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EP.90



ハートを飛ばしながらチュッチュしてくるエリオットに身悶えながら、私は自分でも情けない声を上げた。



「も、もうやめてよ〜〜!

十分でしょ、離してよ〜〜!」


うわーーんっ!

しつこいっ!

コイツ、しつこいよーーっ!


バタバタ暴れる私をエリオットは楽しそうにクスクス笑っているだけで、その腕を全く緩めない。




その時、扉をノックする音と、もの凄く遠慮がちな声が聞こえた。


「殿下、大変申し訳ありませんが、陛下より招集がきております。

アロンテン公爵令嬢様もご一緒に、との事です」


その使用人の言葉にエリオットは体を起こしながら、チッと小さく舌打ちをした。



ガラ悪りぃなぁ。

私が言う事じゃないけど、王太子としてどうなの、それ?



「ほらほら、陛下がお呼びなんだから、サッサっとどきなさいよっ!」


シッシッと手を振ると、エリオットはまだ名残惜しそうにショボンとしていたが、仕方なさそうに私の上から降りた。



ふ〜やれやれ。

やっと自由になれた。


今後何があっても絶対にここには連れ込まれんぞ、と決意を新たにする私を、エリオットは目を光らせニヤリと笑って見ている……。



早速次の計画練ってんじゃねーよっ!

お前ちょっと自重しろって言われてんだろっ!

各方面にっ!








グダグダするエリオットの襟首を掴み、ズルズル引き摺りながら陛下の執務室に向かう。



「ほら、ちょっとはシャキッとしなさいよっ!

陛下からのお召しなんだからっ!」


ガミガミした口調で言うと、エリオットはぶぅっと頬を膨らませ、唇を尖らせた。


「父上の呼び出しに、リアとのイチャラブを中断する程の価値などありませ〜ん」


いや、あるよっ!

国王陛下やぞっ⁉︎

あとイチャラブちゃうからな?

アレは脅された上での非合意な強制わいせつだからっ!

この犯罪者っ!



面倒くさくなった私はエリオットを片手でブンブン振り回し、廊下の向こうにそのままブンッと放り投げた。


空中でクルクル回ってスタッと着地し、格好つけてるが、お前今最高に格好悪いからな。


エリオットが着地した場所は陛下の執務室の扉の真ん前。


我ながらコントロール良すぎて自分の才能がちょっと怖いくらいだ。



「あ〜あ、ダルぃ」


王太子とは思えない呟きに、もうコイツは宇宙生物だと思う事にした。

いちいち相手にしていたらこっちの身が持たん。



「陛下、エリオットとシシリアです。

お召しにより参りましたぁ」


不満げに語尾を伸ばすなっ!

いい加減、ビシッとしろっ!


「うむ、入れ」


中から威厳ある陛下の声が聞こえ、警備兵が扉を開ける。



中に入るといつメン勢揃い(クラウス除く)だった。



レオネルが私に気付き、無言でツカツカ近付いてくる。

私の目の前に立つと、これまた無言で私を見下ろす。



圧っ!

圧がっ!

兄ちゃんの圧がハンパないっ!



「シシリア、何か言う事は?」


低い声でそう問われて、私はショボンと頭を下げた。


「……ごめんなさい」


私がそう謝ると、やはり無言で私の肩を抱いて、エリオットから距離を取るレオネル。


「レオネルく〜ん、昨日君のとこには連絡しといたでしょ?

シシリアが疲れて寝ちゃったから、ゲストルームに泊まらせるって」


エリオットの情けない声に、レオネルはギロッと睨み、冷徹な声を出した。


「ええ、もちろん。次からは必ずそうして下さい」


……まったく信用されていない。

エリオット、アロンテン家からの信用度0。



シュンと項垂れるエリオットに、陛下がニコニコしながら近付いた。

こっちはこっちで妙にご機嫌だなぁ、オイ。


「まーまー、レオネル、良いではないか。

二人とも成人した大人同士なのだから。

エリオットく〜ん、元気出して?

