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EP.238


元ゴルタールの死刑から数日後、いつメンと私とエリオットは師匠の所にお茶をしに遊びに来ていた。


「結局師匠に全部片付けてもらったのな」


後ろ頭を両手で支えながら椅子の背を後ろにギコギコ揺らし、ジャンが楽しげに笑っている。


……随分、ご機嫌だなぁ、オイ。

そんなにローズ将軍と爺さまとの共闘は楽しかったか?

だろうなぁっ!

そうだろうなぁっ!

私も混ざりたかったつーのっ!マジでっ!


ギリギリ奥歯を鳴らしながらジャンを黒く睨むと、ジャンはビクッとその体を揺らして、ヤベーッと小さく呟きながら身を縮こませた。


「我々は我々に出来うる限りの対抗策を施したまでだ」


珍しくニヤリと笑うレオネルも、今日は随分と機嫌が良い。


そう、私達は私達に出来うる限りの対抗策を用意していただけだ。

Wローズ最強将軍が揃った事も、師匠とカインさんが助けに来てくれた事も、もちろん事前に用意していた対魔族への手段っ!

だから言ったじゃ〜〜ん。

やれるだけの事はやった、って。

それがちょっと最強過ぎただけで。


ってか、それくらいの用意して無いと魔族と繋がっている元ゴルタールなんか王宮に召喚出来ないって。

気持ち良いくらい全てが上手くいって、私はカッカッカッと笑った。


「でも、やっぱりニーナを捕らえる事は出来なかったね」


水を差すように顔を曇らせるノワールに、私はバカ笑いをやめて、ムスッと机に頬杖をついた。


「まぁ、仕方なかろうて。

あの嬢ちゃんに関しては、まだ私の用意が整っておらん。

あの魔族さえ傅くような存在じゃからな。

安易に手出しは出来ん」


師匠が意味ありげにそう言うのを、私はジトッと見つめた。


師匠には今だに謎が多い。

結局、師匠が何故シャカシャカを必要としているのかもちゃんと教えてもらってないし。

………それに、ニシャ・アルガナを滅したあの聖魔法だってそうだ。

そりゃ、ちょこっとエリオットがそんな事を言ってはいたが、まさか本当に師匠が聖魔法を使えるだなんて………。

元々4属性プラス光闇属性持ちだから、今更何が出来ようとそんなに驚きもしないけどさ〜〜。


その時、まるで私の考えを読んだかのように、ミゲルがその瞳をキラキラさせて師匠に向かって口を開いた。


「それにしても、本当に師匠は聖魔法が使えたのですね。

あれは私のように光魔法の極地に達せられたからですか?

それとも生まれつきですか?」


ワクワクした様子のミゲルに、師匠はニッコリと優しく笑った。


「あれは生まれつきじゃ。

つまり私は7属性を持って生まれてきた事になるな」


ニコニコ笑う師匠に、流石にルーッと涙が流れてくる。

バチクソゴリゴリの主人公体質やん。

僕らの憧れる俺tueee系主人公ですやん。

私がなりたかったやつや、それ。

生まれた時から7属性を持ちってどんだけチートキャラやねんっ!


だんだんと腹が立ってきて、私は師匠の前に置かれていた煎餅を片手でグワシッと掴み、バリボリと頬張った。


「ホッホッホッ、シシリア嬢ちゃんはよく食べるの。

うむ、可愛い可愛い」


ニコニコニコニコ、相変わらず子供が沢山食べる姿が好きな師匠。

一部の噂では90歳に近いとかなんとか言われているらしいが……残念ながら目の前の師匠は私とそう変わらない見た目だし、エブァリーナ様バージョンでは40代くらいの美魔女だし………。

お婆ちゃん感が全く無い………。

しかし、ローズの爺さまに対しても子供扱いだし、この人の全盛期の時代って余裕で五、六十年前になるんだよなぁ………。

怖っ!

