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EP.77



用意が整ったところで、早速皆に例のあの情報を流してもらう。


ーシシリアのお茶会にクラウスが来る。

その日はキティと皆は用事があって、クラウスは1人ー


ってやつだ。


それを聞いた時のフィーネのいやらしい顔は、夢にも出てきそうなくらい、エグかった。


……おえぇぇぇぇぇぇ(自主規制)



さて、これでフィーネはすぐにでも私を襲撃に来るだろう。

私はクラウスのお言葉に甘えて、今まで以上にキティに引っ付いて行動していた。



とはいえ、私もキティも目まぐるしい日々を送っている。

卒業式とその後の卒業パーティーを取り仕切るのは、新生徒会の役目。

その為、私達は本当に忙しく動き続けていた。



そんな激務の中、いつものカフェテラスでキティに事前にいつものを頼まれ、向かい合って座っている。



「シシリィ……」


顔の前で両手を組み、神妙な顔で切り出すキティ。

背後にあの特務機関のグラサンの幻が見える……。

ロリッ子とイケオジ。

カレーハンバーグ並に小5男子心をくすぐってくる。



「どうしましたか?総司令」


ついグラサンの役職で呼んでしまったが、キティには難なく通じたようで、すかさずエアーツッコミを入れてくれた。


このノリを守る為なら、私はエ○ァにでも乗れる。



「昨日から、本格的な閨教育が始まったんだけど……どうやら私は重大な勘違いをしていたようです」


クッと言いにくそうに告げるキティ。


「はぁ、何を勘違いしてた訳」


私はくだらないとばかりに椅子の背もたれにダラッと身体を預けた。


何だよ、総司令ばりに神妙な雰囲気出すから、何かと思ったら。

あ〜あ……で、閨ってなんだっけ?



「……その、ごにょごにょの時の………が……じゃないって……」


ボソボソとしたキティの小さな声に、私は片眉を上げた。


「は?何が何じゃないって?」


まったく聞こえないので、もちろん聞き返す。


「だから……その、ごにょごにょの時の、男性のゴニョをゴニョゴニョするところが……ゴニョじゃないって……」


「…………。」



諸事情により、全てごにょかゴニョでお伝え致しました。(あっち行きになっちゃうだろ!)



言いにくそうにモジモジとそう言うキティの言葉に、私は目を見開いて、固まった。



「詳しく聞こうか」


キリッとして身を乗り出した私に、キティは真っ赤になりながら、クラウスとのアレコレをしどろもどろ話し始める。



ふむふむと聞いていた私は、やがてニヤニヤ笑い出し、最後は爆笑だった。


「だぁーはっはっはっはっ!

何やってんのよっ、あんた達っ!

ひーっ、お腹痛いっ!捩れて痛いっ!

ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」


もう、爆笑が止まらない。

机をバンバン叩きながら、お腹を抱えて笑い続ける!



バカじゃんっ!バカじゃ〜〜んっ!

薄い本でしか知識の無い私だってそれくらいは分かるっつの!


何でそんな事になってんだよっ!こいつらっ!

ヤバい!クラウスヤバいっ!

アイツ、オモロすぎるっ!