ごめんね、いいところで邪魔しちゃって。

怒ってる?」


ご機嫌を伺うような陛下に、エリオットはプウっと膨れてプイッとそっぽを向いた。

陛下はエリオットのその態度にガーンッと分かりやすくショックを受け、んも〜〜エリオットく〜ん、と膨らんだホッペをツンツンしている。




……ほほぅ。

さてはお前だな?

この未知の生物を今まで飼育してきたのは?


何故王太子として育てない?

未知の生物やら魔王やらをこの世に排出しおってからに。


諸悪の根源を見つけたところで、私は空間魔法からカゲミツを取り出し、静かにその柄に手を伸ばした。



「いや待てシシリア、あれはあんなでもこの国のトップだ。

分かりやすい暗殺では我が家に傷がつく……。

計画を練ってからでも遅くない」


その私を制し、ボソッと呟くレオネル。


「……そうね、あのヘッポコ王太子も始末して、我が家がこの国を頂くとしましょう。

クラウスにはキティを与えておけば、何も言わないでしょうし」



ふっふっふっと黒く笑う私達に、エリオットと陛下はお互いの両手を握り、ガタガタと震えていた。


「今そこに迫る反逆………」


震えながらボソリと呟く陛下に、うちの父上が溜息混じりに声をかけた。



「……陛下、我が家の優秀な子供達が本気で貴方の首を獲りにくる前に、今回の話を終わらせましょう」


そう言って、こちらも無表情ながらその目を昏く光らせる父上。


その父上に更にガタガタ震えながら、陛下が自分の執務机に黙って戻る。



やっと話す体勢に戻ったか。

貴様ら親子の気色悪いイチャコラ見せる為に呼ばれたのかと思ったわ。



「ん〜ゴホン」


陛下はわざとらしい咳をして、やっと口を開いた。



「皆、此度の働き誠に見事であった。

皆の働きで、王立学園をあるべき姿に戻すという、我らの宿願がこれでやっと叶うだろう。

準魔族をあえて学園に迎え入れるというエリオットの計画だが、一歩間違えれば大変な事になっていた。

それを皆、よくぞここまで成し遂げてくれた。

まずは皆に礼を言おう」


先程までのダメ親っぷりはどこへやら、陛下は威厳の篭った表情で皆を見渡した。


「本来であれば、その働きに見合った褒美を与えたいところだが、残念ながら此度の事はあくまで秘密裏に行われた変革ゆえ、表立っては何も出来ぬ。

だが、何か希望があればいつでもこのジェラルドに遠慮なく申せ。

出来るだけの望みを叶えよう」


陛下がチラッと隣に立つ父上を見ると、父上はコクッと力強く頷いた。



で、その陛下の有難いお言葉に、だが皆うーんっ、と首を捻っている。


無欲かっ!

お前らは無欲の塊かっ!


私はあるぞっ!

ローズ公爵領にしかないあの肉まんの屋台っ!

あれを本格的な店を構えて売り出すんだっ!


自分の資金で店は何とでもなるが、王都の貴族街に店を構えるには国からの許可が必要になるからな。


肉まんの店じゃ、本来絶対に許可など出ないが、陛下がここまで言うなら余裕だろう。


後で父上にお願いしておこ〜。



で、改めて皆を見てみると、意外にノワールが顎に手をやり何やら思案している。


おや?

アイツも何かお願い事か?

珍しいなぁ。



むっ?

