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EP.40



例2件の騒ぎの後、生徒会室に私といつもの5人、キティのファンクラブにクラウスが忍び込ませている間者が揃う。



ジッとその間者を見つめるクラウスに、そいつは唐突に口を開いた。


「ソル・サイドレンです。殿下」


あの無表情なクラウスの表情を読んで、瞬時に答えるサイドレン。

めちゃくちゃ優秀だ。


ってか、クラウス。

今コイツの名前が出てこなかったのか?

マジかよ、コイツ。


「それで?サイドレン、会の今後は決まったのか?」


いや何、何事も無かったかの様に話進めてんの?


クラウスの問いに、サイドレンも何事も無かった様に一歩前に出て報告した。


いや、スゲーなっ!アンタらっ!



「はい。会員達もこの度のシャックルフォードの暴挙に憤慨しています。

シャックルフォードを除籍し、今まで副会長だった、エドワード・ホルテス子爵令息を会長に据え、会の名前を〈キティちゃんにツインテにしてもらう会〉に改名。

もう2度とシャックルフォードの様な者を出さない為、今まで以上に厳しい規律を守って継続していくようです」


サイドレンの報告に、クラウスは溜息を吐いた。


そりやそうだ、あれだけクラウスを怒らせ薙ぎ払われたのに、まだ会を続けるとか、しぶとい通り越してもう怖いっ!


どんだけキティに沼っちゃってんのか……。

いや、気持ちは物凄く分かるんだけど。



……まぁ、しかし、今回の会の名前は悪くない。


会の名前に反応した私は、鼻息荒くサイドレンを血走った目で見つめた。

ちなみにそんな私をクラウスが呆れた顔で見ているが、お前も会の名前を聞いた瞬間ニヤけてたよね?

何自分は興味ありませんけど、まぁそ〜ゆ〜事になったんなら仕方ありませんね、って顔してんだよ、ゴラァ。



「ちなみに、私は副会長の職を賜りました」


サイドレンの言葉に、クラウスは小さく頷く。


「きたる日が来た時につつがなくシシリアに譲渡出来る様に、その調子で会を中から掌握しておいてくれ」


クラウスの命令にサイドレンは敬礼して、一歩下がる。



そうそう、キティのファンクラブの事だけど、これ以上暴走しない様に、私が乗っ取る事になったのだ。

まぁ私ほど、この会の会長に適任な人間はいないからな。

キティ沼の年季が違うんだわ、年季が。

こっちは平面画面越しだったんだぜ?



「で、当のシャックルフォードの方はどうだ?」


クラウスに問われて、レオネルがこめかみを押さえながら、口を開く。


「まったく要領を得ん……。

口を開けば意味不明な事ばかりで、話にならんっ」


どうやら、レオネルが最も嫌悪するタイプ、つまり話の通じない人間だったらしい。


続けてクラウスは、目だけでノワールに促した。


「シャックルフォードは訳の分からない事を延々と呟いています。

キティたんのビジュアルがおかしい、だの。

同じクラスになれる様にせっかく調整したのに、だの。

キティたんが何故第二王子の婚約者なんだ、だの」


そこでノワールはわざと言葉を切り、冷たい目でクラウスを見る。


「まぁ、最後のは僕もまったく同意見ですが」


クラウスはニヤリとノワールに笑い返した。


いや、いつものお前らの戯れタイムをちょこちょこ挟んでくるなよ。



「あぁ、キティは成績だけならFクラスだけど、侯爵家令嬢ってのを考慮されて、確かにCクラスだったわ。

……そこを狙ってたって事は、あの男、やっぱり……」


ノワールの報告を聞いて思わず呟いた私の独り言に、クラウスは眉根を寄せた。


「シシリア、何の事だ?」


クラウスに問われて、私はいつもの様にニヨニヨ笑うと、手をヒラヒラと振る。


「あっ、何でもない何でもない。

ただの意味の無い、独り言よ」


この笑い方をする時の私は、絶対に真実を話さない。

既にそう学んでいるクラウスは溜息を吐いて、それ以上の追求はしてこなかった。

賢明な判断、あざーすっ!

