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EP.54



「エリク君とエリー君、それに師匠のお陰で、アルケミス家から理解を得られた。

まぁまだブルメスターだけだけどね、それでも彼がこの計画に賛同してくれた事は大きな成果だ。

2人共、ありがとう。ご苦労だったね」


エリオットの労いの言葉に、2人は深く礼をした。



「ヤドヴィカ夫人の事は、必ずいつかアルケミス家に伝えられる様にするわ。

フィーネを使って学園の改革を成した暁には、必ず」


力強くそう言うと、2人は安堵するかの様に頷く。


2人共、本当によくやってくれた。

1番の功績はまず間違い無く、師匠から〝茶飲み友達〟の称号を得た事だろう。

師匠が動いてくれていなければ、こんなにうまくいっていなかった筈だ。


今度お礼も兼ねてお茶をしに行こう。

必ず。




「シシリア様、それともう一つ……」


エリーが持っていたスーツケースから、丁重に宝石箱を取り出した。


「……完成したのね?」


私の問いに、エリーが神妙に頷き、ゆっくりと宝石箱を開けた。



中には、レッドベリルとエメラルドで出来た髪飾りが二つ。

レッドベリルは小さな2つの果実の、エメラルドは葉の形をしている。

どちらの宝石も、間違いなく国宝級の超一級品。

で作った、サクランボの髪飾り。



「見事ね、間違い無く最高級の出来だわ。

ありがとう、エリー、エリク」


私は感謝の気持ちを込め、2人を見つめた。

エリオットが隣から宝石箱を覗き込み、うっと息を詰まらせる。


「あの……リア……。

これはもしかして……もしかしなくてもキティちゃんへの贈り物……だよね?」


恐る恐るといった感じのエリオットに、小首を傾げて答えた。


「そうよ?当たり前じゃない。

これが似合うロリッ子が他に誰かいる?」


不思議がる私に、エリオットは冷や汗を流しながら、か細い声を捻り出した。


「あの……これは流石に……キティちゃんに…逃げ道が無い、というか……」


はっ?

当たり前じゃない。

これを贈られて無視出来るキティじゃないわよ?

そんな子じゃないもの。

逃げ道?

ツインテにしない選択肢など元々無いから。


無言でエリオットを見つめると、ダラダラと汗を流し、怯えた表情で泣きそうになっている。


「ちょ、リア、ど、瞳孔が開いてる……。

なんて欲望に忠実なんだ……。

キティちゃん好きってそんなのばっかり。

キティちゃんっ!不憫過ぎるっ!」


遂に私から目を背け、シクシク泣き出すエリオット。


何よ?

何でアンタにキティが憐れまなきゃいけない訳?

全く意味が分からない。



さて、そんな事より……。


「武器は揃ったわ。

カチ込むわよ!エリーッ!エリクッ!」


『はっ、マイロード』


片膝をつき声を合わせて答えるエリクエリーを憐憫の眼差しで見つめながら、エリオットは深い深い溜息を吐いた………。









「ご機嫌よう。キティファンクラブの皆様」


急に現れた私に、キティファンクラブ会合会場が一気に騒ついた。



「ア、アロンテン公爵令嬢っ?」


「嘘だろっ!何でそんな雲上人がこんな所にっ!」


「公爵令嬢はキティちゃんと仲がいいから……もしかして僕達の会に苦言を呈しに……」


「いや、それどころか潰しに来たんじゃ無いかっ⁉︎」



戦々恐々とする会員達を見回し、私は優雅に微笑んだ。



感じるっ!

感じるぞっ!

ロリッ子好きのエナジーをっ!

ロリッ子好きは皆兄弟っ!

今日から仲間に入れてもらうぜっ!

ヘイッ!ブラザーッ!



「アロンテン公爵令嬢様。

この様なむさ苦しい場所に、よくおいで下さいました。

ですが、ここは見ての通り、貴女の様なご令嬢が来る様な場所ではありません。

どこか、別の場所とお間違いになったのでは?」


んっ?ううん。

間違ってないぞ?

