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EP.56



夏季休暇も残すところ数日。

私は王都の貴族街にある、とあるオープンカフェのテラス席でお茶を飲んでいた。


「で、どうでした?」


目の前の女性に話し掛けると、相手は困った様に眉を下げた。


「はい、シシリア様の仰る通り、ベッドの下に隠してありました」


予想通りの答えに私と目の前の女性、キティ付きの侍女マリサは同時に溜息を吐く。



やっぱりな。

キティめ、私が贈った国宝級のヘアゴムをベッドの下に隠していた様だ。


無かった事にしようとしたな?

が、甘いっ!


私のキティツインテ包囲網に抜け道など無いのだっ!

全ては私の手の内にあるっ!

ぬぁーはっはっはっはっ!



「今は私が厳重に保管しております」


協力者であるマリサはやはり大変優秀である。

私はコクッと頷いて、口を開いた。


「では計画通り、二学期初日から例のアレをお願いします」


私の言葉にマリサは微笑みながら頷いた。


「もちろん!腕によりをかけて最高の出来にしてみせます。

幼い頃より再三お似合いになるからとお薦めしてきたのに、キティお嬢様はどうしても嫌がって……。

7歳前の頃は何も仰らなかったのに。

あの頃のお嬢様の愛らしい髪型にまた戻せるなんて、夢の様です。

お嬢様にはあの髪型が1番お似合いになるのは、このマリサが保証致します!」


力強いマリサの言葉に私はこれでキティのツインテが見られると確信した。


マリサは間違い無くこちら側の人間だ。

彼女に任せておけば、必ずやキティを立派なツインテロリッ子に仕上げてくれるだろう。


くっふっふっふ。


内心笑いが止まらない。

キティよ、そろそろ観念してもらうぜ。

髪型を変えたくらいでロリッ子の宿命から逃れたつもりでいるなど片腹痛い。


貴様がいくら否定しようと、ロリッ子の宿命からは逃れられないのだぁっ!


んなぁっはっはっはっはっはっはーーーっ!



あーーっ!楽しみだなぁっ!二学期⭐︎










いよいよ、待ちに待った始業式の朝。

夏休み最後の数日を自分の邸で過ごしたキティは、今日はローズ家の馬車で登校するはずだ。


朝からソワソワしっぱなしの私は、正門の前でローズ家の馬車が早く見えないかと首を伸ばして待っていた。


ちなみにクラウスは今日は用事があって遅れて来る筈なので、私とキティの邪魔をする者もいない。


キティが来たらガッツリへばり付いて1番近い距離で楽しむんだ!


早くも涎を垂らしながら待ち構えていると、待ちに待ったローズ家の馬車がやっと現れた。


はやる気持ちを抑えつつ、馬車が正門に着くのを淑女モードで大人しく待つ。


やがて馬車が正門の前に停車すると、まず上機嫌のノワールが降りて来て、馬車の中に手を差し出す。

その手の上に小さな手が重なり、いよいよキティが馬車から降りて来た。


私の贈ったサクランボのヘアゴムで、左右に結い上げた………これは、まごう事なきツインテキティーーーーーーーーッ!


キターーーーーーーーッ!

キタコレーーーーーーーーッ!!


念願のっ!ツインテキティッ!

制服バーーーーージョンッ!


そのビジュアルは〈キラおと〉のキティとほぼ一致!


と、尊い〜〜〜〜〜っ!

尊すぎてもう涙で前が見えない……。

好き……シンプルに好き……。



手で口を押さえ、ボタボタと涙を流す私をキティはジト目で見つめ、ノワールから離れると私に近付き、一生懸命つま先立ちして私の耳元で囁く。


「やりやがったわね……」


そのお陰でワフワフツインテがフワッと頬に触れ……至高っ!

何このご褒美っ⁉︎

これ毎回して貰えんのっ?

ヤァッフウゥゥゥゥゥゥッ!


贈っちゃうっ!

国宝級レベルのヘアゴムくらいっ!

いくらでもっ!ナンボでもっ!