キティは真っ赤になって下を向き、プルプルと震えながら、バカ笑いする私に耐えていた。



ひとしきり笑うと、私はハァハァと苦しそうに肩で息をして、涙を拭いながらキティを見た。


「あんたさぁ、前世の知識があるのに、何でそんな事になってんのよ?」


私の至極まともな意見に、キティは両手の人差し指をモジモジと絡ませて言った。


「もう、お気付きでしょうが、私は前世、陰キャの非リアの腐れオタでして……。

そういった知識は主に薄い本から得た偏ったものばかりで……。

もちろん、男性のオシベを女性のメシベにこう、何とかどうにかするって、ほわっとした知識くらいはあるんだけど……」


「つまり、男女の事は、小学校の保健体育レベルって事ね」


楽しそうにズバリと指摘すると、キティはううっと項垂れた。


「だからってねぇ。そういった行為の最中にクラウスからおねだりはなかった訳?」


キティはますます顔を赤くする。


「なんか、その時は私はもういっぱいっぱいになっちゃって、もう何も訳分からなくて……。

ただ、えっと、クラウス様は、私が求めないと意味が無いって事は言っていた様な……」


ボソボソとしたキティの小さい声を、聞き逃さないように身を乗り出して聞いていた私は、ふむふむと頷いた後、はは〜んとニヤリと笑った。


「なるほどね〜。あいつ、キティから言わせるつもりなのね。

何プレイだよっ!自分焦らしプレイっ⁈

新しいジャンル過ぎて、対処出来んわっ!」


また、だーはっはっはっと大笑いする。

キティはううっ、と俯いた。


「まぁ、つまり、アレね。

あの男はキティに何でもいいから、求められたいのよ。

何でもかんでも自分勝手にキティの事を奪うだけ奪ってきて、最後の一線はキティに求められたい、なんて。

自分本位極まれりってとこね」


キティは私の言葉に、プルプルと震えている。


「どうしたの?産まれたてなの?」


「違うわよっ!怒りを抑えてんのっ!」


キティが珍しく噛み付くようにそう言った。


「クラウス様は自分本位じゃないわよっ!

いつも私を気遣ってくれて、自分の事はむしろ後回しだものっ!

それに、クラウス様は私から何も奪ってないわよっ!

私はいつも与えられるばかりで、何もお返しも出来ない……」


一気に捲し立てると、キティはハァハァと肩で息をしている。


そのキティの勢いに面食らっていた私は、やがて遠い目をして、小さく首を振る。



「いいや、奴はとんでも無いものを奪っていきました……」


「えっ!」


「あなたの、心です」


「やかましわっ!

そんで、正しくは『盗んでいきました』なっ!

どうでもいいけどもっ!」


的確に返ってくるツッコミが心地いい!


キティはハァ〜と溜息を吐いて、頭を抱えている。

私が真面目に話を聞く気が無いって事だけ、ハッキリと伝わったようだ。

良かった良かった。



「仕方ないじゃない、いくら私に熱弁したところで、あんたと私の知っているクラウスは同じじゃないもの。

私の知ってるクラウスが、まぁ、近い人間、側近レベルが認識しているクラウスで。

あんたが知ってるクラウスは、あんたしか知らないクラウスなのよ。

クラウスは絶対にキティ以外にそんな自分は見せないし。

逆に私達に見せている姿を、絶対にキティには見せない。

あいつが誰かの為に自分の欲望を抑えている姿なんて、悪いけど私達には想像も出来ないのよね……。

しかも、自分焦らしプレイっ……んぶふっ!」



またキャッキャキャッキャと笑い出す私に、キティは更に溜息を吐いた。


「なんか……相談する相手を間違えたわ。

いや、他にこんな事相談出来る人いないけども……」


キティは孤独に打ちひしがれている様子だ。

私はやれやれと肩を上げる。


「あんたらのイチャラブ見せつけられてる、こっちの身にもなりなさいよ」


その私の言葉に、キティは血走った目を剥き、ギュンっと私に詰め寄った。

身長のせいで、ほぼ机に乗っかっている状態。


「いや、怖い怖い、ナニ?」


嫌そうに両手でキティの顔を押し退ける。

キティはそんな事ものともせず、私の目を、血走った目で見つめた。

ほぼ0距離。


「イ、イ、イチャラブ?

私とクラウス様が?

非リア腐れオタの私が?

最推し様と、イチャラブだと……?」


「近い近い、それ以外にあんたら何かやってんの?」


怯え切った私に言われて、んっ?とキティは自分の椅子にストンと座った。

やべー、怖え、助かった。


「まず、ね。じゃあ、おはようからお休みまで、話してみなさいよ」


私に言われて、キティはう〜んと顎を掴み考えている。


「そうね、朝はクラウス様が選んだヘアゴムで、マリサにツインテにされて、2人で学園に登校するでしょ?」


ふむふむと頷く私。


「それから、暇さえあれば、クラウス様に執務室に連れ込まれて、えっと、まぁ色々。

クラウス様の膝の上で生徒会の仕事を終わらせて。

それから、帰りの馬車でも、色々。

王宮でも、まぁ、私の自室や、クラウス様の自室や、王宮の執務室でも、その、たまに、色々……」


キティはポッと頬を染め、私を見る。

私は口から砂を、いや砂糖を吐いた。



「……ふざけんじゃないわよ……。

何が、色々よ……」


拳を握り、テーブルをメキメキいわせながら、私はブルブル震える。


「ハッキリ言いなさいよっ!

色々じゃなくて、エロエロなんでしょっ!

