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EP.92



今度はエリオットの執務室に集められたいつメン達。(クラウス除く)



「さて、無事に学園を国に取り戻したね。

来年度からの新入生は不正無しの、通常の試験を通過した優秀な人間ばかり。

シシリア、新生徒会の人員確保は出来ているの?

ゲオルグくんとエリクくんとエリーくん、新三年生はあと一年しかいないよ?」



あんな事(毒杯、フィーネの件)があったばかりなのに、学園の生徒会の話など……。


コイツの神経はやっぱり焼き切れてるなぁと思いながら、私は答えた。


「心配ないわ、特に優秀な人間を既に確保しているから」


私の答えに、エリオットはニッコリ笑った。



「それは暁光、新しく再び生まれ変わる学園を背負う訳だからね、しっかり頼むよ、生徒会長。

さて、では今後の学園についてだけど、理事長には僕が、副理事長にニースがそれぞれ就く事になったから、よろしくね?

それから、不要になった校舎の運営についてだけど、新しく騎士科、技術化、芸術科、領地運営科を設ける事になってね、そちらの生徒達も既に確保済み。

皆、将来この国を背負うに相応しい優秀な人間ばかりだから、こちらもよろしくね」



いつの間に……。

いや、これも全て例の組織がとっくに準備してあった事なのだろう。

全く得体が知れない上に、抜かりがない……。



ちなみに、在学生についても実力確認試験が実地された。

免除対象はSクラスのみで、あとの生徒は全てこの試験を受け、当然の如く大量の脱落者を生んだ。


これにより大幅なクラス編成が行われ、Aクラス以下は身分差の無いクラス編成となっている。


つまり、Sクラスは高位貴族(王家から伯爵家まで)の優秀な人間。

ここは変わり無し。


で、Aクラス以下は新しく、どんな身分であっても関係無く、その実力のみで振り分けられている。

更に校舎は一つにして、AからCまで。

それぞれ3学年までが在籍する。


そこで、以前C、DクラスとE、Fクラスが使っていた校舎がそれぞれ余るので、今回、騎士科、技術科、美術科、領地運営科を新しく設立するって事らしい。


ふむふむ、随分と合理的になったもんだ。

隣で、歩くミスター合理主義、レオネルが物凄く満足顔で口元を綻ばしている。


珍しいその表情に、ジャンなんかきみ悪がって一切こちらを見ようとしない。




「あのさ〜、一部まだ出しきれてない膿が残ってるのは、なんで?」


私の問いに、ああって顔をして、エリオットは困ったような顔をした。


「フリードとその側近の事だね?」



そうそう、それそれ。

なんでアイツらがAクラスに残ったままなのよ。


納得いかない私に、エリオットは言いにくそうに口を開いた。


「実は彼らは元々Aクラス相当の実力はあるんだ。

その身分を考えればSクラスでも問題ないくらいなんだよ」



はぁぁぁぁっ⁈

マジかっ!


あり得ないだろって私の顔に、エリオットは共感するように真剣な顔で頷いてから、スパッと言い切った。


「フリードは別だよ。

アイツは本来なら学園に残留出来る成績じゃない。

一年の時でさえ、Cクラス(成績の悪い高位貴族のお飾りクラス)相当だったのを、王家の人間という事で、Aクラスに勝手に入れてあったんだ。

側近達はそのフリードに合わせて、Sクラスを辞退してAクラスに在籍していた。

もちろん、今回の試験も大変優秀だったよ、フリード以外は」


淡々とそう話すエリオットに、私はやっぱり納得がいかない。


「だから、なんでそのフリードが未だに在籍してんのよ、学園に、しかもAクラスにっ!」


私の怒りの篭った問いに、やはりエリオットは申し訳無さそうにしている。


「今回の事では、そこまでゴルタールの力を削げなかったって事だね。

可愛い孫を学園に残す為、ゴルタールもあの手この手を使ったって事さ。

買収された試験官、その他関係者にも事情があってね、半ば脅されている状況だよ。

それを、王家である僕が処罰するのもね、難しくて。

何せ彼らは王家の人間、第三王子を優遇する為に不正を働かさせられたんだから」



ああ〜〜……。

確かに、それは確かに……。


逆に王家が糾弾されてもおかしくないよなぁ、それ。


くそっ!ゴルタールめっ!