危ない危ない。

私って直ぐに口に出しちゃうんだよなぁ。



次にクラウスはミゲルとジャンを見た。


「こっちもお手上げだぜ〜」


ジャンが両手で降伏のポーズを取る。


「フィーネ・ヤドヴィカ男爵令嬢の証言ですが、こちらも、意味不明な事を喚くばかりで、全く話になりませんでした」


ミゲルが自分のメモ帳を取り出して、読み上げた。


「曰く、自分はこの世界の主人公である。

自分はクラウス、ノワール、レオネル、ミゲル、ジャンから自由に選び、攻略する事が出来る。

自分はクラウス推しなので、もちろんクラウスを攻略する。

キティは悪役令嬢なのに、クラウスと婚約しているのは間違いだ。

自分こそがクラウスの恋人に、そして婚約者になるべきだ。

間違いは正すべき。

あの悪役令嬢を今すぐ学園から追い出せ。

……と、まぁ、簡略しましたが、この様な事を喚き散らすばかりで、まともな会話は叶いませんでした」


うんざりした様子のミゲル。

こちらも運悪く、最も苦手とする人間に当たったらしい。

つまりは、ヒステリックで自分本位な女。


ジャンの方もゲンナリと肩を落としている。


「俺らさ〜、私はクラウス推しだから、2人の事は選べないの、ごめんね。

でも、2人共私の事が大好きでしょ?

だから、お友達としてこれからも仲良くしましょうね。

って言われたんだわ〜」


マジかよっ!ジャンッ!

おまっ!マジかよっ!

それ面白すぎるでしょっ!

ちょっと、もっと詳しくっ!


私とクラウスがニヤニヤ笑うと、ジャンはますます肩を落とし、溜息を吐いた。



「次は、シャックルフォードにミゲルとノワール、ヤドヴィカにレオネルとジャンで当たってくれ」


クラウスの言葉に4人はハッとした顔をする。



なるほどぉ。

クラウスはコイツらが人員配置を間違えた、と考えた様だ。


つまり、シャックルフォードの様な男には飴を与え、調子に乗らせれば、聞いていない事まで話しだす。

それには物腰が柔らかく聞き上手なミゲル。

更に同じタイプで表面上は優し気に見えるノワール。

この二人が最適解だろう。


で、フィーネみたいなヒステリック女には理詰めで責める。

ムキになって、言ってはいけない事でも話しだす。

それには常に冷静で合理的なレオネル。

後ろで見た目ヤンチャなジャンが睨みを効かせ、更に焦らせれば完璧。

まぁ、そんなとこだろうが、それは通常の場合なんだよなぁ。


シャックルフォードは兎も角、準魔族であるフィーネに光属性の無いレオネルとジャンのみで当たるのはまだ危険だ。


って言っても、コイツらまだフィーネと準魔族を結び付けれてないもんなぁ。



クラウスの意図をすぐさま汲んだ4人は、素直に頷いた。


「げっ、俺またあの女かよ」


ジャンが情け無い声で嘆いているのを、クラウスが楽しそうにニヤニヤ笑って見ている。


いや、違うな、この配置。

ジャンにまた是非面白い話を持って帰って来て欲しいだけなんじゃないの?


それには大変興味がそそられるし、是非そうして欲しいのは山々なんだが、そうもいかない。

私は仕方なく口を開く。


「あっ、ちょっと良い?

フィーネ・ヤドヴィカの方は、既に私の手の者を送り込んであるから、私に一任してもらえないかしら?」


私の言葉に、皆驚いてコチラを見る。


「何だ?何かあの女に怪しいところでもあるのか?」


クラウスの問いに、私はやっぱり秘技ニヨニヨ笑いで返す。


「そんなんじゃないわよぉ。

ごく私的な事だから、気にしないで」


分かるよねぇ。

お前らの為だからさ。

介入してくんなよ〜と云う事だ。


クラウスは溜息を吐いて答えた。


「……まぁ、いいだろう。

ヤドヴィカの件はお前に一任するが、くれぐれもキティにこれ以上危害を加えない様、細心の注意を払え」


そんな事、言われなくても分かってるわっ!

当たり前の事だろうがっ!


