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EP.31



今日は、社交界デビュー当日。

私は朝からもう何度目かになる溜息を吐く。



1週間前の【祝義の謁見】で、やはりクラウスはやらかした。

クラウスからの祝いの品を見たキティは、やはりその場でぶっ倒れたらしい。

そりゃそーだろっ!

で、動揺したクラウスが、ついうっかり、自室の寝室に運び込んだらしい……。


つい、うっかり……。


いや、絶対にワザとだよねぇぇぇっ!

アイツ、可愛くなったキティ見て、絶対に焦ったんだわっ!

で、卑劣な実力行使に出た、と。


何故倒れたキティを自分の寝室に運び込んだら駄目なのかって?


そりゃ駄目でしょっ!

例え実際は何も無くても、寝室に連れ込まれた時点でアウトッ!


キティは既にクラウスのお手つきと、宮廷中に広まるんですっ!

そういう世界なんですっ!


もはや社交界は2人の噂で持ちきり。

公式発表待った無し。

あちらこちらで噂の火消しをするローズ将軍とノワール、と、悠然と微笑む夫人……。


してやったりな、各関係者の顔が浮かぶ……。


キティたんっ!これに関しては、私、ノータッチだからっ!

私は関係者じゃないからね〜っ!


やはりクラウス包囲網からは逃れられなかったか……。

鬼畜すぎて泣ける……!




「シシリア……ああ、夢の様に美しいよ……」


出たな、鬼畜の兄め。

憎々しげに睨みつけるが、エリオットは全く気にならないらしい。


今日の私は、もちろん例の総レースのマーメイドタイプのドレスを着ている。

髪は高く結い上げて右肩に垂らし、メイクまでされてるので何か顔に違和感があって落ち着かない。

首元にはあの、シャンパンカラーのブラウンダイヤモンドをあしらった首飾り。

ドレスに合わないっ!とお母様が引きちぎりそうな勢いで着けてくれたが、私には全く何の事やら分からない。



エリオットは甘く蕩けた顔でこちらを見つめている。


うん、要らん表情をするな?

気色悪い。


「で、どうだったの?」


腰に腕を回してくるエリオットの足を踏みながら聞くが、全く効いていないし聞いていない。


「まるで地上に降りた女神の様だ……。

眩しくて目を開けていられない……。

そうだ、僕の部屋に珍しいワインがあるんだけど、どうかな?社交界デビューのお祝いに……一緒に……」


うっとり頬を染めて微笑むエリオット。


いや、分かりやすい手を使ってきたな。

弟の方がまだパンチが効いてたぞ。

何か?あれか?

そのまま寝室に連れてかれて、明日からは私らの噂で持ちきりか?

私は例え酩酊していてもお前の思い通りにはならんぞ。

酔拳で返り討ちにしてくれるわっ!


エリオットの頬を摘んで引っ張ると、いひゃいいひゃいと涙目になる。


いいからさっさと離れんかいっ!


「で、ど、う、だった?」


ギリギリギリィッ!と頬を摘み上げながら、改めて聞く。


「あの、ふひゃり、もう、おうひゅうに、きてるって」


エリオットの答えを聞いて、私はやっぱりかと腕を組んだ。


あの2人、フィーネとニーナ。

アイツらも今日の社交界デビューに来ると、エリクエリーから報告は受けていたが、既に王宮に着いたか。


原作では、2人とも社交界デビューには参加していない。

フィーネはヤドヴィカ夫人の虐めを受け、当日納屋に閉じ込められていた。

ニーナは社交界デビュー用のドレスが買えず。


しかし、原作とは違い、ヤドヴィカ夫人はいないし、ニーナのドレスくらい、フィーネがいくらでも用意出来る。


あの2人、少なくともフィーネは必ず来ると踏んでいたが、やはりだったか。


それにしても、準魔族を易々と王宮に侵入させるなんて、どういうつもりなんだか。


「アンタ、何でまだ何も話さないの?

