EP.58
やっと決意を固めたキティに連れ添い、Fクラスのある校舎を訪れる。
Sクラスの校舎からE、Fクラスのある校舎まではかなり距離がある。
馬車を使えばいいものを、キティが鼻息荒くズンズン歩いていくものだから、まぁいいか、とついてきたが……。
キティは人気の無い廊下の壁に手をついて、ハァハァゼェゼェと肩で息を吐きながら、隣で涼しい顔をした私を恨めしそうに見上げてきた。
や、ごめんね。
馬鹿みたいに鍛えてるから、私。
「仕方ないわね〜」
プククッと笑いながら、回復魔法と冷風魔法をかけると、上がっていた息が整い、汗でビッショリだった制服も乾いた。
「す、涼しい〜」
はわ〜っと私の魔法を全身で受けるキティ。
おまけにミストを付けてあげると、極楽〜って顔をしている。
「ほら、シャキッとしたでしょ?
さぁ、レッツゴーッ!」
始終楽しげで軽い調子の私に、キティは腑に落ちない様子で、ちょっと拗ねている。
キティ的には勢い勇んで敵陣に特攻してきたつもりなんだろうけど、正直言ってあんな奴ら小指一本で倒せる自信あるし。
物理的で良ければだけど。
そんな気負う必要無いからな〜。
どうもキティに合わせて神妙さを醸し出せない、すまん。
フィーネの在籍するFクラスに続く廊下を歩いていると、あちこちから小さな悲鳴が上がった。
「まぁ、あの方が何故こんな所に?」
「嘘でしょ?お姿を拝見するの、私初めてだわ」
「ああ、やっぱりお可愛らしい……。
以前、中庭でお見かけした時よりも更にお美しくていらっしゃるわ」
そう口々に云いながら、皆次々私達に向かって礼をする。
キティはそれを片手で制しながら、にっこりと微笑んだ。
キラースマイルをまともに食らった何人かが、うっとり顔で目眩を起こしている。
これもう、歩く顔面凶器じゃね?
「皆さん、ご機嫌よう。
突然にこの様に訪れた不躾をお許し下さいね。
どうぞ、お楽になさって」
キティは人にカーテシーをされるのが苦手。
自身がグローバ夫人に厳しく教え込まれているから、その辛さは身に染みている。
カーテシーをされると直ぐにお楽になさって、と言ってやめさせるのだが、これが何気に人の心をガッツリ掴んでしまうのだ。
何故かというと、まぁ分かりやすく言って、アーバンの様な傲慢勘違い高位貴族なんかは、人からカーテシーされるのが大好き。
高位貴族とはいえ伯爵家のしかも令嬢如きにカーテシーなど本来必要無いのだが、我が物顔で学園を闊歩しているアーバンは、自分より身分の低い者にカーテシーを強要している。
しかも自分の姿が見えなくなるまでその姿勢を崩す事を許さない。
一般生徒など、床に頭が付くくらい腰を曲げろ、と無茶を言われているくらいだ。
アーバンの他にもこんな風に勘違いしている人間は多数存在する。
本物の社交界ではあり得ない事だが、この学園というミニ社交界では偉そうに言ったもん勝ちみたいになっている。
そんでそういう奴らはこぞって社交界で赤っ恥をかいているらしいから、阿保としか言いようが無い。
子爵家、男爵家を中心にしたここE、Fクラスの生徒は日頃からそんな理不尽を受けている。
だからこそ、本物のロイヤルであるキティがカーテシーを直ぐに崩す様に言ってくれるのは、もう感動ものなのだ。
皆、頬を染めて顔を上げ、敬愛を込めた顔でキティを見ている。
ちなみに、お気付きだろうか?
