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EP.33



「やぁ、よく集まってくれたね」


ニコニコと笑うエリオットに、私達はそれぞれウヘァっといやぁな顔をした。


エリオットの執務室に集められたのは、私といつもの5人。

更にエリオットの側近のニースさんとルパートさん。


モーブルシルバーの髪にスカイグレイの瞳のニースさんと、ブルーグレーの髪に紫紺の瞳のルパートさん。

アランさんもだけど、エリオットも合わせて乙女ゲーの攻略対象でもおかしく無いくらいの美形。

もう、2の攻略対象と取り替えた方が良いんじゃなかろーか。


しかし、エリオットがこれだけのメンバーに召集をかけている時点で、嫌な予感しかしない。


一層不機嫌なノワールなど、誰も声もかけられない状態だ。



昨日の社交界デビューでの、キティとクラウスの婚約発表後、クラウスはキティに王宮に部屋を与え、そのまま王宮に住まわせてしまった。

しかも、クラウスの続き部屋の王子妃の部屋……。

こうなると、例え兄妹と言えどもおいそれと気軽には会えなくなる。


そりゃお兄ちゃん、オコにもなります。

ジャンとミゲルなんか、激オコなノワールにあわあわオロオロしている。

そう言えばジャンは、社交界デビューパーティ中、避難していた庭園で何やら失言してノワールを切れさせぶっ飛ばされたらしい。

阿保だなぁ……。



「さて、いよいよシシリアもあと1週間で学園に入学するね。

いい機会だからね、ここら辺で学園を元の姿に戻す為に動き出したいと思うんだ」


エリオットの言葉に、ミゲルが首を傾げる。


「元に………ですか?」


エリオットはそれに意味ありげに頷いた。


「まず、王立学園とは?一体どんな学園かな、レオネル」


エリオットの問いに、レオネルが当たり前の事と言わんばかりに答えた。


「王国の7歳から18歳までの貴族令息令嬢が通う、初等部中等部高等部一貫の学園です」


エリオットはレオネルにうんうんと頷いて、次にノワールを見た。


「ではノワール、クラス分けはどんな仕組みになっているのかな?」


ノワールはまだちょっと不機嫌そうに口を開く。


「まずは、最上位の貴族位で成績の優秀な者が集まるSクラス。

王家、公爵、侯爵、伯爵の優秀な者達です。

次に、最上位の貴族位で成績が平均的な者はA、Bクラス。

こちらは貴族位は低くても、成績が優秀であれば子爵家や男爵家でも在籍出来ます。

貴族位はそれなりに高いが、成績の振るわない者が入るのが、C、Dクラス。

主に、伯爵、一部子爵ですね。

そして、貴族位が低く、成績も振るわない令息令嬢がE、Fクラス。

更に、王立学園はほぼ全ての生徒が貴族ではありますが、一部特例で一般市民でも入学出来ます。

学業の優秀な者、一般市民には珍しい事ですが稀に現れる魔力を持って生まれた者。

その様な一般生徒が学費免除で入学出来ます。

彼らを受け入れているのも、EクラスとFクラスです」


エリオットはノワールの説明に、満足気に頷いた。


「ではミゲル、校舎はどの様に分かれているかな?」


ミゲルはエリオットの問いに、直ぐさま答えた。


「Sクラスと生徒会室のある第1校舎。

A、Bクラスのある第2校舎。

C、Dクラスのある第3校舎。

E、Fクラスのある第4校舎。

この4つに分けられています」


「そうだね。ではジャン、この4つの校舎をどう思う?」


急に今までの流れと違う質問をされて、ジャンは焦った様に首を捻った。


「どう思うって、う〜ん、何か……第1、第2がやけに古いなって思うかな。

逆に第3、第4は新しいっつーか……」


ジャンの言葉に私はハッとして、顔を上げ、エリオットを見た。

私だけじゃない、レオネルやノワール、ミゲルも気付いた様だ。


その私達の様子に、エリオットは満足気に笑う。



「そう、第3、第4は元から無かった。

あとから付け足された校舎なんだよ」


エリオットの言葉に、ジャンが驚愕の声を上げた。


「えっ!どーゆー事だよっ!ですか?」


いや、無理して敬語使うな、おかしな事になってるだろ。

あと察しが悪いな、相変わらず。


「王立学園は元々、王家王侯貴族、公爵、侯爵、伯爵の優秀な子供達によるSクラス。

それ以外の優秀な者を集めた、A、Bクラス。

この3クラスしか無かったんだよ」


エリオットの立てた3本の指をじっと見つめ、私は口を開いた。


「つまり、A、Bクラスに身分は元々関係無かった。

貴族だろうが、平民だろうが優秀であれば在籍出来る。

そこに身分による貴賤は存在しなかった、て事ね」


私の推察を肯定する様に、エリオットがにっこり微笑む。


「そう。それが本来の王立学園の在り方なんだ。

何故その様な制度を作ったか?