アイツも自分ちの領にある肉まんに目をつけてたら、ややこしいな。

後でちゃんと確認しておこう。





「で、だ。あの準魔族のフィーネ・ヤドヴィカについてだが。

うちの優秀なエリオットくんが、早急に帝国と交渉して、協会本部の研究所で引き取ってくれる事になったのは、もう皆知っているだろう」


陛下は鼻高々でチラッとうちの父上を見た。

さっきの父上の言葉に対抗しているのだろうが、大丈夫か?生ゴミ見る目で見られているが。




「まぁ、その研究所の本音を言えば、欲しいのはフィーネから奪った魔族の魔力の種だけで、本人に用は無いみたいだけどね」


肩を上げて苦笑するエリオット。

魔族の種を餌にフィーネを押し付けたのがバレバレだ。



「じゃが、それはこちらとて同じ事よ。

魔族の魔力の種さえ帝国に無事に届けられれば、後は微々たる事じゃからな。

とはいえ、護衛につけたのはあのアルケミス家、万が一にも不備などないだろうが」



クックッと黒く笑う陛下に、この人も年中おちゃらけてる訳じゃないんだなぁ、と妙に感心してしまった。



ちなみにヤドヴィカ親子がアルケミス家のレノアに何をしたのかは、とっくに陛下に報告済みだ。


それを知っていてのこの采配。

アルケミス家は王家にとって大事な家の一つ。

娘が準魔族に堕ちた男爵家などとは比べようも無い。


そして、そのアルケミス家が、レノアにあれだけの事をしたフィーネがただ死刑になるだけでは納得しないだろう事も、陛下はよく分かっている。



あとは、ヤドヴィカ親子とアルケミス家の問題。


采配は既に陛下の手から離れた、と暗に言っているのだろう。





「しかし、エリオット様のご判断は早かったですね。

ゴルタールがあのような事を言い出すと知ってらっしゃったのですか」


ノワールが首を傾げてエリオットに問う。



そう、ゴルタールは貴族派の貴族達を使ってあり得ない要望を突きつけてきたのだ。


それは、フィーネを準魔族では無く、人として扱え、というもの。


魔族の種は体内から取り出され、今のフィーネからは何の魔力も検知されない。

それを理由に、準魔族から、人に認定し直すべきだと言ってきたのだ。


問題は、何故ゴルタールが男爵令嬢如きをわざわざ庇うのか、なんだけど……。



「北に潜ませている密偵と、僕のコピーからの情報でね、北の目的が何だか見えてきたとこだったんだよ」


ノワールにそう答えて、エリオットは神妙な顔をした。


「北が求めているのは、力さ。

より強力な……魔族の力」


瞬間、その場で皆が凍り付いた。



北が、魔族の力をっ!

な、何でっ!



「僕達も、今まで北は自国に魔法を取り込みたいと躍起になっていると思い込んでいたんだけどね。

北が真に求めていたのは、魔族の力、いや、魔族そのものじゃないか、と最近分かってきたんだ。

気の長い話だが、北は自国に魔法を取り込み、闇属性の人間が現れるのを待つつもりだったんだよ。

その為に今まで、帝国人を攫ったりして実験を繰り返してきた。

それと同時に、やはり自国の血にも妙にこだわっている。

闇属性の人間であれば、数こそ非常に少ないが、いない事もない。

なのに、北の望んでいるのは自国の血を受け継いだ闇属性の人間」



はっ?

皆が私同様呆然としている。


いやいやそんなの。

ニワトリの卵から蛇が産まれたってくらいあり得ない。


そもそも、魔力は正しい帝国の血にしか宿らない。

で、あれば、北の血を混ぜてしまえは、闇属性どころか、魔力自体が宿らないのだ。


確かに北はそれを否定して、非道な実験を繰り返してきたが、事実は事実。

いくら抗おうと、そんなの無理だ。



相変わらず、北は何を考えているのかまったく分からん。



「だけど、最近になって、北はある結論に辿り着いたみたいでね」


エリオットが呆れたように肩を上げる。


「曰く、闇属性の力の中には、北の血が通っているらしい」



……はっ?

皆が不思議の谷に蹴り落とされたように、驚愕を超えて恐怖をその顔に張り付かせた。



その皆を申し訳なさそうに見つめながら、エリオットが続ける。



「だからね、北の主張によると、魔族という存在は、不純物を全て排除した純粋な北の血だという事になるらしくて、今北は、魔族そのものを自国に取り込もうとしているんだよ」


