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EP.43



【もう2度とシシリア様の許可なく勝手な事はしません】


そう書かれた張り紙をおでこに貼り付け、エリオットを1人掛けソファーに正座させる。



「……ごめんなさい。

なんか、クラウスとキティちゃんのイチャラブを見ていたら、羨ましくなっちゃって……。

僕なんか、リアと学園イチャラブなんて絶対に出来ないっていうのに、あの2人……」


ギリギリと唇を噛むエリオットに、まぁ、共感する部分もあるが、それとこれとは別だ。


貴様の遅い青春を取り戻す為に私を利用しようとしてんじゃねーよ。



「あのねぇ、私らは遊びに学園に通ってる訳じゃないのよ。

アンタの学園を改革したいって考えに皆が賛同して一生懸命やってんのよ。

それをアンタが学園イチャラブ羨ましい、とか言っててどうすんのよ」


呆れてエリオットをジト目で見ると、流石にシュンと肩を落としている。


「ごめんなさい……。

ただ、ちょっとくらい、僕もリアとイチャラブしたいな〜って」


捨てられた子犬みたいな目で、こちらを見上げてくる。


くそぅ、新しい技を習得しおって!

私が可愛い&可哀想に弱い事を知っててやってるよな、それっ!

しかし、そんな毛並みの良い捨て犬はいないっ!

残念だったな、私はそう簡単に絆されんぞっ!


いや、そもそも。

何故私が貴様とイチャラブせなならん。

ってか色々飛び越えて口にキスしようとしてきといて、どこがちょっとだ。


おい、そこの。

クゥンクゥン鳴いても私は騙されんぞ。



「イチャラブはしません。

ってか、アンタ何でそんなキティとクラウスについて詳しいのよ?」


キッパリ言い捨てるとエリオットはあからさまにショックを受けつつ、悲しそうに口を開いた。


「僕のコピーを学園に潜入させてるから。

クラウスとキティちゃんのイチャラブもリアルタイムでバッチリ見えちゃうんだよ〜っ!」


わっと泣き伏すエリオットに、私はもちろんそれどころでは無い。


「ちょっ!アンタのコピーって、どこにっ!

そんなの見た事ないわよっ⁉︎」


カッと目を見開いて詰め寄ると、エリオットはタジタジしながら答える。


「コピーに変身スキルを使ってるから、見た目じゃ僕と分からないと思う……」


……スキルにスキル重ねかよ……。

いや、こいつにとっては普通の事か……。


もうそれくらいの事でさほど動揺しなくなってきた自分に、ハハハと乾いた笑いを上げた。



「……まぁ、その事は、今は取り敢えずいいわ。

それより、私は北の大国について聞きにきたのよっ!」


そうだ、エリオットのペースに巻き込まれている場合じゃない。

キティに降り掛かる死を回避する為、北の大国について探りにきたんだから。


「北の大国かい?ああ、キティちゃんの事だね」


「そうよ、ゴルタールにしてもロートシルトにしても、結局は北の大国の傀儡じゃない。

その北の大国は何故かクラウスに執着している。

それは一体何故か……。

魔力量の高い人間を自国に取り組みたいだけなら、帝国人でもいい訳でしょ?」


私の言葉にエリオットは肩を上げて緩く首を振った。


「まぁ、そうなんだけど。

やはり闇属性持ちの魔力量は他と比べようもないからね。

それこそ、魔王化出来る程の量だ。

つまり北の大国はその力を欲しているのさ。

それを自国に取り込み、我が物にしようとしている」


私は顎を掴み首を捻る。


「でも、そもそもがその理論が破綻してるじゃない。

いくらクラウスと自国の姫との間に子を成したところで、その姫が帝国の血を引いてないんだもの。

魔力量の高い子供どころか、それじゃあ魔力量なんてゼロよ?」


私の疑問に、エリオットは弾かれたように笑い出す。


「そんな事、奴らにはそれこそ通用しないよっ?

面白いくらいに言葉が通じないんだからっ!