もちろん、国力の強化の為さ。

出来たばかりの王国では、国力の強化の為、優秀な人材の育成、確保が急務となった。

そこで優秀な人材を若い内から育成する為の学園が作られたんだ。

そこに高位貴族も入れる事にしたのは、彼らを正しく使う為。

高位貴族程、どれほど優秀でも邸で家庭教師に教えを乞うだけで、実際に他の優秀な人間と交流する機会がほぼ無い。

それでは実際にその優秀な人材を活用出来はしない。

選ばれた人間同士を学園で交え、国力に繋げる。

学園はその目的のみで作られたといっても過言では無い」


エリオットの説明に私は納得して頷いた。


なるほど、元々はそんなに合理的なシステムだったのか……。



「ではどうして今の様な、ブランド志向の強いくだらない有り様になったのですか?」


レオネルが鋭い目で問いかける。

合理性の無い今の学園を、無意味、無価値と常日頃から嫌悪しているレオネルは、元々は素晴らしく合理性に富んだ場所だったと知って、苛立ちが隠せない様だ。


「そうだね、それは最初は学園維持の為だったんだ。

貴族は別として、王国中から集めた平民。

彼らには王都の市民権を与え、学園のみならず生活全般への補償が必要だった。

もちろん家への援助も。本来なら若い内から働き、家を支える大事な収入源になる筈だったんだからね。

将来が保証されているとはいえ、それまでの稼ぎが無いのは平民にとってはかなりの痛手だ。

それに加えて、高位貴族の子供達を守る為の警備、警護。

ここにも莫大な予算が必要だ。

それらは国庫だけで維持する事は難しい。

貴族からの援助、寄付がどうしても必要だったんだ。

だがその内、その貴族達から不満が噴出し始めた。

寄付をしているのだから、自分の子供達も学園に通わせろ、とね」


ああ〜……。

私とレオネル、ノワール、ミゲルはその先が大体予想出来たので、揃ってこめかみを押さえた。


何の事か分かっていないジャンと、元から興味の無いクラウスだけが、まったくのノーリアクションだった。


ジャンの様子を見てエリオットはクスッと笑って、優しく分かりやすく話を続ける。

こんな時、ジャンってお得だなぁ、と感じざるを得ない。


「つまりね、彼らは自分の子供達を通わせられないなら援助を打ち切ると言い出した。

そこで仕方無く、今あるC、Dクラスが出来、校舎も増築された。

不満を口にする伯爵、子爵辺りの不出来な子供達の受け皿の為にね。

そこで、金で学園の在り方が動いた事に、男爵家以下も動いた。

次は賄賂が横行し始める。

貴族位も低く、子供の出来も良くない。

だが、金はある。

そんな人間から金を受け取り、学園に無理やり入学させる。

クラスも増やし、校舎もまた増築され。

この頃には、すっかり学園ビジネスが成り立ってしまい、王家でもそれを抑える事が難しくなってしまったんだ。

元々は子供達の学業の場。

学びたい子供達を蔑ろにしている、国が子供を差別するのか、等ともっとらしい理由を掲げられては、ね。

すっかり学園は様変わりし、本来はA、Bクラスで学ぶ筈の優秀な平民はE、Fクラスに追いやられ、数も減らされた。

更に、本来優秀な彼らと繋がりを持つ筈だった高位貴族は、下位貴族に付き纏われるのを嫌い、入学自体を先延ばす様になった。

正に、本末転倒とはこの事だね」


