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EP.51



おっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!

夏だっ!夏休みだっ!

花火に縁日、りんご飴、焼きそば、金魚すくい、市民プールの夏だぜぇっ!



ギラギラと照り返す太陽の下。

ビーチにパラソル、目の前は透き通った海っ!

この世界の海はとにかく綺麗だ。


うんうんと満足気に私は何度も頷いた。


夏休み前、合宿だ!親睦会だ!海だ祭りだ!と騒ぎに騒いだ甲斐があったぜ。


私達生徒会は今、親睦会を兼ねた夏合宿に来ている。


まぁ要は、生徒会で夏合宿と称して海に遊びに来ているだけなんだけど。


このイベントは、〈キラおと〉で高速ルート(ヒロインの生徒会入り)に乗ると発生するイベントなのだが。

ここがゲームの中では無い(と私は確信している)以上、自力で発生するしかないな、と発起人私で皆を巻き込んだ訳だ。


夏休みだってのに、海に来ない訳にはいかないじゃないっスか。



こんなに暑いのに、誰も汗ひとつかいていないのは、ノワールとレオネルを使って水魔法と風魔法でここら一帯に結界を張ってるから。

めっちゃ涼しい。


更にミゲルの光魔法の加護のお陰で、紫外線もカット。

日焼けの心配もない。


便利だなぁ。コイツら。



ちなみにキティはというと、浮き輪で海に浮かびつつ、クルクル回っている。


海の水が澄んでいて下まで見えるから、そこから見える貝でも取ろうと下に手を伸ばして浮き輪ごとクルクル回っている。

よく小さい子がやりがちな現象。


あ〜今日も安定の可愛さ。

沖に流されていってるのにも気付いていない。

ははははははっ。


あっ、クラウスが慌てて飛び込んでいった。

あははははははっ。


夏だなぁ⭐︎



眺めていると、キティが完全に沖に流される前にクラウスが確保してくれた様だ。

なんかそのまま2人でイチャコラしているけど、まぁ、夏だし海だし許してやろう。



気が済んだのか、クラウスはキティの浮き輪を掴んでこちらに戻ってくる。

浮き輪ごとスーッと海の中を移動するキティ。


ラッコ?

ラッコの赤ちゃんなの?



キティは浜辺に戻ると、専属侍女からタオルを受け取り、私の所に向かって来た。



「キティってば、浮き輪でプカプカ浮かんでどんどん沖の方に流されて行くから、クラウスが血相を変えてたわよ?」


私の言葉にキティは目を見開いて驚いていた。

いや、やっぱり気付いて無かったんかい。


「まったく、呑気なんだから」


クスクス笑うと、キティは拗ねた様に口を尖らせる。


「まぁ、これだけのメンバーが揃っていて、万が一も無いけど。

それにしたってさっきのクラウスの顔ったらっ!」


とうとう堪え切れず大笑いする私。


いやぁ、私1人気付いてはいたんだけど、あのクラウスの焦る顔が見たくてさ〜〜。

ほら、アイツも偶には血相くらい変えないと表情筋死ぬじゃん?


ジト〜っと見つめるキティの視線に気付き、ペロッと赤い舌を出す。


途端、キティは口に手を当て私を指差した。

古式ゆかしい、お巡りさんコイツです、ですね?

分かります。

私もよく使うから……エリオットに。


アイツの場合はガチだけどね?

冗談じゃ無く、ガチのやつだけどね?

知ってる?

サイコパスって犯罪者である事に無自覚なんだぜ?

基本、こっちがいくら騒いでも、不思議そうに首を傾げてるんだわ。


あ〜〜。

思い出したらぶん殴りたくなってきた。




……しかし、たまらんなぁ、おい。

私は瞬時に気持ちを切り替え、キティを上から下まで存分に眺めて口元を綻ばせる。


今日のキティはクラウスセレクトのロリッ子水着。

アイツ、他の事はいい加減だが、キティについてはしっかりキッチリ押さえてくる。

セパレートの水着で、上は半袖にセーラ襟、胸の前にちょこんとリボンまで付いている。

下はヒラヒラフリフリスカート付き。


グッジョブッ!