今まで、どれだけカーテシーを崩して欲しくても、私より先に声をかける事の無かったキティが、今日は自分から声をかけた。
本来ならまったくマナー違反でもなんでも無い。
公爵家と侯爵家。
私の方が貴族位は高いが、キティは第二王子の婚約者。
私は第三王子の婚約者。
同じロイヤルファミリーと考えれば、キティの方が身分が上。
だと言うのに、今まで頑なに私を優先してきたのは、自分をロイヤルファミリーの一員と数えたく無かったからだろう。
だけど、今日は違った。
キティがクラウスの婚約者として腹を括った証拠だ。
私は内心ニマニマ笑いながら、胸を張り進むキティの後ろに付き従った。
キティの優しさに、貴族生徒と一般生徒達が感嘆の溜息を吐く。
「まぁ、本当にお優しくて優雅な方なのねっ!」
「俺、位の高いお貴族様なんて生で初めて見たけど、天女様の様にお美しいな……」
「私は街で売られてる姿絵を持ってるけど、全然、本物の方が綺麗だわ……」
「私は孤児院でお会いした事があるけど、変わらずお優しい方だわ」
またザワザワと皆が静かに騒めき出す。
和やかな歓迎モードにキティは少し戸惑っている様だ。
ここを敵陣か何かだとでも思い込んで来たのなら、随分拍子抜けした事だろう。
フィーネとアーバンが随分と張り切っている様だが、以前中庭でお披露目したキティを見た者、またはその話を聞いた者は、2人の言っている事など信じていない。
いやだって、見れば分かるだろ?
こんな可憐なキティが、アイツらの言っている様な鬼畜な所業、出来る訳が無い。
更に理由も無い。
ゲームの様に、クラウスを巡って云々など無いのだから。
高位貴族で王子の婚約者であるキティが、何故わざわざ頭がアレな男爵令嬢に構うというのか。
ちょっと考える頭さえあれば、直ぐに分かる。
更にこの校舎にいる一般生徒はそこら辺の人間より数倍優秀なのだ。
貴族の仕組みも学園で学び頭にバッチリ入っているからこそ、フィーネやアーバンの言っている事などはなから信じていないし、相手にもしていない。
むしろ、貴族というだけで自分達に偉そうにしている奴らを、将来必ず出世して、踏み潰してやろうと闘志を燃やしている事だろう。
馬鹿ヅラして偉そうにしている奴らは、早くその事に気付いた方がいいんじゃないかなぁ?
キティは皆の反応に、良い感じに肩の力が抜けた様だ。
よしっ!コンディションばっちりだなっ!
いけいけっ!キティッ!
やっちまえっ!
目的のFクラスの前の廊下に、フィーネとアーバン、その取り巻きのマリエッタとヴァイオレットが既に待ち構えていた。
向こうもこちらの動きは把握済み、という事だ。
フィーネの操る者か、アーバンの取り巻きが常にキティの動向を探っているのだろう。
いや、間者役は割り出してあるんだけどね。
ただの素人だから、よく私の作り出す幻影キティの方を追いかけて行って、広い学園内で迷子になっているが、今度から迷子の放送してやろうか?
キティがチラッと私を見るので、ここは否定する様に小さく手を左右に振っておく。
常にコイツらに同行を探られているなどと知ったら、キティだって気分が悪いだろう。
ここは、コイツらがたまたま集まって何事かしている時に、たまたまキティが乗り込んで来たって事にしておこう。
私達が4人の正面に立つと、何処からか現れた数名の男子生徒に周りを取り囲まれた。
ザッと顔を確認すると、ほとんどがフィーネに操られている奴らだ。
皆既にリスト化されている。
「あらぁ?Sクラスのお二人が、こんな所に何の御用かしらぁ?」
最初に口を開いたのは、アーバンだった。
それに呼応する様に、周りの男子生徒がそーだそーだと囃し立てる。
ちなみに、アーバンのこの行為は私達相手に大変なマナー違反である。
私とキティより高い身分の者は、もう王族しかいない。
公の場で、先に声をかける事が出来るのは、王族だけ。
または、生徒会のメンバーやSクラスの生徒の様に、ご学友と認められて許可された者のみ。
それだって、公の場で私達に対してこんな不躾な態度は決して取らない。
アーバンは、この前リィナ嬢のお茶会に乱入して来た時よりも、何か自信に満ちている様に見える。
何かを確信している様な、まるで自分は王家の一員であるとでも言いたそうな不遜な態度だ。
ほうほうほう。
話には聞いていたが、また随分と増長したもんだ。
直ぐに捻り潰してやるがなっ!