ジャンはエリオットの説明にぽか〜んと口を開け、納得のいかない顔で首を捻った。


「なんだよ、それ。んじゃあ、そんな所に俺達が通う意味、本当に無いじゃん。

学園なんかそいつらにくれてやって、新しくまた本来のものを作れないのかよ?」


ジャンの問いに、エリオットはビッとジャンを指差し、ニヤリと笑う。


「正に、それさ。その話は前々から出てはいるし、実際に構想も練られている。

だが、今の様になる前の学園を卒業した人達がね、それでは納得出来ないと言うんだよ。

彼らは、初代国王が設立した本来の学園を取り戻したいと願っている。

その為だけに作られた彼らの組織もある程さ」


そのエリオットの言葉に、背筋がゾクッと震え、私は嫌な汗を掻く。


ちょっと、待ってよ。

優秀な人間ばかり集まっていた頃の人間が作った組織って……。

間違いなく各職種のトップばかりじゃ無い……。

高官や幕僚がいてもおかしくない。

それって、間違い無くこの国で1番ヤバい組織じゃない?



「ちなみに、僕と父上もその組織に属しているよ」


にっこり微笑むエリオットに、クラ〜ッと眩暈がする……。


「組織のお陰で、次は資金の心配も無い。

学園を本来の姿に戻した後の憂いは全て、父上と僕らで潰してあるから。

後は学園を改革、つまり革命だね、するだけなんだ」


レボリューションッ!!

2より早くレボリューションかよっ⁉︎


クラクラ眩暈を起こしながら、私は目の前の紅茶を飲んで、何とか平静を装う。



「しかし、何故今、なのですか?

それこそ、エリオット様の代でも、私達だってもっと早く動けたのでは?」


レオネルの素朴な問いに、エリオットは残念そうに首を振った。


「革命にはそれなりの大義名分が必要さ。

犠牲者だって出るだろう。

それはいつでも力の弱い者から、学園で言えば、数少ない一般生徒、つまり平民から犠牲になる。

それだけは避けたいと、父上も僕も実際に事を起こせなかった。

その状況で、君達を巻き込む事も出来なかったのさ」


エリオットの答えに、レオネルが納得した様に頷く。


「だが、今年入学する生徒の中に、大変使える駒が紛れていてね。

その駒を使い、いよいよ計画を遂行する事になったんだよ」


ニヤリ、と笑うエリオットに、私は冷や汗を流した。

おい、待て、まさか……。

その駒って……。


「凄く扱いやすそうな準魔族がいるんだぁ」


パァァッと破顔するエリオット。

その隣で頭を抱えるニースさん、反対隣で無表情ながら眉を微かにピクピクさせるルパートさん。

顔を両手で覆う私……。


コイツっ!やっぱり碌な事考えてなかったっ!


一気に部屋に緊張が走る。

私以外皆、言葉を失い、信じられないものを見る目でエリオットを見ている。


それまで興味の無さそうだったクラウスまで、目を見開き、ゆっくり体をソファーから起こし、横目でギラリとエリオットを睨んだ。


「……兄上…、準魔族、とは?

キティも入学する事を、お忘れですか?」


地から這う様なクラウスの低音に、エリオットはすくみ上がってルパートさんに縋りついた。


「待って、待ってクラウスッ!

お兄ちゃんの話をまずは聞いてっ!

瞳孔っ!お願いだから、瞳孔を閉じてっ!」


涙声のエリオットをまったく覇気を緩めず射殺す勢いで睨み続けるクラウス……と、ノワール。


おいっ!なんか増えてるっ!


