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EP.38



私の邸で、お互い転生者であり、同じ〈キラおと〉の悪役令嬢である事を打ち明けあった(私に嵌められた)あの日から、私達はあっという間に気の置けない間柄になった。


前世好きだったゲームやアニメや漫画、ラノベの話で盛り上がり。

もちろんオタ活話にも花が咲き。

お互い口調もすっかり前世の様に戻ってしまった。

いや、私はあんまり気にせず生きてきたけども。

しかし、尊とか推しとか沼とか、気兼ね無く使えるのはやっぱり楽しい。

キティも同様で、気が付けば私の事をアンタ呼びしている。

この前世のノリッ!

本当に楽っ!


この世界でもそれなりに友人知人はいるが、うふふおほほな会話じゃ、まったく腹一杯にならはい。

やっぱり、アンタさ〜とか、ウケるとか言ってテンポ良く会話したい訳よ、こっちは。


そんな訳で、私は毎日キティと沢山お喋りして、お腹いっぱい胸いっぱいで過ごしている。



今日も学園のカフェテラスで、防音、幻影魔法の結界を張って、いつもの様にお喋りに花を咲かせる予定だったが。

何だかグッタリしているキティに事情を聞いて、私は盛大に吹き出した。



「まぁっ!そんなオモシロ、いやいや、大変な事がっ?」


面白がる私に、キティは頬を膨らませて睨んでくる。


「あ〜ごめんごめん」


私はニヘラっと笑ってクッキーをキティの口の前に差し出した。

キティは憤慨しつつも、私に差し出されたクッキーに食らい付き、安定のもぐもぐタイム。



今日、午前中に教員室に呼び出されていた私が不在の間に、何やら色々あったらしい。

って、本当は知ってるんだけどね。

代わりにキティの護衛に付けていたエリクエリーから報告を受けている。


ちなみに、映像記録魔法でも確認済み。

何があったかって?

観てみます?







「キティ侯爵令嬢様っ!」


キティの足元に突然蹲り、土下座スタイルの男子生徒に、キティは一歩後ずさった。


「どうか、この哀れな男の願いを叶えていただきたくっ!

無礼を承知でお願いに参りましたっ!」


その男子生徒の大きな声に、周りに人が集まり始める。


焦って周りを見渡す、キティ。

原作キティの様に、権力をカサにきて目の前の男子生徒を傅かせていると思われていないか心配している様だ。


遠巻きに見ている他の生徒達がコソコソヒソヒソ小声で喋り始めた。



「まぁ、ご覧になって。

あの方、テッド・シャックルフォード様じゃない?

シャックルフォード子爵令息の」


「キティ様にどんなご用事かしら?」


「まぁ、キティ様……あんなに震えて。

まるでチワ、んんっ、幼児の様に怯えてらっしゃるわ。

お可哀想に……」



いや、チワワって言いかけられてるっ!

更に幼児って!

同級生にっ!


もうこの時点で、記録魔法を観ながら吹き出した。



シャックルフォードは尋常じゃない鼻息でジリジリとキティに迫る。


ハァハァ言いながら迫られて、キティは全身に鳥肌を立てている。


よくクラウスもキティにハァハァ言っているが、やはりアレとは違うのか、キティは嫌悪感を露わにしていた。

そりゃそうだろう、身も知らない男から突然迫られて恐怖しないのは物理的に強い私くらいだ。



シャックルフォードはボサボサ頭に丸渕眼鏡だけど、流石乙女ゲーの世界。

普通に顔は整っている。



「どうか、一言っ!一言でいいので……」


そこでその子爵令息は一旦言葉を切り、ガバッとキティを見上げた。


「お兄たん、らいすきっ!

と、言って頂けませんかっ!!」


……はっ?

何?

何言ってんだ、コイツ?



キティも驚いて流石に聞き返していた。


「えっ、おにい……た、ん?」


シャックルフォードはぶるるっと震えて、涙目でキティにむかって両手を広げる。


「キティたそ〜〜っ!」


うげっ!

嘘だろっ!コイツ!


