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EP.62



秋も深まり、木々も衣替えの季節になった。


キティと、フィーネとその他との一件は、あの後大いに学園を賑わした。

噂に尾ひれは付き物。

キティは庶民を痛ぶる悪辣な貴族達から彼等を助け、颯爽と去っていった正義の味方とかなんとかっ!


あっはっはっはっ!


そんなキティの活躍は、いつしか吟遊詩人の唄にもなり……。


って、あっはっはっはぁっ!

腹が捩れるっ!

痛い痛いっ!




生徒会室でそれを知ったキティは、冷や汗をダラダラ流しながら皆を見回した。

皆、無言で1人の人間を指差す。


そうだよっ?

クラウスがまたロイヤル発動したんだよっ!

吟遊詩人に唄を作らせたのは、コイツだよっ!

なぁっはっはっはっ!


キティはクラウスの膝の上から、もの言いたそうにその顔を見上げていたが、クラウスにニッコリと微笑まれ、頬を染めつつ肩を落とした。


どうせ、顔が良い……っ!とかって理由ですべてを諦めたのだろう。

苦労するなぁ、キティ。



「しかし、Cクラス以下の腐敗ぶりを明らかにした功績は大きいな」


レオネルが眉根を押さえてそう言った。

確かに、今回のキティの功績は大きい。

キティが動いてくれたからこそ、一気に話が進んだのだから。



例のフィーネファンクラブの生徒達はもちろん退学処分になった。

罪を裁かない代わりに、帝国のアルトカラズ行きになったが、どの家も一も二もなく頷いてくれたので、大変話が早かった。


退学処分、16名。

自主退学、2名。


一気に多数の生徒が退学処分になったり、自主退学していく程の騒ぎになってしまったが、意外に学園の生徒達からの評価は良好なものだった。


皆んな、内心奴らの行き過ぎた行為に辟易としていたらしい。


概ね平和だった学園が、奴らの出現で荒れ始めた事を危惧していた様だ。


特に、フィーネのファンクラブの男子生徒達の行為は行き過ぎていると、皆はやはり不安に思っていたらしい。


更に、奴らの被害に遭った一般生徒のところに、私達生徒会メンバーが慰問と謝罪に訪れた事で、もう誰も、たかが一般生徒が、とは言えなくなった。


今回の事が表立ち、生徒会が動いた事で、フィーネ達とは関係無く一般生徒を軽んじた言動をしていた人間も、明日は我が身と大人しくなり、保護施設から戻った一般生徒に手出しをする者は最早1人もいない。


一応、辻褄合わせの為に、奴らのせいでカウンセリングが必要な者や、傷跡や後遺症の残った者までいる事になっているので、それ程の事がこの学園で起きたのだと、皆事態を重く捉えてくれている。


実際、彼らのコピーはそれほどの事をされているので、全て事実ではある。


残ったフィーネのファンクラブの人間についても、全てリストアップされ、それぞれ監視がつけられている。



さて、私達生徒会メンバーの中で、慰問に訪れ1番喜ばれたのは、やはりキティだった。


あの儚い見た目で毅然とアイツらに挑んだその勇姿は、やはり市民に大ウケ。

皆、キティに手をギュッと握られ、早く元気になって学園にお戻り下さいね、なんて言われれば、男女関係無くうっとり見惚れて直ぐに学園に復学してくれるのだから、ロリッ子強い。


足を骨折(設定)した生徒が、興奮の余りベッドから飛び降りるというヒヤリハットも起きる始末……。


いやぁ、流石王宮の一級治癒師っ!

仕事が早いっ!

などと誤魔化したが、それで誤魔化されたキティもどうかと思う……。


計画に参加しなかった自主退学(偽造)の堅物勢もキティがメロメロにしてくれて、るんるんで復学してくれた。

強い、ロリッ子。


……まぁ、クラウスは笑顔の下で不機嫌全開だったがな……。

お手手ギュッくらい、許してやれよっ!

こっちが無理言って協力してもらってた側なんだからさぁ。

って、そんなの通用したら、それはもうクラウスではないか……。


苦労するなぁぁぁっ、キティッ!



しかし、あの時16人もの男子生徒に囲まれて、一歩も引かなかった剛鉄の心臓の持ち主なら、大丈夫っ!

あれに比べれば、ちょっとクラウスにやきもち焼かれてネチネチされるくらい、簡単なお仕事だよなっ、なっ、キティッ!