くだらない事を言うクラウスを睨みつけてやりたいところだが、ここはグッと我慢する。

ニヨニヨ笑いで凌ぐが、流石に頬がピクピク引き攣った。






その後、フィーネとシャックルフォードの処分を決めたのだが。

まぁ、謹慎3ヶ月が妥当だろうという話になり、やっぱり魔王とブリザードが、それじゃ生温いっ!と暴れ回って、生徒会室の壁に穴が開いた。


全く傍迷惑な2人だ。

やはりコイツらはまだまだ記憶を取り戻さんでいいな。

エリオットの計画が無茶苦茶になる。


同じ思いのレオネル、ミゲル、ジャンと共に、私は深い溜息を吐いた。








で、後日。

王宮のエリオットの執務室で、私から事のあらましを聞いたエリオットは珍しく頭を抱えている。


「は、ははは、そっか……。

入学して早々……3ヶ月の謹慎処分……。

いやぁ、計画がどんどんズレるなぁ……」


乾いた笑い声を上げるエリオットに、私はシラーッと横を向いた。


いや、私らは何もしてないから。

全部あの女の自爆だからね。

悪いのは、あの女の足りない脳みそを的確に測れなかったアンタでしょ。


「でも、あの騒ぎを見て直ぐに動いた人間がいるみたいじゃ無い?」


私の問いに、エリオットは顔を上げてニヤリと笑った。


「そうなんだよ。それはもの凄くまんまと。

コチラの計画を知っていてわざわざ協力してくれてるんじゃ無いかと思うんだけど。

どうかな?シシリア」


楽しそうに笑うエリオットをジトッと睨み、はっと鼻で笑う。


「そんな訳無いでしょ。アイツらの考えそうな事よ」


そう、アイツらとは、ロートシルトの事。

フィーネにつけているエリクからかの報告で、アーバン・ロートシルトがフィーネに接触した事が分かった。


アーバン・ロートシルトの考えている事などお見通しだ。

どうせ今回のフィーネの起こした騒ぎを聞いて、使い捨ての駒にしようと近付いたのだろう。


フィーネの様に、侯爵家令嬢に堂々と歯向かう馬鹿など他にはいない。

更に悪態までついたのだ。

自分の駒にして、キティへの嫌がらせに使おうという算段だと思う。


それで気弱そうなキティを精神的に追い込み、クラウスの婚約者を辞退させる事が出来れば儲け物くらいに思っているのだろう。


更に自分のやった事も、今後全てフィーネの罪に出来る。

ついでにヤドヴィカ男爵を魔法優勢位派に引き抜けば、ヤドヴィカ家の潤沢な資金も当てに出来るって訳だ。


まぁ、その辺の愚かしい考えで動いたのだろうが、エリオットにしてみれば非常に喜ばしい結果となった。


アーバンがフィーネと結託してキティに害をなせば、E、Fクラスのみならず、伯爵クラス、つまりC、Dクラスにまでメスを入れられるかもしれないのだ。


その為計画は、後退どころか一気に前進したと言っても良いくらいだ。


「アイツが大人しく謹慎しているとは思えない。

きっと何か動き出すわ」


ギラリと空を睨み付けると、当然の如くソファーの隣に座っているエリオットが、スルッと肩に手を回してきた。



「ところで、シシリア。

君のファンクラブに男達が増えてるらしいじゃないか。

随分、由々しい事態だと思わないかい?」


何を言い出すかと思えば、今それ関係無いだろ……。

後、何がどう由々しいんだよ。


「シシリアのファンクラブの半数以上が、いや殆どが女性だったから、油断していたよ。

だが、考えて見れば当然の事っ!

日頃お目にかかれない、貴族位最上位の公爵家令嬢を学園で拝める様になったんだ。

有象無象の輩が湧かない筈が無い……」


そこでエリオットが、ジッと私の首の下の辺り……いやもうガッツリと胸を見ている。



「これ程に最上級に甘い砂糖に、群がらない筈が無い………」


うっとりと頬を染めるエリオット。

お前……セクハラが過ぎるぞ……。

いっそ清々しいくらいに平気で軽犯罪を犯すよな。


まぁ、もう慣れたしな。

こんなもの、ただの脂肪の固まりだと思えば、いくら眺められ様と……ねっとり絡み付く様に見つめられ様と……舌舐めずりされ様と……。



やっぱり、無理っ!


私は拳を思い切りエリオットの顔面にめり込ませた。



「群がってるのはアンタだけだからっ!

