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EP.47



「今日は随分ご機嫌斜めだね、リア?」


ふふっと微笑んで、私の顎を掴みクイッと上向かせるエリオット。

死にたいみたいなので、遠慮なく4属性複合型私オリジナル必ずエリオット滅する魔法の詠唱を始めると、エリオットはスススと離れていった。


ちっ!

本当に滅する事が出来るか試したかったのに。



ここは王宮の王太子の宮の庭園。

エリオットは忙し過ぎてあまり帰って無いので、今日ここにエリオットがいる事にこの宮の使用人達もちょっと浮き足立っている。


自分の宮にキティを囲って用がない限り出てこないクラウスとは大違いだ。


ちなみにエリオットの執務室の隣には、エリオット専用の仮眠室があるのだが、いつもそこまで辿り着けずソファーに行き倒れている……。


実は頑張ってんだよな、エリオット。

あんまり邪険にするのも可哀想だけど、ちょっと甘やかしたらどこまで増長するか考えたくも無いので、今後も邪険にするがな。



「それで?何でそんなにご機嫌斜めなのかな?」


ニコニコ笑ってはいるが、私のオリジナリエリオット専用攻撃魔法を警戒しているのか、額に汗を掻いている。


「アンタのじっ様の事で、胸糞悪い思いをしたのよ」


ギラリと睨み付けると、エリオットは片眉を上げて興味深げな顔をした。


「へぇ、それは申し訳無かったね。

それで、どんな事があったの?」


私は溜息を吐きつつ、先日キティから聞いた話をエリオットに話して聞かせた。


エリオットは難しそうな顔で真剣に聞いていたが、私が話し終わるとフッと息を吐いた。


「お祖父様の事は未だに尾を引いているとは思っていたけど、まさかキティちゃんの祖母がそんな事をね……。

あの時の事はお祖父様が無理やり力ずくで押し進めたからね。

色んなものも握り潰されていて、公的な文書もあまり残っていないんだ」


こめかみを押さえて苦々しくそう言うエリオットに、私は首を傾げた。


「でも、前国王は賢王と呼ばれる程の人物だったわよね?

真面目で穏やかで謹厳実直な理想の王様。

それが何故、王太子時代にそんな愚行を犯した訳?」


私の疑問に、エリオットは困った様に眉を下げた。


「リアはクラウスのキティちゃんへの執着をどう思う?」


「異常ね」


一切の迷いなくそう答えると、エリオットは小さく声を上げて笑った。


「そうだね、まったく異常だよ。

だが残念な事に、王家にはその異常性が脈々と受け継がれてきたんだ」


はっ?

何それ?

初耳なんだけど?


目を点にする私に、エリオットはクスっと笑った。


「だよね、そうなると思うよ。

国のトップである一族が、そんな異常性を受け継いできたなんて、公には言えないからね」


じゃあ、その異常性が如実に表に現れてしまったのが、前国王とクラウスって訳?


クラウスは第二王子だからある程度……いや、随分楽して自由にしているけど……。

例えばアイツが王太子という立場だったら?


愛する者を手に入れる為に前国王の様に卑怯に立ち回るのだろうか……。


いや、無い無い、無いな。


私はフッと笑って首を緩く振った。


アイツなら間違いなく王太子という立場も含めて全てを薙ぎ払う。


国など簡単に捨て去って、キティを取るな。


今初めてクラウスが王太子じゃ無くて良かったと、心の底から思った。


こんなでも、やっぱり王太子はエリオットであるべきなのだ。

こんなでも。



「その異常性とやらは1人の異性に執着するって事だけなの?」


私の問いに、エリオットは静かに頷いた。


「そう。そこにだけ異常さが現れるんだ。

僕はね、これは獣人の番に対しての異常さによく似ていると思ってる。

獣人は番に対してあり得ないほどの執着を見せる。

今は獣人に対して研究も進められ、その執着を抑える薬も開発されているけど、それでも番を見つけた獣人の異常さは尋常では無い。

とはいえ、そもそもが番に出会える獣人はごく僅か。

ほとんどの獣人が番になど出会わず、同種族で婚姻し子孫を残している。

しかし、番に出会ってしまったら全てがひっくり返る。

年齢も既婚も種族も関係無い。

その獣人には番しか見えなくなる。

そこには全ての常識やことわりなど通用しない。

その状態によく似ていると僕は思うんだ」


なるほど〜、確かに!