全てをキティに押し付け、楽させて貰った感じになってしまったが、もう仕方の無い事だったんだよ。


ロリッ子いないもん、キティ以外。





その後、あれだけキティにはそこまで話すな、と散々しつこく釘を刺しておいたのに、ジャンが、フィーネがファンクラブの男子生徒を骨抜きにしたナニナニをナニナニしてくれたり、ナニナニさせてくれたりする手練手管をキティに話して聞かせたりして、私の頭蓋骨固め(ヘッドロック)の餌食になったりしたが、まぁ、概ねは順調に事は進んでいる。


ジャンの野郎っ!

あれか?知ったばかりの知識は誰かに話さなきゃ気が済まないのか?

そんなお子様だから、今だに彼女の1人も出来ないんだよ、バカヤロー。


私にヘッドロックされていたジャンを、何故か用務員が無言で何処ぞに引き摺っていったが、爺なのに力持ちな用務員だったな。


ってかアイツはいつまで国の執務をサボる気だ?

早よ王宮に帰れ。




ちなみに、今回の騒ぎの原因となったフィーネとアーバンだが……。


当然、しっかりとまだ学園に在籍している。

この2人には、まだまだやってもらう事があるからな。

しっかり働いてもらいまっせ。



一応2人にも取り調べは行われた。

フィーネは、今回の件について、全部ファンクラブの男子生徒達が勝手にやった事だと主張した。


むしろ自分は、男子生徒達に脅されていた被害者なんだとか……。

ファンクラブも勝手に作られ、嫌だったが、無理に付き合わされていたらしい。

か弱い自分では奴らを止められる訳もなく、市民生徒が魅力的な自分を性的な目で見ると、彼らは激昂して暴力に訴えた……らしい。


うるうる涙目の上目遣いでそう訴えていたと、吐き気と戦いながらジャンが報告していた。


重ね重ねしっかりしろよ、ジャン。

いつまであの女にメンタルやられてんだよ。



アーバンの方は、自分は何もしていない、の一点張り。

こちらは身分もあるので、形だけの聞き取りだけで終了。




それを聞いたキティは釈然としないのか、何やら思案しながらうんうん唸っている。


「あの2人はワザと残しておいたのよ」


私がニヤッと笑ってそう言うと、キティは驚いて首を傾げた。


「えっ?何で?」


私はそう聞かれてもニヨニヨ笑うだけ。

キティは私のこの笑いにイラッとしつつも、またこれだよっ!て顔をしている。


面白いから、要らん情報を更に追加してみる。


「クラウスとノワールは怒髪天ついてたけどね」


意味あり気にニヨニヨしている私に、キティはますますイライラしている。


ぷくく、可愛い。





まっ、そんな訳で生徒会室は一応の平和を取り戻した。



キティを膝の上に乗せ、ご機嫌のクラウス。


「キティの勇姿は何度見ても飽きないね」


例の件の記録を、何度も見返しては頬を染めてうっとりしている。


後ろからノワールまで覗き込んで、デレデレ顔だ。



「何を言っているんだ、お前たちは……。

それが本来あるべき姿の侯爵家令嬢だろう。

今までが情けなさ過ぎただけだ」


頭痛を抑えながら、レオネルが言った言葉に、キティを抱くクラウスから殺気が漏れる……。

ノワールまでブリザリ始め、キティはワタワタしながら、慌てて口を開いた。


「レオネル様の仰る通りです。

元々今回の件は、私が不甲斐なかったせいでここまで大きくなってしまったのですから。

高位貴族令嬢として、また殿下の婚約者として、侮られてはいけなかったのに……。

私、今後は2度とこの様な事が起きない様、誰にも侮られない立派な淑女を目指したいと思います」


キティが拳を天に振り上げ決意表明すると、クラウスとノワールがオロオロし始める。


「そ、そんなに思い詰めなくてもいいんだよ、キティ」


クラウス。


「そうだよ、キティは今のままで充分だよ」


ノワール。


「確かに、愚かな愚民を説き伏したキティはすごく美しかったけど、こう……キティはもっと、フニャッと」


クラウス。


「そうそう、はにゃっと」 


ノワール。


「フニャッ、はにゃっで良いんだよ」 


クラウス……。



って、何を言っとんじゃ、コイツらは。

可愛いキティをこれ以上巻き込みたく無いのは分かるが、フニャッとかはにゃっとか……。

語彙力どうしたっ!

語彙力っ!



キティも訳が分からず、2人をシャーーッと威嚇している。

あっ、バグった。(ちなみに2人はご機嫌)


私は溜息を吐きながら、2人に向かって口を開く。


「あんた達、もういい加減にしなさいよ?