あの女が王宮で力を使ったら、どうするつもり?」


ギリっとエリオットを睨むと、困った顔をされてしまう。


「まだ準魔族と断定出来るだけの証拠がないんだよね〜。

力が安定していないのか、力を使った痕跡が無いんだ。

とりあえず今日はしっかり監視をつけて、何かしようとすれば即捕縛するから、ね」


まったく納得はいかないが、コイツがそういうなら仕方無い。

何の理由も無く今日のデビュタントを追い出す事は出来ないのも分かる。


「もう少しだけ、ね、待ってて。

それより今日はシシリアの祝いの席なんだから、パーティを楽しもうよ」


ちっと舌打ちをしてエリオットを睨む。

図太く腰を抱いている手も、ついでに捻り上げておく。


「あいででででででっ!」


悶絶してタップしてくるエリオットを更に捻り上げている時、侍女が私を呼びに来た。


「お嬢様、ローズ侯爵令息様が……っ!お嬢様っ!」


この国の王太子の腕を捻り上げて悶絶させている図を見た侍女は目を見開き、ワナワナと震え始めた。


私はそーっと、エリオットの腕を離し、何事も無かった様にニッコリ微笑んだ。


「ノワール様がお越しになったのね。

分かったわ、すぐに行きます」


未婚の女性の部屋を訪ねる際は、ドアを開けておく、というルールを律儀に守っていたエリオットのせいで、また父上に叱られるネタが出来ちゃったじゃないか。

内心地団駄を踏みながら、私は階下に降りて行った。




エントランスで優美に……いや、随分顔色悪いな……。

珍しくその顔に微笑みを浮かべていないノワールに、私は憐憫の視線を送った。


可哀想に……。

キティのクラウスお手つき説に随分悩まされている様だ。



「ノワール様、本日はお越し頂きありがとうございます」


私から声をかけるとノワールはハッとしてこちらを振り向き、花の様に微笑んだ。

いや、無理すんなって。

分かってるからさ。


「シシリア、社交界デビューおめでとう。

とても美しいよ」


頑張らせてすまん。

階段を降り、ノワールの側に行くと、小声で囁いた。


「大変だったわね、キティ様の様子はどう」


ノワールはハァっと溜息を吐いて答える。


「社交界デビューの準備に忙しくしていたから……。

それにしても、何もクラウスも寝室に運ばなくても。

まぁ、その辺のソファーに寝かすなんて有り得ないけど……。

ゲスト用の仮眠室だってあるのに……」


ぶつぶつ呟くノワールを、私は目を見開き、まじまじと見つめた。


んっ?

コイツ、クラウスの策略だと気付いていない?

えっ?

本当にクラウスの、ついうっかり、だと思ってる?


何つーー、のどかな頭ん中なんだ。

普段はキレキレなのに、キティの事になると、途端にほへーっとなるよな。

他人も皆、自分と同じ様にキティを大事にする、と信じて疑わない……というか。

クラウスも、もちろんキティを大事にしているが、それは兄としてじゃないんだよっ!お兄ちゃんっ!


アンタから見たら妖精みたいな存在で、邪な想いなんかとは無関係だと思ってるかも知れないけど、ハッキリくっきり邪な想いを抱いてる1番ハマっちゃいけない奴の罠に嵌っちゃってるんだよ〜。



「そ、そうね……。

ところで、今日はエスコート役の申し出ありがとう」


もう、そっとしておいてやろう……。

私はそう決めて、無理矢理話題を変えてみた。


「いや、まさかシシリアがエスコートも無しに社交界デビューするなんて、あり得ないよ。

今日君をエスコートする権利を与えて貰えて、大変光栄です。我らが女王陛下」


戯けた口調で、道化師の様なお辞儀をするノワール。

目が合うと2人同時に吹き出して、声を出して笑った。


ちなみに、本来エスコート役であるフリードは絶賛ストライキ中。

アイツ、相変わらず私より背が低いからって、絶対に隣になんか並ばないっ、と部屋から出てこないらしい。


よしよし、グッジョブ!

