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EP.71



エリオットからSOSを受け取ったニースさんに首根っこを掴まれ、ソファーに座らされる、私とジャン……。


怖いから何にも言えないけど、私とジャンを同列に扱わないでほしい……。



「そ、それじゃあ皆落ち着いたかな?

スキルの話だったね。

分かった、始めよう」


グスグスとまだ鼻を鳴らしながら、エリオットが1人掛けのソファーに座る。


泣き過ぎじゃない?

そんなにこの珍しいワインが惜しいのか?


私はそのワインをグビグビ飲みながら、エリオットに向かって首を傾げる。


エリオットはそんな私に目を細め、いいんだよ〜たんとお飲み〜っと目だけで語りかけてきた。


いや、言われんでもたんと呑むけど。

グビグビ。




「それじゃあ、まずはこれから話す事は、僕と師匠が昔の文献や、スキルを持つ者、またはそんな力を目にした者、など、ありとあらゆるスキルに関する情報を集めて立てた、あくまでも仮説に過ぎないって事を覚えておいてね。

それから、今のところ世間に発表するつもりもないから、そのつもりで」


念を押すようなエリオットに、皆静かに頷く。


「じゃあ、まずは、さっきリアにも話したんだけど。

皆が気にしている事から。

スキルの力は手加減が効かない。

だから、使用する力はそのままそのスキルのレベルに直結する。

不変の力なんだ。

強弱をコントロール出来る類のものじゃ無いから、今回の師匠の結界を薄くした人間がそれ以上の力を隠している、なんて心配は無いよ。

まぁ、あれがスキルの力で起きた現象であればね」


エリオットの説明に、皆も先程の私同様、ホッと胸を撫で下ろした。


「さて、ではスキルについて。

皆知っていると思うけど、スキルに魔力は必要ない。

つまり、スキルに魔力みたいな対価は必要ないんだ。

それに、魔力のように血の縛りもない。

ランダムに誰でも持って産まれる可能性がある能力って事。

それゆえ産まれてすぐに受ける、魔力量、属性判定では発見出来ない。

そして先程も言った通り、スキルのレベルは最初から決まっていて、それは一生変わらない。

レベル50なら死ぬまでそのまま、更に使用時もレベル50の力しか使えない。

極端に言えば49や51は使えないのさ。

魔法のように匙加減やレベル上げなどがない、それがスキルだ」


そう言ってエリオットは皆の顔を見渡した。

最後にジャンの顔を見て、ちゃんと理解している事を確認し、話を続けた。


「その代わりスキルは、使用時に魔法を無効にする特性がある。

これはあくまで人間の使う魔法にのみ有効で、残念ながら魔族の力には通用しない。

更にスキルはそのレベルに応じて使える時間が限られている。

師匠と僕で、それを数値化してみたんだけどね。

例えばレベル10までなら5秒以内、30までで10秒、50までで15秒、50を超えてやっと30秒。

まぁ、概ねはこんな感じ」


エリオットの説明に、ミゲルが驚きを隠せないようだった。


「……秒、ですか?」


そのミゲルに、エリオットはにっこり笑って頷いた。


「そう、スキルってね、そんなものだよ。

教会はその希少性と神秘性に、神、または天からのギフトだとスキルを呼ぶけれど、実際、スキルを持つほとんどの人間が、それに気づかないままなんだ。

本当は僕達が思っているより、スキルをもって生まれた人間は多いのかも知れないよ?

自分のスキルを自覚出来るのは、レベル50以上からって感じだね」


エリオットの話を聞いていたジャンが、急に声を上げる。


「じゃあ、スキルって言っても大した事ないんだな」


そのジャンをミゲルがキッと睨み付けた。


「しかし、殿下のように長時間スキルを使用出来れば、話は違いますよねっ⁉︎」


ジャンを睨みながらエリオットにそう聞くミゲルに、何故かニースさんが答える。


「長時間、では無く、無限に、です。

エリオットのスキルはどれもカンストしているので。

カンストした状態のスキルに使用時間などの縛りはありません。

更に力もそのスキルの最大値で使用しっ放しに出来る。

もちろん、使用を停止する事も出来る。

まぁそんな化物はコイツくらいだから、参考にはなりませんけどね」


淡々としたニースさんの言葉に、ミゲル以外皆、顔から感情が消え失せる。



何故神は、こんな奴にそんな力を与えたもうたのか……。


んっ?

