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EP.91



「一体どんな戯れだったのか、邪神オルクスは北の大国の王として君臨し、当時の帝国の皇帝をも操っていた、と北の伝承では語られている。

北の大国は未だにその話を盲信していて、帝国までも、元々は自分達の王、オルクスの物だったと言い、自分達の物だと思っている。

まぁもちろん、誰にも相手にされていないけどね」


エリオットの話に何だか私はやっと腑に落ちた気がして顎に手をやった。


「北の人間が妙に選民意識が高いのはそのせいだったのね。

かつて神が治めていた国。

だからあんなに他国に対して偉そうにしてるって訳か」


独り言のような私の呟きに、エリオットは律儀に頷いてから、また口を開いた。


「真実はもちろん今更分かりようもないけどね。

とにかく北は、オルクスの眷属である魔族は自分達の味方だと思い込んでいるのさ」


ふ〜ん。

それでずっと魔法を自国に取り込もうとしていたのね。

魔法を取り込み、確率は低くとも闇属性の人間が産まれるのを待ち、闇に堕として魔族にし、オルクスの代わりにでもしようとしていたのかしら?


だけどその方法じゃ、当たり前だけど自国の血を混ぜた時点で魔力を持つ人間など産まれない。

つまり、闇属性持ちなど現れる訳が無い。


で、次に言い出したのが、そんな事しなくても、闇属性持ちや魔族は自分達のかつての王、オルクスの眷属だから、既に北の血が混ざっている。

つまり北の住人って事だな、ふむふむ。



うん、分からんっ!

何を言っているのかさっぱり分からんっ!



皆も私と同じ結論に行き着いたのか、困惑顔でエリオットを見ている。



レオネルが眉間に皺をよせ、全く理解出来ないって表情でエリオットに聞いた。


「そもそも、その邪神の血が本当に北の人間に流れているのですか?」


そのレオネルの言葉に何故かミゲルが立ち上がり、ブルブルと震えている。


「そんな事あり得ませんっ!

神と人の血が交わるなど、そんな荒唐無稽な話っ!」


神の使徒、激オコ。

前世ではそんな神話もあったが、こっちでは御法度なんだなぁ。



ブルブルと憤るミゲルをまーまーと手で制しながら、エリオットは口を開いた。


「北が勝手にそう言っているだけさ。

まず間違いなく奴らに神の血なんて流れてないよ。

神が人との間に子を成すなんて、それこそあるまじき奇跡だよ」


何かニヤニヤ笑っているエリオットに、私は首を傾げつつ、ふと思い付いた事をそのまま口にした。


「じゃあ、北がクラウスの子を自国に欲しがっていたのは、クラウスが闇属性持ちって知ってたから?」


私の問いに、エリオットは緩く首を振った。


「いや、そこは勿論、奴らにバレてなんかいないよ。

単純にクラウスの魔力量のみを狙っていたのさ」



まぁ、だよね。

私はうんうんと頷いた。


だってクラウスが闇属性持ちって知ってたら、自国の姫との間に子を〜なんてまどろっこしい事してないで、クラウス自身を何とかしようとしていた筈だもんね。


いや、アイツを何とかするのは絶対に無理だけども。



「って事は、アイツらにとってクラウスはもう用済みって事?」


私の問いにエリオットはヒョイっと肩を上げた。


「ま、そうなるね」


あっさりと問題が一つ解決して、皆何だか呆気にとられて顔を見合わせた。



「それでは、ゴルタールも北から捨てられたって事ですか?」


ノワールの言葉に私はハッとした。

そうだよ、クラウスに用が無くなったなら、もうゴルタールも用無しって事だ。


それでなくても今回ゴルタールは北の望み通りフィーネを確保出来なかった。


北からのゴルタールへの支援が無くなれば、ゴルタールの力を削げる。

そうすればアイツの発言力も弱まるじゃんっ!


パァッと顔を輝かす私に、しかしエリオットは残念そうに口を開いた。


「いや、まだそこは仲良しのまま」



えっ!何でだよっ!