この、新生キティ様がっ!
キティッ!早くヤッチマイナーーッ!
更に、フィーネは、先陣で腕を組んで仁王立ちしたまま、キティを睨み付けていた。
こちらも、侯爵家令嬢に対して、大変不遜な態度ではあるが、まぁコイツは最初から一貫してこの態度を貫いているので、今更驚く事でも無いだろう。
「貴女達こそ、C、Dクラスの生徒もここに集まっている様ですけど、何の御用で?」
私は口元を扇で隠し、ギラリと周りを見渡し
た。
フィーネの操る奴らに混じって、アーバンの取り巻きの魔法優勢位派も何人か混じっている。
さっき迄元気に囃し立てていた男子生徒達が、途端にオドオドと下を向く。
こちらは自我がある分、さっきから覇気が無い。
「あら?私達はこちらのフィーネさんのお友達なの。
お友達を訪ねる事は、不思議な事では無いと思いますけど。
それに彼らはフィーネさんのファンクラブの方達でしてよ?
お美しく聡明なフィーネさんに、ファンクラブがあってもおかしい事では御座いませんわぁ」
アーバンが、ニヤリと笑って答えると、また周りが騒ぎ出す。
そ、そーだそーだぁ!俺たちはフィーネちゃんのファンクラブだぞっ!
一緒にいて、何が悪いっ!
あちらこちらからギャーギャーと騒がしい。
なるほど、その体で自分の取り巻きも密かに混ぜてある訳だ。
さて、そいつらがどう役に立つか、見ものだなぁ。
キティが、扇をバチンっと大きく音を立てて閉じると、辺りが一瞬で静まる。
黙れ、外野。
聞こえる、聞こえるぞ。
キティの心の声が。
ガチギレキティッ!
SSRじゃんっ!
オラ、ワクワクすっぞ!
「私、フィーネさん、貴女にお話があって参りましたの。
まずは、突然の不躾な訪問になりました事、お詫び申し上げます」
キティはじっと、フィーネを見つめて口を開いた。
フィーネは尚もキティを睨み付けているが、キティはそれを気にする様子も無く、再び口を開いた。
「最近、私についての不名誉な噂が出回っている様ですの。
中には看過出来ない酷いものも多く、困っております。
もちろん私にはどれも心当たりの無いものばかり。
全ての被害者であると仰るフィーネさん、貴女に直接お話を聞きたくて、こうして訪問させて頂いた次第ですのよ」
抑揚なく、淡々と告げるキティ。
フィーネはカッと顔を赤黒くして、怒鳴るように口を開いた。
「心当たりが無いなんてっ、よく言えたわねっ!
私に酷い暴言を吐いたりっ!
物を壊したりっ!盗んだりっ!
それから、噴水に落とされたりっ!
この前は、階段の上から突き落としたじゃないっ!」
フィーネの言葉に、アーバン、マリエッタ、ヴァイオレットが頷いた。
「そうですわっ!私達がしっかりとこの目で目撃致しましたっ!
キティ様が卑怯にも、後ろからフィーネさんを押して、階段の下に突き落としたのですわっ!」
アーバンが閉じた扇を、ビシッとキティに向かって差す。
その扇を持った指ごとへし折ってやろうか?
「フィーネさん、お可哀想に……。
もちろん私が直ぐに、我が家お抱えの治癒士に治癒させましたから、身体の傷は残りませんでしたけど、ご心労の方はいくばくかと……。
心の傷は簡単には癒えませんもの……」
そう言って、アーバンがハラハラと涙を流す。
それに合わせてフィーネもグスッと泣き出した。
「き、きたねーぞっ!」
「そーだそーだっ!」
「謝罪だっ!慰謝料だっ!」
「フィーネちゃんに謝れっ!」
「貴族位を笠にきた傲慢令嬢っ!」
周りから次々に野次が飛んでくる。
終いには、しゃ〜ざいっ!しゃ〜ざいっ!と謝罪コールが起きた。
これの何処がミニ社交界だよ……。
ここはアレか?
幼稚舎の校舎だったか?