これはもうっ!グッジョブと言わざるを得ないっ!


セーラー襟にフリフリスカートって!

天才かよっ!

クラウスお前は天才だよっ!


分かるっ!

これ着せちゃうの、分かるっ!


いくら水着でも、キティに露出など無用。

過度な露出より、逆にこっちの方がクるっ!


あ〜〜、ビーチに妖精さんが舞い降りて来ちゃった〜。

どうしよう。

戯れたい。

この妖精さんと、キャッキャッうふふって浜辺を戯れたい。


んげへへっとゲスい笑いを漏らしていると、キティも私をジーッと穴が空くほど見つめながら、口を開いた。


「ねぇ、それにしても……」


私の水着と自分の持っている浮き輪を交互に眺める。


「この水着とか、浮き輪とかってさぁ」


私がサッと手を上げると、エリーがスッと距離を離した。


キティはハッとした顔をして、申し訳無さそうに眉を下げる。


私はそんなキティに向かって片目を閉じて笑った。


「エリーは何を聞いても絶対に口外もせず、記憶にも留めない様に訓練されているけど、まぁ、一応ね。

いつものアレを使うと、今日のメンバーには直ぐに見破られちゃうから、余計に興味を持たれそうだし」


キティは静かに頷いて、私の隣のビーチチェアに腰掛けた。

そして、私にだけ聞こえる様に、小声で話す。


「ここって、赤髪の魔女様の領地よね?」


「そうよ、あの人は色んな国で、まぁ、功績を残してるから、こうして領地なんかも賜っているわね。

管理は王家に丸投げだけど」


私も合わせて小声で答える。


「でも、赤髪の魔女様のほぼ趣味で作られた土地って聞いたわよ。

ってか、完全にリゾート地じゃない?

しかも、前世の」


キティの言葉に私は片眉を上げて、目だけで続きを促した。


「赤髪の魔女様って、60年前くらいに突然現れたのよね?

それから、帝国を始め、近隣諸国まで急速に発展していった。

『ド・ライヤー』や『ソ・ジィキ』とか、あとこの水着に浮き輪にリゾート地。

どう考えても、赤髪の魔女様って転生者じゃない?」


キティが転生者と言う単語を、より一層声を小さくして言うので、可笑しくなって私はニヤっと笑った。


「どうかしらねぇ。元々この世界には魔法という存在があって、生活魔法で私達の前世で使っていた便利な物はほぼ全て再現されていたのよ?

帝国では生活魔法が当たり前の事だから、それを物で再現するって発想が無かった。

そこを赤髪の魔女がある意味新しい発想で切り込んで、それが大当たりしただけかもしれないじゃない?」


私はそこで一旦言葉を切り、またニヤッと笑って続ける。


「それに赤髪の魔女が転生者だったとして、これだけ色々な前世の物や知識をこの世界に再現してるとしたら、1番肝心な物が足りなくない?」


そう言って私が片手で小さな箱を持つ様な仕草をして、もう片方の手の人差し指で、それをスイッと上下になぞる動きを加えると、キティは、あっ!と小さく声を上げた。


そっ、スマホ。

やっぱりコレが無いのは、転生者としてかなりの痛手だ。

赤髪の魔女、師匠が転生者だとキティは気付いた様だが、これだけの物をこの世界に再現しておいて、スマホだけは再現されていないのはやはり違和感があるのだろう。

キティは難しい顔をして首を捻った。


「でも、それだって、単にスマホ以前の時代の人間が転生しただけかも知れないでしょ?」


キティの言葉に、私はふむと頷いた。


「確かに、それは有るわね。

でもどちらにしても、転生者である私達的には、不便が無くていい事じゃない」


私の返事に、キティは確かにといった風に頷く。

疑問はあれど、与えられた利便性をありがたく享受しておく気になったらしい。



まぁ、まだ納得はいっていないみたいだが、真実は有耶無耶のままにさせて頂く。

私ははぐらかす様に口元だけでニヨニヨ笑う。

こーゆー時の私は、本当の事は絶対に話さない事を、この数ヶ月の付き合いでキティも理解してくれている様だ。



ちなみに、師匠は何故スマホをこの世に再現しないのか?