まだゴルタールに利用価値があるって事か?


私の疑問に答えるように、エリオットは続ける。


「今回、この王国に魔族が棲みついている事も北の知るところとなったからね、宮廷である程度の発言力を持つ、有力貴族であるゴルタールは手元に残しておきたいんだろうね。

それに、北は将来的にこの王国を属国にするつもりだから、その時のために国の中枢となる人間を、扱いやすい傀儡に変えておけ、とゴルタールに命じたみたいだね」



….…へぇ?

つまり、国王とその側近や、エリオット達に、クラウス達、その辺まで総とっかえしなきゃ王国、北の傀儡化大作戦は成功しないと思うんだけど……。


それをゴルタール率いる貴族派だけで成すって事?



……随分舐めたれたもんだなぁっ、オイ。

ヤレるもんならやってみろや、ゴルァッ!



「……親分、どうしますか?

今すぐゴルタールの玉ぁ、獲ってきやしょうか?」


そう陛下に向かって聞きながら、ゆらりと立ち上がる、私とジャン。

密かに、ノワール。

レオネルに脳筋3バカトリオと呼ばれている私らの力、見せてやんよっ!ゴルタールッ!




「ふ〜む、分かりやすい解決策じゃな。

嫌いでは無いが、まぁ、待ちなさい。

ゴルタール家はこの王国が建国された頃からある貴族家だからの、そう簡単にはいかんじゃろう」


まぁまぁと私達を手で制する陛下、一方エリオットは、とても楽しそうに笑っていた。



「そうそう、そんなに簡単に手を下しただけでは、あの家は潰れない。

確実に潰す為にも、準備は入念にしないとね。

例えば今回の学園の件。

貴族達から賄賂を受け取り、不正に入学許可を出していた、あの副理事長のレオニード伯爵。

彼からの金の流れるパイプを失って、ゴルタールは随分焦っているようだよ?

ね、だからそんな風にね、羽を一枚一枚ゆっくりともいでいけば、ゴルタールはますます北に依存していくだろう?

ゴルタールが北の指示通り、王家を脅かす何事かを行えば、例えゴルタール家でもお家取り潰しは免れないだろうなぁ……」


ふふふと笑い、エリオットは愉悦の表情を浮かべて続けた。


「羽を全てもいでしまえば、ただの芋虫になっちゃうね……。

そうなれば、捻り潰すのなんか容易すぎて、ちょっと可哀想になっちゃうかも」



ニッコリ笑うエリオットに、肌が粟立ったのは私だけではなかったらしい。


ジャンがミゲルに抱きついて、ガタガタ震えている。



要は、エリオットはこう言っているのだ。

ゴルタールの資金源を全て潰し、北からの援助のみに頼らざる得ない状況に追い込み、北と結託させ、国家を転覆させるような大罪を犯させる。

つまり、外患誘致罪。

外国と共謀して武力行使を行う事を言う。


この国で1番重い罪でもある。



これならば、例え公爵家といえども、ゴルタール家は一発で取り潰しになる。



エリオットはあくまでも、ゴルタール公爵のみでは無く、ゴルタール家そのものを潰す気でいるらしい。



「悪趣味でも、身の内に毒蛇を飼わなきゃいけない時代がこの国にもあったんだよ。

でも今はもう違う。

必要無くなった毒は吸い出してしまわないとね」


仄暗く瞳を光らせ、口元だけ楽しそうに微笑んでいるエリオットに、皆が身震いして、嫌な汗をドッとかいた。



今この場で、1番毒蛇っぽく見えるのはお前だけどなっ!




「ん〜まぁ、エリオットくんの言う通り、ゴルタールを討つにはまだ時期尚早って事じゃな」


平気な顔でそう言う陛下に、皆に違う意味で戦慄が走った。


黒エリオットに対してまったく動じていない……だと…っ!