その時代、怖い。



「師匠ってニシャ・アルガナの事を先生って呼んでたけど、何の先生だったんですか?」


ふと思い出した事を口にすると、師匠はどこか遠い目をして答えてくれた。


「ニシャ・アルガナ伯爵。

伯爵であるにも関わらず、研究熱心な人で、私達の学院の非常勤講師をしておった。

偶にしか授業を受けられんかったが、魔法の研究者でな、緻密な考察による先生の授業は大変な人気じゃったよ。

本人は闇魔法の使い手で、非常に貴重な魔法を生徒達の前で実演してくれておった。

しかし、当時まだ一生徒であった先代聖女を愛してしまった先生は、その伴侶に選ばれず、感情を失い闇に堕ちてしもーた。

まさかあのような姿になっていようとはな。

淫魔の魔王だなどと、あの禁欲的で理知的な先生が………人とは本当に分からないものじゃ」


ふ〜〜〜ん。

あの魔族、人間だった時は学院の先生なんてやってたんだな。

帝国では王国と違って、今では闇魔法が禁忌視されていないし、それどころか貴重な属性って認識だから、ニシャ・アルガナにしか出来ない授業はさぞ人気だったのだろう。

んで、生徒の1人だった聖女様を愛しちゃって………と。

うん、案件だな。

どんだけ生徒から人気のある先生だったとはいえ、案件、ロリコン案件。

更にロリッ子を手に入れられなかったから魔族に堕ちるとか、そりゃ淫魔の魔王の名に偽り無しだと、むしろ私には思えるんだけどなぁ。

まぁ、当時のニシャ・アルガナを知っている師匠がそう言うんだから、本当に淫魔の魔王とは対極の人間だったのかもしれない。


………それにしても。

師匠が学院の生徒だった時代ねぇ。

この師匠が何か学ぶ事があったとは思えないけど。

まぁ、その時代はまだアルムヘイム公爵令嬢だったんだから、色々あったんだろうなぁ。


「それで、あのニシャ・アルガナが最後の魔族だという話は本当ですか?」


レオネルが真面目な顔で師匠に聞く。

それに師匠は力強く頷いた。


「うむ、それに間違いはないよ。

歴代聖女と大聖者達が封印してきた魔族、それにまだ封印されず自由に暴れ回っておった魔族。

その全てを私が滅してきたからね。

ニシャ・アルガナはその私から今まで逃げ回っていた最後の魔族さ。

まさか、大聖女様の加護の厚い王国に逃げ込んでいるとは思いもしておらんかったが。

シシリア嬢ちゃんが隠者ゴードンと名乗る奴を最初に発見した時は、そりゃ驚いたもんじゃ。

王国でもコソコソと私から逃げ回っておったが、やっと滅する事が出来たわい。

やれやれ、本当に骨が折れた」


肩を自分で揉みながら、ふーっと息をつく師匠。

魔族を全て一掃してきたとか軽く言われても、もう誰も驚かない。

ってかむしろ、やっぱりアンタか………という目で皆が師匠を生暖かく見つめていた。


「………し、師匠が感情失くしたりって……そんな事……あったりすんの?」


ガクガクと震えながらそう口にするジャンに、皆が、馬鹿っ!聞くなっ!考えたくも無いっ!て目でそのジャンを睨んだ。


「むっ?私が感情を失くす?それは無いじゃろうな。

大好きな甘い物や可愛い子供や孫達、それに何より私にはカインがおる。

愛する夫を残して魔族になど堕ちんよ」


ホッホッホッと愉快気に笑う師匠に、皆が一様に安堵の溜息をついた。

あ〜〜良かった。

魔王殺しの最強魔王爆誕とか、もう本当に考えたく無い。

惑星がマジで吹っ飛ぶじゃん、それ。

今後師匠には定期的に甘い物をお供えしよう。

私は平和を心から尊ぶ人間だからな。

あ〜〜この世に甘い物が存在していて本当に良かった。

静まり給え〜〜史上最強最悪の魔王よ〜〜。


思わず師匠に向かって手を合わせ祈っていると、ジャンが私の耳元でボソリと囁いた。


「でも、師匠が魔王になっても甘いもんを投げつけりゃ勝てそうだよな?」


えっ?確かに。

存外イける気がする。

口にポイポイ放り込んでやりゃ、勝てるんじゃね?


ヘッヘッと悪い顔で笑っていると、エリオットがイタズラっ子のように片目を瞑った。


「そんな事しなくても、カインさんを供物に捧げれば満足してお山に帰るよ」


エリオットの言葉に思わずブハッと吹き出すと、私とエリオット、ジャンの全身にバリバリと電気が走り、悲鳴も上げられずにゴロゴロと床を転げ回った。


「こりゃ、人を何だと思っておる」


人とは思っていないのは確かです、ごめんなさい。

痛いから、雷魔法攻撃やめて下さいっ!


痛みにのたうち回る私達をジッと見つめ、ややして満足したのか師匠は攻撃をやめてくれた。


マジ、すんません。

もう余計な事は考えないので。

無言で魔法攻撃繰り出してくるのやめてもろて。


ウッウッと涙を流していると、隣でジャンがあっと声を上げた。


「………なんか、体が軽いっ!」


ブンブン両腕を回すジャンに、んなアホな〜〜と思いつつ、私もあっと声を上げた。


「本当だ、肩凝りが治ってる……」


あっ、ごめんなさいね。

乳が重くて万年肩凝り症なのよ、私。

それが今、めっちゃ爽快に治ってる。


「ホッホッ、電気治療じゃ」


雷魔法と見せかけた血行不良改善治療だった………。

年寄りのやる事はたまに急でついていけんよ。

でもありがとうございます。


ジャンと2人でほぐれた体をほわわ〜っと堪能していたら、まだ床に蹲り、何故か自分の股間を押さえているエリオットが、ルーッと涙を流しながら情けない声を出した。


「………師匠、何で僕だけ………」


ピクピクと微かに痙攣するエリオットに、師匠は困ったように眉を下げた。


「良い年をして後継ぎの1人もおらんからな。

よっぽどそこが役立たずなのじゃろうと思うて、集中的に血流を良くしてやったんじゃ」


憐れんだ師匠の目を、エリオットが涙を流しながら見つめ返す。


「……僕まだ23歳なのに………。

後継ぎ問題なら自分でのらりくらりかわしますから、今後は余計な気遣いは無用でお願いします………」


シクシクと泣きながら懇願するエリオット。

私はそのエリオットを片足でギュムッと踏み付け、ニヤリと笑った。


「あら、良いざまね、王太子様。

師匠の言う通り、いつまでものらりくらりしてないで、後継ぎの1人や2人こさえてきなさいよ。

せっかく役立たずな箇所を元気にしてもらったんだ・か・ら」


ウケケケケケケケッ!

