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転生悪役令嬢シシリアは断罪ルートを回避しない 〜前世最推しを助けるのに忙しいので、革命⭐︎レボリューションはどうぞご勝手に〜  作者: 森林 浴


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EP.86



その日の帰り道。

タロに会いに行くため、いつもの公園に向かっている途中で、ボサ子がやけにマジな顔で口を開いた。


「王子、朱夏さんの言っていた事だけど、あれ、間違ってるからね」


その凛とした真っ直ぐな声色に、私は思わず足を止めた。

ボサ子は私に向き直り、私を見上げる。


「朱夏さんが言ってたでしょ?私に何かあったら王子のせいだって。

あれって、王子が私と仲良くしてるから、私がミアさんに色々される、って意味でしょ?

そんなの間違ってるから。

ミアさんがやってる事は、ミアさんのせい。

朱夏さんだって同じ。

それを無理やり捻じ曲げて、王子のせいになんて出来ないから。

私と王子が仲良いのは、あの2人には関係ないし、それをあの2人が気に食わないのは、私達には関係ない。

朱夏さんは無理やりそこを結び付けようとしてるけど、あんな言葉に惑わされないでね」



そ〜ゆ〜事は、ちゃんと目を見て言って欲しいな〜と、私はそっとボサ子の厚い前髪を左右に分けてみた。


綺麗な瞳が真っ直ぐに私を見つめている。


今日はパンドラの箱を開けても何も言わないボサ子に、私は静かに胸ポケットから小さなマカロンの飾りがついたピン留めを取り出し、そっとボサ子の前髪を左右に留めてみた。


「いやっ、スタイリングすんなしっ!」


バシッと手を叩かれ、せっかく留めたピン留めも外されてしまった。


ちっ、やっぱり却下か……。

良い雰囲気だったのに。



「どんだけ用意がいいんだって、可愛いな、これっ!」


マカロンの飾りのついたピン留めを見て、ボサ子は震えながら私とマカロンを交互に見ている。


いやいや、そんな訳ないだろう。


「それ、ボサ子ママに隙あらばお願いって、渡されてたやつ」


そのマカロンを指差して答えると、ボサ子は今度は別の意味で打ち震えている。


「マ、ママン………」


どーだ?母の愛が届いたか?

ママはな、お前にクラウスにばかり課金せず、そ〜ゆ〜小洒落た髪留めとかでお洒落して欲しい訳だ。


それをお前は、やれ夏イベだ、ハロウィンナイトだと課金ばかりしおって。


ちょっとは反省しなさいよ、反省。


って想いを込めて、ボサ子をジト〜ッと見つめると、途端に脂汗を掻きながら、私から顔を逸らす。


下手な口笛を吹いているが、メロディが〈キラおと〉のオープニングじゃねーかっ!アウトだよっ!



「いや、何で良い事言ってた筈の私が追い詰められてる感じにっ⁈

えっ?なになにっ?真面目に心配してた私がバカなのっ?」


オロオロしているボサ子に、私はついに声を出して笑ってしまった。


「あはははっ!いや?有難いよ?

正直シャカシャカの言ってた事は多少私にも刺さってたからね。

でも、抜けたよ、今スッキリ抜けた。

アンタの言う通り、アイツらが何を言おうと私らには関係ないよな?」


笑顔の私に、ボサ子はホッと胸を撫で下ろしている。



ボサ子はこう見えて、物凄く懐が深い。

厚い前髪だって、外界と自分をシャットアウトする為にあるんじゃない。

実はその逆なんだ。


前にボサ子のお母さんに聞いた事がある。

ボサ子はその見た目のせいで、誤解される事が多かった。

皆、その見た目に合った中身をボサ子に求めた。

だが、それは人の数だけ存在する。

ボサ子は1人しかいないのに。


だからボサ子は前髪を伸ばし、顔を隠す事にした。

そうする事によって、1人しかいないボサ子という人間が相手に伝わりやすくなったらしい。


長い厚い前髪は、周囲と自分を結ぶ為のツールだ。

拒否する為のものじゃない。


まぁ、後は、ぶっちゃけ変態野郎に連れていかれそうになった事もあるらしい。


声掛け時点ですぐに周りが気付き、危ない目には合わなかったが、やはり両親を心配させた事がショックだったのだろう。


前髪で顔を隠すようになってから、そんな事は一回も起きなかったので、ボサ子的には両親を安心させる為にもやってるようだが、流石に今ではもう良いんじゃないか?ってのが当の両親の本音だ。


