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EP.34

すみません。

アランとアスランの名前が似過ぎていると今更ながら気付きました。

アスラン→ニースに変更しました。

今後はこの様な事の無いよう気を付けたいのですが鳥頭なのであまり自信がありません。

ごめんなさいっ!



「それで?アンタの計画って?」


兎にも角にもその話を聞かないと何も進まない。

エリオットに問うと、まだクラウスを残念な顔で眺めていたエリオットは、ハッとしてこちらに向き直った。


「そうだね、まずは僕の計画を聞いてもらおうか。

まず、その準魔族についての資料を配るから、一読してくれ」


エリオットが軽く手を挙げると、ニースさんとルパートさんが皆に資料を配り始めた。

それを受け取り、皆が速読していく。

やはり皆速読は身に付けている様だ。

呆然としたままのクラウスも、すごい速さで資料を読み終え、興味無さそうに机の上に投げた。


いやもうコイツ、今それどころじゃなからな。

自分の攻撃の破壊力に、私は内心くっくっと笑った。



「なる程、このフィーネという令嬢がどうやって魔族と接触し、魔族の魔力の種を植え付けたのか、それはまだ解明されていないんですね?」


資料を読み終えたレオネルが顔を上げてエリオットに問う。


ノワールも資料を机に置き、溜息を吐きながら口を開いた。


「それどころか、分からない事ばかりですね。

この、準魔族である女性が幼い頃から口にしている妄言……。

自分はこの世界の主人公、とは何の事でしょう?

この国を魔族の力で滅ぼす、という意味でしょうか?」


いや、乙女ゲーのヒロインって意味だが?

とは言えず、取り敢えず私も神妙な顔をしておく。



「そう、そのフィーネ・ヤドヴィカの妄言が、この国や世界を自分が征服するという意味なら、フィーネは幼い頃に既に魔族と接触していたという事になる。

だが、その様な幼い子供が一体どうやって魔族と接触出来たのか、何故魔族の魔力の種を我が身に植え付ける事になったのか、不明な点が多い。

やはりフィーネを捕獲し、話を聞くしか無いんだ。

しかし、今時点でフィーネを捕縛する理由が無い。

フィーネはまだ大した力を持たず、魔族の力で人を害した事が無いからね。

魔族の力は使っている時にしかその魔力を感知出来ない、更にフィーネの力はまだ弱すぎて、使っている間も感知が出来ない事は既に実証済みだよ」


エリオットの言葉に、私とクラウス以外が目を見開き、エリオットを見た。


「フィーネは力を使ったのですか?

いつ?どこで?一体誰に?」


ミゲルの震える声に、エリオットがケロッとした顔で答えた。


「社交界デビューパーティ中に、王宮で、一緒にダンスを踊っていた僕に」


ニースさんと、とうとうルパートさんも頭を抱えた。


ミゲルはガタッと立ち上がり、直後フラ〜ッと後ろに倒れた。

そのミゲルを咄嗟に支えながらも、レオネルもエリオットの非常識さに頭がついていかないという顔をしている。

ジャンは静かに身構えている。

エリオットが準魔族に操られているのでは無いかと怪しんでいるのだろう。

そのジャンに、ニースさんルパートさんも身構える。



プチパニックを起こしたその場を、ノワールが咳払い一つで落ち着かせた。

皆がノワールに注目する。


「つまり、殿下ご本人が直にその準魔族の力を測った、という事ですね?」


フワッと花の様に微笑むノワールは、だがしかし額に青筋を立てている。

この国の王太子の軽率な行動に、はらわたが煮えくり返っているのが見て分かる。


「う、うん、そうなんだ、ノワール君」


静かなノワールの怒りに、エリオットは目を泳がせながら答えた。


「で、どんな力だったんですか?

どうせ兄上のスキルを使って鑑定したんでしょ?」


興味無さげにだが、クラウスも話に乗ってきた。


「うん、鑑定スキルを使って色々分かったよ。

まず、先程も言ったが、フィーネはまだ人を害する程の力を使えない。

これはまず間違いないよ。

これからどれくらい伸びるかだけど……僕の予想ではそれ程脅威にはなり得ないと思っている。

無いんだ、伸び代が。

だから学園でちょっと問題を起こすくらいで済むんじゃ無いかな。

それから、力の正体だけど、そうだな。

魅了と精神操作、負の感情の増幅、そんなところかな?

