当てを着け、左腰に刀を差している
「リン!」
という掛け声で、その少女は声のした方を振り向く
「終わったみたいだな」
ゆっくりと歩み寄って来た青年。黒い髪に、肩まである長さ、リンと同じような装備をし、肩から黒く長いマントをしている
「ヤンファ。依頼内容は概ね、終了かな」
「だな。後は、「図書館」に行くだけだな」
「そうだね」
彼らの語る「図書館」とは、冒険者に欠かせない場所である。文字通り、雑誌や小説、武道書、魔術書等が置かれており、冒険者登録等もその「図書館」で行える場所である。数年前までは、役場等で行えた冒険者登録は役場の仕事が多忙になり、冒険者の登録が出来たが冒険者ランクが違ったり、登録したはずなのにしてなかったりと、ミスが相次いだ為、閑古鳥の鳴いていた図書館に丸投げされた、という訳だ
当然、図書館なので大声は禁止である。多少話すくらいは良いのだが、大声を出し、果ては魔法や暴力に訴え出ようとする者もいる。そういう場合は、扉の近くに控えている衛兵二人が止めに入る。一人は、魔法が使える者。もう一人が、武術に長けている者の二人組だ
さて、ここで出て来た冒険者ランクの話をする。冒険者ランクは上からSS、S、A、B、Cとなる。SSクラスになると上位の魔物や、国からの依頼も受けれるようになる。そして、かなりの報酬を貰える。逆に下のクラスだと、SSよりはかなり低い依頼と報酬………という訳だ
「80万……か。まぁまぁだな」
「当分は暮らせるね」
「さて」
キュ、と足の向きを変え、
「縁があったら、また組もうぜ?じゃあな、リン」
「うん。またね、ヤンファ」
そう言って、ヤンファは去って行った。ヤンファとリン。この二人は、実はパーティを組んでいない、野良パーティである。偶々意気投合した二人が組み、この依頼をこなしただけである
実は冒険者にも色々いる。様々な能力を補い合うパーティと、群れを好まず自由に振る舞いたい野良パーティ、単独でやるソロ等がいる。リンもソロでやろうと思えば出来るのだが、意気投合した者がいればその者と依頼をこなす事がある
(さて、これから買い物にでも………)
そう思った時、一人の女性が現れた。腰まである赤い髪にウェーブがかっていて、赤いワンピースを着ている
「どうだった?国王の誕生パーティは?」
「いっぱい料理があって、楽しかったですわ。婚約破棄以外は」
フフン、と、その少女は髪をかきあげる
「ああ、やっぱり婚約破棄されちゃったか。そうなるだろうと思ってたんだよね」
「で、国内追放」
「マジ?」
「本当ですわ。そうなるぐらいなら、いっそあの色ボケも貴女の実家も、燃やせば良かったですわ」
「ちょっと!」
リンは慌てて、その少女の口を塞いだ。そして辺りを見渡し、誰も自分達の話を聞いていないのを確認すると安堵し、
「止めてよ。彼処は僕が魔法使えるの、知らないんだからさ」
「魔法じゃなくても、物理でしたらいけたのでは?」
「そんな指示は出してないでしょ。僕が指示したのは、婚約破棄されて、家出宣言し、高価な私物をいくつか持ち出す。それだけだよね?」
そう言われ、赤い髪の少女はパタパタと顔を手で扇いだ。まるで、怒りの熱を下げる仕草だ
「そうでしたわ。物は、アジトで出しますわ。あ、因みに……」
掲げたバッグを軽く上げ、赤い髪の少女は意地悪くニヤリと笑う
「このバッグも、かなりの額のする物ですわよ」
それを聞いた赤い髪のボブヘアーの少女も、ニヤリと笑う
「知ってるよ。僕が買わせたんだもの、ねぇ?マデリーン」
そう言いながら、二人は笑い合いながら、光の灯る細い道を歩いて行ったのだった