S級の討伐依頼サクッとこなすだけの簡単なお仕事っ!

そんなんでこんなご褒美頂けるなら、そりゃやりまっせ、わたしゃっ!


ハフハフしながら血走った目でキティをガン見すると、キティはその顔に恐怖を浮かべ、ゆっくりと後ずさって行った。


「お、お、推しへの何か出ちゃ駄目な物が、全て漏れ出てるわよ……。

お願いだから、落ち着いて、ね、一旦落ち着こう……」


カタカタ震えながら切願するキティにジリジリ近寄って行くと、ノワールがキティの肩に後ろから手を乗せ、私に向かってニコニコご機嫌で微笑み掛けてきた。


「やぁ、シシリアおはよう。

キティにこんなに素晴らしい贈り物をくれて、本当に心から感謝するよ。

こんなに愛らしい髪型はキティにしか似合わないからね。

シシリアはよく分かってるなぁ。

僕としては邸から出て欲しく無かったんだけど、むしろ王宮になど帰したくないんだけど。

どうかな?あの男を消す為に協力して貰えないだろうか?」


ニコニコと黒い微笑みを浮かべるノワールに、流石に冷静さを取り戻し、私は溜息を吐きつつ口を開いた。


「アンタねぇ、キティを邸に閉じ込めてどうするつもりよ?

その内キティは王子妃になってクラウスの嫁になんのよ?

妹のツインテに正気を失ってないで、そろそろ本気で妹離れしなさいよ」


どの口が言うかっ!てセルフツッコミを入れたいところだが、魔王VSブリザードなどシャレにならない。

王都が消し飛ぶじゃないか。


そもそもコイツは惚れてる令嬢とはどうなったんだ?

なんか訳ありっぽかったから聞けないけどさ〜〜。

本音はめっちゃ聞きたいけど。

野暮はよくないからな〜〜。


でも出来ればこれ以上妹愛を拗らせる前に、そのご令嬢に引き取って頂きたい。

王都の平和の為にもっ!



むむむ〜〜っと眉間に皺を寄せてノワールを見つめると、ノワールは軽く肩を上げて、悩ましげな溜息を吐く。


「もちろん僕も分かってはいるさ。

でも愛らしいキティを見ていると、どうしても誰にも渡す気になれなくて……。

こんな可愛い妹を持つ兄の苦悩を少しでもいいから理解してもらえると有難いな」


ふぅむ?

キティが妹?

妹ねぇ………。



(以下妄想)


『シシリィお姉様、次はもっと凄い宝石でヘアゴム作って下さいね』


『えっ?ツインテの髪でシシリィお姉様の頬を打つのですか?いいですけど……変なお姉様っ!』


『シシリィお姉様……1人じゃ寂しくて眠れないの……一緒に寝てもいいですか?』


『シシリィお姉様〜〜』


『うふふ、シシリィお姉様〜〜』


『シシリィお姉様〜〜、こっちこっち』


(以下リフレイン)