そのまま出てこないでくれ、永遠に。


レオネルは母親の知人の娘のエスコートを頼まれてるし、で、私の方はノワールが請け負ってくれたのだ。

悪いな。


えっ?エリオット?

奴は王族として、なんか偉そうに座ってなきゃいけないから、そもそもエスコートなんて無理。

ってか、何で今現在我が家でブラブラしていられるのか、本当に謎。



「ノワール君、本来なら僕が喉から手が出る程やりたい役なんだからね〜。

体ひっつけて入場とかして来たら、呪うよ?」


ダラダラと階段を降りて来るエリオットに、ノワールが楽しそうに訪ねる。


「それはどんな呪いですか?殿下」


おいおい、やめとけ。

碌な事ないから、わざわざツッコむなよ。

構い過ぎだわ、優しすぎるんだけど。


「ん〜そうだなぁ。じゃあ、初恋が実らない、とか?」


エグっ!

よく言うやつだけど。

まぁ、大抵はそうなるらしいけど。

呪いだと思うと、エグいな〜っ!


って、そんなのノワールには効かないでしょ。

コイツ、重度のシスコンよ?

女の子の基準がキティよ?

あんな可愛い存在がこの世に二つとある?

無いでしょっ!


自動的にノワールには初恋とか無理。

って事で、ノーダメージッ!

なっ?


ポンッとノワールの肩を叩き、笑顔で振り向くと、ズウゥーン………と暗〜く凹んでいるノワールが……⁈


いや、めちゃ効いてるーーーっ!



「えっ?ノワール、好きな人いるの……?」


「僕にだって、お慕いしているご令嬢くらいいます」


スポーンッと魂が宇宙に打ち上げられるくらいの衝撃の後、私はエリオットをキッと睨みつけた。


エリオットは涙目でオロオロしている。


こっんのぉっ!大馬鹿もーんっ!

キティの事で憔悴してる上に、余計な追い討ちまでかけおってーーっ!


何かもうっ!この反応っ!

上手くいってない感じしかしないじゃんっ!


アワワワワワッと青ざめる私とエリオットに、ノワールは儚く微笑んだ。


「良いんです。今は事情があって会えなくなってしまいましたが、必ず僕のものにしますから……」


ふふふっとバックに黒薔薇を背負って微笑むノワールに、思わずエリオットと身を寄せ合ってガタガタ震えてしまった……。



にげ、逃げてぇ……。

どこのご令嬢だか知らないけど……。

逃げてぇ………。


お巡りさ〜ん、コイツです…。







何だかノワールの真の恐ろしさを目の当たりにし、私とエリオットは膝に手を置き、姿勢良く、エリオットが乗って来た王家の馬車に座っていた。

ノワールと3人で王宮に続く道を揺られながら、時たまノワールをチラッと見ると、憂いを浮かべた顔を窓の外に向けている。


「あ、あのさ〜、ノワール君のお慕いしているご令嬢って……」


藪を突こうとするエリオットを、肘でドガッと刺す。


「ゴフゥッ!」


悶絶するエリオットを知らん顔で放置していると、ノワールがフワッと花の様に微笑んで、人差し指を口元に立てた。


そのあまりの中性的な美しさに、私とエリオットは思わず2人してぽわ〜んと見惚れてしまう。


こ、コイツ、年々妖しい色気が増していってる……。

ファンクラブの半数以上が男って話も、今なら頷ける。


ちなみに、クラウス、ノワール、レオネル、ミゲル、ジャン。

この5人の事を、社交界の若いご令嬢方はフラワー5なんて呼んでいるんだけど、フラワーはノワールからきてると思う、絶対。


「そういえば、今日いよいよキティちゃんとクラ………ゴフゥッ!」


再び私の肘鉄(ヘビー級)を食らって、エリオットが広い馬車内を転がり回る。


「ああ、今日、キティをクラウスがエスコートする事ですか?