魅了は特殊スキルで珍しいけど、使える人間がごく偶にいる。

精神操作や負の感情の増幅等は人の持ち得ない魔族の力だね」


へーー、魅了って特殊スキルだったんだ。

私はまったく関係無いところに食いつきつつ、今まで使った事無いけど、今度からは魅了もうまく使おうかな〜とか思っていた。

だって特殊スキルは使っている間魔力が通じない。

つまり、どんな魔法攻撃もスルー出来るって訳。

エリオットの数々のスキルにキーキー言ってたけど、私も持ってるんじゃん、特殊スキル。

後はレベル15でどれくらいの時間使えるのか、次はどれくらいで使えるのか、色々試してみないとね。


むふふっと笑う私をよそに、ミゲルが珍しく怒りをその声に織り混ぜ口を開いた。


「人の心を操る力など、忌むべき力に他なりません。

その様な者を野放しにしては、必ず犠牲者が出ます。

一体殿下はどの様にその者を制御するおつもりで?」


鋭いミゲルの指摘に、エリオットは片眉を上げて何て事も無い様に言った。


「犠牲者を出してもらうのさ、存分にね」


エリオットの言葉にミゲルが立ち上がる。


「それは一体どういう事でしょうかっ!」


声を荒げるミゲルをエリオットはまぁまぁと手で制して、座る様に指示する。

納得のいかない様子のミゲルだが、黙ってソファーに腰掛けた。


「革命には大義名分が必要だと言ったよね?

そして、大義名分を掲げるには被害者が多ければ多い程良い。

良いかい?あの準魔族、フィーネには好きに動いてもらうんだ。

あの女は必ず、まず男子生徒を狙う。

金で入学出来ただけだから、フィーネのクラスはFクラスだ。

E、Fクラスの男子生徒の驕りや嫉妬心、嗜虐性を増幅させ、一般生徒を攻撃するだろう。

君達はそれを気付かないフリをしていてくれれば良い」


あ゛あ゛っ!!

コイツ今、なんて言ったっ!

一般生徒に被害が出る事を黙っていろつったかっ⁉︎今っ!


お前はそんな奴じゃ無いと思っていたのに、結局はそうなのかよっ!

平民が傷付く事に気持ちが動かない、そんな屑野郎かよっ!

平民が犠牲者ならいいってのかっ!



一気に気色ばむ私達を、またエリオットはまーまーと手で制した。

ちなみにクラウスは平気な顔をしている。


ちっ、これが王家のやり方とか言わねーだろうな。



「勿論、本当に被害者なんか出さないよ。

一般生徒からは、ね。

彼らには事前に僕のコピースキルを使ってある。

発動条件は誰かに危害を加えられた時。

瞬時にコピーと入れ替わり、本人はこちらの用意した保護施設に転移してくる。

勿論、授業も施設で受けられる様に手配済みだからね、学業に差し障りも出ないよ。

その後もコピーに起きた事柄だけは受信出来る様にしてある。

精神は完全に分離してあるから、コピーに何をされても心の傷を負う事は無い。

まったくの第三者目線で冷静に判断出来ると思うよ。

まぁ、貴族への憤りは感じるだろうけどね。

一応、一級治癒師を常駐させて心のケアに当たらせる。

実際に被害者は出さない、だけどフィーネによる被害者と罪は増える、画期的な方法だと思わない?」


あっはっはっはっと高笑いするエリオットと、そんな事だろうと思っていたらしいクラウス……。

頭痛に耐えるニースさんとルパートさん……。


私達といえば、呆気に取られて開いた口が塞がらない状態。


エリオットの特殊スキル……どんだけあんのよ……。

コイツ居ないと成立しない作戦じゃん。



「で、ですが……、フィーネに操られた男子生徒達はどうなるのですか?」


ミゲルの問いに、エリオットはその顔に黒い微笑みを浮かべた。


「……それの、何が問題なの?」


その気迫に、ミゲルが怯むとエリオットはいつもの様ににっこり微笑む。


ニースさんが溜息を吐きながら、今日初めて口を開いた。


「我々の在学中に調べた限りでも、Cクラス以下の貴族の子息、息女に救済の余地はありませんね。

彼らは日常的に下の者を蔑み、奴隷の様に扱っています。

そのアウトカーストが平民による一般生徒です。

彼らのE、Fクラスでの待遇は見るに堪えない。

上から下に押し込まれる鬱憤全ての受け皿になっていると言っても良い。

更に彼らは、その貴族達より優秀なので、妬みや嫉みによる攻撃も日常的茶飯事となっています。

Cクラス以下を潰し、一般生徒をあるべきクラスに戻す。

私はこの為に一部男子生徒がどうなろうと、留意する事案とは思えませんが」


寒っ!

