EP.84
ボサ子ヒロインポイント制。
これを導入したのは貴腐人方だった。
ニアニアがヴィラン的な行動でボサ子に何かしたり言ったりしたら、ボサ子にヒロインポイントが入る。
よりヒロインらしい経験をした方が高得点らしい。
例えば、ニアニアに三つ編みを引っ張られて絡まれる。
「今時ダセー三つ編みしてんじゃねぇよ、キメーんだよ」
3ポイント。
ちなみにこれは『まぁ、斬新な御髪ですわね、田舎の方の流行ですの〜?』に変換される。
他にも、嫌味や悪口、足を引っ掛けてきたりなど、その度合いによってポイントが増えていく。
ちなみに足を引っ掛けられそうになった時は、貴腐人方がササッと現れササッとボサ子を回収したらしい。
皆、正直ニアニアみたいなタイプは苦手を通り越して怖いみたいだが、ボサ子の為にポイント制とかいってキャッキャッはしゃいで笑い飛ばしてくれているのだ。
当の本人は本気で楽しんでいるのだが……。
で、ポイントが貯まるとヒロインへ課金(お菓子)される。
クラスの皆も課金に加わってくれて、ボサ子はゲットしたお菓子をご機嫌でモグモグしている。
これが、ボサ子モグモグタイムと呼ばれ、クラスの癒し的な光景になってくると、カースト上位者までニアニアに、今週ポイント高かったじゃん、モグモグタイム多めで良かったよ〜?
などと話し掛けるようになり、だんだんとニアニアの嫌がらせが減っていった。
平和なクラスで良かったなぁ、とは思うが、だからってニアニアを許す事は出来ない。
常に警戒しつつ、日々を過ごす私に、ボサ子はのほほんとよく言ったもんだ。
「大丈夫よ、ミアさんはそこまでのヴィランにはなれないから。
周りの目をちゃんと気にしてるし、自分のやっている事が正しい事じゃないってのも、分かってるから」
そんなの呑気過ぎるだろと言う私に、ボサ子はやっぱりのほほんとしている。
「現に皆で面白おかしく楽しんじゃったら、やめちゃったでしょ?
同調圧力じゃないけど、皆から外れた行動は本当はしたくないのよ」
へーー?そんなもんかねぇ?と思う私に、ボサ子は続けてちょっと緊張したように言った。
「むしろ、朱夏さんの方が私は……ちょっと、なんていうか、正直警戒してる。
あの人は、多分、ミアさんを使って遊んでると思う。
いつも無表情で知らん顔してるけど……王子が私の事で怒ったりイライラしてると……たまに凄く嬉しそうにしてるんだよね……。
その時の顔が……ゾッとするほど、得体が知れない、と言うか……」
シャカシャカが?
あの常時無表情のアイツが?
でもそういや、先輩も何かそんな事言ってた気がする。
シャカシャカはいつもニアニアの耳元で何か囁いているって。
それでニアニアの様子が豹変するらしい。
じゃあ、アイツがボサ子の事で何か囁いたら、ニアニアは先輩にしたみたいにボサ子を傷付けようとしてくるのか……?
何か背筋に冷たい汗が流れ、私は寒くもないのにブルっと震えた。
シャカシャカって何か気味わりーな。
「しかし、意外に人の事よく見てるよな?」
私がそう言うと、ボサ子は口元をニヤリとさせた。
「実は意外と、この前髪越しだからこそ見えるものがあんのよ。
私、この前髪越しに見る世界が好きなんだよね」
「へぇ、アンタにはアンタにしか見えない世界があんのか〜。
それ、良いね」
何か楽しそうだな〜と何気なく返すと、ボサ子は口元を嬉しそうに綻ばせた。
「そんな風に言ってくれたの王子が初めて。
だいたい皆、魔女かよっ!てツッコんでくるんだけど……」
そう照れたように言われて、私も、お、おうって何か照れてしまった。
2人で照れ照れしたこそばゆい空気になる。
いやっ!何これっ!