まったく、母から聞いた時は衝撃的でしたよ。

母も何を考えているのやら。

王家主催の祝典で、王家の人間が婚約者でも無い令嬢をエスコートするなんて、非常識が過ぎます。

キティがどんな目で周りから見られるか……。

ああ、可哀想なキティ……。

社交界デビューのエスコートは、兄である僕にしてもらいたいと夢見ていた筈なのに……。

あの、卑劣な王子を亡き者にして、今すぐ僕が代わってあげたい……」


ぶつぶつと不敬を織り混ぜ呟くノワールを顎で指し、コイツはなぁんにも知らないんだよ……とエリオットに目で訴える。


血反吐を吐きながら、エリオットは静かに頷いた……。


2人揃って、ノワールを憐憫の微笑みで見つめる……。


今日これから、それ以上の衝撃に襲われる事になるけど………頑張って、お兄ちゃんっ!







馬車が王宮に着き、私達は3人揃って入城した。

途中エリオットが王族の務めの為、私達と別れる。



会場に続く重厚な扉の前に、既にキティとクラウスが揃って立っていた。


こうして並んでいる2人をまともに見るのは初めてかも知れない。

2人共着飾っているので、余計美男美女のお似合いカップルに見える。


あともうっ!その30センチ近い身長差が私的にドストライク。

好きだわ〜、身長差カプ、尊いわ〜。



グフグフ2人の姿を堪能していると、隣でノワールがパァッと破顔してキティに走り寄っていった。



「キティ、とても綺麗だよ」


ノワールの声に振り向くキティ。

確かにっ!綺麗っ!


緩く編み込んで結い上げた髪にはロイヤルサファイヤをあしらった髪飾りとティアラ。

ドレスは腰から緩やかに裾へと広がっていく曲線が、計算し尽くされているかの様に金色の刺繍を際立たせ、とても優雅だ。

ブルーダイヤモンドの首飾りとイヤリングが、光に反射して、角度によって様々な青い光を放っている。


薄付きのメイクがキティの美少女ぶりを更に際立たせていて、絶妙な色気まで醸し出している始末。


おっふ、私の推しが今日も尊い………。



対してクラウスは、ダークカラーのタキシードに、濃いブルーのドレスシャツを合わせ、胸元にはエメラルドをあしらったラペルピンと、ローズピンクの薔薇を飾っている。


良いね、全体的に輩な感じが。

無垢で何も知らない、いたいけな美少女を拐かしてきた感があって、かなり好み。


買うわっ!この薄い本っ!


ムフムフと鼻息を荒くしているのは脳内だけで、もちろん表では淑女然と微笑みを絶やさない。



「ありがとうございます、お兄様。

お兄様もとっても素敵です」


キティがにっこり笑うと、ノワールが花が咲き綻ぶ様に微笑んだ……。


途端にあちこちから惚ける様な溜息が……。

しかも、8割方男………。


お前なぁ、よそのご令嬢のパートナーをその極上美人な微笑みで誑かすなよ……。


迷惑だよ?本当。


若干引き気味にノワールに注意しておく。


「ノワール……もういい加減妹離れしとかないと、後が辛いわよ?」


ノワールは悠然と微笑み、答える。


「シシリア……そんな必要は無いよ……。

邪魔な虫さえ駆除してしまえば、僕達兄妹にはもう何の問題も無くなる。

そうすれば、僕とキティはずっと一緒にいられるんだから……」


うっとりとしたその表情に、若干どころか完全にドン引きする。


「……うわっ」


お前、お慕いしているご令嬢はどうしたぁ?

えっ?まさか小姑付きでお嫁に貰うつもり?

キティなら私は大歓迎だけど、よそのご令嬢にそんなの通らないよ?



「もう最近、お前の不敬がもはや癖になってきたよ…」


白目&遠い目のクラウス。

虫扱いされてたね?今。

駆除されるらしいよ?