小賢しい真似をっ!


悪さする前にお前の孫の頭の悪さをなんとかせんかっ!



「とりあえず、フリードの事は捨て置くしかないから、まぁアイツが何かしたりは出来ないだろうし、悪いけどリア、アレは校舎の染みとでも思って我慢してよ」



ええ〜〜……。

そんなん漂白剤かけて綺麗にすればいいじゃん。


あとさ〜。

アイツ何も出来ないどころが、学園革命⭐︎レボリューションする予定だけど、大丈夫?


まぁ、何を学園革命してレボリューションしてこようと、全て私が捻り潰してやるけどなぁっ!

ハッハッハッハッハッハッ!



「学園は一から真っ新な状態でスタートするものと思って、卒業した君達も、リア達のサポートをしてやってほしい。

それから、ここからガンガン、ゴルタールの金の流れをぶっ潰していくから、沢山働いてもらうよ?

そのつもりで、改めてよろしくね」


ニッコリ笑うエリオットに、皆がデスマーチを覚悟した顔で頷いた。



何気に人使いが荒い、それがエリオットという男なのだ……。








その後王宮の廊下を歩きながら、来年度の新入生、編入生のリストのコピーを眺め、私は溜息をついていた。



やっぱ、いるなぁ、アイツ。



編入生のリストに〈キラおと2〉のヒロイン、ニーナ・マイヤー男爵令嬢(中身シャカシャカ)の名前がある事に、ヤレヤレと何度目かの溜息をつく。


アイツ、前世では試験とか手を抜いてる感あったもんな。

本気を出せば、学園にも受かるレベルだったんだろう。


貧乏で家庭教師も雇えない設定だった本来のヒロインは、母方の祖父の遺産を使いFクラスへの編入だった。


その辺が変わった事でアイツも入ってこれないんじゃないかと期待していたが、自力で入ってくるとはな。


結局〈キラおと2〉のメンバー勢揃いって事だ。


もちろん、ゲーム通りには進まないだろうが、嫌なんだよなぁ、2のメンバー。

フリードを筆頭に全員面倒くせぇ。


ウザい、迷惑、痛い、の三拍子。

そんなもんに付き合う気は無いが、周りをチョロチョロされたらうっかり地の底に沈めるかもしれん。

その時は、ごめん。




……それに……。

キティをニーナに会わせたくないってのが本音。

アイツの中身はシャカシャカだ。

もしもキティがボサ子だと気付かれたら、今度は何をしてくるか分からん。


いや、もちろん、もう前世のような事はさせない。

前とは、私もキティも違う。

アイツ如きに遅れを取るような事はないだろう。


それに、ニーナにはずっと監視がつけてある。

今のところ、アイツの様子に変わりはない。



……いや、あるな。

母方の祖父から遺産が入るタイミングが原作より早い。

それに編入してくるタイミングもだ。


どうせアイツが碌でもない事をしたのは分かりきってる。

なんせアイツはあの迷いの森を自由に行き来出来るのだから。



こちらの目が届くって意味では、アイツが学園に入ってきたのは、まぁ悪い事ではない。



……それでもやっぱり、少しでもキティに近付かせたくない。


どうしようもない、これが本音だ。

情けない事に。



……やはり私は、卑怯だな。

ずっと恐れ続けている事が、目の前に迫ってきたとなると、すぐこれだ。



私は自分で自分の顔を両手でパンパンっと叩いた。


しゃーーーーーっ!