本当に良いざまだなぁ、エリオットォッ!

貴様がいつまでもそんなだから、私が皆に変な目で見られるんだろうがっ!

良い加減観念して、真面目に王太子の責務を果たしてこいやっ!


エリオットをギュムギュム踏み付け、カッカッカッと勝ち誇って笑っていると、エリオットが私の足首をガッと握って、油汗を浮かべながらニヤッと笑った。


「……それじゃあ、お言葉に甘えて役立たずだった箇所を使わせてもらおうかな、リアに」


ハァァァァァァァッ!?

なんでそうなるっ!?ふざけんなっ!

私に使わすわけねーだろっ!

バーカッバーカッ!


ガンガンッとエリオットを足蹴にしつつその手を振り払おうにも馬鹿力過ぎてビクともしない。

くそっくそっ!放せっ!このセクハラヤローーーッ!


その私達のやりとりを見ていたノワールが、久しぶりに花を背負ってふふっと笑った。


「どちらにしても、今エリオット様の妃として1番の候補はシシリアなんだから。

いっそそっちの方が手っ取り早いかもね」


オイっ!余計な事言うなっ!

そっちってどっちだっ!そっちって!

貴様のその口を縫って背負ってる薔薇を毟るぞっ!


ギロッと睨みつけると、ノワールは自分の口に手をやり横を向いて私の視線から逃れつつ、クックッと肩を揺らしている。


バカっ!オメーーーーーッ!

余計な事言うだけ言って、笑ってんじゃねーよっ!


「うん、そうだな。男は度胸だっ!

やっちまえっ!シシリアッ!」


ミンチにするぞ、グルァァァァァァッ!

誰が男だっ!

いや、いっそ男ならコイツの後継ぎ云々に巻き込まれずに済んでたわっ!このノータリンッ!


ぶっ殺す勢いで睨みつけると、ジャンが何が悪かったのか分からないという顔で首を捻っている。


お前アレだからなっ!

マリーに縛られて設定資料にされる呪いかけておくからなっ!

変態マリーにヒンヒン言わされたらええねんっ!


「エリオット様のお子様なら、それはそれは神に愛されし神子が誕生なさるでしょう。

シシリア、日頃の不信心を悔い改め、どうか元気な神の神子を産んでくださいね」


その瞳をウルウル潤ませ感動しているミゲルに、私は固く誓った。

必ず教会本部にある、あの無駄にデッカいクリシロ像に、鼻毛と脇毛を描いてやる、と。

更に額に〝肉〟って書いて、ほっぺにもグルグルうず巻き描いてやるからなぁっ!

シャッオラァーーーーーーーーッ!


ギシャーーッ!と毛を逆撫でて、何とかエリオットを亡き者にしようとドカドカ蹴りまくる私に、最後にクラウスがデッカい溜息をついた。


「往生際が悪すぎる………無様だな」


やかましわっ!

往生際が悪過ぎてお前から全力で逃げようとしていたキティに同じ事言ってみろやっ!


無様でもなんでもっ!

私はテメーらの思い通りになんかならんぞっ!

くそっ!くそっ!この馬鹿力がっ!

早く私の足をは、な、せぇぇぇぇぇっ!


息の根を止める勢いで私に蹴られ続け、血だるまになりながらエリオットが不気味にニャァッと笑って見上げてきた。


「……ふふっ、リア、優しくし・て・ね」



ぶちのめーーーーーーーーすっ!!

もう無理っ!

コイツを亡き者にして、この国は私が乗っ取るっ!

その方が100倍マシなんだよっ、バカやろーーーーっ!


王国を乗っ取ったら帝国も北の大国も纏めて私のものにして、この西大陸に私の為の巨大帝国を築いてやるわっ!

私がカイザーになってやるっ!

その為に、まずはこの1番邪魔なゴミを片付けるっ!


ゲシゲシッと本気でエリオットの息の根を留めていると、師匠がデッカい溜息をつきながら、やれやれと首を振った。


「良い加減にせねば、動物愛護団体に訴えられるぞい?」


誤解ですっ!師匠っ!

この私が、動物虐待なんてするはずないじゃ無いですかっ!

これは虫ですっ!

生命力のバグってる虫なんですっ!


くそうっ!虫めぇっ!

駆除してやるっ!

駆除っ!駆除っ!駆除っ!

ヌハハハハハハハハハッ!





私に蹴られながらエリオットが幸せそうに鼻の下を伸ばしていたのは、怒りに前後不覚になりスカートの中をずっと覗かれていた事に私が気付かなかったからだと後に判明し、エリオットは改めて半殺しになり、空高くぶちのめされた。

もちろん、私によって…………。







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