花の女子高生にまでなってもそのままだとは、思ってもいなかったのだろう……。



いやまぁ、そんな訳で、ボサ子が陰キャなのはその見た目だけで、実際はある程度どんな人間でも受け入れるし、仲良くなれるオープンな奴なのだ。


実際、あのニアニアにだって理解を示そうとした。

ニアニアの本音を聞き出そうと思う人間など、今まで1人も居なかったというのに。


奴の本音など、透けて見えるほどペラペラなのに、わざわざ聞いてやる人間などいない。


それでもボサ子はニアニアにきちんと相対した。


人が良すぎるってもんだが、私が惹かれるのもそんな部分なのかもしれない。


ボサ子にはそんな、人を引き寄せる魅力があった。



……その内スゲーヤベーのを釣り上げそうで、若干不安ではあるが……まぁそんな奴そうそういないだろう……たぶん。









あれからニアニアとシャカシャカは気味悪いくらい大人しくなった。

ボサ子と同じクラスだが、まるでボサ子など居ないとでもいうかのように、絡んでこなくなった。


この前の無人の教室に連れ込まれた一件は、王道のお約束ものとして、もの凄いヒロインポイントを獲得し、いろんなところから課金(お菓子)が集まり、安定のボサ子モグモグタイムが確定したので、ニアニアが絡んでこなくても誰も困らない非常に平和な状態が訪れた……。


と言いたいところだが、やはりそうもいかないのがあの2人だ。



人目の無いところで誰かにボサ子が突き飛ばされたり、物が飛んできたりする事が起き始めたのだ。


一度などは3階から鉢植えが落ちて来た事もある。

かなりのノーコンだったらしく、全くボサ子には当たらなかったが。

しかし直撃していたり、他の誰かが怪我をする可能性もあった。


幸い今のところかすり傷程度で済んでいるが、それでも日に日に生傷が増えていくのは気分いいもんじゃない。


今度は妖の仕業じゃないか……とか怪異奇譚物に持っていこうとするボサ子だったが、流石に皆これは笑えないと、ニアニアやシャカシャカを一緒に警戒してくれるようになった。