私はエリオットに激しく頷いて同意した。



獣人というのは人の姿、人と獣の中間(見た目はそれぞれ)、獣の姿の三形態に変化出来る存在の事。

とはいえ全ての獣人がその三形態に変化出来る訳でも無い。

見た目は獣だが言語を介せる者。

二形態に変化出来、二足歩行だが見た目は獣に近い者。

その逆で見た目は人に近く、しっぽや耳だけ残る者など、本当に様々。


基本三形態にまで変化出来る者は大変優秀で他より強い。

姿を変えても獣の能力はそのままなので、人などより大変優秀なのだ。

更に獣人はそれぞれの種族特有の妖術を扱える。

まぁ、人でいうところの魔法みたいなもの。


飛び抜けた身体能力と妖術を持つ獣人はとにかく強い。


だが、数が人に劣る上、大規模な群れを成さず、種族によって棲み分けていた為、かつては獣人狩りなどの目に遭い、人の奴隷として扱われていた時代もあったという。


今では帝国の南隣に獣人の国を興し、種族など関係無くほとんどの獣人がその国で暮らしている。


過去の過ちから、長く人の国とは国交を結ばなかったが、その獣人の国と初めて国交を結んだのが、王国の初代国王が後ろ楯となり、愚王と呼ばれる実の父親を打ち取り皇帝となった人物。

初代国王の甥にあたる人だ。


そんな訳で帝国には獣人も普通に国民として存在している。

残念ながら王国ではまだ獣人に国籍が認められていない。

だがそれもエリオットが認める様に動いているところだ。

そうなれば王国騎士団の戦力が上がる事間違い無し。

本当に楽しみだ。



たが何故その獣人の特色、番についての異常な執着心が全く関係無い王家に?


私の顔を見たエリオットは、疑問を読み取る様に頷いた。


「かなり昔の話、この王国が出来る前だけれど、帝国は獣人のある種族の姫を迎えた事があるんだよ。

どうしても獣人の力を王家に取り込みたかったらしいね。

運良く王族の中にその姫の番がいてね。

彼を皇帝に掲げ、姫は王妃になった。

獣人は基本、同種族同士でしか子を成せない。

人となんてもっての外。

だけど、唯一番だけが種族や獣人、人を超えて子を成せるんだ。

本来ならあり得ない状況で生まれるハーフである彼らを、スペシャルエグジストと呼ぶんだけど、スペシャルエグジストは相手が番で無くても種族を超えて子を成せる。

もちろん、その姫の子供も獣人と結ばれる事を期待されたが、普通に人を選んで婚姻した。

それ以降、つい最近まで獣人との婚姻は成立しなかった」


エリオットの説明に私はあっと小さく声を上げた。


「現皇帝の正妃は確か獣人だったわね。

確か、皇子も皇女もいる筈。

つまり、運良く皇帝はその方の番だった訳ね?」


私の言葉にエリオットはそうだとでも言う様に片眉を上げた。


「でも、その話だとつまり、帝国の王家には獣人の血が流れてきたという訳よね?