記録魔法用の水晶に、私の握力でピキッと少しヒビが入る。


次の瞬間……。


メキョッと人から発せられてはいけない音が、その子爵令息から聞こえてきた。


今まさにキティに抱きつこうとしていたシャックルフォードの横顔をクラウスが長い足で踏みつけている。


やれやれ、間に合ったか。

エリクエリーが伝達魔法で知らせている事は分かっていたが、流石にヒヤヒヤした。



「キティ!大丈夫かいっ!」


そのクラウスの後ろから、ノワールが現れキティに駆け寄った。


「お兄様〜〜っ!」


必死になって、ノワールに抱きつくキティ。


「ああ、可哀想に、キティ。

こんなに震えて、怖かったね」


キティをギュッと抱きしめて、髪を優しく撫でるノワール。


「え〜〜ん、怖かったよ〜〜!」


子供の様にノワールに抱き付くキティ。

あまりの恐怖にちょっと素が出てるが、仕方の無い事だ。



「おいお〜い、クラウス、そこまで。

学園で死人を出す気かぁ?」


止めている割には呑気な声で、ジャンが後ろからダラダラと歩いてきて、クラウスの肩を掴んで、顔を覗き込んだ。


瞬間、ジャンはギギギっとキティを振り返り、冷や汗を流しながらクラウスを指差して言った。


「悪い、キティ嬢。こっちを何とかしてくれ」


クラウスは鬼神と化して、今まさにシャックルフォードの首を狩ろうとしているところだ。


シャックルフォードを踏みつけている足にますます力を込めて、メキメキメキィッと不穏な音を立てている。

首があり得ない角度まで曲がって、そのままポッキリ折れそうだ。


ふむ、公衆の面前じゃヤバいな。

しかしこの状態になったクラウスを、もう誰も止められないし……。



しかしエリクエリーの報告では、人死が出たとは聞いていない。

一体どうやってこのクラウスを鎮めたんだ?

不思議に思って首を傾げていると、キティが慌ててクラウスの腕にしがみ付いた。



「……キティ……?」


鬼神クラウスがそのキティに反応したっ!

すげーっ!



「クラウス様、助けて頂いてありがとうございます。

もう私は大丈夫なので、その辺でおやめ下さい」


キティ、凄いっ!

さぁ、どうだっ?

鬼神は人の言葉を理解出来るのかっ⁈



「……どうして?

どうしてキティがこんな奴を庇うの……?

そっか、キティの心が少しでもこいつに向かない様に、今完全に塵も残さず消せばいいよね?」



……駄目だったーーっ!


おまっ!コイツ!

小国程度なら一瞬で塵に還せる消滅魔法の詠唱始めてんじゃんっ!

うぉっ、これはヤバいヤバいヤバいっ!



涙目でジャン達を振り返るキティ。


そんなキティにレオネルが、小声で必死に何事か伝えている。


「キティ嬢、その化け物の思考を完全に停止させるんだ。

正攻法じゃ無理だ」


ナイスッ!

ナイスアシストだっ!レオネルッ!

キティなら出来るっ!

いや、キティにしか出来ないっ!



キティは静かにレオネルに頷いた。

聡いキティの事だ、レオネルの言葉で全てを悟ったのだろう……。


すまんな、キティ。

この学園の、いや、人類の存続はアンタにかかっているんだっ!


いけっ!キティッ!

人類の為にっ!

骨は私が拾ってやるっ!

いくんだっ!キティッ!



キティは鬼神クラウスに向かって両手を広げ、涙目で見上げた。


「クラウス様っ!……抱っこっ!」



いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


私は爆笑しながらゴロゴロ床を転げ回った。

やったっ!本当にやりやがったっ!

アヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!



「キ、ティ……?」


目を見開き、フラフラとキティの方に向かっていく、クラウス。


そう、そうだ。

そっちにいくんだっ!

ホレホレ、アンヨはじょーずっ!

なぁっはっはっはっはっはっはっ!



