EP.49
誤字報告ありがとうございます!
大変助かりました!
お手数をおかけ致しました(土下座)
春が過ぎ季節はあっという間に夏に変わった。
私もキティも相変わらずバタバタと忙しくしている。
つい最近、件のあの2人の謹慎が解けたから、いよいよエリオットの計画が本格的に動き出す。
フィーネは予想通り、E、Fクラスの一部男子生徒を自分の傘下に加えていた。
皆、顔つきが随分下卑てらっしゃる。
間違い無く、魔族の力を使われているな。
フィーネが登校始めると同時に、やはり貴族生徒による一般生徒への、今までに無い過激な暴挙が始まった。
暴言、器物破損、窃盗、恐喝、暴行……。
何でもござれかよ……。
全てフィーネの指示の元行われている。
ターゲットになった一般生徒にもちろん非など無い。
フィーネより成績が良い。
フィーネより美しい。
フィーネより良い物を持っていた。
フィーネより人望がある……。
無い無い尽くしのテメーを基準にしてりゃ、そりゃ絡む理由はごまんとあるだろうなぁっ。
更にフィーネを羨望の眼差しで見ない、美しさを賞賛しなかったなど、無理過ぎる要望まで折り込まれちゃそりゃお手上げだ。
もちろん被害に遭った一般生徒はエリオットのスキルで瞬時にコピーと入れ替わり、本人は肉体的にも精神的にも無傷。
用意した専用施設でゆったり学業に励めると、逆に喜ばれている。
本来なら、優秀な彼らの居場所である筈の学園がどれほど歪み彼らを苦しめてきたかがよく分かる結果となってしまった。
調子付いたフィーネは、その蛮行を全てキティのせいにする為、手下を使ってキティのネガティブキャンペーンを始めたところだ。
曰く、自分がキティの行き過ぎた虐めの1番の被害者であり、代表なんだとか。
アーハッハッハ、もうっ!笑うしか無いっ!アーハッハッハっ!
今すぐ消し炭にしてやりたいが、そうもいかないので、ギリギリ歯軋りする毎日だ。
まぁ、SクラスとA、Bクラス以外は、校舎自体離れているから、奴らとは本来なら顔を合わさないのが普通の事。
お陰でキティに直接被害は無いが、フィーネはあっちこっちでキティにされたという虐め(妄想)の実情を風潮して回っている。
狂言が過ぎると一笑に伏されるような話だが、高位過ぎてキティの事を何も知らないE、Fクラスでは、あろう事かフィーネに同情する生徒まで現れ始めている。
C、Dクラスでは流石にそんな事も無いかと思っていたが、こっちはこっちでアーバンが煽りに煽ってくれているので、キティに対して辛辣な意見も出始めた。
元々、社交界デビューまで引き篭もっていたのにも関わらず、クラウスの心を掴んで離さなかったキティをよく思っていなかった人間は一定多数いる。
皆、社交界デビューでその美しさの前に、完膚無きまでに叩きのめされたというのに。
まったく、本来なら民衆を導く筈の貴族が同調圧力に屈するなど本当に嘆かわしい話だ。
さて、S、A、Bクラスといえば、こちらは流石に貴族たるに相応しい生徒の集まりであるし、この辺の高位貴族の令嬢とはマメにお茶会などで交流を図っている。
キティの人となりは皆ちゃんと分かってくれている。
そんな訳で、これについてまずSクラスでは話題にも出さないし、隣の続き校舎のA、Bクラスで噂されるとしても、大した事はない。
今も、移動教室のためA、Bクラスの廊下をキティが歩いていると。
「まぁ、あのキティ様が……」
「そんな事がっ……」
「お可哀想に……」
と、ヒソヒソ声が聴こえてくる。
もうねっ、お可哀想って言われておるっ。
この上なく高貴な存在なのに、例の頭がアレな男爵令嬢に荒唐無稽な話を広められ、キティ様、なんてお気のどくなの。
ってのが、こちらでの見解。
的確っ!大変に的確。
噂話を鵜呑みにせず、皆ちゃんとしたものの見方が出来る優秀な人間ばかり。
まぁ当のキティはヒソヒソコソコソされて、流石にビクついているけどね。
チキンハートだから。
廊下で1人、オドオドキョロキョロしているキティの隣に音も無く忍び寄り、私はわざとらしく声を上げた。
「あら〜、ここまで噂が広がってきたわね〜」
ビックーッ!と飛び跳ねるキティ。
うん、良い反応だ!
今日もなまら可愛い。
私は、ふむっと顎に手をやり何やら考えている風を装う。
「ねぇ、ちょっと。噂って私の事?