お前ら一体どんな親子関係だよっ⁉︎





「さて、では今回そのゴルタールに踊らされて色々やってくれたロートシルトだが、こっちの処分が決まったのでな、皆に知らせておきたい。

ジェラルド」


陛下にそう言われ、父上が頷いたのち私達に向き直った。


「ロートシルト率いる魔法優勢位派は全て爵位取り上げの上国外追放、内乱陰謀罪相当として扱う事とする」


思っていたより甘い処置に、レオネルが直ぐに声を上げた。


「それは彼らが起こした事を本当にキチンと精査した上での処分ですか?」


レオネルの問いに父上が無表情で答える。


「無論だ。今回表立って事を起こしたのは各家の令息、令嬢ばかり。

成人しているとはいえ、まだ学生の身。

親や家から強要されていた者もいるだろう。

実際に行動に移してはいたが、全てお前達が事前に防いでいた事もあり、被害も出なかった。

ゆえに、これを内乱と認めず、内乱陰謀罪相当と判断した」



おやおや、父上達ったら……。

内乱自体を無かった事にしようとしてるわね。



私はチッと舌打ちして、陛下と父上を睨み付けた。


被害も何も、実際にキティは酷い誹謗中傷を受けたし、暗殺だって依頼された。

常日頃から様々な嫌がらせに命をさらされてきたというのに……。


これがエリオットの婚約者であれば、全員内乱罪適応の上、首謀者は断頭台行きだったと思う。


次代を背負う王太子の箔付になるもんね。

それくらいの恐怖政治は平気でやるだろう。



私は胸の前で腕組みしながら陛下に向かって口を開いた。


「それ、クラウスも了承しているのですか?」


私の問いに、陛下はスッと目の焦点を失い、途端にガタガタ震え出した。

座っている椅子と机が激しく揺れている。

ふむ、震度5ってとこか。



「勿論、了承されている」


その陛下に代わって父上が答え、一枚の紙を私達に向かってバサっと広げた。

何やら人の名前がズラッと並んでいる、何かのリストのようだ。


「ロートシルトについては、娘と夫人と共に、秘密裏に毒杯を授ける事は既に決定していたのだが、そこにこのリストにある人間も加える事で、殿下には既にご了承を頂いている」


父上が眉間に皺を寄せ、私達に向けたそのリストをよく見ると、学園でキティを罵ったり直接手を出そうとした生徒の名前がズラッと書き記されていた。



細かっ!

アイツ、いつの間にっ!

ってか、そんな生徒の名前とか、いちいち把握してたの、アイツッ!


吃驚して口をパクパクしている私に、エリオットがあははっと笑いながら口を開いた。



「クラウスは学園の全生徒の顔と名前、家格と勢力図、全て頭に入っているよ?

キティちゃんの学年については特に入念にね」



どんな脳みそしとんじゃ、アイツ……。

怖っ!



エリオットは続けて陛下と父上に視線を移すと、平然と言ってのけた。


「まぁ、本人が直接手を下すよりはマシでしょ?

まごまごしてたら、本当にクラウスが自分で動きますよ?

毒杯より一瞬でカタがついて、本人達にはそちらの方が楽かもしれませんけどね」


アーハッハッハッハッと笑うエリオットに、父上が更に眉間の皺を深くして、陛下の震度が更に上がった。



狂気的な兄弟であらせられます事。

間違いなく製造元は陛下なんだから、ちゃんと管理頂かなくては、ねぇ?



ジーーッと陛下を見つめていると、焦点の合わない目をウロウロとさせている。


管理出来ない物を製造すなっ!