その答えは単純明快。

ただ単に嫌いだから。


師匠だって前世では便利に使ってはいたが、やはりアレがあると家族の会話が減るとぶつぶつ言っていた。


この世界にまで持ち込むつもりは無いらしい。




「まぁまぁ、それより見てよ、キティ」


私のニヨニヨ笑いにブスっとするキティに、クラウス達の方を指差した。



「……ジュルッ……眼福ですなぁ」


キティはわたしの指先を目で追って、涎を垂らしている。


おやおや、イケナイロリッ子ちゃんですなぁ。


キティはすっかり、クラウス達の逞しい半裸に夢中になっている。


はっはっはっはっ!

この世界に課金は無いからなぁ。

アレ全部タダだから。


いくらでも舐め尽くす様に見てやれ見てやれ。



「これ、夏イベだよね?生徒会の夏合宿」


キティの問いに私はヘラリと笑って答える。


「ま〜そうでしょうね」


私が発生させたイベントだけどね!



そんでもちろんヒロインなんぞ不在。

まさかの二大悪役令嬢参加。


くっくっくっ。

あ〜〜愉快愉快。



途端にキティは鳥肌を立て、辺りをキョロキョロ見回し始めた。

刺されん刺されん。

夏イベにヒロイン差し置いて悪役令嬢が参戦しても誰にも刺されないから安心しろ。



「何してんの?ほら、お昼食べに行きましょ」


私に言われ、キティはビーチチェアから腰を上げた。


キティがクラウス達の方に歩いて行くと、夏の太陽を背負った水着姿の攻略者達が待っている。

クラウスとノワールがキティに手を伸ばして笑っていた。


キティは後ろ姿からでも分かる程、歓喜に震えている。



どーよっ、どーよっ!

私プロデュース夏イベッ!


転生してからずっと人知れず頑張ってきたキティに、ちょっとは〈キラおと〉の世界を味わって欲しくて人知れず企画したんだぜ!


〈キラおと〉オタクのクラウス沼住人には堪らないでしょ〜よっ!


いい仕事したっ!私っ!



1人自分の仕事に酔いしれる私。

ふっふっふっ………。

ふ〜〜……さて。


「エリー」


私の一言に素早く動いたエリーは、私の側に侍っていた王宮のメイドの腕を後ろに捩じ上げ、その首にナイフをピタリと当てた。


「シ、シシリア様っ!一体何をっ……」


動揺するそのメイドをチラッと横目で見て、私は低い声を出す。


「貴女……王宮のメイドじゃ無いわね……」


私の言葉にあからさまにそのメイドはたじろいだ。


「そんな……何故っ……?」


震える声を出すメイドを、私はじっと見つめ、いや、ジト目で見つめた。


「視線よ……さっきから私を舐め回す様に見る、その目……」


そこまで言うと、そのメイドは慌てて目を伏せるが、それでも視線はガッツリ私の胸元から外さない。


「アンタ……エリオットよね?」


ギリっと睨み上げると、そのメイド、いやもう面倒くせーわっ!

メイドに化けたエリオットは面白いくらいに動揺しまくる。


「なっ!何故私が王太子殿下だなどと、そんなっ……」


まだ誤魔化そうとするエリオットに呆れつつ、私は真顔で自分の鼻の下を指差した。


エリオットはつられる様に自分の鼻の下を触って、その手についた血に驚いて目を見開いている。


……お前、鼻血が出てる事にも気付かず、どんだけ集中して見てたんだ……。

私の水着姿を。


見覚え無い美人メイドが私を、よく知っているお馴染みのあの目線で舐める様に見ながら鼻血垂らしてりゃ、誰でも貴様だと気付くわっ!