私が側にいられない時は、必ず他の誰かが一緒に居てくれるようになり、怪異奇譚は何とか収まった。



しかし、まさかあのニアニアが実力行使に出るとは思っていなかったので、その急激な変化に皆首を捻っていた。


だいたいの同級生がニアニアと初等部から一緒だが、ニアニアは嘘をついたり意地悪を言ったり、姑息な手を使ったりはするが、実力行使はほぼ使った事がない。


先輩の一件は私しか知らないから、皆にしてみればニアニアのこの変わり様は不思議で仕方ないのだろう。



私はシャカシャカが裏で操っているような気がしてならないが。


何かニアニアの弱みでも握っていて、それで脅してんのか?とも思ったが、ニアニアにそんな様子は見られない。


一体あの2人、何なんだよ……。





まぁ、とにかくは、皆の協力のお陰でボサ子の生傷が増える事は無くなり、なんか平和な日々が続いた。


私とボサ子は相変わらずで、嫌がるボサ子をハサミ片手に追いかけたり、タロをワフワフしたり、推し活に勤しんだり、虹の橋を渡ったりと、好きな事して過ごす日々。


青春にしては少々沼臭いが、本人達はそんな事気にもせず、推しへの愛でキラキラ輝いていた。








毎日はあっという間に過ぎて行き、気付けばもう春休み、私達は新学期から高校2年生になる。


いよいよ進路とかが迫ってくるなって話になると、ボサ子は手で前髪を抑えてガタガタ震える。 


「だ、大学進学ならまだ切らなくてもいいよねっ?」


貴様の進路はその前髪に左右されるのかよ。

もうその前髪が本体じゃね〜か。


呆れるほどのボサ子の徹底ぶりに、コイツを採用してくれる会社はあるのか、いや、そもそもコイツは社会に出れるのか、と本気で心配になってきた………。





春休みとて部活のある私は、部活終わりにボサ子と学校近くの書店で待ち合わせをしていた。


なんとっ!〈キラおと〉の新作が出るらしく、その詳細の載った雑誌が今日発売になるのだ。


ボサ子はずっと興奮しっぱなしで、本当なら朝から本屋の前で開店を待ちたかったところだろうけど、私と一緒に行きたいと部活が終わるのを待ってくれると言ってくれたのだ。


ボサ子〜〜……随分人間らしくなって。

〈キラおと〉が関わるとアメーバ状になったり謎の接触動物みたいになって完全に人を捨ててたお前が……。


ボサ子は感動に打ち震える私の横腹を、手刀でズビシズビシやっていたが、痒いからやめろ。









あ〜、ヤバい。

顧問の話が長くて遅れちまったじゃねーか。

ボサ子待たせてるってのに。



朝から雨が降っていて、走りたくても走れない。

傘をさして小走りで歩いていると、書店に向かう手前の大きな歩道橋が見えた。


見上げるとその歩道橋の階段の1番上にボサ子の後ろ姿を発見した。



なんだ、間に合ったな。

早く追いつこう。



だが、よく見ると、ボサ子は女2人に通せんぼされ、何やら激しく責め立てられているようだった。

1人の女が身振り手振りを交えて、興奮しきった様子だ。





………ニアニアに、シャカシャカかよ。




アイツら、休み中までボサ子に絡みやがって、クソがっ!