それからも、ボサ子とはいつも一緒だった。
お互いの家には頻繁に遊びに行って、泊まったりも当たり前の仲になっていった。
ボサ子は推しの〈キラおと〉のクラウスにどんどんと沼っていき、沼神様の領域に達する勢いだ。
アプリ版が出てからは立派な廃課金プレーヤーとなり、お小遣いどころか、美容院に行きなさいと渡されたお金まで何度も課金してしまい、怒ったお母さんから家を追い出され、泣きながらうちに来た時は爆笑してしまった。
まぁそのせいで、ボサ子の髪はどんどんボサボサになっていった訳だが。
私も見た目は気にしない方だが、それでも学校で王子役をやってるくらいには気にするようにしてるのに、ボサ子はまったく気にしないどころか、見た目を改善する為に渡されるお金を性懲りも無くクラウスに課金するクズなので、その内、姫ではなく汚姫様とか呼ばれ始めた。
いや、流石にこれはあかんやろ、と思い、いつものようにボサ子んちにお邪魔した時に、前髪だけ私が微調整するようになった。
放っとくと顎下まで伸びそうだったからだ。
「王子くん、いつもごめんね〜」
庭でボサ子の前髪をチョキチョキしていると、ボサ子のお母さんがお茶とお菓子を縁側に持って来てくれた。
「王子くんの家遠いのに、うちの子が面倒かけて申し訳ないわぁ」
ボサ子のお母さんは清楚系の美人なもんで、私のここん家に遊びに来る密かな楽しみの一つでもある。
「いやいや、別にそんな遠くもないっすよ?
それにこの辺好きなんで、自分」
ボサ子ん家はいわゆる下町にある。
お父さんの経営している工場の近く。
その工場で作ってる部品が最新ロボット部品にヒットしたらしく、いきなりバズったもんだから、ボサ子をうちのお嬢様校に転入させたらしい。
実はお母さんの母校で、うちの母親と先輩後輩の仲だった事を知った時は、ボサ子のお母さん女子高生並みにキャーキャー言ってた。
うちの母親も、当時王子役で、憧れの先輩だったようだ。
ボサ子のお父さんとは恋愛結婚で、半ば駆け落ちみたいなものだったらしい。
「あ〜、おうじたんらぁ」
トテトテと現れたのはボサ子の歳の離れた妹。
抱っこして〜って伸ばしてくる両手に応えて抱っこしてあげると、嬉しそうにニパッと笑う。
んなっ!
天使っ!
いや、妖精かっ?
ボサ子の妹ちゃんは贔屓目なしで、ちょっとヤバいくらいに可愛いと思う。
まだ3歳なのに目鼻立ちが整っていて、まつ毛バサバサくるんの奇跡の幼児。
肌も白くスベスベでほっぺプニプニで、大福にしか見えない。
「あ〜ん」
そのプルンプルンのほっぺにかぶりつこうとすると、ボサ子が慌てて立ち上がる。
「人の妹を食おうとするなっ!
それは大福にあらずっ!」
ちっ、ちょっと味見しようとしただけなのに。
キャッキャッ笑ってる妹ちゃんを私から奪うと、ボサ子は鼻の下を伸ばしている。
「ねーねの可愛い天使た〜ん。
今日も可愛いでしゅね〜、はむはむはむ」
いや、お前は食うのかよっ!
そのほっぺハムハム頼むから私にも許してくれよっ!
羨ましくて血の涙を流す私は、ふと、んっ?とある事に気付いた。
妹ちゃんとボサ子の顔を交互に見る。
「ボサ子ママー、この姉妹って、もしかして似てる?」
2人を指差しそう聞く私に、ボサ子のお母さんはニヤリと笑った。
「そっくりよ、瓜二つ」
ほほう……。
私はボサ子に静かに近付き、ハサミをチョキチョキして見せる。
「さ〜ボサ子ちゃん、前髪をもう少し微調整しましょうねぇ……」
ふっふっふっと近付く私に、ボサ子はジリジリと後退りしていった。
「い、嫌だっ!絶対微調整じゃないっ!
私の前髪に触るんじゃないっ!
パンドラの箱は貴様には触れさせんゾッ!」
やかましわ!
お前の前髪の下にこの世のあらゆる厄災をしまってんじゃね〜よっ!