待て、神ってあのクリシロか?


あ〜の〜や〜ろ〜うっ!

余計な事ばっかりしやがって!

やっぱり今度会ったら絶対にぶっ飛ばすっ!



何かっ!

何かコイツに弱点はないのかっ!くそっ!



「それと、誤解されやすいんだけどスキルは次々使えるものでも無いんだよ。

レベルが低いとインターバルが必要になる。

レベル50以下でだいたい30分だね」


くそっ!

インターバルなんかコイツに必要ねぇっ!

私が知りたいのはカンストしてる奴の弱点なんだよっ!



「レベルが50を超えるとどうなるんですか?」


ノワールの問いに、エリオットは肩を上げて答えた。


「これが不思議な事に、50を超えると急に実用性が出てくるんだ。

例えばレベル50〜60で、使える時間は30秒、インターバルは2、3分ってとこだね」


ほぉ、それなら使いこなせればかなり便利だな。

良いなぁ、カンストとまでは言わないが、私もせめてレベル50以上あれば……っ!


くそっ!

クリシロ野郎っ!

ぜってぇ、覚えてろよっ!



「あとね、皆はあまり知らないから僕もあえて言わなかった事なんだけど、スキルには特殊スキルが存在する。

スキル持ちの人間なら勝手に知識として認識している事なんだけど、スキル発動時に魔法が効かないのは、こちらの特殊スキルの方なんだ。

特殊といっても珍しいからじゃない。

何かに干渉する力を総じて特殊スキルと呼んでいるだけで。

とはいえ特殊スキルでも干渉出来ないものもあるんだ。

それは人の心。

人を操る事は魔法でも出来ないよね。

それと同じで、そんなスキルは存在しないんだよ」


エリオットの話に、私は首を捻った。


「アンタ前に、フィーネのファンクラブの男子生徒を自白させてなかった?