もういい加減そのセクハラやめなさいよっ!」


私の怒鳴り声に、顔面を拳の形に赤くしたエリオットが、んっ?と首を捻る。


「セクハラ?何故?

シシリアの成長を見守るのは僕の義務であり責務だっ!

常にシシリアのスリーサイズを把握しておかなければ、僕の存在意義がなくなるじゃ無いかっ!」


お前の存在意義は王太子だよっ!

この国舐めてんのかっ!


しかし、何でこんな奴が王位継承権第一位なんだよ……。

いや、第二位は魔王だし、第三位は馬と鹿のキメラだしな……。


まだ人の形を保っているエリオットがマシと言えるのか……?

だがコイツはセクハラストーカー野郎な上に特殊スキル複数持ちのサイコパス。

数々の私へのセクハラにより、コイツが欲求不満のモンスターだという事は明白。


コイツ、王宮にハーレムとか作らないよな?

いや、あり得そうで怖い。

こんな平和な王宮が、コイツの趣味で染まった酒池肉林のエロすな宮殿になったらどうしょう……。


コイツももう20歳だし、今年21だろ?

いい加減、存在しない婚約者でお茶を濁すのも限界だし……。

そもそも、同い年のアランさんとルパートさんなんか、既に妻子持ちじゃん?

アランさんちの子供なんか、もう3歳だぜ、3歳。

それなのに肝心の時期国王がこんなダラダラしてていい訳?


そんなだから欲求不満になるんだな。

コイツはサッサと嫁貰って子供作って、自分の子供の成長を見守ればいいんだ。

そうだな、3、4人もいれば満足できるんじゃ無いか?

いや、5人はいるか?



う〜ん、う〜んと唸る私の髪を手で掬いながら、エリオットが楽しそうにクスクス笑う。


「何をそんなに考え込んでいるの?」


考え事に夢中になっていた私は、無意識にその声に応えた。


「いや、アンタの子供が5人は必要だと思って……」


む〜んと唸りながらそう言い、直後しまったっ!と気付いたが、時既に遅し……。


エリオットは私の腰をガッシリ抱いて体を密着させると、顎を掴んで上向かせる。


そして、頬を染めうっとりと私を見ている。


あ〜あ〜あ〜あ〜………。

余計なスイッチ押しちゃったよ……。


「シシリア……僕との子供を5人も望んでくれるなんて……。

ああ、幸せ過ぎて、頭がどうにかなりそうだ……」


お前の頭は常にどうにかなってるから安心しろ。


「何で私がアンタの子供を産まなきゃいけないのよ。

そうじゃ無くて、欲求不満のアンタは早く嫁でも第二、第三夫人でも、側室でも貰って、たんと子供を作って、私じゃ無くてその子供達の成長を見守ればいいじゃない。

その為には5人くらいは必要でしょ?」


私の言葉にエリオットはアハハと笑った。


「大丈夫だよ、僕らの子供が出来ても、僕がシシリアの成長を見守る事は変わらない。

君のポテンシャルはそんなものじゃ無いからね!

子供を産んでもまだまだ伸び代たっぷりだよ」


鼻をチョンと指で突かれて、私は目眩を感じた。

コイツは……異世界人では無く宇宙人だったのか?

全く話が通じる気がしないっ!

私を入れるなっ!

貴様の酒池肉林楽しい家族計画ハーレムにっ、私を入れるなと言ってんだよっ!


「ちなみに、王族にのみ許されている一夫多妻制度だけど、僕の代で撤廃されるからね。

王族といえど、一夫一妻制に変わるから。

5人の子供はシシリア1人で産まなきゃいけないね〜」


エリオットが急にぶっ込んできた話の内容に、私は目を見開いた。

その私の様子をふふっと楽しそうに眺めながら、エリオットはその瞳の奥を妖しく揺らめかせる。


「……さっき、僕が欲求不満だって言ってたけど。

それも全てシシリアが請け負ってくれるよね?

ふふっ、5人で済むかなぁ……?」


セ、セクハラーーーーーーーーッ!

超弩級セクハラーーーーーーーーッ!

お巡りさーーーーんっ!

早くっ!早く来てーーーっ!


コーイーツーでーすーっ!!!




まぁ、この後勿論、床にめり込むくらいボコボコにして、自分で駆除しといたけどね。





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