何を言っても自分達の考えを変えない。

今まで帝国人を騙して連れて来たり、拉致したり、そうして子を成しそれが失敗したのは、平民を使ったからだと思い込んでいる。

自国の高貴な血とクラウスほどの魔力量の高い人間であれば、正しく魔力量の高い子を成せると信じて、いや、確信しているのさ。

どうしょうもないね」


あっはっはっはっとひとしきり笑った後、エリオットは疲れ切った様に深い溜息を吐いた。

コイツをここまで疲弊させるなんてっ、すげーなっ!北の大国っ!



「やっぱり、アンタ北の大国に詳しいわよね。

まるで見て来たみたいに。

王国は現陛下の代で北の大国との国交を断絶させているのに。

王太子であるアンタがまるで見てきた様に語れるのはおかしいわ。

潜入させているのよね?間者を」


ニヤリと笑うと、エリオットは片目を閉じて人差し指を口の前に立てた。


「王国と帝国の腕利きを数名、あと僕、のコピー」


やっぱりね。

コイツが迷惑な隣人を放置している訳が無いのよ。

それに溺愛している弟を狙われているんだもの、黙って静観している訳が無い。


「その様子だと、国の中枢に潜り込めてるみたいね」


私の言葉にエリオットはふっと笑って片眉を上げた。


「それなら、知っているわよね?

北の大国がキティをどう見ているか、どうするつもりか」


ギラっと目を光らせ聞くと、エリオットも真面目な顔付きに変わる。


「そうだね、まず前にも言ったけれど、北の大国の目的は自国の姫とクラウスの間に子を成す事、それが達成されれば理由をつけて姫と子を自国に連れ帰るつもりでいる。

それゆえ、姫の立場はむしろ正妃よりも第二夫人、または側妃の方が都合が良いくらいだった。

つまり、正妃がいてくれた方がむしろ都合が良いと、キティちゃんの事に関してはゴルタールに害をなさない様に忠告していたくらいだ。

更にその旨はゴルタールからロートシルトにも伝わっていた……んだけどね……」


そこでエリオットは深い溜息を吐き、こめかみを押さえた。


「どうしたのよ?何か方向転換が起きたの?」


私は胸をドキドキさせて聞いた。

せっかく少し安心しかけていたのに、やっぱり何かあるの?


「最近、その姫がクラウスの記録映像を手に入れてしまったんだよ……」


ああ〜〜……。

私は観念した様に天井を仰いだ。


「今まで、それだけは僕らが何とか阻止してきたんだけどね。

ごめん、完全にこちらの失態だ。

今、それをどうやって手に入れたか、またどうやって検閲をすり抜けたのかを調査中だから……」


力無くそう言うエリオットに、私も溜息混じりに口を開いた。


「……つまり、クラウスの記録映像を見たその姫が、第二夫人や側妃じゃ嫌だとか言い出したのね……」


私の言葉にエリオットは頭を抱えながら頷いた。


ああ、やっぱり。


でもじゃあ、そうなると……。



「姫はクラウスの正妃を望んでいる。

それにより、北のキティちゃんへの認識も一変してしまった。

今やキティちゃんは完全なる邪魔者。

害して良いと、ゴルタールに、引いてはロートシルトに共通認識として伝わってしまった。

正直に言うと、キティちゃんは今、国の内外から命を狙われている危険な状態だ」


無念そうなエリオットの声色に、今までの苦労が滲み出ている。


どちらにしても、これは避けられない事態だった様に思う。

間者の立場で派手に妨害行為も行えないし、クラウスの絵姿など、王国内に留まらず、帝国でも人気なくらいだ。

逆に今までよく抑えていた方だと思う。


「それにしても、その姫は正妃になってどうするの?

それじゃ子を成した後国に戻る事なんて出来なくなるじゃない」


私の単純な疑問に、もはやエリオットはチベットスナギツネ顔で遠くを見つめていた。


「それね……。流石北の大国の姫君だよ。

自分のやりたい様にすれば、道理は後からついてくるって考えが魂にまで染み付いている様な人でね……。

自分の願望以外は瑣末な事だと、周りの言う事などまったく耳に入らないみたいだね」


お、おぉう。

こいつから感情を一切奪うとは……。

北の姫君っ!恐ろしい子っ!