仕方無い……。

私は溜息を吐いて、手で2人を制した。


もぅ……エリオットの考えている事がだいたい読めたし。

しかし、そのやり方では必ず犠牲者が出る。

一体コイツはそこをどうやって解決するのか、そこが問題だが……。

エリオットの事だから、そこもしっかり策を張り巡らせているのだろう。


はぁっと溜息を吐き、私は口を開いた。


「クラウス、ノワール、落ちついて。

こうなれば遠慮無くアンタ達を巻き込むけど、いや、最初からそのつもりだけど。

その準魔族の狙いは、クラウス、アンタよ。

おまけにレオネル、ノワール、ミゲル、ジャンも。

そして、クラウスの婚約者になったキティ様。

彼女もまず間違い無く、狙われる」


私の言葉に皆が目を見開き、私を見た。


「私は、エリオットの案を聞くべきと思うわ。

その準魔族を使って学園を改革するかどうかは別として、準魔族相手にそれぞれがバラバラに動くべきじゃない。

特にキティ様の事は何があっても守り切らなきゃ。

その為に、エリオットだろうがその組織とやらだろうが、利用していくべきよ。

どう?違う?」



だがクラウスは、ビキビキとこめかみに青筋を立て、ボソリと呟いた。


「今すぐ消し炭にすれば、全て解決だな」


隣で賛同する様に黒く微笑むノワール。


気持ちはめちゃめちゃ分かるが……。

今の時点でそれをやっちゃ、ただの人殺しだ。

いや……バレない方法などいくらでもある……。


う〜む、と悩んでいると、レオネルが焦った様に声を上げた。


「待て待て、準魔族がいるという事は、この王国に魔族が存在するという事だ。

その準魔族を今消してしまえば、その魔族が野放しになる。

せめて魔族について洗いざらい吐かせてから始末するべきだろう」


レオネルの言葉に、ハッとする。

あっ、そうだった……。

あのゴードンとかいう魔族。

アイツを野放しにしておけば、第二第三のフィーネを生み出すだけだろう。

そうなれば、この王国でどんな悲劇が起きるか分からない。

アイツに繋がる糸口はフィーネとニーナしか居ないんだった。


あかんあかん、短慮はあかん。



「あのね、クラウス。確かに今その準魔族を消し去る事は簡単な事だけど、大事な事が抜けているよ。

君が学園を卒業しても、キティちゃんはあと2年在籍するんだ。

その2年間の内に、学園が少しでも良くなった方が良いと思わないかい?」


エリオットが子供を宥める様な言い方で説得に回るが、クラウスは首を傾げるだけだった。


「キティは俺の卒業と共に婚姻するから、学園には通わない」


クラウスのその言葉に、エリオットが珍しく頭を抱えて深い深い溜息を吐いた。


「あのね、クラウス。1年後に行えるのは婚約式。

それでもかなりの急ピッチで事を進めているんだよ。

婚姻には少なくとも、あと2、3年はかかると、何度も説明したよね?」


エリオットがもはや諭す様に言っても、クラウスはますます首を捻るばかり。


「何でだ?」


心の底から分からないといった感じのクラウスに、とうとう私は我慢出来ず、バンっと机を叩いて立ち上がり、クラウスをビシッと指差した。


「何でだ?じゃねーわよっ、何でだ?じゃっ!

あのねぇっ!アンタは王族なのっ!

しかも現在王位継承権第二位。

そんな人間の婚約式やら結婚式やらが、思い付きでホイホイ行える訳無いでしょっ!

それにっ!社交界デビューでも慣例を無視してキティ様を自分カラーであんなに飾り付けて、男の独占欲を背負い込ませるなんて、真面目なキティ様にはどれ程負担だったか。

この上更に非常識に自分勝手な行動を取れば、アンタはまず間違い無く、いつかキティ様に愛想尽かされるわねっ!

それでもいいのっ⁈」


最後にギラリと睨み付けると、クラウスはガーンッ!と衝撃を受けた様に、顔を真っ青にしてぶつぶつ呟き始めた。


「キティに、愛想尽かされる……キティに、愛想尽かされる……キティに………」


「ちなみに、愛想つかせた相手との婚姻なんて、無理ね」


きっちりトドメも刺しておく。

クラウスは更にショックを受けて、真っ白に燃え尽きた。


馬鹿め。

調子に乗った罰じゃ。


クラウスの隣で、ノワールが良い顔でサムズアップしてくる。

私もそれに返しながら、ノワールも少しは溜飲が下がったかと息を吐いた。



「さっ、コイツが大人しい内に、さっさっと話を進めましょ」


私がエリオットにそう言うと、エリオットは複雑な顔で頷いた。


我が弟の呆れるくらいのキティしか見てないっぷりに、ちょっと目尻に涙が浮かんでる。


何か……本当にどこの兄ちゃんも大変だなぁ……。

流石に憐憫の目でエリオットを見つめてしまった……。





今更ですが、アスランとアランの名前が似過ぎている事に気づきまして、アスランの名前を変更しました。

アスラン→ニースになります。

すみません。今後は気を付けます!

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