んぐっ、ぐふふっ……。

キティ〜〜待て待て〜〜……。

捕まえちゃうぞ〜〜……。



白昼夢を見ながら手をワキワキする私を、キティが嫌なものを見る目で見つめている。


「アンタ……いい加減にしなさいよ?」


キティにボソッと耳元で囁かれ、ハッと我に返ると、ノワールが、ねっ?といった感じで困った様な顔をしていた。


そのノワールの肩をポンポンと叩き、私は労う様に口を開いた。


「アンタも苦労するわね……」


「シシリアなら分かってくれると信じていたよ……」


2人同時に深い溜息を吐くと、キティが顔を真っ赤にしてプルプル震えている。



怒った顔もどんだけ可愛いんだよ。

ある意味キティが1番最強かもな〜〜。









新学期早々、生徒会の仕事は山積みだ。

今日は始業式のみなので、通常なら昼前には帰れるのだが、私達生徒会の面々はそうはいかない。


皆が仕事を着々と片付けていた時、部屋の扉が開かれ、クラウスが生徒会室に入っ……てこない。


クラウスは生徒会室の扉を開けた瞬間、片手で口を押さえ、真っ赤に顔をそめて、立ち止まって固まっていた。


視線はもちろん、キティのツインテに釘付けだ。


キティはうろんな目でそれを見上げている。



「キ、キティっ!どうしたのっ!それっ!」


クラウスが驚愕の声を上げると、何故かノワールがニコニコとご機嫌な声で答える。


「これですか?実は先日シシリアからとても素敵なヘアゴムを頂きまして、うちのマリサが腕によりをかけて仕上げた次第ですよ?」


ふふふ〜んと、これまた何故か誇らしげなノワール。


「かっ……くそっ!可愛すぎるっ!」


吐き出すようにそう言うクラウス。



くくくっ!

やられておるやられておるっ!

どうだよ?強烈だろ?

メガトン級の可愛さだろ?


ニヤニヤニマニマ笑っていると、キティが下から刺すように睨みつけてきた。


あうっ!

痛い痛いっ!

刺さるからっ!

可愛さが刺さるから、もうそれ以上やめてっ!


本人はガラ悪く絡んできてるつもりなんだろうけど、なめ猫にしか見えないっ!

可愛すぎて身悶えるわっ!



まったく私に本来の意味が刺さらない事に気付き、キティは遠くをまたもうろんな目で見つめている。


何故こうなった……?


その目がそう語っているが、なるべくしてなったとしか言いようが無い。


原作キティのビジュアルを禁忌とし、今まで頑なに避けてきた努力は分かってはいるが、すまん、我らツインテキティ同盟の前ではそんなもの通用しないのだよ。


早くそれに気付くべきだったな。

既に包囲網は完璧に出来上がっていたのだ。

ぬはははははっ!


勝ち誇った顔でキティを見下ろすと、キティは何やら思案にくれ、思い当たる事があったのか、ガクガクと足を震わせ出した。



マリサだな?

ツインテに並々ならぬ情熱を持ったマリサに結い上げられた事を思い出しでもしたか?


くくくっ!

そうっ!貴様の侍女は我が同胞なんだよ!

今更気付いても遅いがなぁ!



キティはやっと全てを悟ったのか、恨みがましい目で私を睨みつけてくる。


ジュルッ。

ツインテの吊り目美少女がこっちを見上げて睨んでる……。

可愛いが過ぎて涎が止まらないのだが?



「シシリア、良くやった」


クラウスの全開笑顔のサムズアップに私は即座に自分もサムズアップを返し、そこに良い笑顔のノワールも加わった。



その様子を見ていたキティは、不安そうに涙目でキョロキョロ辺りを見渡している。


キティツインテ同盟が他にはいないか探っているのだろう。

もう何も信じられないといった表情でレオネル、ミゲル、ジャンと目が合うと、3人は無実だとばかりに全力で頭を振っている。


エリクとゲオルグは何の事か分からない、と言った風で、無表情でその様子を眺めていた。


あっ、ちなみにエリクのは演技だけど。



そして、キティとエリーの目が合う。

エリーは、無表情でキティに向かってコクンと頷き、胸ポケットからピンクゴールドに光る高級そうなカードをスッと引き抜いた。


キティはそれをじっと見つめ、ワナワナと震え始める。

エリーは何も言わず、またそのカードをスッと胸ポケットに戻した。



どうした?キティ。

さっきのカードに何か書いてあったか?

………例えば。


『キティちゃんファンクラブ

〈キティちゃんを全力で守る会〉

会長 シシリア・フォン・アロンテン』


とかなぁっ!

アーハッハッハっハッ!



そうだよ、乗っ取っちゃったよ?

会は私が乗っとって掌握したよ!

名前もまた変えたよ?

そんで、私が会長だよーーーっ!



プルプル震えながら、私を見るキティにわざとキョトンとした顔で返し、クラウスを指差して不思議そうに言った。


「何驚いているの?ちなみに名誉会長はこいつよ?」


にゃあぁぁぁぁっ!