もしかして、どんな噂か知ってるの」
キティの問いに、私はちらっそちらを見て、また考え込む、風を装う。
「ん〜〜早めに打つべきか、膿を出し切るべきか……」
むむむと悩みつつ、キティの様子を伺うと、人の話を聞け、と言いたそうな目でこちらを見ている。
いや、これは本当に悩んでいるから、ちょっと待て。
エリオットの計画では、フィーネ率いる貴族令息達が一般生徒に手出しするだけでは事実をもみ消される恐れがあるので、次に必ず狙ってくるであろうキティに被害を被って貰うって手筈なのだ。
いや、もちろん本当に被害などは及ばせないが。
だがさっそくアイツらはキティに手を出してきた。
今この国で、王妃に次ぐ高貴な女性の1人であるキティに、だ。
その辺の判断も出来なくなっているのは、魔族の力に堕ちた者ゆえだろうな。
さて、キティは高貴な存在過ぎて、確かに子爵、男爵レベルでは人となりを知る機会など無いだろう。
フィーネに堕ちた令息達や、アーバンの取り巻き達はさて置いて、その他の生徒までこれ以上巻き込まれない様に、キティという存在を知らしめておくのも一つの手だな。
うん、そうしよう。
私の最推し見せびらかしに行こうっ!(本音)
「どっちにしても、顔出しはしときましょうかっ!」
ポンっと手を叩いて、私はキティの手を握り、スタスタと歩き始める。
キティは訳も分からず私に引っ張られてワタワタしていた。
あっ、ヤベ。
歩幅忘れてた。
半分キティを引き摺ってる状態になってた、ごめんごめん。
キティを連れて来たのは、学園の人間なら誰でも利用出来る中庭。
中庭と言っても、池や噴水もあり、ちょっとした公園くらいの広さがある。
「よし、この辺でいいわね」
ここまでまったく何の説明も無く引き摺られる様に連れてこられたキティは、ジト目で私を見ている。
そんなキティをまぁまぁと手で抑えつつ、ニッコリ微笑み返した。
「ここは私を信じて、ねっ。
スマイル、スマ〜イル」
ますますジト目で見つめるキティ。
ちっ、怪し過ぎたか。
私は、う〜むと一瞬考えるように唸り、ポンっと手を打った。
「今日のお茶でマカロン出しましょうか?」
途端にコロッと淑女スマイルを浮かべるキティ。
私に向かってにっこり微笑むその笑顔。
オッケー!100点っ!
「よしっ!」
全開のサムズアップを返すと、ちょっとイラッとした顔をされたが、頑張れっ!マカロンの為だ!
こんな時の為に餌付けしといてマジで良かったっ!
早速私はすうっと息を吸うと、にっこり微笑み、わざとよく通る声でキティに話しかけた。
「今日は良いお天気ですから、こうして散歩していると気持ち良いですわね、キティ様」
瞬時に淑女モードに切り替えた私に、キティも慌てて調子を合わしてくる。
「ええ、本当ですわね、シシリア様」
よしっ!今だっ!
指をくいっと動かして、風魔法で小さな風を起こし、キティのローズピンクの髪を優しく巻上げる。
フワリと風に髪をなびかせる超絶美少女。
サイコー、控えめに言って、私の演出サイコー。
キティは不思議そうにその小さな頭を可愛く傾げた。
ハイ!完璧!
完全に整いました!
途端に、周りがザワザワと騒めきだす。
「まぁ、なんて可憐なのかしらっ!」
「あの方が噂のキティ様?」
「思っていたのと違うわ」
「あんなに小柄な方だったのね」
「ええ、お小さくて華奢でいらっしゃるわね」
「あんな方が本当に噂の様な事が出来ますかしら?」
「何かの間違いじゃなくて?」
「でも私、直接フィーネさんにお聞きしたのですけど……」
ヒソヒソコソコソちらちら。
よしよしよしっ!
皆キティの愛らしさに注目してるっ!
どーよ、うちのキティたん。
なまら可愛いでしょーよ。
さてと、お次は……。
私は目だけで辺りを見回し、丁度おあつらえむきの令嬢2人を発見する。
胸の校章はF。
頬を染めてうっとりキティを見つめている。
よし、あの2人にしよう。
スキル魅了っ!発動っ!
レベル15だけどもっ!
キティに近寄りたがっているあの2人を、自分達の方からこちらに近寄らせるくらいなら、イケるっ!ハズっ!
ややして、意を決した様に2人の令嬢が私達のところに駆けて来て、カーテシーで礼をとった。
やった!イケたっ!
スキルを人に使った事ないからどんなもんかと思ったけど。
上手くいったぜ!