いや、今時の園児の方がよっぽどしっかりしているな。
キティは一切表情を崩さず、冷静な目でフィーネを見つめ続けていた。
フィーネとアーバンの、口元をニヤニヤさせた泣き真似に、キティの表情がスーッと冷めていく。
ふぅっと溜息を吐いて、キティは口を開いた。
「それはいつの事ですか?」
キティの問いに、フィーネが得意げに顔を上げた。
「9月28日の放課後よっ!」
なるほど、その日は生徒会が無かったな。
お前のなんちゃって間者から聞いたんだな、そりゃ良かったな。
キティはまた溜息を吐き、口を開く。
「いません。私はその日のその時間帯に、学園にはいませんでした」
キティの言葉に、再び野次が飛ぶ。
「嘘つきっ!」
「何とでも言えるよなっ!」
「誤魔化しても、無駄だぞっ!」
耳障りな周りの声を一切無視して、キティは淡々と説明する。
「その日は王妃様にお茶に呼ばれて、お昼過ぎには王宮に戻っていました。
王妃様からの正式なお誘いですので、嘘や誤魔化しは通用致しません。
お調べ頂いても、結構ですわよ?」
そう言ってキティは周りをゆっくり眺めた。
野次を飛ばしていた馬鹿どもは、ヒュッと息を呑み、辺りはシンっと静まり返った。
フィーネとアーバン達は真っ青になって、口をパクパクさせている。
「あっ……そうだわっ!日にちを間違えちゃったっ!本当は、その次の日で……」
「次の日は休日で、学園にはそもそも登校出来ません」
キティがスパッと答えると、また口をパクパクさせるフィーネ。
そろそろか、と私は呆れた様に口を開いた。
「そもそも、ハッキリと9月28日と医務室の記録に残っていましてよ。
かすり傷程度の怪我(?)だったみたいですけど。
キティ様に突き落とされたとの証言もしっかり残っていました。
直ぐにキティ様に学園から確認が来ましたが、こちらの無実の証明を致しましたのが、恐れ多くも王妃様でしたので……。
学園側は大いに謝罪した上、この件は生徒会預かりになりましたのよ?」
私の言葉に、フィーネは、なっ、とか、あっ、とか、言葉も無い様だったが、ややして顔をどす黒く染め、鬼の様な形相になった。
「騙したわねっ!全部知ってて、騙そうとしたでしょっ!
このっ、卑怯で汚い悪役令嬢っ!」
フィーネの怒声に、怯んでいた野次が復活する。
「そ、そうだっ!そうだっ!」
「きたねーぞっ!」
「卑劣な悪役令嬢っ!」
しかし、先程までよりは野次の覇気が弱い。
言いながら、頭に?マークが浮かんでいる。
じゃあもう、黙っててくれねーかな?
何がどうしたらキティが騙した事になるんだよ。
揃いも揃って救いようの無い阿保だな。
キティが小さくすぅっと息を吸っただけで、野次はシンッと静まり返った。
キティが口を開く事にすっかり怯えている様だ。
いや、やるよ?
その為にわざわざ来たんだからさ。
激おこSSR無双状態のキティを舐めんなよ?
「それから、暴言、でしたか?」
キティは周りをぐるっと見回し、にっこり微笑んだ。
「それなら、先程から、私の方が被害に遭っている様ですが?」
皆さん、その顔、覚えましたわよ?
というニュアンスを演出するキティ。
周りの阿保軍団が一斉に数歩下がり、中には慌てて逃げ出す生徒もいた。
いいね、いいね。
もっとガンガン言っちゃって下さいよっ!
姐御っ!
「あとは、器物破損に窃盗、傷害、ですわね?
実は、私、殿下から護衛をつけて頂いていて、彼らは常に記録魔法で私の行動を記録しています。
SクラスとA、Bクラスの皆様からは許可を頂いているのですが。
そちらの記録を確認頂ければ、私が入学以来、こちらの校舎に足を踏み入れたのは、今日が初めてだと、お分かり頂けると思いますが、いかが致しますか?」
キティの言葉にますます顔をどす黒くするフィーネ。
もう噛み付かんばかりに、怒鳴り始めた。
「噴水はっ?私を噴水に突き落としたでしょっ!!
