小さな暖炉
滝さんの診察はとても良かった。
彼の性質なのだと思うけど、誰でも診察室に入った瞬間に少し明るい気持ちになる。この扉を開けて中に入っただけで気持ちも体も楽になる気がする。そんな雰囲気を滝さんは持っているし、それこそが彼の本心が身体から滲み出たオーラのようなものなのだろうと思う。
僕自身、中小企業のワンマン社長や敏腕部長、穏やかなのにバリバリ営業成績を上げる営業さん、その人がその会社の顔のような受付のお姉さん、そんなエネルギーの強い人達を沢山見てきた。滝さんも、そんな素晴らしいオーラを持っているし、職業柄かもしれないが、その顔を見た瞬間に救われたような気持ちになった。滝沢内科医院に訪れる患者さんたちも、それを求めてやってきているに違いないと思った。
別に普通だったと言われて戸惑った滝さんは、僕の口から次の句が出るのを待っている。
「診察室のドアを開けて滝さんの顔を見た瞬間、ああ、ここに来てよかったって思ったよ。」
あ、ああ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。で、どうなんだ?と僕に先を急がせる。
「安心して扉を出て、しばらくしたら僕の気持ちは元に戻ってしまっていたんだ。」
「ん、どういうことだい?診察の説明で何か分からなくて不安になったとか?」
「いやいや、とても安心したよ。でもね、その効果は長く続かなかった。」
「大ちゃん、ごめん、俺頭が悪いからさ、もっとわかりやすく教えてよ。」
そうだよね。僕もそうだったんだよ、滝さん。僕も自分がやっていたときには気が付かなくて、気が付けなくて、すべてを清算してやっと気がつくことが出来たんだよ。
「滝沢内科医院はね、滝さんの診察室にしか暖炉がないんだ。扉の外は、もう暖かくないんだよ。」
感の鈍い滝さんでもピンときたらしい。それは滝さん自身が薄々気がついているからだろう。でも、それを補うために滝さんは自分が頑張ればいいと思ったに違いない。あんなに熱心で、あんなに患者さんに同情して、おじいちゃんや子供にもちゃんと優しくも厳しくも話をしていた。滝さんの優しさは、あの診察室から聞こえるかすかな患者さんの朗らかな声を聞くだけで良くわかった。
何かを言いたくて、口を少し開けたままの滝さんに言った。
「滝沢内科医院で人を癒せる人間は、たった一人、滝さんしかいないということさ。」