それから直ぐに、ロートシルトと並びにその夫人と娘が、無事に毒杯を賜ったとの知らせを受け取った。


リストにあった人間についても、同様に……。





更に、帝国から帰ってきたブルメスター・アルケミスからの報告も受けた。


無事に帝国の教会に魔族の種の受け渡しは完了した、が、ヤドヴィカ男爵並びにその娘、フィーネは、途中不慮の事故により、死亡した、との事だった。



詳細についても、ブルメスターはしっかりと陛下に報告している。



ヤドヴィカ父娘は、帝国に向かう道中、何度も逃亡を図ったらしい。

仕方なく拘束をしていたのだが、途中、休憩をしていた森の中で、フィーネが用を足したいと言い、拘束を解いた。

その後、娘が心配だからと着いて行ったヤドヴィカ男爵もろとも、魔獣に食い荒らされた無残な姿で発見された。


そこは既に帝国の地で、小型から中型の魔物が出没する場所だった。


それくらいの魔物であれば、ブルメスターと兄、その部下達で何とでも出来たものを、彼らから離れる選択をしたのはヤドヴィカ父娘だ。



って事で、陛下はもちろんブルメスター達を不問にした。


例え用を足すくらいで拘束を解いたとしても、そのヤドヴィカ父娘に監視をつけていなかったとしても……だ。



大変な役割をよくぞ遂行した、と逆に労いの言葉をかけたらしい。



まぁ実際に、これで憂いは完全に晴れた訳だ。

フィーネを万が一にも北に奪われる事も無くなった。



……実際、北の息がかかった刺客集団に何度も襲撃に遭ったらしい。


フィーネが魔獣に食い殺された後も、今度は魔族の種を狙って再び襲ってきた。


確かに、ブルメスター達は大変な役割を完遂したのだ。



ヤドヴィカ父娘を失った事について、言及しようとする者の無いように、先んじて陛下は労いの言葉をかけ、特別報酬も与えた。


まぁ、護衛騎士達を襲ったのは間違いなくゴルタールが雇った連中だろうが、騎士達が言うにはそれにしては統率が取れていて、何人か捕えたもののすぐに自害された、と言う事だから、雇った、というよりは、北から借りた、のかもしれない。


どちらにしても、今回の護送計画を知り、その順路を知っていた人間にしか出来ない襲撃の仕方だったそうだ。



フィーネ達の遺体は損傷が激しく、また魔獣による瘴気爛れを起こしていたので、持ち帰る事は出来なかった。



後に帝国の治癒師達が浄化に訪れる予定だが、それまでどれほどの物が無事に残っているかは分からない。


骨まで食い荒らされているかもしれない。


まぁ、その骨さえ誰も引き取る人間などいないので、帝国の治癒師達にはぜひともゆっくり向かって頂きたいところだ。








ニアニア、だから私は、言っただろ?

お前を裁くのは、この現世でお前が犯した罪により、大切な人を亡くした者達だって。


人は死んだらもう二度と戻らない。

お前がゲームのキャラだと言っていたレノア・ヤドヴィカ夫人は、その、人、だったんだよ。


だからコンティニューなんか無いんだ。

レノアを大切に想っていた人達は、お前の犯した罪によって、レノアを永遠に失ったんだよ……。


言っただろ?

ここは前世の価値観や法など通用しないって。


捕まって、刑務所に入って、罪を反省して出てくる。

ごめんなさい、と謝れば許される。


そんな世界じゃないんだよ。



お前が本当に反省していたと言うなら、なんで何度もブルメスター達から逃げた?


やっぱりお前の反省なんて、口だけだったな。


お前はシャカシャカのせいにしたがっていたけど、やっぱり、ボサ子もレノアもお前が殺したんだよ。


例え誰かに操られていたとしても、犯した罪は変わらない。


お前に操られていた貴族令息達も、今頃帝国のアルカトラズで死んだ方がマシな目に遭ってると思うぞ。



アーバン達も毒杯を賜った。

逃げられないんだ、犯した罪からは。



それこそ、魔族にでも操られて無理やり望まぬ罪を犯した人間くらいじゃなきゃ、許されない。

そんな人だって、自分の犯した罪に苦しみ、一生罪悪感を抱えて生きるんだ。



お前は、違うだろ?

まだシャカシャカに抗う事は出来たはずだ。

でもお前はそうしなかった。



それがニアニア、お前という人間だよ。

それに見合った死に様だったな。

ニアニア、最後まで、お前はお前らしく死んだんだな…………。








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