それはどう説明するのよっ!!!」
だーかーらー、護衛の記録魔法があんだよっ!
そんなもん、調べれば1発だろうがっ!
ノータリンッ!
流石にキティは呆れ返っている様だが、しかしそんな感情を一切表には出さず、静かに言い返した。
「私の護衛の記録魔法もございますし、中庭には学園で別に記録魔法を設置してありますので、どうぞそちらをお確かめになって下さい」
入学式で、学園内の記録魔法設置場所を説明されてたけどな。
もしかして、いや、もしかしなくてもコイツらが聞いてる訳ないよなぁ。
ここで、アーバンが冷や汗をかきながら横から口出ししてきた。
「そ、そんなのっ!偽造できるじゃないっ!
都合の悪いところは、消せるじゃないっ!」
今度こそ、私とキティはハァッ〜と深い溜息を吐いた。
私は嫌そうに口元を歪めて答える。
扇に隠れていて、キティにしか見えてないだろーけど。
「王家やそれに関係する者、施設で扱われる記録魔法には、不正防止の術式が付与されていますのよ?
ですから、記録を改竄したり、消したりなんて出来ませんの。
もちろん、キティ様についている王家の護衛の持っている物も、この王立学園に設置されている物も、学園の警備兵の持っている物も、全て不正防止の術式が施されています。
……貴女方の様な人間を黙らす為にね」
ヤバい、流石に漏れてきちゃった。
まだ発しちゃいけない殺気が漏れる。
いや、かなり我慢した方だと自分でも思うんだが。
もうコイツら纏めて薙ぎ払っていいかな?
いいよね?
私のぶち殺すどオーラにあてられたフィーネ達は、フラフラと後ろに下がっていった。
マリエッタとヴァイオレットなんか、白目を剥いて、今にも倒れそうだ。
私は更にニヤリと笑って畳み掛ける。
「ちなみに、問題の9月28日の、フィーネさんとやらが突き落とされたと主張する階段付近の記録魔法を、生徒会で確認致しましたが……。
当たり前ですが、キティ様は映っていませんでした。
その代わり、貴女方4人がコソコソと何やら話した後、フィーネさんが、自分で、とてもゆっくりと、階段を転がっていく姿がハッキリと映っていましたよ。
すり傷が出来てしまった様ですけど、大丈夫でしたか?」
私の言葉に、もう4人の顔色は真っ青を通り越して、真っ白である。
フィーネは口をパクパクしながらも、懸命に声を出そうとしている。
やっと出た声は、随分と掠れていた。
「あ、あんた達、高位貴族って、そ、そうやっていつも弱い者虐めして楽しむんだわっ!
そ、そうよっ!そんなに弱い者虐めして、た、楽しい訳っ?
酷いわっ!私が非力な男爵令嬢だからって!
こ、こんなのって、あんまりよっ!」
そう言って、近くにいたファンクラブの男子生徒に抱きつくフィーネ。
泣きすがられたその男子生徒は、フィーネにだらし無く鼻の下を伸ばすと、キッと私達を睨み付けてきた。
「こんな可憐なフィーネちゃんを虐めて泣かせるなんてっ!
お前は本当に酷い悪役令嬢だっ!
皆んな、こいつらの横暴を許すなっ!
その汚い口を閉じてやれっ!
いくら高位貴族だといっても、所詮は女だっ!
ひん剥いてやれば、すぐに大人しくなるさっ!」
その生徒の言葉に、一瞬周りがざわつき、男子生徒達がニタ〜と下品な笑いを浮かべる。
「そうだな、所詮は女だ……」
「裸にひん剥いて土下座させよう」
「ひひっ、俺、キティちゃん脱がせたい……」
「その後、空いてる教室にでも、連れ込むか……?」
「良いね、じゃ俺からな」
「バカっ、ジャンケンだろ?」
口々に下卑た事を口にしながら、私達を取り囲んで、ジリジリと近づいてくる。
皆、目を欲望にギラつかせ、気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。
あ〜〜ダメだこりゃ。
もう無理だな。
止められないわ……。
終わり終わり、これで終わりだ。
…………………お前らがなぁ……。