エロエロだって認めなさいよっ!」


私にガッと顎を掴まれ上向かされて、キティは涙目でプルプル震えながら白状する。


「ごめんなさい、エロエロです。

色々じゃなくて、エロエロです」


素直に非を認めたキティの顔を、私は目を見開きジーッと見つめる。


……あっ、鼻血出た。


「良い……。キティたん、もう一回お願いっ!」


「やかましわっ!(2回目)」


キティは私の顎を掴む手を顔をブンっと振って振り払い、ジト目でジーッと見つめてきた。



「うん、まぁ、分かった。

あんたらがエロエロなのは、よ〜っく分かった。

で、だ。

世間ではそーいうのをっ」


そこで一旦言葉を切り、私はビシッとキティを指差して続けた。


「イチャラブと言うのよっ!」


ガガーーンッ!!


キティは雷に打たれたようにワナワナと震えている。


「私……が、イチャラブ……。

陰キャ非リア腐れオタのボサ子が……イチャラブ……っ!

まさに神をも恐れぬ所業っ!

オージーザスっ!」


「いや、むしろ神はどうでもいいんだけど」


クリシロなど恐れて何になる。

ぶん殴ってキャン言わす予定の私に怖いものなどない。



私の冷静なツッコミに、キティも冷静になって、コホンと咳払いをした。


「……いいんでしょうか……?

悪役令嬢がメインヒーローとイチャラブってて」


キティの言葉に、私はハッと鼻で笑って答えた。


「いいんじゃないの〜。ヒロインあんなだし。

クラウスはあんたしか見てないし。

ってか病んでるし。

あんな分かりやすいヤンデレ、今更野に放つとかやめてよ?

飼育に失敗したヤンデレはちゃんと責任持って最後まで面倒見ないと、世界が滅ぶわよ?」


いや、もういい加減自覚してくれ。

アレを放置しておいたら、世界はえらい事になるぞ。



悪いがキティにはクラウスに対して責任があると思う。


結局今まで、キティはクラウスを拒否出来なかった。

それはキティが、推し以上の何かを現実のクラウスに感じたからだろう。

キティにしか出来ない、何かを。

つまり、キティはそれも含めクラウスを受け入れてきたという事だ。


キティには責任がある。

クラウスを幸せにする責任。

自分が幸せになる責任。

2人で幸せになる責任。


今までそれは、キティにとって簡単な事じゃなかった。


どうしてもシンプルに愛し合う事が出来なかったのだ。

それがキティに打ち込まれた悪役令嬢という楔だ。


だがもう、それでは駄目だ。

キティは乙女ゲーの悪役令嬢という自分を超えていかなければ。


クラウスとの未来の為に。





キティは神妙な顔で思考している。

きっと、自分とクラウスとの未来を考えてくれているのだろう。


ややして、キティは両手を拳に握って、強く力を込めた。


「シシリィ、私、クラウス様を幸せにしてみせるっ!

陰キャ腐れオタだけど、イチャラブだってもっと頑張って、非リア卒業しますっ!」


そのキティの決意表明に、私はおーっと拍手を送った。


そうだ、頑張れ!

うだうだ考えないでいいんだよ。

お前らは思う存分イチャラブってればいいんだ。

それで世界は平和なんだから。






私がキティの決意表明を聞いていると、カフェテラスが何だか騒がしくなってきた。


カフェテラスの端で、エリーが誰かを取り押さえているようだ。


よく見ると、それはフィーネだった。


エリー……めっちゃ捻ってるやん。

フィーネの腕を後ろ手にめっちゃ捻ってるやん。


フィーネが私に近づいて来たらそのまま好きにさせろと言っておいたのに……。

うっかりさんだなぁ。



キティもそれに気付いたようで、いつものようにアワアワと見ている。

私はゆっくりと紅茶を一口飲んで、キティをチラッと横目で見た。

キティはそれにコクンと頷くと、綺麗に座り直し、居住まいを正す。


私は展開していた魔法を解いた。




「いだいいだいっ、あんたっ!覚えてなさいよっ!

私が王子妃になった暁には、必ずあんたの一族郎党、皆殺しにしてやるからっ!」


憎々しげに、エリーを睨みながらそう喚くフィーネ。




……ほう?

エリーの家族は私だが?

我がアロンテン家への宣戦布告と受け取るが、よろしいか?