キティは2人を前にして、横目でちらっと私を見て促す。
この2人にいち早く楽にして貰いたいが、自分より高位な私が話しかけない限りそれを伝えられないからだ。
私は直ぐさまにっこり微笑み2人に声を掛けた。
「ご機嫌よう、良い天気で何よりですわね」
2人は私に声を掛けられ、頬を染めて顔を上げる。
「シシリア様、キティ様にご挨拶申し上げます」
「シシリア様、キティ様がつつがなくお散歩をお楽しみいただけます様に」
そう言って2人はまたさっと礼をとる。
キティは2人の前を通り過ぎる時、微笑んで声を掛けた。
「お2人とも、ありがとう。
楽になさってね」
2人はパッと顔を上げて、ますます真っ赤に頬を染めた。
可愛らしい様子にキティはふふふっと笑って、私の後を静かに着いてくる。
途端、背後からまた騒めきが。
「見ましてっ?Bクラス以下の生徒はお相手になさらないって、誰が言いましたのっ?」
「お優しく微笑んで下さいましたわっ!」
「なんて優雅な方なんでしょう……」
「あんなにお小さくお可愛らしいのに、とても淑女らしいお振る舞いだわ」
「誰かしら?傲慢で鼻持ちならないなんて仰ったのは?」
「私じゃないわよっ!」
ザワザワと騒がしい声から少し遠ざかったところで、私は1人ほくそ笑んだ。
派手な火消しは必要無い。
チラッとキティをお披露目しただけで、ハイ、これ。
流石傾国のロリッ子。
北の重鎮共も虜にした愛らしさ。
ウブな学生などイチコロだな。
皆食い入る様に見ていたから、全てを悟ったに違いない。
まず、あの2人のした事は、多少不躾でもある。
私のスキルに後押しされただけだから、もちろん2人に非は無いが、遠巻きに見るだけならまだしも、あちらから近寄ってくるには貴族位が違い過ぎる。
まずキティはそんな2人に声を掛ける様に私を促した。
次に、自分も2人に声をかけ、あまつさえ楽にする様にと言ったのだ。
つまり、カーテシーを崩して良いと伝えた事になる。
それだけでキティの人となりは充分に伝わっただろう。
いやぁ。
キティを連れ回すだけの楽なお仕事。
これでフィーネが何を言って回ろうと、信じない人間は信じない。
自分の目で見たキティの方を信じるだろう。
つまり、これから起こる一連の面倒事に無関係で居られるのだ。
なっはっはっはっ!
私、完璧!
と、自画自賛していると、前からフィーネが歩いてくるのが見えた。
フィーネはこちらに気付いても、立ち止まって礼を取る訳でも、横に避けるでも無く、真正面からズンズン真っ直ぐこちらに向かってくる。
そして私達を睨みつけながら、すれ違う瞬間、ボソッと呟いた。
「あんまり調子に乗らない事ね、クラウスは必ず私が取り返すから」
低いドスの聞いた声にもキティは一切反応せず、涼しげな顔で通り過ぎた。
………いや、スカートが微かに揺れている。
足、ガクブルだな?
サンバのリズム刻んでるな?
チキンハートが悲鳴上げてるな?
なのに、よく耐えてるっ!
偉いっ!偉いぞっ!キティ!
ちなみに私もよく耐えた!
顔面に拳をめり込ませてやりたい衝動をよく抑えたっ!私っ!
誰かっ!私らを褒めてくれよっ!
頑張ってるわっ!私らっ!
後ろから、まだフィーネの視線を感じるが、私達は振り返る事無く淑やかに歩き続ける。
本音を言えばっ!今っ!すぐっ!
踵を返してあの女の顔面を一発殴りたいとこだがっ⁉︎
キティが淑女に許される最大スピードで歩いてるから、いち早く奴から離れたいんだろうと我慢する。
「……あの女……まったく懲りてない様ね……」
淑女の笑みをまったく崩さず、だがしかし静かに怒りに燃えている私を横目でチラチラ見ながら、キティのスカートがもう誰が見ても一目瞭然なほど揺れている。
おい、何でだよ?
今度は何にビビってる訳?
えっ?私?
私にビビってんのっ⁈
えっ?そんな夜叉ってた?
軽くイラッとしたくらいなんだけど。
軽く顔面殴るくらいで収まる程度だったんだけど。
そ、そんな肉食獣に睨まれた小動物みたいにカタカタ震えられたら、流石に傷つくわ!
くっ!しかし可愛い。
ビクビクオドオドカタカタ震えてるキティこそ正義!
しかも、目尻に涙が浮かんでる完成形っ!
原作キティではあり得ない姿だが、今なら分かる。
これこそが我が最推しの真骨頂であるとっ!
分かるわ〜〜。
クラウスが追いかけ回して捕らえて離さない気持ち。
実によく分かる。
これは本当にヤバい。
国として保護しなきゃいけないレベル。
国レベルの保護対象。
今現在完璧な守護神が常に引っ付いているとはいえ、やはり念には念を。
やはりここは、この国を代表して私がオハヨウからオヤスミまで見守らねばなるまいっ!
常に守る為にはやはり、抱っこで持ち運び、お茶や食事も膝に抱っこで………。
そこまで考えて、私はハッとした。
し、思考が……。
私の思考があの変態モンスター兄弟に侵されているっ⁈
いや、違うっ!
これは、これはっ!
最推しへの抑え切れない愛っ!
断じてあの変態セクハラモンスターと同じでは無いっ!
無いのだっ!
無いったら無いっ!
ふ〜〜。
よしよし、落ち着け。
うん、落ち着いた。
さ、そういう事で。
この後のお茶はキティは私の膝抱っこで。
ふふふ、ふふふふ。
ああっ!楽しみだなぁっ!
隣で何故かキティがブルっと震えているけど、また今度は何にそんなに怯えているのだろう?
チキンハートだなぁ。
安心しろっ!
私が何もかもから守ってやるからっ!
なっ!