キティはあんた達が思っているよりずっと強くて賢いわよ?

ってか、本当は気付いてるのに、目を逸らすのを今すぐやめろ」


ビシッと私に指さされ、2人はウッと胸を押さえて呻いた。


どうやら心当たりがあるらしい……。



「しっかし、キティ嬢がこんなビシッと奴らをやり込めるなんてな〜。

シシリアの入れ知恵?」


失礼な事を言うジャン。

お前は重ね重ね重ね、何を言っとんじゃ。

私はそれをハッと鼻で笑って一蹴した。


「馬鹿ね〜、キティにはとっくにしっかりとした土台があって、素養もあるのよ?

お兄様の言う通り、それくらい、あ・た・り・ま・え、の事なの。

もちろん、高位貴族だからといって、皆がそこまでの振る舞いを身に付けられる訳じゃないのよ?

キティは私達が外でワーワーキャーキャー遊び回っている間、幼い頃から1人で己を磨いてきたのよ?

キティはそれだけの努力と根性と強さを持っているの。

今やあの王妃様からもお墨付きを頂いている、若き淑女界のエースなんだから。

今回みたいに本気を出せば、有象無象のそこらの令嬢なんか、歯牙にも掛からないわよ」


私の言葉に、ジャンが青くなって、大声を出す。


「おまっ!あの地獄の修行を、外でワーワーキャーキャー遊び回っていたって言ったかっ⁈今っ!」


私を指差す指が、プルプル震えている。


「えっ?だってその通りでしょ?」


途端にブクブク口から泡を吹き始めるジャン。

青い顔で頭を抱えるレオネル。

神に祈り出すミゲル。



「そんな訳でっ!」


3人をまる無視して、クラウスとノワールに向き直る。


「2人はキティを過保護に扱うのはやめなさいっ!

ハッキリ言って、邪魔。

今回の私の計画は、キティの為にちゃんと考えてあるんだから。

キティの培ってきた強さを信じて、私に任せないっ!

ねっ、ほら、キティ。

全て貴女にかかっているんだから、気合い入れてっ!

はいっ!エイエイオーーッ!」


「お、オーーーっ……?」


思わず釣られて、片手拳上げちゃう、キティ。

ぷくく、可愛い。



ややして、私に乗せられた事に気付き、ジトーーーッとこちらを見るキティに、ニヨニヨ笑いを返す。


またそれかよっ!とでも言いたそうなキティ。

しかしそれ以上の詮索はしてこなかった。

大変、物分かりが良い。


まぁまぁ、全て私に任せておきなさいよ、ね?








「で?お前の計画ってのは?」


ジャンが胡散臭そうな顔で聞いてくるが、お前は最近減点続きだからな?

それをまずは自覚しろ?


いつもの様に、キティが王宮に戻ってからの、生徒会室での密事タイム。


先程の私の発言が気になる様子のジャンが早速聞いてきたので、私は余裕の笑みを浮かべ答える。


「その前に、まぁこれを見てよ」


エリクエリーがすぐさま、皆に私が纏めた資料を手渡す。


「それはアーバンが制作した本を、あらすじ、登場人物、人物相関図に纏めた物、と、フィーネがアーバンの真似をして自分で書いた話、こっちはそのまま、現物のただのコピー」


手渡された資料に訝しげに目を通し、速読始める面々。

読み進めるうちに、皆の顔色が青くなったり、白くなったり、フィーネの書いた物など真っ赤になって、色とりどりで大変楽しい。


で、結果。

クラウスは自分の椅子に腰掛け外を眺めているし。

ノワールは壁に向かってぶつぶつ言ってる。

レオネルはソファーに座って頭を抱え。

ミゲルは立ち尽くしたまま真っ白の灰に。

ジャンは床に蹲ってガタガタ震えている。


うん、死屍累々!

予想通りのカオス!イイネ!



「おまっ、これ……ど、ど、どーすんだよっ!」


我に帰ったジャンの戦慄いた雄叫びに、私はグッとサムズアップを返す。


「うん、どちらも絶賛配布中よっ!

アーバンの方は、王都の書店という書店に平積みで無料配布!

フィーネのは本人が学園中で配りまくってるわよ!」


私の良い笑顔を絶望の顔で眺めながら、ジャンが一筋の涙を流す。


いやぁっ!

予想を超えたリアクションッ!

どうもありがとうっ!


なっはっはっはっ、と爆笑していると、レオネルが額に青筋を立てながら、私を怒鳴り付ける。


「笑い事じゃないだろうっ!