私はここに用があって来たんだから。


キティファンクラブ会長のエドワード・ホルテス子爵令息が皆を庇う様に私の前に立つのを、ニッコリと笑って眺めながら、ソルにチラッと視線を流す。


ソルは小さく頷くと、皆に聞こえる様に大きな声を出した。


「本日、アロンテン公爵令嬢様がこちらにいらっしゃったのは、我らがキティちゃんファンクラブに、あるご提案があっての事です。

皆、落ち着いて、アロンテン公爵令嬢様のお言葉を拝聴する様に」


ソルの言葉に一瞬で会場が鎮まり、皆が私に注目した。

ただ1人エドワード・ホルテスだけが、聞いてないっ!何も聞いてないぞっ!と私とソルの顔を交互に見ている。



私は優雅に微笑み、皆を見渡す。

それからゆっくりと口を開いた。


「皆様、突然の訪問で驚かせてしまい申し訳ありません。

私は、1年Sクラス、シシリア・フォン・アロンテンでございます。

今後、どうぞお見知りおきを」


にっこり微笑むと、反射的に皆が頬を染める。

女性慣れしていない令息ばかりなので、推し関係無く女性の微笑みに弱いのだ。



「本日私がこちらにお邪魔致しましたのは、この会を乗っ取る為ですわ」


朗らかに、に〜こりっと微笑みながら言うと、一瞬で皆息を飲み、ザワザワとざわつき始めた。


いつの間にか私の隣に立っていたソルが、ゴホンと咳払いをしてから、口を開く。


「皆っ!静粛にっ!アロンテン公爵令嬢様のお話を最後まで聞く様に」


騒めきが小さくなってゆく。

また会場がシーンと静まってから、私は再び口を開いた。


「本日、今この時より、この会は私が会長となり、今後活動していきます」


ハッキリと言い切ると、皆顔を青くして呆然と私を見ている。



「ちょっ!ちょっと待ちたまえっ!

いくら高位貴族といえっ!何と横暴なっ!

そもそもこの会の会長は私だっ!」


ただ1人、ホルテスだけが顔を赤くして異論を唱えた。


流石は現会長。

高位貴族に対しても堂々と苦言を呈するとは。

その心意気や、良し。


私は敬意を示す様に、ホルテスを見つめ微笑む。


「もちろん、ホルテスさんには名誉会員となって、今後もこの会を支えて頂きますわ」


ニコッと可愛げに笑ってみるが、やはりキティファンには通じない。

デカ女のニコッでは1ミリも心揺るがないらしいホルテスは、キリッと私を真っ直ぐ見据え、怒りを抑える様に低い声を絞り出す。


「申し訳ございませんが、その様な話は看過出来ません。

我らはキティちゃんの愛らしさに魅せられて集まった者達です。

いくらキティちゃんのご学友であるアロンテン令嬢様とはいえ、キティちゃんの愛らしさ、麗しさを我らと共に崇め称える事は出来ますまい。

ご令嬢が冷やかしにお手を出される様な会では無いのです。

どうか、ご理解ご容赦願いたい」


ギリリッと私を睨むホルテスに、私は弾かれた様にオーホッホッホッ!と高笑いを返した。



「何て狭量な事っ!女にはキティの素晴らしさが分からないとでもっ?

その考えこそ横暴に他なりませんわ。

宜しくて?キティたんの愛らしさは性別云々で選別されるレベルではございません。

キティたんこそロリッ子の王道、キングオブロリッ子。

正にロリッ子界のクィーンッ!

しかも合法っ!奇跡の合法ロリッ!

女だとてこの事実の前には屈服せざるを得ません。

まるで童話から抜け出たフェアリー。

地上に舞い降りたエンジェル。

存在そのものが奇跡なのですっ!

その素晴らしさを、女だからという理由でっ、私には理解出来ないだろうなどとっ!

ホルテスさんっ!貴方の様な方が、キティたんの無限の可能性を潰しているんじゃなくて?」


ホルテスをビシィっと指差すと、ウグッと小さな唸り声を上げたじろいでいる。


そこに更に畳み掛ける私。


「私のキティたん愛はあなた方に何ら劣る所の無い本物でございます。

その証拠に、どうぞコチラをご覧下さい」


パチンと指を鳴らすと、エリーが静かに前に進み出て、我が家の紋章入りの宝石箱をパカっと開け、皆に見えるようにゆっくりと左右に移動させる。


途端に騒めく会場。



「あ、あれ、凄い一級品の宝石を使ってあるっ!」


「あんな髪飾りを一体どうやってっ⁈」


「宝石もそうだがっ!デザインが素晴らしいっ!キティちゃんのイメージそのものだっ!」



皆が口々に髪飾りを驚愕と共に称賛するのを聞いて、私はニヤリと笑った。



「皆様、この髪飾りの真意がお分かりになるでしょうか?」


私の言葉に皆呆けた様に首を傾げた。


「この髪飾りはご覧の通り、一級品の宝石で王国随一の職人が仕上げた国宝級もの。

更に、それを収めた宝石箱には我が家の紋章が入っております。

それが意味するところは………つまり」


含ませたまま私が一旦言葉を切ると、ホルテスがハッとした様に顔を上げた。


「淑女たるキティちゃんはその様な物を贈られれば、身に付けざるを得ない……」


ホルテスの呟きに再び会場が騒めき、所々から歓喜の声が聞こえる。



「嘘だろ……まさか……俺達の宿願が叶うのか……」


「キティちゃんが、ツインテに……」


「そんな日が、本当に来るなんて……」


「キティたんの、ツインテ?」


「キティちゃんが、ツインテ……本当に?」



期待を込めた眼差しが一斉に私に集まる。

私はその一つ一つの想いをしっかりと受け止めて、ゆっくりと、深く頷いた。



ウオォォォォォォォォォォォォッ!!