気合い気合い気合いーーーーーっ!

日和ってんじゃねーよっ!私っ!


グダグダ言ってても始まらねーーっての!




その私の突然の奇行に、廊下の向こうでビクッと体を震わせる影があった。



………おやぁ〜〜あれは………。

これはこれは、これは。


……まさに飛んで火に入る夏の虫ってやつじゃないか。



私はニッコリと淑女スマイルを顔に貼り付けて、目を見開いてこちらを見ているその人物にゆっくりと近付いた。



「ご機嫌よう、ユラン・アルケミス伯爵令息」


ふふっと笑うと、ユラン・アルケミスは恐れの表情をしながらも、一瞬私に見惚れるようにボゥっと瞳を潤ませた。


まぁ、一瞬だけど。


ユランはすぐにそんな自分を律するように姿勢を正し、真っ直ぐにこちらに向き直る。



「お初にお目にかかります、シシリア・フォン・アロンテン公爵令嬢様。

私の事をお見知りおきだとは、驚きました」


ピンクシルバーの髪にピーチブロッサムの瞳。

女の子と見間違うような華奢で小さな体。

まだ幼さの残るその面差しは、典型的なショタ美少年といっても過言ではない。



ハイっ!

そうですっ!お約束の攻略対象ですっ!



ユラン・アルケミス伯爵令息。

〈キラおと2〉の攻略対象の1人。

前作の攻略対象は皆年上だったが、2ではフリードを筆頭にほぼ同級生。


が、1人だけ年下のこのユランは、貴重なショタ要因でもある。


お約束の年下ヤンデレキャラ。


そしてこのユラン、攻略したいキャラがいないと大不評だった〈キラおと2〉において、唯一1人だけ、だがユランを除く、と言わしめた存在でもある。


糞ゲーと名高い〈キラおと2〉の唯一の救いであり、最後の希望でもあった。


まぁ、ヒロインとのストーリー展開がクソなので、結局はユランッ!そうじゃないだろっ!とゲーム機を床に投げ捨てる結果になるのだが。



で、もちろんお気付きだとは思うが、このユラン、あのアルケミス伯爵の次男でもある。


つまり、フィーネが殺したレノアの、長兄の息子。



〈キラおと1〉の方ではもちろん、アルケミス家など出てこないが、狭い貴族社会、数奇な縁もあるものだと思ったね。



このユラン、攻略対象であるという事は、もちろん第三王子フリードの側近なのだが、実は今はまだ違う。


ゲームではヒロインに出会い、その縁でフリードの側近になるので、今の時点ではフリードとの直接的な交流はほとんど無い。



つまり、今が好機という訳だ。




「もちろん、貴方の事は知っていましてよ。

私は学園の生徒会長ですから。

ユラン・アルケミス、首席入学心よりお祝い申し上げます」


生徒会長然として、風格を漂わせそう言うと、ユランは改めて背筋を伸ばし、私に向かって綺麗な礼をした。



「ありがとうございます。シシリア・フォン・アロンテン生徒会長。

この身に余る評価を頂き光栄です」


ふむ〜、謙虚な態度に自信が満ち溢れている。

首席などさも当然とでも言いたそうな雰囲気だな。



うんっ!嫌いじゃないっ!