アイツらにチヤホヤされて、だいぶ増長してるな。

パワーアップしてんじゃねーよ。


そもそも王子妃にそんな権限は無い。

たいした理由も無くそんな事したら、普通に裁かれて終わりだよ。



「エリー、離しておやりなさい」


私がそうエリーに声を掛けると、フィーネの後ろに捻り上げられていた腕がパッと離された。


「クソ女っ!覚えてなさいよっ!」


最後にまだ悪態を吐いて、フィーネはこちらを振り返った。


しゃなりしゃなりと、こちらに近づいて来る。

いつものドスドスした感じじゃない。


キティが珍しい物を見る目で、じっとフィーネを見つめていた。



ゆっくりと私達に近づくと、フィーネはカーテシーで礼をとった。

付け焼き刃っぽい、歪なものだったけど、一応、礼にはなっている。

一応だけどな。


社交界では通用しない、お粗末な出来だ。



「ご機嫌よう、シシリア様、キティ様」


相変わらず、位の高いものからの声かけは待てないらしい……。

待て、はまだ未習得か。



「ご機嫌よう。何か御用かしら?」


先に声をかけてきたフィーネに無視で返さず、すぐに返事を返した私を、キティがジッと見ている。

内心驚いているのだろうが、感情を表に出さない辺り、流石と言えよう。


フィーネは許しも無く私達のテーブルの椅子に腰掛けると、私の手にそっと触れて、ニャァっと笑った。


「私、シシリア様の誤解を解きに参りましたの。

シシリア様は私を誤解されていますわ。

私、シシリア様と仲良く出来ると思うのですけど……」


そう言って、フィーネは私の顔を覗き込んだ。


早速か……。


私の手首には、師匠が完成させた魔族の力を跳ね返す術式が埋め込まれている。


さて、どんなもんか。

試運転といきましょう。



フィーネの目が、一瞬怪しい金色に光り、瞳孔が獣の様に縦に伸びた……。



今、確かに使ったな。

そして、それを跳ね返した手応えも同時に感じた。


よし!成功だ。


私はチラッと自分の手首を見る。

そこが赤く光っているのを確認して、内心ガッツポーズを取った。


これは確かに魔族の力を受けたという証。

そして同時に仔細なデータが師匠のところに転送される。


つまり、いつ誰がどこで誰に対して、どんな魔族の力を使ったか、全てのデータが取れるという事だ。


師匠はそれさえ有れば、フィーネに力を与えた魔族の正体にまで辿り着けると言っていた。


全くとんでもない人だ。




「……貴女も随分な誤解をされているようですわね。

私と貴女が親しくする理由などございませんわ。

大変、不愉快です」


私はフィーネを見もせず、そう言った。

フィーネは信じられないものを見るように、目を見開いて私を見ている。


そんなフィーネなど気にもせず、優雅にお茶を飲んでいると、フィーネはガッとキティの手を握って、キティの目をジッと見つめた。


これには一瞬焦ったが、いや、キティには最強のアレがある。

問題ない。


キティは微動だにせずフィーネの様子を伺っている。

やはり内心の動揺はうまく隠している、流石です。



「キティ様なら、分かってくれますよね?

今までの私達に起きた事は、全て誤解だって」


そう言って、フィーネはキティに向かってニャァッと笑い、じっと目を見つめた。


そのフィーネの目の瞳孔がまた細長く伸び、金に光った瞬間、クラウスからキティに贈られた、例のアレが、眩く青く光った。


「ギャアーーーーッ!!」


その光を浴びた瞬間、フィーネが床に転がり、目を押さえて、苦しみ始めた。


キティはこれには流石に驚いて、フィーネに手を伸ばそうとしたので、その手を黙って止める。


私は優雅に紅茶を伸びながら、優艶な微笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。



「か、く、ほ」


途端にエリーを筆頭に護衛騎士達が、苦しみのたうち回るフィーネを取り囲んだ。


何が起きているのか分からず、キティはただただ私を見つめている。


私は艶やかに笑うと、満足そうに言った。


「これで、やっと揃ったわね……」



えっ?何がっ?

って顔のキティ。



おい、感情出まくってるぞ。

グローバ夫人に見られたら、また淑女教育のやり直しだな。






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― 新着の感想 ―
[一言] ごにょゴニョwあっちではしっかり言ってましたよねww
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