やがて鬼神はキティをヒョイっと抱き上げると、胸に顔を埋めてスリスリし始めた。


「ああ、キティ。

初めて自分から、俺に抱っこを強請ってくれたね?」


頬を染めて嬉しそうにはにかむ鬼神……じゃなくて、クラウス。


キティ……。

アンタは人類を確かに救った。

たが同時に大事な何かを失ったんだな……。


アンタ1人を犠牲にして、人類は救われた……。



「ああ、キティ嬢……なんて慈愛に満ちたお顔なんだ……」


ミゲルの感嘆の呟きに、キティは静かに頷いた……。




「で、どうするよ、こいつ?」


無粋なジャンの声に、キティはブスッと頬を膨らまる。

おい、空気を読めよ。

もう少し浸らせてやれよ。

キティはアルマゲドンを鎮めた功労者だぞ?



「校内の空気を乱しまくってくれたからな。

シャックルフォード子爵家に学園から正式に抗議して、謹慎処分が妥当だろう」


レオネルの言葉にノワールがにっこり微笑む。


「始末すれば良いだけだと思うけど?」


再びアルマゲドンレーダーがピコンピコンと鳴り始める。


「王宮であれは、王子殿下の婚約者に対して働いた不敬罪で、牢にくらい繋ぐところだか。

ここは博愛と平等を謳う学園内だからな。

まぁ、そうはいかんだろう」


レオネルはやれやれと言った風に溜息を吐いた。


「じゃ〜まぁ、こいつは俺がとりあえず、護衛騎士の待機部屋にでも放り込んでくるわ」


ジャンは首があり得ない方向に曲がってしまっているシャックルフォードをヒョイっと肩に担いで、スタスタ歩いて行く。


「手続きは早めが良いだろう、私も行こう」


その後をレオネルが追いかけていった。



「ところで、シシリアは?」


「教員室に呼ばれて不在ですわ」


クラウスの問いにキティが答えると、残った3人は顔を見合わせて溜息を吐いた。


「本当、あいつそーゆーとこあるよな」


「ええ。肝心なところに居合わせ無いんですよね」


「そして後でぶーぶー言うから、タチが悪い」


クラウス、ミゲル、ノワールがブツブツ言っているのを、キティは小首を傾げて聞いていた。


やかましわっ!

お前ら後で覚えてろよっ!






と、まぁこんな経緯だった訳だ。



「でも、そのシャックルフォード某って、ちょっと怪しいわね」


私の言葉に、キティはクッキーを頬張りながら頷いた。


「だって、キティたそ、でしょ?」


キティもそこは引っかかってる様で、訝しげな顔をしている。


そりゃそうだ、そんな、前世の一部のアレな奴ら(私含む)が『ちゃん』の最終形態に使う様な言葉、この世界には無い。



実は、シャックルフォードについては既にクラウスが要注意人物としてチェックを入れていた。



キティの社交界デビューと共に、今まで人の集まる所にほとんど姿を現した事の無いキティの、その美少女ぶりはやはり社交界を大いに賑わした。


初公開ビジュにハートを撃ち抜かれた男共が、キティに恋文を贈ろうとしたり、登下校を出待ちしたり、クラウスの目を盗んで何とかお近付きになろうとしたり……。



いや、すげーなっ!

第二王子の婚約者に対してっ!