そして、帝国の皇子だった、初代国王も例外じゃ無い」


顎を掴み神妙な顔をする私に向かって、エリオットがコクコクと頷いている。


「しかも初代国王は先祖返りしたと言われる程、人を超えた能力を持っていた。

身体能力も魔力も並外れていたからこそ、この不毛の地と呼ばれていた土地に王国を興し、出来たばかりの王国を北の大国からも帝国からも守りきった。

まぁ、残念ながら、大聖女と呼ばれた王妃との間に子宝にめぐまれなかったから、彼の直接の血脈を王家は継いでいないんだけどね」



ふむ、その辺は王子妃教育でもガッツリ学んだ。

先の、共に愚帝を倒した甥の子を養子として貰い受けた筈だ。


いや、だとしても獣人の血は受け継がれている事になる。


「じゃあ、結局、前国王とクラウスも先祖返りって事?」


私の問いに、エリオットは難しそうに首を捻った。


「そうだね、番とまでは言わないけど、お祖父様の選んだお祖母様にも、似た何かがあったのかも知れない。

それでもまだ、お祖父様は冷静だったと言えるよ。

確かにお祖母様を手に入れる為、卑怯な手も使ったが、王太子である自分の責務までは放り投げなかった。

むしろその責務を全うする為に、お祖母様に足りないものを無理やりかき集め、なんとか王妃に据えた。

本来の番なら、そんなややこしい事はしない。

王妃たる資質が無いと言われれば、自分が王太子を辞してでも愛する相手と添い遂げようとする……」


言っていて、エリオットは冷や汗を流し始めた。

私はエリオットの頭の中に浮かんだであろう言葉を代わりに口にした。


「正に、クラウスみたいにって事ね」


私の言葉にエリオットはガクッと肩を落とした。



「なる程ねぇ、かなり薄いとはいえ、王家には獣人の血が流れていて、番の様な存在の人間に出会うと、獣人ほどでは無いにしろ、その相手に執着してしまうって事ね。

ってかクラウスなんて、身体能力も魔力量も、何故か初代国王の先祖返りみたいよね」


これで疑問は晴れた。

なる程、獣人の番によく似た感情ならば、それを抑えるのは難しいだろう。


つまり、前国王は運が悪く、逆にクラウスは運が良かった。


2人の明暗を分けたのは、それだけの事だったのかも知れない。


キティはクラウスに嫁ぐに相応しい貴族位に教養があるのだから。



……しかし、これでまた、ここがゲームの世界などでは無い証明がなされた。


もしゲーム通り、キティがお祖母様、アマーリエに精神を侵されたまま成長していたとしても、クラウスはキティを選んだだろう。

その場合はもちろんキティの素行について、王子妃としての資質は問われただろうが、そんな事はクラウスにとって些末な事に違いない。

必ず、キティを手に入れた筈だ。


……いや、クラウスが選んだのは今のキティ。

だとしたら、奴が選んだのはその魂?

キティは転生者だ。

だとしたら、やはりクラウスはその転生した魂に惹かれているのか……?


そこまで考えて、私はふるりと体を震わせた。


すげーな、アイツ。

画面越しの最推しを魂レベルで射止めるとは。

恐ろしい沼根性。

もちろん本人無自覚なんだけど。


私は腹の底から湧き上がる笑いを我慢しながら体をブルブル震わせた。



「何だか楽しそうだね。

何にしても、リアのご機嫌が治った様で安心したよ」


紅茶片手にニコニコ笑うエリオットに、はて?と私は疑問を感じた。


「そういや、王家の全ての人間が、獣人でいうところの番の様な存在に出会える訳ではないのよね?

殆ど政略結婚だもの。

魔力を受け継ぐ為、歴史の古い貴族から娶る事は決められているから相手はほぼ決まっているでしょ?

そこが崩れた事はほとんど無いじゃない?

やっぱり、前国王やクラウスみたいなのは、レア中のレアなのね」


首を傾げる私に、エリオットはフフフッと微笑んだ。


「そう思うかい?実はそうでも無いんだ。

父上だって、婚約者候補下位だった母上を選んだ。

それどころか、母親に毛虫以下レベルで嫌われていたのにだよ?」


あはははっと楽しそうに笑うエリオット。

だから笑いのツボが狂ってるって言ってんだろうがっ!


「王家、いや王族ってね、物凄く運が良いのさ。

皆がそうでは無いけれど、番の様な存在に出会ってしまう人間は過去にも一定数いたんだ。

でも、相手が王族に嫁ぐに足る人間であれば問題視などされない。

お祖父様はそこから外れて運が悪かったが、父上だってクラウスだって、問題は何も無いだろう?」


えーーっ!