実力が伴ってるしな。



「見に余るなど、貴方の実力ですもの。

それがそのまま貴方の器ですわよ。

……ところで、ユランさん、とお呼びしても?」


ユランは顔を上げると、素早く頷いた。


「はい、もちろんです。

私の事はお好きにお呼び下さい。

公爵家の方に敬称で呼ばれるなど恐れ多い事ですので、どうか僕の事はユランとお呼び下さい」


ふっふっふっ。

野心家だなぁ。

一気に距離を縮めにきてくれて、こちら的には大変助かるよ。



「では、ユラン。貴方も私の事は遠慮なくシシリアとお呼び下さい」


こちらも名前呼びを許してやると、ユランは恐縮しながらも、一瞬だけ口元を嬉しそうにニヤリとさせた。


「私などにその名を呼ぶ光栄を与えて頂き感謝致します、シシリア様」


ニッコリ可愛く微笑むそのあざとさも、よくゲームで見たなぁ、などと思いつつ、私は口を開いた。



「では、ユラン、一つお聞きしたいのですが。

貴方、首席まで取っておかながらAクラスを希望しているみたいですけど、それは何故?」


私の問いに、ユランはフッと笑った。


「それはもちろん、シシリア様のご婚約者、第三王子、フリード殿下の側近に選ばれる為です」


そう言って優雅に微笑むユランは、私の顔を見て瞬時にその笑みを引き攣らせた。


どんな顔って?

うわっ……この人の野望、低すぎ……?


ってだいぶ前に流行った広告並みに引いた顔だ。



引くわ〜。

マジ引くわ〜。


そんだけ優秀で野心たっぷりなくせに、選ぶ相手が、フリードって。

見る目ないわ〜。

ってか、経験値の低さだな、これは。


勉強ばっかで人に興味が無かった人の見る目の無さ……哀れだわ。


だから優秀な人間が、見た目や肩書きだけの中身スッカスカな人間に良いように扱われて、自分の功績を横取りされたりすんだな。


あ〜あ。

切ない。



そもそも、側近に選ばれる為に自分のランクを落とさなきゃいけない相手って何だよ。

その時点で仕える相手じゃないと何故気付かない?


ユランはこんな優秀な自分が貴女の婚約者の側近になってあげるんですよ?的なニュアンスを含ませていたが、うんそれまったく要らない。


才能の無駄遣い。

非合理的。

もったいないオバケが出るわ。



私は憐憫を顔に浮かべ、ユランの頬をそっと両手で包んだ。



「ユラン……、貴方は自分に見合ったクラスを選ぶべきです。

貴方がAクラスを選ぶ事は、フリード殿下の為とは言えませんよ」


私の言葉にユランは目を見開いて、信じられないといった顔をする。


「しかしっ、側近の皆様はそうされていますっ!

だから、僕はっ、あっいえ、私は……」


動揺するユランに、私は慈愛の表情を浮かべて続ける。



「いいえ、皆、思い違いをなさっているのです。

良いですか?フリード殿下のお側に侍りたいのなら、自分の優秀さを卑下するような事をしてはなりません。

例え学生のうちは側近としていられたとしても、将来的にはより優秀な人間が殿下のお側を固めるのですよ。

自分の優秀さを今から隠してしまっては、その時に必ず後悔いたしますわ」


私のその言葉に、ユランは大きな目をパチパチと何度も瞬きさせて、驚きの表情で私を見ている。



ややして目から鱗が落ちたかのように、ユランはスッキリした顔で私を真っ直ぐに見つめた。



「シシリア様、ありがとうございますっ!

確かに、正当な評価を自分から投げ出すなど、愚者にも劣る行為でした。

僕、Sクラスの辞退はしません。

そのままの自分でフリード殿下の側近になってみせますっ!」



そのユランに私はニッコリ微笑み、内心ガッツポーズを取った。



よっしゃっ!よっしゃっ!よっしゃーーーっ!

これで今後、ユランがフリードの側近になる事は、絶対に絶対にぜぇーーーーーったいにっ!無いな。


あの愚か者が自分より上のクラスの人間など、側近にする訳がない。


将来的にもいつまでもネチネチ覚えていて、側に置く事もないだろうっ!


よしっ!

私は救ったぞっ!


優秀な人間の未来を守った。

フリードになどユランは勿体無いわっ!


コイツはなぁっ!

私が頂くんだよっ!


ヌワァッハッハッハッハッハッ!




内心真っ黒に笑いながら、私は優雅に優しくユランを見つめた。






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