「いや、待ってくれ。これには理由がっ!

正統なる理由がちゃんとあるんだっ!」


慌てて私を手で制しながら、エリオットはブンブン頭を振っている。


鼻血が飛び散るからやめろ。



「その、正統なる理由って何よ。

一応聞いてあげるから、言ってみなさいよ」


私の言葉にエリオットは助かったとばかりに顔を輝かせた。


「いいかい?シシリアッ!

まず僕は、その、水着っ!シシリアの水着姿が初見なんだよ?

それなのに、そんなっ、そんなキワドイッ!

そ、そ、そ、それって……」


ただのビキニだが?

何なんだ?一体。


エリオットはビキニ姿の私を上から下まで舐る様に眺め、うっとりと頬を染める。


「そんな……爆乳Gカップ大明神様が、水着の下ではち切れんばかりの、そんな……。

ハァハァ、なのに、細い腰に、スラッと長い足……。

そんな、そんな姿をっ!僕がっ!この僕がっ!

見逃す訳がないじゃ無いかっ!」


興奮したエリオットは、鼻血をブシャッと噴き出しつつ、熱弁している。



ほほぅ。

それが貴様の正統なる理由か……。

なるほどなぁ……。


言いたい事はそれだけか?


私は親指で自分の首をかき切る仕草をする。

エリーが静かに頷いて、エリオットの首に当てたナイフにグッと力を込めた。


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!

僕のっ!僕の話をよく聞いてっ!

そんなっ、女神が如きシシリアの姿をこの目で拝めないなんてっ!

そんなのあり得ないじゃないかっ!

この地上に女神がご降臨なさったんだよっ!

エリーッ!君なら分かってくれるよねっ⁉︎」


尚も食い下がるエリオットに、エリーは難しい顔をして、だがしかし、スッとエリオットの首からナイフを離してしまった。


「……くっ、同意致します……殿下」


苦しそうに口を開くエリー。


いやいやいや、何言い包められてんの?

そんで、今の話のどこに同意致しちゃったの?



「ありがとう、エリー。

君なら分かってくれると思ったよ」


ポンポンと肩を叩くエリオットに、エリーは深く礼を取る。


いや、何が?

全く分からん。

今2人の間に何が生まれた?


エリオットはニッコリ微笑むと、胸元からファサッとパレオを取り出し、私の体に優しくかけた。


「いいかい?シシリア。

君は自分の魅力に疎い所があるからね。

いくら昔馴染みとはいえ、年頃の男の前でそんなに肌を露出しちゃいけないよ。

露出していいのは、僕の前だけ。

分かったね。

僕の前ならば、ハァハァ、そ、そのビキニも、いつでもウェルカムだからっ!」


血走った目で鼻血をダラダラ流しながらそう言われ、一瞬で全身に鳥肌が立つ。

私は素早くエリーからナイフを奪い、躊躇なくエリオットに向けてシュッと投げた。


エリオットの首元を狙った筈のナイフは、何も無い空に弧を描き、やがてポトリと砂浜に落ちた。



「分かったねーー、シシリアッ!

露出は僕の前だけだよーーーっ!」


いつの間にか遠くに移動していたエリオットが、ブンブンと手を振りながら、やがてその姿を消した。



……だから、何をしにきたんじゃアイツは。


人を散々イラつかせるだけイラつかせて消えたエリオットに呆然としていると、クラウスが音も無く私の背後に立っていた。



「兄上が来ていなかったか?」


「そうね、どうかしらね」


力無く答える私に、クラウスは憐憫の目を向ける。



「お前も、よくあんなの相手にするな」



お、ま、え、が、言うな?

それ、皆キティに同じ事思ってるからね?


私はあのわいせつ色魔魔人の消えた方向を虚に見つめながら、ハハハと乾いた笑いを上げた………。




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