まぁ、全て、私とクラウス、ノワールで薙ぎ払ってきたけど。


で、他の高位貴族令嬢同様、キティにもファンクラブが存在するんだけど、そこの会員が急増化。

そこまではまぁ、当然として。


問題は、何故キティのファンクラブが既に存在していたのか。



キティはほとんどの茶会などに参加していない。

例えば、誰かの誕生日や祝いのパーティーなんかにもほぼ出席してこなかった。


社交界デビューで初めてキティの顔を見た者がほとんどだろう。

その後にファンクラブが設立されたというなら、納得もいく。


しかし、キティのファンクラブは3年も前から存在しているのだ。


しかも、人数こそ少ないものの、会員達は何故かキティの容姿を的確に知っていた。


まったくあり得ない事とは言えないが、会のメンバーは子爵家以下ばかりだ。

伯爵家以上でも無ければ、当時キティと知り合う可能性など0に等しい。


更にメンバーのみに配られるキティの姿絵を入手し、私は驚愕した。

その姿絵でキティは、ツインテにミニスカート姿だったのだ。


もう、〈キラおと〉の公式ビジュアルそのまんま。


当時キティは厚い前髪で顔の半分を隠していた筈なのに、その姿絵では前髪は短く、その見た目は間違いなく前髪の下のキティそのものだった。



クラウスは発足と同時に使える間者を会に潜入させた。

そいつはまず、会の副会長に接触し、スムーズに会に潜り込んだらしい。


その者からの報告によると、会の発起人で会長は当時中等部一年の、テッド・シャックルホード子爵令息。


そう、今日キティに迫ってきた、あの男だ。



奴は自作したキティの姿絵を、何故か的確にキティに興味を持つだろう人間に渡していった。

そしてまるでキティを知っているかの如く、その魅力を話して聞かせたらしい。


この時点では会の人数も少なく、集まった会員もキティに害をなす様な者達ではなかったので、間者に動向を探らすせておくに留めておいたが、クラウスは件のシャックルホードについては調べを進め、常に監視を付けておいた。


クラウスの野生の勘が、奴は怪しいと判断したのだろう。



そして間者の話では、奴のキティへの執着は盲信的で、他の会員とは一線を画している様だ。


シャックルホードは増えた会員の世話を副会長に丸投げし、自分は毎日キティを物陰から見つめ、常に追いかけ回すようになっていた。


そして今日、クラウスが危惧していた事件が起きたと言う訳だ。



……まぁ、これらの調べから導き出される答えはもう一つだけだよね。


シャックルフォードは転生者、しかも私と同じキティ沼の住人……。


更に面倒な事に、コイツもフィーネ同様、キティをゲームのキャラとしてしか見ていないという事だ。


自分の欲望を一方的に押し付ける事に、疑問も違和感も罪悪感も無い……。

何故なら相手をゲームのキャラと信じ、ビジュアルと設定しか見ていないからだ。


私はキティにバレない様に舌打ちをした。

ちっ、また胸糞悪りぃ奴が現れたもんだぜ。




とにかく今は、キティに不安を抱かせない様、自然に会話を繋げる。


「まぁ、子爵以下になってくると、だいぶ私達の生活から程遠くなってくるから、そんな言葉がこの世界にも自然発生したのかも知れないけど……」


私の言葉に、キティは憤慨した様子で言い返してきた。


「だとしても、語源がちゃんなんて可笑しくない?

私の事をちゃん付けで呼ぶ人間なんて、居ないよね?」


キティの言葉に、私は苦笑いを返した。


「あ〜…申し訳ないんだけど、いる」


目を見開いて驚き、直ぐに訝しげな顔をするキティに、私はゲンナリして答えた。


「下位貴族や平民から見たら、高位貴族の令嬢はアイドルみたいなものよ。

アイツらがフラワー5なんて呼ばれてんのと一緒で、実は私達にもファンクラブが存在するの。

今まで引き篭もってたキティが王子殿下の婚約者になった事で、キティのファンクラブの会員は爆発的に増えたみたいよ?

確か、ロリッ子キティちゃんを見守る会?だったかしら?」


私の言葉にキティはクラクラと目眩を感じたのか、頭を抱えたのち、額に青筋を立ててクッキーを貪り始めた。

どうやらロリッ子という単語がお気に召さない様だ。



「まぁまぁ、怒らないでよ。

仕方ないじゃない、ロリッ子なんだから?」


手でまぁまぁと抑えながらヘラヘラ笑う私に、キティは血走った目を見開いた。

ヒィッ!

怖っ!

私は座ったままちょっと後ずさる。



「はっ?そんな訳ないでしょ?

私、努力して、153㎝も身長伸ばしたのよ?

胸だって、脱トリプルAだし、ツインテだってミニスカだって避けてる。

キャンキャン言わない様に無口キャラで徹底してるし、チワワにも子ヌコにも見えない様に動作だって気をつけてるのにっ!

それでっ!どーしてまだロリッ子とか言われる訳っ!」


ウガーーッ!と激昂するキティの勢いに押されつつ、私は納得する様に頷いた。


「あ〜、それで原作キティとビジュアルがちょっと違うのね。

ああなる未来からよくそこまでの努力を……くっ、泣けるわ。

でもね、ごめんね、キティ……。

この世界の平均身長は、元の世界より10㎝程高いのは分かるわね。

……つまり、頑張って手に入れた貴女の今の身長だけど……。

ここでは、推定小5相当よ……」


痛々し気に告げると、キティは絶望の声を上げた。


「小5っ⁈つまりは、11歳くらいって事?」


嘘だって言ってっ!