フィーネの方はともかく、アーバンの方は反逆罪を問われても仕方の無い内容だぞっ!

それにどちらもキティ嬢を狙い撃ちにしているじゃないかっ!

それでよく笑っていられるなっ!」


レオネルが珍しく声を荒げるので、思わずしげしげと眺めてしまったが、いや、そりゃ言う通りだわ。

すまんすまん。


「大丈夫よ、アーバンの方は流石に行き過ぎているから、王宮の捜査機関が既に動いて、出版元を洗っているし。

直ぐにロートシルトに辿り着くわよ。

フィーネの方は……ふふっ、まぁ見ての通りだから……。

誰も相手になんかしないわ……ぷっ、ぷふふっ」


思わず変な笑いが出てしまったが、皆もつられて肩を震わせていた。



「しかし、それにしてもお前のその余裕な態度が気になるな……。

キティ嬢の事になると、クラウス、ノワールと並んでいつもなら激昂していてもおかしくないのに……」


確かに。

クラウスとノワールは今や窓の前に2人並んで何やらブツブツ呟いている。


ああ、2人が見ている方向は、ロートシルトの邸のある方だわ、あれ。


私がボーっと見つめていると、他3人が慌てて2人を止めに入る。


「バカッ!何最強魔法の詠唱始めてんだっ!」


「王都を灰にするつもりかっ!」


「やめて下さいっ!2人共っ!」


わちゃわちゃ大騒ぎになっている。

あらら。

よしよし、分かった、分かったからちょっと落ち着け。


よしっ、食らえっ!

我がスキルッ!魅了っ!(レベル15)


密かに発動練習しておいた魅了のスキルを発動すると、2人が途中まで完成させていた最大魔法がパッと掻き消える。

スキル発動中には魔法は無効化されるからな。


皆が驚いた顔でこちらを振り向く。

ちなみにこれもスキルの効果。

レベル15だからこうやって、気を一瞬引くくらいだけどね。


私はすかさずパンッパンッと大きな音を立て手を叩くと、エリクエリーに目配せする。


2人はサッと束になった原稿用紙を皆に配る。

それを手に呆気に取られている5人に、私はニッコリ微笑んだ。


「それは私が2人に対抗して、ある作家に書かせた冒険小説よ。

まぁ、一読してみてよ」


私の言葉に皆は首を傾げつつ、取り敢えず原稿を捲り、直ぐに夢中で読み進めていった。


静かな室内に時計の音だけが聞こえる。

私は皆が読み終わるまで、エリーの淹れてくれたお茶を優雅に飲みながらじっと待った。


やがて1人、2人と読み終え、感嘆の溜息を吐いた。


「これは……よく出来ているな」


レオネルの関心した様な呟きに、皆が次々に感想を口にし始めた。


「確かに、これなら直接的では無いにしろ、キティの人となりが広く世間に広まるね。

本当に素晴らしいよ」


ノワールが嬉しそうに原稿を大事に抱き抱えている。


「それに、とても読みやすいので、これなら子供に読み聞かせる事も出来ます」


ミゲルがふふっと笑った。


「敵と戦うところがすげーカッケェ!

特にこの魔剣士がめっちゃカッケェ!」


元から語彙力の無いジャンも興奮しきっている。



クラウスは顎に手をやり、口の端を少し上げているだけだが……。


「……キティはこういった読み物が好きなんだ」


ポソリと呟く。


知ってるよ?キティに当てて書かせたんだもん。



「あんた達の承諾が得れて良かったわ。

それを近日中に売り出して、キティの人気を更に高めるっ!それが私の計画よっ!

アイツらの愚策を正攻法で叩き潰すっ!

どうよっ?私のこの計画っ!」


胸を張ってガッハッハってと笑う私に、だがレオネルが眉間に皺を寄せて、難しい顔で口を開く。


「だがそんな事をすれば、奴ら次はどんな手を使ってくるか分からんぞ?」


レオネルの危惧は最もだ。

だがもちろん、それさえも私の計画。

いや、そこからが私の計画の真骨頂っ!


「もちろん、そこまで考えた計画を練ってあるわよ?

私のこの先の計画はね………」





その後の私の話を、皆心底理解出来ないという顔で聞いていたが、この計画に絶対の自信のある私にねじ伏せられる形で、渋々首を縦に振った。



さて、いよいよ本当に、ここからだ。

一気に畳み掛けてやるから、首を洗って待ってろよ、フィーネ。

と、ついでにアーバン。






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