あれもアンタのスキルでしょ?」


私の問いに、エリオットは片眉を上げる。


「あれはあくまで自白させただけだよ。

やってもいない罪や、本人が罪と思っていない罪を認めさせる事は出来ないんだ」



なるほどなぁ。

アイツらは自分達のやってきた事が罪になると分かっててやっていたから、エリオットのスキルが通用したのか。



「その、スキル保持者をリストアップ出来ないのですか?」


レオネルが眉間に皺をよせて聞くと、エリオットが困ったような顔で答えた。


「師匠と僕が接触した者はリストアップしてあるけどね、大抵はレベルが低くて本人も無自覚だし、知っていて黙っている者も多いから。

難しいだろうね」


エリオットの言葉に、私は内心ギクッとした。

何を隠そう、私も黙っていたい派。

だって能力が魅了だし……。

んで、レベル15で微妙だし……。


本来なら私も何も知らないまま過ごしていたのだろう、転生する時クリシロに聞いたから自覚しているだけで。



「そんな訳で、スキルは痕跡を残さず人に悟られにくい便利な面と、生まれ持ったレベルによってその力の良し悪しが決まる不便さを併せ持った非常に使い辛い能力なんだよ。

不必要な人間には、どこまでも不要なね」


複数持ちのカンスト野郎に言われたくないが、まぁ確かに、私も今のところ不要なんだよなぁ。


使い所が、無さすぎて。


性格にもよるんだろうけど、私が魅了スキル持っててもな〜。

実際本当に使わないわぁ。



「殿下っ!ではやはり殿下は神の愛し子なんですね。

殿下のようなスキル保持者は他にいませんから。

特別に愛された存在に違いありませんっ!」


興奮気味のミゲルに、エリオットは困ったような顔で答えた。


「どうだろうね。神が王家の僕に特別な祝福をくれたなら、それは有難い事だけれど。

この力で王国を導くように願って下さったのかもしれないね」


にっこり微笑むエリオットに、ミゲルは目を煌かせ、心酔しきった表情で頬を高揚させている。


その純粋で無垢な眼差しに、エリオットは口元を片手で覆い、視線を彷徨わせている。


むっ、怪しいな。

あれは、やましいことのあるやつの顔だ。

適当なこと言って煙に巻く気満々じゃね〜か。


アイツ、自分がスキルに恵まれている事に心当たりでもあんのか?



スキルにはまだアイツの明かしていない秘密がありそうだな〜。


むむむっと眉間に皺を寄せてエリオットを下から睨んでいると、こちらをチラチラ見て後ろめたそうな顔をしている。


やっぱりか………。


ニヤリと笑うとエリオットはその場で飛び跳ねて、ガタガタブルブル震え始めた。




「殿下の話で、敵がスキル持ちであっても師匠の力を凌ぐ事はない事が分かった。

今のところは北に攻め入られる事はないだろう。

この砦の守りも強化される事だし、何か不穏な動きがあれば、ルパートからすぐに知らせが来る。

今はまず学園の変革に各々集中しよう」


レオネルの言葉に皆それぞれ頷き合って、その場は解散となった。





はぁ〜やれやれ。

帰ろ帰ろ〜。

っとエリオットの部屋を出ようとした時、髪がピンっと後ろに引っ張られて、私は眉を寄せて凄みつつ振り返った。


ああんっ?

誰だよ、私の髪の毛を引っ張ってんのはよぉっ。

やんのか?コラ!


で、そこにはやはり、私の髪を一房掴んでメソメソ泣いているエリオットが……。


思い出し泣きしてんじゃねーよっ!

しつこ過ぎなんだけどっ?



「リアったら……あんな手で僕を騙して、ちょっとは良心が痛まない?」


メソメソグズグズ、ヒックヒック泣きながらだから、何を言っているのかちょっと分からないですね。


「僕、リアと2人きりであんな事やそんな事が出来るかもって、胸をドキドキさせて良い子で待ってたんだよ……」


恨みがましい目で見つめられ、私は思わずチッと舌打ちをした。


エリオットは顔面蒼白でショックを受けている。


「悪かったわよ、でも元はと言えばアンタが私に変な事ばっかりしてくるのが悪いんじゃない。

で、何が言いたい訳?早くしてくれない?」


イライラと問いかけると、途端にモジモジし始めるエリオット。


だ〜か〜ら〜〜っ!

早くしてくれないっ?



「明日、2人で出かけたいなぁ、なんて」


指をいじいじさせながら、目も合わせず頬を染めるエリオット。


「出かけるって、どこに?」


首を傾げると、相変わらずモジモジするエリオット。


「街の方に行ってみない?

ウィンタースポーツは今日満喫したでしょ?」


そう言われて、私はう〜むと顎を掴んで天井を見上げた。


街、街かぁ。

正直街ブラは可愛い女の子達と行きたいところだが、まぁ、今回はほんのちょこっと悪かったなと思わずもなくないような……。


う〜ん……。


「……まぁ、いいわよ」


結局考えるのが面倒になって了承すると、エリオットはパァッと破顔した。


「本当に?やったぁっ!約束だよっ!

明日迎えに行くから、絶対だよっ!」


キャッキャッうふふと騒ぐエリオット。


ガキかよ……。







翌日、ニコニコ顔で迎えに来たエリオットは、平民仕様のラフな格好だった。

私の分も服を用意していたのでそれに着替え、連れて行かれたのは意外にも平民街だった。


街には沢山の屋台や露店が並び、観光客で賑わっている。


その中に紛れ込んで、私とエリオットは街ブラを楽しんだ。



何か、懐かしい良い匂いがして、私は鼻をクンクンさせる。


なっ!あれっ!肉まんじゃんっ!