「ご入場の時刻です」


その時、扉の前の侍従が深く頭を下げながら告げた。


やれやれ、始まっちゃうな〜。

私は淑女の微笑みを顔に貼り付かせ、ゆっくりと開く扉を見つめた。



「キティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢、並びにクラウス・フォン・アインデル第二王子殿下、ご入場〜」


高らかに名前を呼ばれ、キティは、えっ?とクラウスを見た。


クラウスはそんなキティに向かって悪戯っぽく片目を瞑る。


キティが驚くのも無理は無い。

いくら今日はデビュタントが主役だからって、流石にキティより後にこの国の王子が名前を呼ばれるなんて……。


クラウス……やり過ぎ……。



キティは引き攣った笑顔で、クラウスにエスコートされ、入場していった。


もうっ!既に見ていられないっ!



「シシリア・フォン・アロンテン公爵令嬢、並びにノワール・ドゥ・ローズ侯爵令息、ご入場〜」


次に私とノワールの名が呼ばれ、私はノワールに恭しくエスコートされながら会場に一歩踏み出した。


王宮の大広場は絢爛豪華に飾り立てられ、正装した紳士淑女に歓声と拍手で迎えられながら、私は一歩一歩淑女らしく歩き……ながら、キティに凶器の様な視線を送る愚物共を、微笑みで刺し殺していく。


……お前らぁ、その顔、覚えたからなぁ……。


暗にそういう意味を込めた私の微笑みに、皆すくみ上がって慌てて床を見つめ始める。


ちなみに、隣の男も同様の微笑みで周りを射殺してるし、なんなら、キティを頭から爪の先まで自分カラーに仕上げて、更にエスコートまでして、キティに敵意のある視線を集めさせている張本人など、微笑みも浮かべず、普通に射殺していってる。


お陰でキティの陰口を言う者も無く、大変平和な会場となった。



最奥の王族の席の前でキティとクラウスは足を止め、キティは最上級のカーテシーで挨拶をした。


「キティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢、本日はおめでとう。

大変美しい所作ですよ」


王妃様にお言葉を貰い、2人は場所を横に移動する。


陛下の隣に王妃様、反対隣にエリオットが座っている。

エリオットの久しぶりに見る王族の正装に、ちょっと胸が高鳴った。


いいな、マント。

私も冒険者になったら、絶対マント着けるんだっ!

とか明後日な事を考えながら、次は私が王妃様の前に立ち、最上級のカーテシーを披露する。



「シシリア・フォン・アロンテン公爵令嬢、本日はおめでとう。

本当に美しいレディにおなりになりましたね」


王妃様のお言葉に、何故かエリオットがポッと頬を染めていた。

いや、何でだよ。



その後、全てのデビュタント達が王妃様よりお言葉を賜り、次はいよいよデビュタント達のダンスでパーティの幕が開く。


ファーストダンスは必然的に、キティとクラウス。

次に私とノワールだな。

と考えていると、陛下が突然立ち上がった。


ああ、始まるな〜……。

私は隣のキティを気遣わしげに見やった。



会場の隅々まで届く、陛下の威厳のある声が響いた。


「今年、社交界デビューする美しき令嬢達の中から、我が息子、クラウスの婚約者となるご令嬢を、この場を借りて、皆に紹介しようっ!」


続けて、陛下はキティの方に視線を移し……。


「キティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢であるっ。

皆、若い2人を祝福してほしいっ!」


わぁっと歓声が起き、拍手が湧き起こった。



キティはというと、真っ青な顔でローズ将軍を見てからノワールを見る。


2人はキティ同様、真っ青な顔で首をブンブン振っていた。


キティは次にローズ侯爵夫人を見ると……その優雅で満足気な微笑みに、目尻に涙を滲ませていた……。


だが、流石あのグローバ夫人の一番弟子っ!

内面の動揺などおくびにも出さず、優雅に淑女然と微笑んでいる……顔色悪いけど。


くっ、痛々しくて、見てられないっ!



「さ、キティ。踊ろう」


キティの動揺など気にもせず、まったく通常運転のクラウスは、キティを誘いファーストダンスを踊り始めた。



キラキラ輝くシャンデリアの下で、キティとクラウスが踊る様子を、鋭い視線で見つめている、1人の令嬢……。



ほうら、おいでなすった。

私はその令嬢、フィーネ・ヤドヴィカを真っ直ぐ捉え、ギラリと瞳を光らせた。




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