「いいじゃんっ!じゃあ切らないから私にも見せてよっ!
見たい見たい〜ボサ子の前髪の下の顔が見たいよ〜っ!」
「だが、断るっ!」
キリッと拒否したボサ子だが、次の瞬間、抱っこしている妹ちゃんがボサ子の前髪をバサっと両手で持ち上げた。
ニヤリと笑う私。
何の為に分かりやすく説明したと思う?
3歳児にも伝わる為にだよっ!
ぬぁーはっはっはっ!
前髪の下から現れたボサ子の顔は、妹ちゃんそっくりの美少女っ!
クルンクルンバサバサのまつ毛に大きな目、整った目鼻立ち、白くきめの細かい肌………。
「お前……、鼻の上と下で肌の色が変わってんじゃね〜かっ!」
見た事ないわっ!
そんな日焼けっ!
嘆く私に被せるようにお母さんが悲しそうに呟いた。
「我が家の夏の風物詩よ……」
泣きそうな顔で死んだ魚の目をしてらっしゃるっ!
親を悲しませるじゃねーーっ!
その日から、毎朝昼夕、ボサ子に日焼け止めを塗るのが私の日課になった事は言うまでもない……。
この真珠のような(本来なら)美肌は、私が守るっ!
それから、偶にニアニアからの嫌がらせを受けつつも(ボサ子はその度に、久しぶりのヒロインポイントチャンスキタコレと喜んでいる)概ねは平和に学校生活を過ごし、放課後は私の部活後にどちらかの家で推し活したりして、楽しく過ごしていた。
その日は私の家に向かう為、2人で並んで歩いていた。
ボサ子は途中でコンビニで買ったあんまんを大事そうに抱えている。
歩きながら食べるものと思っていたが、それは出来ないらしい。
お母さんが元お嬢様なもんで、その辺ボサ子も厳しく育てられているようだ。
あと、同時に2つの行動が出来ないという可哀想な特異体質持ちなので〝歩く〟と〝食べる〟が出来ないってのもある。
残念な子なのっ!
察してあげてっ!
そんな訳で、自分は肉まんを買った私はいち早くそれを腹に収めるべく、いつもとはちょっと違う道をボサ子に提案した。
「こっちに小さい公園があってそこにベンチがあるから、そこで食べん?」
私の提案にボサ子は勢いよく何度も頷いた。
さっきからお腹がクゥクゥ鳴っているボサ子は早くも涎を垂らしそうな勢いだ。
いつもとは違う道を通り、その公園についた私達は、ベンチに座り早速肉まんあんまんを頂こうと袋から取り出した、その時。
「わん、わん、わっふ!」
急に真っ白で大きな毛玉に襲われ、視界を奪われた。
「こらーっ、タロちゃん、駄目でしょーっ!」
続いて女の人の声が聞こえる。
えっ、なんっ、これ?
おっきな毛玉はその声に反応して、私達から離れた。
見るとおっきな白い犬が、今度はお行儀よく、私達の前にチョコンとお座りしている。
ハッハッハッと息を漏らしながら、ふわふわの尻尾を千切れんばかりに振っていた。
「きゃわわわわっ!わふわふっ!おっきいっ!白いっ!ふわふわっ!」
隣で語彙力を失くしたボサ子が黄色い声を上げる。
クラウス関連以外でコイツのこんな声初めて聞いたな。
「ごめんなさいね〜、この子、いつもはこんな事しないんだけど」
飼い主らしき女の人が私達に頭を下げた。
……めちゃ綺麗な人だった。
年は私らの母親と変わらないっぽいが、どこか神秘的な雰囲気の漂う美魔女さんだ。
私は瞬時に王子モードに切り替り、白い歯を光らせ、ハッハッハッと笑った。
「いえ、お気になさらず。
元気なワンちゃんですね。
ほら、ワンコロ、肉まん食うか?」
持っていた肉まんを半分にしてその犬に差し出すと、慌ててボサ子が止める。
「駄目だって!ちゃんと飼い主さんに聞かないとっ!」
あっ、そっか。
美魔女さんはニコニコ笑って答えた。
「大丈夫よ。うちのタロちゃん、人と同じように食べれるの」
了解を得たのでそのタロちゃんとやらに改めて肉まんを差し出すと、凄い勢いで一飲みしやがった。
お、おまっ!噛めよっ!