と、まぁ洒落では済まない現状ではあるが。


高貴な身分である人間は、やはり人よりも自分の感情を律する能力に優れていなければならない。

この姫君がいい例だ。

やんごとない殿上人の気まぐれで、こうして運命が左右される人間がいる。


王家の人間なら尚更、その辺の教育は幼い頃から厳しく徹底して教え込まれる筈だが。

北の大国の王家の教育は随分と緩いらしい。


……いや、うちにもキメラな阿呆がいるから、よその事はあまり言えないが……。

ブーメランになるしなぁ。

……まぁ、あのキメラの事は、どうでもいいか。



とにかく、やはりキティは既に命を狙われている。

私達とクラウスがついていて、万が一も無いと言い切りたいが、どうしてもゲームでの数々のキティの死がちらつく。


これだけ本筋から逸れ、今や悪役令嬢もヒロインも不在と言っても過言では無いが、それでも、だ。


多分、原作とは死の理由も危険度も全く違うものになっている。

それでも死がキティに纏わりつく、という結果は同じだ。


ゲームで云えば、キティは完全にクラウスルート。

という事はゲームでは、キティのキャラに全く合わない謎の自殺で幕を引く。

だが、もうその理由が無い。

キティとクラウスはそう遠く無い未来に、必ず結ばれる。

なのに、やはり死はキティに纏わりつく。



……これはもっとも考えたく無い事だが、キティの前世の死に関連している……としたら?

例えば、運命の輪の様なものがあったとして、キティという魂が、若くして死を迎えるさだめだとしたら……。


いや、やっぱりそんな事は考えたくも無い。

胸糞悪すぎる。



そんな事より、もっと現実的に考えた方がずっと堅実だ。

そもそもが、王族との婚姻自体が狙われやすい。

歴代の王妃達だって、命を狙われた者はいるだろう。

王族自体、常に陰謀や暗殺に晒されているのだから。

エリオットだって様々な理由で何度も命を狙われてきている。

クラウスや、フリードでさえそうなのだ。


魑魅魍魎跋扈する、王宮とはまさに魔窟。

クラウスがキティを選び、キティがクラウスを選んだ時点で、こうなる事は分かっていた事だ。


もう、無理にゲームと関連付けるのは止めよう。

どんな事が起きても、必ずキティを守り切る。

ただ、それだけだ。



「それで?具体的には北の大国はどんな手を使ってきそうなの?」


私の問いに、エリオットは何故か微妙な顔をする。


「それがねぇ、まずはゴルタールに一任するって事になってね。

ゴルタールは用心深いから、ロートシルトにその旨を伝えたのみで、静観を決め込む様だし。

ロートシルトの方も、アーバン嬢が王妃になれれば、後は何でも良いって考えだからね。

まだその辺は何も具体的に動きそうに無いんだ」


エリオットの話に、私は首を捻るしかなかった。


「何よそのダラダラした感じは。

なんで北の大国はそんな悠長に構えてる訳?

それとも、姫君の意向なの?」


私の問いに、エリオットは緩く首を振り、微かに唇を震わせた。


「あのね、クラウスの記録映像には当然ながら、キティちゃんが映り込んでいる訳さ。

姫君は、こんなチンチクリン、相手にもならないわね、と一蹴していたけど。

それを見た臣下達がね……。

ほら、キティちゃんはとっても愛らしい容姿をしているでしょ?

だからね、誰も直接キティちゃん殺害に関与したがらないというか……。

もう、なすりつけ合い状態?

最終的に王国内で処理して貰おうって話になって、ゴルタールに……」


下を向いて淡々と語ってはいるが、ハッキリと肩が震えている……。


「しまいには、我が嫁に、とか息子の嫁に、とか、いやいや、陛下の側室として献上したらどうか?とか、言いたい放題だよ。

全く、我が国の侯爵家令嬢を何だと思っているのか」


堪えきれずにくっくっと笑い出したエリオットだが、私は心の中で、なんとも言えない優越感を感じていた。



ふおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!