瞬間、会場中を野太い歓声が包んだ。

皆腕を振り上げ、歓喜の涙を流している。



「俺達の願いが遂に叶うっ!」


「ツインテ姿のキティたんを拝める日が来るのかっ!」


「そんなっ……そんな夢みたいな事がっ!」


「アロンテン公爵令嬢様っ!ありがとうございましたっ!」


「万歳っ!アロンテン公爵令嬢様っ!」


「我らが救世主っ!アロンテン公爵令嬢様っ!万歳っ!」



皆が口々に私を讃える中、ホルテスは静かに私の前に片膝をつき、こうべを垂れた。


「我らだけでは到底なし得なかった宿願成就にご助力頂き、誠にありがとうございました。

この上は、私は潔く会長を退き、貴方様にその任を明け渡したく存じます。

アロンテン公爵令嬢様、今一度、貴方様に心よりの感謝を捧げます」


ホルテスの言葉に、私は優雅に微笑み、エリクに目だけで合図した。

エリクはホルテスをゆっくりと立ち上がらせる。

私はそのホルテスに歩み寄り、黙って右手を差し出した。


一瞬躊躇したホルテスだか、私の意を汲み、自分も右手を差し出し、私達はガッチリと熱い握手を交わし合った。


ロリッ子好きは皆兄弟っ!

ヘイッ、ブラザーッ!

これからよろしくなっ!


私達の姿に、会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こり、感動した者が次々に涙を流す。


私とホルテスは最後に目だけでお互いの熱い友情を確認し合い、そっと手を離した。


私は皆に振り向き、居住まいを正すと胸を張り堂々とした声を張り上げた。


「この会に既に入会している皆様から見れば、私はただの新参者でしょう。

ですが、私のロリッ子への、引いてはキティたんへの敬愛は昨日今日の想いではございません。

私とてロリッ子への想いは皆様と同じ。

私達は同志なのです!

私達の宿願はもう叶ったも同然!

キティたんのツインテは必ず私がお約束致します。

なればっ、今一度この会の存在意義を問う!

キティたんのツインテが叶えば終わる会でしょうか?否っ!

では、また新しくキティたんへの要望を掲げ直せば良いのか?否っ!

我々のキティたん愛はそんなものではございませんっ!

今日より我々はこの会の全力を持って、キティたんを愛し、キティたんを守り切る、その様に生まれ変わりましょう!

我々はいかなる敵からもキティたんを守り、これを会の目的と定め、今日よりっ!

〈キティちゃんにツインテにしてもらう会〉改め〈キティちゃんを全力で守る会〉に改名。

全勢力にて、これに当たると皆で誓いを立てましょう!」


ウオォォォォォォォォォォォォッ!!


再び野太い歓声が上がり、会場の熱が一気に上昇する。



熱いっ!

熱いぜっ!

皆のロリッ子への熱量っ!

そうだよなぁ、ロリッ子への想いはまだまだこんなもんじゃないよなぁっ!


感無量で拳を天に掲げると、皆も同じく腕を振り上げ、この時確かに、会場中が一つになった。


ややして、この熱い空間にそぐわない淡々としたエリーの声が響く。


「それでは、本日この時より、キティ様ファンクラブの会長を、シシリア・フォン・アロンテン様とし。

副会長は私、エリー・ペイルが勤めさせて頂きます。

私はシシリア様のファンクラブ会長と兼任になりますので、現副会長ソル・サイドレンを書記兼副会長補佐とさせて頂きます。

現会長、エドワード・ホルテス氏は名誉会員として、引き続き会報誌の作成をお願い致したく存じます。

それから、名誉会長に第二王子殿下、クラウス・フォン・アインデル様が着任なさりますので、その旨皆様ご周知下さい」


サラッと告げられたエリーの言葉に、会場中がまたも大きく騒つく。

私はニヤリと笑って、皆に向かって口を開いた。


「そうです、皆様。この度、このキティファンクラブの名誉会長に、恐れ多くも第二王子殿下が名乗りを挙げて下さいました。

この事が意味する事を、ご聡明な皆様ならもうお気付きでしょう」


私の言葉にますます騒つく会場。



「おい……まさか……」


「……嘘だろ?」


「そんな事、あり得るのか?」


「まさか……まさか俺達……」



半信半疑な会員達に、私は力強く頷き、キッパリと言い切る。


「この、キティファンクラブは、本日より、公式となります!」



皆が驚きを隠せず、目を丸くし、一転水を打ったような静けさが会場を包んだ……。


後……。



ウオォォォォォォォォォォォォッ!!


ウオォォォォォォォォォォォォッ!! 


ウオォォォォォォォォォォォォッ!!



割れんばかりの大歓声が巻き起こり、遂に会場は熱量MAX!


冷風魔法も吹き飛ばす勢いの熱気に包まれた。



いいね、いいねっ!

滾るぜっ!

私の方のご令嬢中心のファンクラブじゃこうはいかないっ!

うふふオホホじゃ物足りないんだわっ!


ロリッ子への熱い滾りを分け合える、おまいらが、大好きだっ!



思わず涙ぐむ私にエリーがそっとハンカチを渡しながら、耳元で小声で問いかけてくる。


「完全に掌握なさいましたね、お見事でございます。

それで?彼らを如何様に致すおつもりですか?」



エリーの問いに、私はニッコリ黒い笑顔を浮かべた………。





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