何か、部屋が一気に氷点下まで下がった気がするっ!

ノワールより冷気が強いんだけど、ニースさん。

どの世界にも上には上がいるもんだ。


部屋中を凍らせながら、ニースさんは続ける。


「特に問題なのは、貴族達の蛮行により、優秀な一般生徒が耐え切れず自首退学してしまう事です。

何故脳無しどもが学園に残り、本来なら国を支えるべき優秀な人材が去っていかねばならないのか……。

この愚行を前に、何も出来なかった我々の口惜しさ……。

モンスター狩りだ何だと遊び呆けていた貴方方には分かりますまい……」


ギラリとニースさんに睨み付けられ、私達は一斉に下を向いた。

あっ、クラウス以外ね。

奴は平気な顔で片手で頬杖をつきながらニースさんを眺めている。


す、すみませんっ!

討伐依頼に明け暮れ、正直学園の惨状など気にもしていませんでしたっ!


現生徒会である5人も同様だった様で、言い返す言葉も無く、じっと下を向いている。

あっ、クラウス以外ね(以下略)



「まぁまぁ、ニース。

貴族のせいで自主退学していった一般生徒には救済措置を施しているじゃ無いか。

皆、顔を上げなさい。

大丈夫、彼らは全て組織が拾い上げ、学園で学ぶのと同等の教育を受けているからね」


エリオットの言葉に、皆が顔を上げ、ほっとした様な顔をした。


「Sクラスにいる君達には、遠い世界過ぎて知らなくても無理の無い事ばかりなんだよ。

今回たまたま使えそうな駒が現れたから、君達の代で事を成そうとしているが、そうでなければ何も知らないまま卒業させるつもりだったんだ。

僕にしたって、秘密裏に水面下で動いていた父上は何も言っては来なかった。

Eクラスの一般生徒に友が居たから、ここまで辿り着けただけなんだ。

ね、ルパート?」


えっ?

私達が目を見開きルパートさんを見ると、ルパートさんは鼻の頭を掻きながら、口を開いた。


「俺は平民出身だ。魔力を持って産まれたせいで、幼い頃に両親に国に引き渡された。

国から貰える支援金やら補償金やらが目当てだったんだろう。

魔力量が高かったから、学園には初等部から通っている。

そこで、偶に見学に来ていたエリオットと知り合った。

まぁ、それだけだ」


ツンと横を向いたルパートさんにエリオットは口を尖らせ不満げに言った。


「酷いなぁ、貴族から金をせびられている君を助けてあげたのは、僕だよ?」


「金をせびってきた貴族をボコボコに叩きのめした俺を不問にしてくれた事を、いつまで恩に着せるつもりだ?」


逆にルパートさんにギラリと睨まれ、エリオットはますます不満げに頬を膨らませた。



いやいや、ちょ、ちょっと待って?

誰が誰に金をせびっていたってっ?


私の疑問顔に気付いたエリオットが、溜息を吐きながら口を開いた。


「一般生徒は国から補助金が出る。

それを、元々は自分達の寄付金なんだから、返せ、寄越せと恐喝する愚物がいるのさ。

ちなみに、未だにそんな人間は後を立たない」


それを聞いて、ついに私はフラ〜っと目眩を起こし、ソファーの背もたれにボスッと頭から倒れた。



いやいやいやいや、嫌嫌っ!

もうっ!嫌っ!

分かったわよっ!やってやるわよっ!

学園革命⭐︎レボリューションッ!

私達がやらないで、誰がやるってのよっ!


天井を睨み付けながらゴオォォォッと燃え盛る私と、氷点下の冷気を撒き散らすニースさんのお陰で、部屋が丁度良い温度になったところで、ノワールが口を開いた。


「ですが、準魔族に操られていたとなれば、彼らの方に同情が寄せられるのでは?