そこまで聞いて、私はやっとピーンときた。


「だからゴルタールがフィーネを我が物にしたくてあんな事言い出したのね。

魔法優勢位派に属していたヤドヴィカ男爵が、ロートシルトのしでかした事で爵位を取り上げられ処罰されるのを良い事に、フィーネと派閥貴族の養子縁組まで持ち出してきて。

それもその相手は伯爵位。

そんな事になったら、もうおいそれとフィーネに手出し出来なくなるわ。

それもこれも全部、北からの指示だったって事?」


私の言葉にエリオットは正解だというように、私を指差した。


やっぱりビンゴか。



「だからヤドヴィカ男爵も国内で処罰したりせず、フィーネと同行させたのさ。

独房の中ででも養子縁組の書類にサインくらい出来るからね。

僕が早急に手を打ったのは、そういう事だよ」


エリオットの言葉に皆が一瞬息を吐いた。

色々頭が混乱してはいるが、とりあえずはエリオットのお陰で未然に防げたらしい。



「じゃあ、北はフィーネからの情報が目的だったのね?」


私の問いにエリオットは静かに頷いた。


「そう、アイツらはフィーネの持っている魔族の情報を狙っていた。

どうやって魔族と接触したのか、魔族の容姿や居場所、魔族の種の入手方法、種を体内に取り込んで、異形に成り果てず、準魔族になり得る方法、とにかく、フィーネの持っている情報全てを北から望まれていたみたいだね」


皆がゴクリと唾を飲んで、エリオットの話を黙って聞いていた。


「まぁ、陛下がフィーネの準魔族認定取り下げに否を表明して、僕がサッサと帝国と引き渡しの話を進めたから、アイツらはこれ以上何も出来ないだろうけどね」



エリオットの話にミゲルが両手を組み、震える声を上げた。


「魔族には自分達の血が流れているなど、そのような恐ろしい事を、何故北の人間は平然と言えるのでしょうか?」



ミゲルの言葉に陛下が机に肘を突き、両手を組みながら、う〜むと唸った。


「……あながち、ただの妄執とも言い切れん。

北は表向き、諸外国と神を同じとしているが、真に信仰しておるのはまた別の神だからの」


陛下の言葉に皆が固唾を呑んで陛下を見つめた。


「北の信仰している神は、邪神オルクス。

死と争い、憎しみや嫉妬をこの世に放った神と言われているが、その邪神こそ、闇の力の源と言われておる」



えっ………。

皆がその場に縫い付けられたかのように固まっている。

ただ一人エリオットだけが、その瞳の奥に薄昏い焔を宿していた。



「で、ですが、邪神オルクスは遥か昔に消滅したと………」


ややしてミゲルが乾いた声を絞り出すと、陛下は静かに頷いた。



「確かに、それは間違いない、が。

その力の欠片は未だにこの世に残っている。

それが闇属性の力であり、その成れの果ての魔族、そして魔獣や魔物という事じゃな。

つまりそれらは邪神の眷属という事になる」


ええっ!

私は目を見開いて陛下を見た。


それじゃあ、闇属性持ちのクラウスや師匠もオルクスの眷属って事っ!


胸が早鐘のように脈打ちだした時、エリオットが呆れたような声を上げた。



「父上、それは随分と乱暴な見解過ぎますよ。

闇属性はあくまでもオルクスの力の一片が使える人間に過ぎない。

我らが信仰するクリケィティア神が、その力を分け与えた4属性を制御出来ないのと同じで、オルクスとて闇属性を従える事は出来ないのです。

つまり、オルクスの眷属として扱われるのはあくまで魔族とその瘴気から生まれた魔獣、魔物のみですよ」


エリオットの言葉に陛下はニッコリ笑って、頬を綻ばせた。


「エリオットくんは賢いな〜」



いや、やめろ。

今そんな空気じゃないから。

お前らのキショい親子イチャコラは公園にでも行ってからやれ。

二人仲良くキャッチボールでもしてこい。

ここでやるな。



ギリギリッと陛下を睨みつけると、ギョッとしてまたゴホンと咳払いしながら誤魔化そうとしている。


全く、ちょっと気が緩めばすぐに親子イチャコラをブッ込もうとしてくる。

次やったらマジ下克上だかんな。




「で、それと北が邪神の力を北の血だって言ってる事と、どう関係すんのよ」


あぁんとヤンキー絡みする私に、エリオットはまぁまぁと手で制しながら、口を開いた。



「あくまで伝承レベルの信憑性の無いものだけど、オルクスは遥か昔に、人の体を使って北の大国を治めていた時期があるんだとか」


エリオットの返答に、皆が息を呑んだ。




神が治めていた土地っ!

それがあの北の大国だったって言うのっ!!






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