ロリッ子すげーーーっ!

やっぱりロリッ子は正義やーーーーっ!


悪をも躊躇させるその威力っ!

存在そのものが聖域っ!

しかし合法っ!

更に至高っ!


強え……。

強えよ、キティ……。

アンタの前じゃ、私の俺TUEEEEッ!も霞むよ、マジで……。


これは本気で、キティ、ツインテ計画を考えた方が良さそうだ。

ツインテにすればより安全度が上がるっ!

これは本当に言い切れるっ!

あのレベルのロリッ子がツインテしてれば、誰が手出しできようかっ!

否、そんな者は存在しないっ!


ハァハァ、これは、決して私個人の願望とかでは無い……。

キティの身の安全の為なんだ……ハァハァ……。


私は【祝義の謁見】の日、一度見ただけのキティ生ツインテを思い出し、ジュルリと涎を垂らした。



「あ〜そうそう、北の皆さんもそんな顔してたよ〜」


ヘラヘラ笑うエリオットに、私は不気味にニヤリと笑い返した。


知ってる。

言われなくても想像出来る。

ロリッ子好きは皆兄弟。



「まぁ、そんな訳で、実は今警戒すべきはロートシルトだけって状況でね。

余りに小物過ぎて、皆拍子抜けしてるところだったんだ」


なるほど、だからエリオットも緊急事態として皆を召集しなかったんだな。

とはいえ、早めに話くらいはしておいた方がいい……。


……しかし、問題は、クラウスだ。

アイツがこの一連の話に耐えられるとは思えない。

まず間違いなく、ちょっくら北の大国を滅する旅に出る筈だ。

無言で……。


「クラウスには、どうやって伝える?」


頭を捻りながら聞くと、エリオットは途端にニコニコして、大きなスクリーンをパッと出現させた。


そこに映像が映し出される……。

キティ、キティ、キティ、キティ……。

正にキティのプロモーション映像っ!


チビキティから今現在までのキティが次々と映し出される。



『クラウス様っ!……抱っこっ!』


『私の婚約者様でございます』


おおっ!めっちゃ最新のものまであるっ!

えっ?

これを……まさか……?



「皆との話し合いの最中に流しておこうと思うんだけど」


ニコニコと私に問うエリオットに、深い深い溜息を吐いた……。


「エリオット……アンタ……」


私はバッと顔を上げると、エリオットに向かって全力サムズアップ!


「天才かっ!」


この映像流されてる場で誰がちょっくら国を滅ぼしに行けるものかっ!

そんな時間が勿体無いっ!

クラウスならまず間違い無く、エリオットからこの映像をかっぱらい、本物キティ片手に自室で上映会だな。

間違いないっ!


よしっ!

これでクラウス対策はバッチリッ!






この後皆を招集して一連の事態を情報共有したのだが、やはりクラウスの怒りは半端無かった。

ちょっと、闇魔法漏れ出るくらいに。


しかしそこは我らが名DJッ!エリオットッ!

流れるキティのプロモーション映像を、絶妙なタイミングで切り替えるっ!



『クラウス様っ!……抱っこっ!』


『私の婚約者様でございます』



途端にプシューッとクールダウンするクラウスッ!



お陰で事なきを得て、問題無く皆と情報共有出来た。

たまにはやるじゃんっ!エリオットッ!


もちろんその後、クラウスはエリオットから記録映像を強奪して何処ぞに消えていった。


更に、自分用に違う物を用意しろ、と迫るノワール………と私。


出来る男エリオットは、私とノワールにもそれぞれのキティプロモーション映像を用意してくれ、私達はホクホク顔で解散した。


が、何か他の皆の目が死んでいる。


皆、ここんところ忙しいもんなぁ。

ぼちぼち行こうぜ。

ぼちぼちなぁ。

無理すんなっ!なっ!




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