消化に悪いでしょ〜がっ!
「キャ〜可愛いっ!あんまんも食べる?
はい、ど〜ぞ」
ボサ子が持っていたあんまんを半分にして差し出すと、そっちはゆっくり口をつけ、上手に少しずつ食べている。
おいっ!私ん時は手まで食ってたじゃね〜かっ!
若干イラッとしていると、あんまんを食べ終わったタロは私とボサ子の間に無理やり入ってきた。
「わんっ!」
なぜか、定位置ですけど、何か?みたいな顔をしている。
「いや〜ん、ふわふわぁ!ワフワフ〜、幸せ〜」
ボサ子がタロをワフワフしているので、私は残りの肉まんを一口で片付けて、自分もタロに抱きついた。
あ〜〜……。
確かにワフワフ………こりゃ、たまらん。
猫も好きだが、犬も大好きだ。
こんなワフワフの大型犬、触るところしかない。
2人で幸せ〜っと、タロの毛並みを堪能していると、飼い主の美魔女さんがクスクスと笑った。
「タロちゃんったら、お2人の事が大好きになっちゃったのね。
普段は私達家族以外にはあまり興味を持たない子なんだけど」
美魔女さんの言葉にボサ子は嬉しそうにタロに抱きついた。
「じゃ、私達タロちゃんのお外友達第一号だねっ!」
お友達?
犬だが?
いいのか?
まぁ、ボサ子は日頃からクラウスの話になるとわっふわっふ言ってるから、犬科でいいか。
と遠い目をしていると、急にタロが私の頬をペロッと舐めたので、咄嗟にビクゥッとしてしまった。
「おいタロ公、花の女子中学生の頬を断りもなく舐めるとは、手打ちにしてやる」
私はタロをギラリと睨むと手をワキワキさせ、タロをわしゃわしゃわしゃ〜っと撫で回した。
タロはキャッキャッしながらお腹まで見せてワフワフ言っている。
ふっ、可愛い奴め。
「タロちゃん、何歳なんですか?」
ボサ子がそう聞くと、美魔女さんはん〜っと自分の顎を掴んで考え込んだ。
「私が産まれた時からの付き合いだから〜」
そこまで言って美魔女さんはハッとした顔をした。
ボサ子は目が点になっている。
「あはは、なぁんちゃって」
美魔女さんが誤魔化すように笑うと、ボサ子もホッとしたように笑った。
「も〜、びっくりしちゃいました。
本当だったらタロちゃんギネスものですよ」
ボサ子の言葉に美魔女さんは、そうよね〜っと言いながら、空笑いをしている。
「……お前、化け物か何かか?」
ボソっとタロに聞くと、わんっとつぶらな瞳で見つめられ、私はまたわしゃわしゃとタロを撫で回した。
「んな訳ないか〜」
こんなに可愛いんだもんな。
化け物とかいってごめんな。
なんか美魔女さんの反応がガチっぽくて、つい。
その後私達はタロを心ゆくまでわしゃわしゃさせてもらい、2人と一匹でホカホカになったところで美魔女さんにお礼を言ってから別れた。
「次から絶対あの公園に寄って行こうねっ!」
ボサ子はすっかりタロのふわふわな毛並みの虜になったようだ。
まぁ、私も右に同じなのだが。
あのふわふわっぷり、たまらんっ!
しかも大人しくわしゃわしゃされ放題とはけしからんっ!
可愛すぎるだろうっ!
既にあの毛並みが恋しくなってきた私達は、手をワキワキさせながら同時に溜息を吐いた。
「ああ、タロちゃん……また会いたい」
切なそうなボサ子の声に、私は頷いた。
「また肉まん分けてやるから、あの公園に来いよ〜タロ公」
私もボサ子同様、切なさに身悶える。
結局、タロは私達があの公園に行く度に必ずいて、私達に思う存分わしゃわしゃさせてくれる必須アイテムワンコとなった。