肉まん売ってる〜っ!


「あれ、食べてみようか?」


すかさずエリオットが聞いてきたので、うんうん高速で頷く。

涎も垂れてたかもしれない。



「ご店主、それを一つ」


そこは、おっちゃん、それ一個ちょうだいっ!

って注文すればいいんだが。

いくら平民の格好をしていても、やっぱり出ちゃうな〜、育ちの良さが。


でも、屋台での買い物なのにスムーズにこなすエリオット。

ちゃんと小さい硬貨も持ってるし。


慣れてはいるんだな。

こうゆう場面に。



「はい、リア、暖かいうちにどうぞ」


にっこり笑って渡された肉まんを受け取り、二つに割る。


うう、この瞬間のふわっと出る湯気と匂いがたまらんっ!


二つに分けると片方を口に咥え、もう一つをエリオットに差し出した。


「ふぉい(はい)」


モゴモゴしながらそう言うと、エリオットは一瞬目を見開き、何故か泣きそうな顔をして受け取った。


「ふぁによ?ふぉかした?(なによ?どうかした?)」


アチアチの肉まんを頬張りながら、エリオットを見上げると、目尻を下げて、やっぱり泣きそうな顔をしている。


「ううん、ただちょっと、すごく懐かしくって……」


何のこっちゃ?

訳が分からんな。


エリオットも肉まんを頬張りながら、私達は肩を並べて歩く。


エリオットが急に思い出したように口を開いた。


「あっ、そう言えば、リア。

犬に肉まんをあまり食べさせちゃダメだよ。

ネギ類が入ってるから、お腹を壊しちゃうからね。

まぁ、体重によるから、僕は大丈夫だけど」



……はっ?

何を言い出した、コイツ?


えっ?豆知識?

知らなかったから教えてくれてどうもありがとう、急にどうした?


自分は犬と同等だとでも?



私はん〜っと、頭の中でエリオットに耳と大きな尻尾をつけてみる……。


耳をピコピコさせて、尻尾をぶんぶん千切れそうなほど振りながら、ハッハッいってるエリオット……。


うん、違和感ないな。

よし、お前は今日から犬だ。

駄犬だけどなっ!

とんでもないバカ犬だけどなっ!




「あっ、ねえ、あそこ見てみようよ」


さっきの謎の発言の説明もないまま、エリオットはアクセサリーを売っている露店を指差す。


今度は何を言い出したやら。


あまり興味はないが、エリオットについてその露店を覗く。


ガラスで出来た置き物や、アクセサリー、髪どめなどが売られていた。


「これ、リアに似合いそうだね」


それは雪の結晶をモチーフにしたガラスの髪飾りだった。

一見白く見えるけれど、光に照らすと中から青が浮かび上がる。


「青い雪?」


珍しいなぁっと思っていたら、自然に口に出てしまった。


露店の店主がニコニコとして説明してくれる。


「湿った雪が厚く積もると、青い光を透過して、雪が青く見えるんですよ。

それはその様子を再現したものなんですが、それ一つだけ、不思議と光に当てると青く見える物が出来ましてね。

ほら、他のは元から青いでしょ?」


そう言われて見てみると、確かに他のは元から青一色の雪の結晶ばかり。


「へー、奇跡的に生まれた作品なんですね。

ではこれを頂きます」


エリオットが店主にサッサと金を払い、その髪どめを私の左耳の上につけてくれた。


「うん、すごく似合うよ」


満足そうに笑うエリオット。

その私達を暖かい目で見つめる店主。


「いや〜、お若いっていいですね。

とてもお似合いのお二人で、こちらまで幸せな気分になりますよ」


感じのいい店主だが、リップサービスが過ぎる。

案の定エリオットが良い顔でモジモジし始めた。


やめてくれ。

コイツを調子に乗らせるのは……。






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