マジかよ。

まぁ、獣人本来の番とは違って、単に自分の好みの相手に執着する程度だったのかも知れないけど。

いや、クラウスは明らかにそのレベルでは無いが。


陛下だって、王妃様が婚約者候補としては下の方だった事は皆知っているけど、確かに何故その王妃様が選ばれたのかは今初めて知った。



「実は、王家の婚約者候補の人数が多いのはその為なんだ。

どんな人間を選ぶか分からないからね。

条件に合う人間は片っ端からキープしておくって戦法さ。

曲がりなりにも王家の婚約者候補に名前が連なっていれば、相手だって普通は下手な事は出来ない。

不祥事や不貞行為は控えるだろう。

政略結婚とはいえ、実は王家の人間次第なんだよ。

なんせ、この人と決めたらテコでも動かないんだから。

ちなみに、僕がこの歳まで婚姻を見逃されているのはそのお陰なんだ。

僕にとっての執着対象がクラーラ・ルシェットだと思い込ませているからね」


ヒョイと肩を上げるエリオットに、呆れた目を向ける。

それを利用するのはお前ぐらいだよ。



「じゃあ、前国王、国王、クラウスと実は三代も続いている訳ね。

更に他にも今までザクザクといた、と」


私の言葉にエリオットは、フフフッと楽しそうに笑い出した。


おい、今更だけど頭大丈夫か?



「嫌だなぁ、リアったら。

そんな他人事みたいに」


フフフ、あははと笑いながらこちらにジリジリ近寄ってくるエリオット。


私は嫌な汗を掻きながらそのエリオットから距離を取る。


何か嫌な予感がする……。

そっと座っていた椅子から腰を浮かせ逃げようとした瞬間、サッとエリオットが距離を詰めてきて、ヒョイと私を抱え上げ、私の座っていた椅子に腰掛けてしまった……。

私を膝に抱えて……。



おいっ!やめろっ!

どっかのk&cスタイルみたいな事を私にするなっ!

何だこれっ!すげー屈辱感ハンパねぇっ!

そらキティも震えるわっ!

常にクラウスの膝の上でプルプル震えるわなっ!



要らん経験をして、初めてキティの気持ちを理解するとは……。

本当に心の底から知りたくなかった……。

キティ……アンタやっぱすげーよ……。



「……おい、なんだこれは?」


こめかみを引き攣らせエリオットを睨めば、ニコニコと大変嬉しそうな笑顔で返される。


「あまりにリアが呑気だから、ちょっと自覚してもらわないと〜って思って」


ニ〜ッコリ微笑むエリオット。

静かにエリオット滅魔法の詠唱を始めるが、エリオットが人差し指を私の唇に押し当てると、何故か詠唱が出来なくなった。


はぁっ⁈

な、なんでっ⁉︎


エリオットは腰に手を回すとグイッと自分に引き寄せ、うっとりした表情でこちらを見つめてくる。


瞳の奥が甘く揺らめいた事に気付き、胸の鼓動が急に早くなる。


「リア……もちろん、分かってはいるだろうけどね。

僕の執着対象は……むぐっ」


私は慌ててエリオットの口を両手で塞いだ。

顔に熱が集まっているのが自分でも分かる。

無様に真っ赤になった顔を見られたくなくて、つい俯いてしまう。


その続きを言われたく無い。

言わせないし、聞かない。


聞いてしまったら、全てが変わってしまう気がする。


私にはキティとクラウスみたいなのは無理っ!


見つめ合って頬を染めたり、抱き上げられたり、甘い言葉を囁かれたり……。


無理無理無理無理無理無理っ!!

私がっ⁈

エリオットとっ⁉︎

ナイナイナイナイナイナイっ!!



相手がエリオットじゃなければうまく躱したり、鼻で笑って終わりなんだけど、何か……。


今のエリオットにはそう出来そうに無い。

何でかは分からないけど……。


とりあえず口を塞いだものの……。

ここからどうしょう?


途方に暮れてエリオットを上目遣いで見上げると、愉悦の表情を浮かべてこちらを見ている。


それが妙に妖しく色っぽく感じて、ますますカッと顔が熱を帯びる。



わ、私、どうしちゃったんだろうっ!

胸がドキドキして、何かヤバいっ!


くっそっ!

くっそぉぉぉぉぉっ!

エリオットめーーーーーっ!






★やブクマ、ご感想、いいね、ありがとうございます!

執筆の活力にさせて頂いていますっ!

ご覧下さっている皆様、本当にありがとうございます。

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