そんなキティの心の叫びが聞こえてきたが、私は悲しそうに頷くしか出来なかった。


力無くヘナヘナと椅子に座るキティ。

それを痛ましそうに見つめながら、私は告げた。


「そう。努力は認めるけど、貴女は未だロリッ子から脱せていない。

それどころか、その身長に華奢で小柄でふわふわの美少女。

更に、そこだけは成長を隠せていない胸、という付加価値まで加わってしまった……。

……もう、分かるわね。

今の貴女は、シャックルフォード某タイプの男を寄せ付ける、ロリッ子好きホイホイなのっ!

それは、逃げられない運命なのよっ!!!

さぁ、キティ!己の本分を発揮して、今すぐ髪型をツインテに変えるべきよっ!

自分から逃げちゃ駄目っ!

ツインテが悪いんじゃ無いわっ!

むしろツインテは正義っ!

ロリッ子がツインテじゃない事こそ悪で罪よっ!

分かるわねっ⁈」



ズガシャーーンッ!!!

キティは私の言葉に、雷に打たれた様なショックを受ける。


そうっ!ロリッ子は逃げられない運命っ!

ロリッ子がツインテをしていないのは罪っ!

さぁさぁ今すぐっ!

ツインテにっ!

さぁさぁさぁさぁっ!



が、私の策略を跳ね返す様に、キティはジトッと私を見つめた。



「そもそも、私がロリッ子を良しとして無いのに、なんでわざわざツインテなんかにして寄せていくと思った?

ロリッ子完成形に自分からする訳無いよね?」


ちっ!

勢いで言い包めようとしたが、駄目だったかっ!


しかし、キティは先程の私のロリッ子キティへの熱量に思い当たる事があるらしく、ハハ〜ンと笑って、私を半目で見つめた。


「……そう言えば……。

まだ、シシリィの推しについて聞いた事無いわね。

ねぇ……シシリィの最推しって誰だったの?」


その意地悪な言い方に、私は頬を膨らませて、プイッと顔を背ける。


「なんでよ?教えてくれても良いんじゃない?」


そう言いながら、キティは両手で髪を左右に持ち上げて、即席ツインテを作った。


私はその姿に、口を両手で押さえ、頬を染める。

両目の奥に星が浮かび上がっていると思う。


ホレホレッと色んな角度で見える様に、首を振るキティ。

ふわふわツインテがわっふわっふと揺れる。


私はもう、涎を垂らさんばかりにキティに食い付いていた。



「……キティしゃまです……。

私の最推しは、キティ・ドゥ・ローズたんですっ……」


夢心地でついに白状してしまう、私。


キティはバッと髪を持っていた手を離し、ビシィッと私を指差して言った。


「はい、アウトーーッ!」



パッと夢から覚めた様に私は一瞬驚き、悔しさに顔を歪めた。


「……くっ!汚いわよっ!」



キティも、友達を自分の欲望の為に騙そうとした奴に言われたくは無いだろう……。



キティは両腕を胸の前で組んで、ジト目で私を見つめる。


私は罰が悪そうに両方の人差し指でイジイジしながら、唇を尖らせた。


「悪かったわよぅ……。

だって前世の最推しが美乳になってアップグレードしてるんだもんっ!

そのバージョンのツインテ見たいじゃん?

ツインテにして欲しいじゃん?」


ねっ?ねっ?

推しは違えど、私の気持ち分かるよね?

推しに自分好みのビジュを求めちゃう気持ち。

分からない訳無いよねっ?


たが、縋る様な私にキティは冷たく言い放った。


「だが、断る」


一切の感情を捨てたキティは、無情にも私の願いを冷徹に切り捨てた。


私は、あんまりよ〜っと嘆きながら、テーブルに泣き伏す。



くっそぉぉぉっ!

でも私は絶対に諦めないっ!

諦めないからな〜〜〜っ!


キティ沼の最高に悪い例であるのは自分である事に気付かないまま、私はギギギっと奥歯を噛み締めた。




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