早く追いついてアイツらからボサ子を引き離そうと走り出した瞬間。


シャカシャカがニアニアに顔を近づけると、ニアニアはボサ子から少し離れた。

何だ?と思っていたら、ニアニアは勢いよく、ボサ子に体当たりした。



ニアニアより体格の小さいボサ子は、後ろに弾き飛ばされそのままの勢いで階段を転げ落ちた……。




全てがスロモーションのように見えた……。



ボサ子は何度も階段に頭を激しく打ち付け……体を打ち付けて……落ちてくる。



自分の足が鉛のように重い。

必死に走ってるはずなのに、まったく前に進まない。


そんな訳ない、私は足が速いのに。



……だけどそれも人の領域を出ない。

瞬間移動してボサ子を助けるなんて、出来ない。





ボサ子が階段の1番下まで転げ落ちて、最後に激しく地面に叩きつけられるのと、私がそこに駆けつけるのがほぼ同時だった。


「希乃っ!」


ボサ子に駆け寄り、肩にそっと触れる。


「おいっ!そこのスーツのメガネの人っ、救急車を呼んでくれっ!その隣のリュックの人っ、アンタは警察に連絡してっ!早くっ!」


こういう時は、誰か、ではなく確実に一人一人を指名する、っていつか授業で習った事が、妙に冷静に頭に回る。


2人が携帯で電話を始めたのを確認してから、着ていたジャージの上着を希乃の体にかける。


希乃は顔にも擦り傷が出来て、そこから血が出ていた。

それから、どこか怪我をしたのか、希乃から流れる血が、雨と一緒に道を赤く染めていく……。



「希乃……希乃……」


動かさないように、優しく呼びかけると、希乃は薄っすらとその綺麗な瞳を開けた。


「……王子じゃん、いよう……」


掠れた声でそう言って、にこっと笑う。



それから、歩道橋の上の方に目だけ動かし、溜息を吐いた。


「……わ…るい2人…だね。こんな……ことまでして……」


苦しそうに途切れ途切れ喋ろとする希乃に、私は首を振った。


「いいから、喋るな、なっ。

すぐに救急車が来る、警察も来るから悪い2人はすぐ捕まるよ」


優しく諭すように語りかけると、希乃は微かに首を振り、震える手で私の腕を掴んだ。


「…お…じ…、前に、私の言った事……お…ぼえ…てる?」


綺麗な瞳が真っ直ぐに私を見つめている。

私はすぐに、うんうんと頷いた。


「おう…じのせい……じゃない。

だから……自分を責め……なで……。

誰かを……責めたり……も、いら……ない…。

そんな事で……お……じの心……消耗…しな……いで。

そ…んなの……もったい……ないから……。

そんなの……王子……らしくない……からね」


念押しするように、その瞳に強く見つめられ、私は頷くしかなかった。



希乃はその私を見て、ホッとしたように微笑み、その瞳に涙を浮かべた。


「お…じ…楽しかった……ね。

おう……じと…仲良く……なれて……良かったぁ……。

あっ…名前………たまには……呼んで、い?」


私が自分の名前を照れくさいと言ってから、希乃はずっと王子と呼んでくれていた。

自分もボサ子と呼ばすんだから、と言って。


私が静かに頷くと、希乃はこの世のものとは思えないほどに、美しく儚く微笑んだ。



「しいな………ありがとう………。

……………大好き…………………」



最後にそう言って、希乃はゆっくりその瞳を、閉じた。





「希乃っ!希乃っ!目なんか閉じるなっ!希乃っ!や、やめてくれよっ!希乃っ、やだよぉっ!希乃、希乃、希乃ぉーーーーーーーーっ!」





いくら私が名前を呼んでも、希乃はもう、その瞳を開く事は無かった………。





振り続ける雨に目を細め、歩道橋の上を見上げると、力無くその場に座り込み震えているニアニアと、パーカーのポケットに手を突っ込み、こちらを見下ろすシャカシャカの姿が見えた……。




自分はしっかり傘をさして、動揺している気配もなく、悠然とこちらを見下ろしている。



私と目が合うと、シャカシャカは楽しそうに悦楽するかのような笑みをその顔に浮かべた。



そして、その唇がゆっくりと動く。


『アンタに何が出来んの?』






それを見た瞬間。

瞼の裏が真っ赤に染まり、今まで感じた事のない、狂うほどの怒りが腹から沸き起こった。




殺してやりたい。

アイツらを、今すぐ、この手で………。






救急車のサイレンが聞こえる。

モノクロに見える景色の中、救急隊員が私達に近付いて来た。

希乃を担架に乗せて、救急車の中に運び込む。


私は、救急隊員に何か言われて、たぶん、頷いた。

それで、そのまま、一緒に救急車に乗ったんだ……と思う、たぶん。




気がつくと、病院で……。

私は、希乃の親にちゃんと連絡していたみたいだ。

自分の親にも。



先生から説明を受けた希乃の両親が泣き崩れていた。

悲鳴みたいな泣き声を上げる希乃のお母さんを、お父さんが抱きしめていた。


妹ちゃんは私の母ちゃんの腕の中で、訳が分からず、怯えて震えている。



「おーじたん、ねーねは?」


泣きそうな妹ちゃんの頭を優しく撫でて、私はにこっと笑った。


「ねーね?ねーねはね……………」


その純粋な瞳に何て返したらいいのか分からず、言葉に詰まる私の頭を、父ちゃんのデッカい手がポンと撫でた。




悔しくて悲しくて哀しくて…………。



「うっ……ぐっ……うっ、うぅっ………」


抑えきれない涙が後から後から溢れて、ポタポタと病院の廊下に落ちていく。






………希乃………。

助けられなくて、ごめん。

私、何も出来なかった……。


アンタは、最後の最後まで、私の事を気遣ってくれたのに、私は自分の事ばかりで……。


アイツらの顔を見たら、殺したいって思っちまった。


アンタが最後に私に伝えたかったのは、そんな事じゃないよな……。


分かってる、いや、分かりたい。

アンタが最後に残した言葉をちゃんと呑み込むから。

アンタをガッカリさせないから。








希乃………希乃………。

もう、雨には、濡れてないよな………?










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― 新着の感想 ―
[一言] ボサ子(T_T)新作のこと知らなかったのは新作が発売された日に死んでしまったからだったのか…。シャカシャカに盛大なざまぁを食らわしてやりたい((꜆꜄`•ω•)꜆꜄꜆アータタタタタタタタ
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