と猫目を吊り上げ全身総毛立つキティ。


可愛のもいい加減にして下さいっ!


キティはさめざめと泣き崩れ、ツインテの威力を今更ながらに思い知った様だ。


まぁ、全ては完遂した後だがなぁっ!




その後、にこにこご機嫌なクラウスの膝の上(定位置)で、しっかり生徒会の仕事をこなすキティ。

ちなみに定位置についたキティが使いやすい高さの机がしっかり置いてある念の入れよう。


どうやら仕事に没頭して現実逃避する道を選んだようだが、自分を膝に乗せている男が先程から大好物の獲物を狙う目でガン見している事には気付いていない模様。



「ちょっと予算の事で部を回ってくるよ」


ノワールがそう言って立ち上がったので、キティも慌てて立ち上がろうとしたが、クラウスに腰をガッチリ掴まれていて、逃げ出せない。


腰に回されたクラウスの腕を何とか外そうともがきながら、キティはノワールに声をかけた。


「私も、私も行きます」


ノワールの会計補佐としての仕事をキッチリこなしたいのだろうが、残念。

その獣がせっかく捕らえた獲物を手放す訳がないんだよなぁ。



「いいよ、キティは。男臭い部もあるからね。

キティはそこでは無く、僕の机で良い子で待ってて」


ギラリとクラウスを睨むノワール。

クラウスはそんなノワールに、余裕で手をヒラヒラとさせて、いってらっしゃいのジェスチャーをしている。

終いにはシッシッと追い払う仕草になり、ノワールは舌打ちしながら生徒会室を後にした。



「さて、キティ。ちょっと俺の執務室で仕事を手伝ってくれない」


体よく厄介払い出来たクラウスがキティにそう言うと、キティは小首を傾げながら答えた。


「はい、もちろん。私に出来る事でしたら」


クラウスは嬉しそうに笑ってゆっくり頷く。


「キティにしか出来ない仕事だよ」


そう言われて、キティはますます首を傾げている。



あ〜あ〜あ〜あ〜。

整っちゃったよ。

完全に整っちゃったよ。


この後別室で念願のイチャコラタイムですね、分かります。



訳が分からないといった顔のまま、キティはクラウスに抱き抱えられ生徒会室を後にした。


もちろん、すれ違った瞬間『爆ぜろ』っと呪いをかけておいたが、その程度であの2人のイチャラブがどうこうなるとも思えない。




まぁ、好きなだけイチャラブってきて下さいよ。

その為のツインテだからね。


キティには早くクラウスの溺愛に気付いて、その想いに応えてもらわにゃならん。


あんま気付かないままだと、魔王が魔王化しちゃうからね。


マイルドに迷惑だから、本当に。



そろそろクラウスに愛されている自覚と、自分に自信を持ってもらわないと、次に進めないからね。


フィーネとアーバンをただ泳がせておく訳にはいかない。

この2人に良い様に馬鹿にされ続けていたというままでは、王子妃としての今後に傷が付く。


私が何とか出来なくも無いが、やはりここはキティが自分で立ち向かった方が後々の印象が違うだろう。


卑劣な人間に屈しない精神を皆に見せ付ける必要があるのだ。


その為に、まずはキティが自分の足で立ち上がらなければ話にならない。



まぁ、アイツなら必ず自分の足で立ち上がってくる。

その確信があるから、私は信じて待っている事が出来る。


真綿に包んでただ守る方法もあるけど、私はキティに揺るぎない強い力がある事を知っている。


そうで無ければここまで、自分の死に抗い、ただただ己を磨いては来れなかっただろう。


キティは強い。

これは確信を持って言える。


だから私は、クラウスやノワールには出来ない方法でキティを助ける。


これをやり遂げた時、キティはまた一歩、クラウスに近づける筈だ。


2人が並んで心から笑い合える日の為に、ひいてはキティの本当の幸せの為。


これは乗り越えなければいけない事なのだと、密かに胸の内でキティに向かって呟いた。





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