結局、一般生徒に何をしたとしても、不問になるのでは無いでしょうか?」


冷静なノワールの問いに、私はハッと我に返り体を起こした。


エリオットはそんなノワールをニヤリと笑って見る。

ノワールは嫌な予感がするのか、ブルっと体を震わせた。


「そう、被害を受けるのが一般生徒だけならば、まず間違い無くそうなる。

だから、ここで君の妹君の出番なのさ」


クラウスとノワールと私の間に、ピリリッと緊張が走り、一斉にエリオットを睨み付けた。



「おぅ………、怖いよぅ……。

ニ、ニースッ!」


エリオットに泣きつかれたニースさんは、例の氷点下の鋭い眼差しを私達に向けて、スラスラと言葉を紡いだ。


「良いですか?準魔族の狙いは第二王子、クラウス様です。

学園の男子生徒、まぁ奴が近付けるのは頑張ってCクラスまででしょうが、そいつらを使って一般生徒に危害を加えるだけでは収まらないでしょう。

むしろ一般生徒達への攻撃は、彼らの負の感情を高めた事による副産物。

ある程度希望通りに好きにさせ、自分に従属させた後は、まず間違いなく、クラウス様のご婚約者、キティ様に危害を加えようと動き出します。

どういった手で出ようと、その時点で奴らの罪はとてつも無く跳ね上がる。

良いですか?キティ様はこの国の王子のご婚約者で、侯爵家令嬢、更に騎士団将軍のご息女。

その様な高貴な方に手を出すのです。

いくら準魔族に操られていたとはいえ、本来なら極刑に値する。

誰も彼らに同情や、ましてや減刑の嘆願など出来ない。

それでこそ奴らを完膚無きまでに叩き潰せるのです」


クックックッと笑う悪の参謀……いや、間違えた。

エリオットの側近、ニースさん……。


いや、しかし。

それでも到底納得など出来ない、実力行使派の私達3人に、エリオットが怯えつつ口を開いた。


「あのね、君ら今や帝国でも名を馳せるほどのフリーハンターでしょ?

クラウスなんか、ちょっと一狩りとか言って、この前ブルードラゴンとシルバーホワイトドラゴンのミックスを狩ってきてたじゃない。

しかもソロで。

その核から作った魔石でキティちゃんに守護アクセサリーを作ったの、お兄ちゃん知ってるよ。

ブルードラゴンとシルバーホワイトドラゴンなんて、希少種な上にどちらも浄化と守護に特化しているから、そのミックスなんて、超一級素材じゃ無いか。

討伐難易度と共にSSR級。

更にそこにクラウスの魔力も込められてるなんて、それもうSSGRスーパースペシャルゴットレア級じゃないっ!

そんなアクセサリー着けてるキティちゃんを、誰がどう害せるっていうのさっ!」


悲鳴に近いエリオットの叫びに、私はまじまじとクラウスを見つめ、改めてコイツのキティへの執着ぶりに身震いをした。


あ〜あ、キティ、そんなアクセ貰ってまたぶっ倒れなきゃいいけど……。



「だが、特殊スキル持ちには効かない。

例えば、特殊スキルを複数持ち、しかもレベルがカンストで時間の制限も無く、常時いずれか同時に発動させていて、魔力の効かない状態の人間、とか……」


ジーッとクラウスに見つめられ、エリオットは執務机にワッと泣き伏した。


「そんなっ!僕が未来の可愛い義妹に何かする訳無いだろっ!

酷いよ、クラウスッ!」


エリオットの泣き声で冷静さを取り戻したノワールが顎に手をやり、呟いた。


「という事は、エリオット様並みに非常識な存在で無ければ、キティに何かする事は無理だね」


「そんな存在が兄上以外にいる訳が無い。

つまり、その準魔族が何をしてこようと、キティには傷も付けられない、という事だ」


クラウスとノワールは納得した様に頷く。

それを見て、私もようやく頷いた。


「そもそも、私達がついているのに、キティ様に万が一なんて起こり得ないわよ。

よく考えりゃ、SSR級の討伐依頼に比べれば、準魔族なんて大した事ないじゃ無い」


私がにっこり微笑むと、レオネル、ミゲル、ジャンがゲッソリとした顔で呻いた。


「SSR級の討伐依頼をホイホイ受けやがって……。

俺らを殺す気かよ……」


ジャンの呟きに、私は全力笑顔でサムズアップしておく。


「さっ、次は準魔族と王国に巣食う悪き貴族討伐ですって!

自分の国の事だものっ!頑張りましょうっ!」


私の笑顔に、ジャンは涙目で拳を振り上げた。

自棄でも良いっ!やったろーぜっ!


学園革命⭐︎レボリューションッ!

おーーーーーーーっ!!(拳振り上げ)





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