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EP.233


完璧に思えた自身の証拠隠滅を覆され、ゴルタールは真っ青な顔で棒立ちするしか無かった。

実際、歴代ゴルタール公爵の証拠隠滅能力には一部の隙も無かったのは事実。

ゴルタール公爵には代々危機察知能力でも備わっているのか、無数に張り巡らせた糸のどれかが弛めば、素早くその糸を断ち切り、自身の存在が決して表に出ないように裏工作をする。

そのスピード力に何度王家の捜査陣が苦渋を味わってきたか。


とにかく相手を切る事に躊躇がなく素早い。

そこに余計な更なる欲を挟まないところが、ゴルタール公爵の特徴だ。

これだけの利益のある糸を、ここで切っては勿体無いのでは無いだろうか、という躊躇が一切ない。

更に、切られる相手への情なども存在しない。

必要ならその相手ごと始末してしまう。

まさに、死人に口無しだ。


それは現ゴルタール公爵も同様であったが、運が悪い事に、そこにエリオットの存在があったが為に、どれだけ素早く判断し行動しようが、全てが無駄になってしまう。

スキルというチートの前には、全てが無駄だ。


とはいえ、エリオットのスキルは秘匿されている力なので、そのスキルで集めた証拠にはそれっぽい理由付けが必要になる。

いくら証拠が本物でも、それを手に入れた経緯が不明では、説得力に欠けるからだ。

独自のルートで手に入れた、とか、証人保護の為入手経路は明かせない、とか、言い訳はいくらでもあるけれど、それではせっかくの証拠の効力が半減してしまうのもまた事実。


今のゴルタールならいざ知らず、当時はまだそんな証拠の提示の仕方じゃゴルタールの喉元には届かなかっただろう。

ゴルタールの不正の証拠を掴んでいても、それで直ぐゴルタールをどうにかは出来ず、皆歯痒い思いをしていた、という訳だ。


が、時は満ちた。

今こそ、エリオットのチートスキルで集めた証拠の数々が火を噴く時。

心なしか父上がノリノリなところが、娘としても誇らしい。


「さて、ゴルタール公爵よ、貴方の罪はまだまだ、こんな物では無い。

貴方は闇オークションを運営し、そこで不正な取引の数々を行った。

最も罪深いのは、人身売買まで行っていた事だ。

そちらの証拠も、もちろん手に入れてある」


ノリノリ父上がまた新たな証拠を投影用水晶を使いスクリーンに映し出す。

あの、テレーゼがオークションにかけられた闇オークション。

その金の動きが詳細に記された帳簿。

それを見れば、全ての金の流れがゴルタールに辿り着いている事が一目瞭然だった。


「更に、貴方が北から入手したり、独自に買い集めた違法魔道具を取り扱っていた証拠。

グェンナ商会を利用し、東大陸から盗難美術品や武器を買い集め、更に帝国や我が国の武器と共に、北の大国ゾウール国に密輸出していた証拠。

ああ、スカイヴォード家の利益を着服していた証拠もしっかり出てきたから、確認してもらえるか?」


ノリノリ父上がもう止まらない。

父上からの証拠アタックに、ゴルタールはブルブル震えながら、もうただただ棒立ちになっている。

そのゴルタールを冷めた目で見下ろしていた陛下が、深い溜息をついた後ゆっくりと口を開いた。


「……今まではうまく逃れてきたかも知れぬが、もう逃げられぬぞ、ゴルタールよ。

この王国が生まれた当初から存在する公爵家とて、ゴルタール家が王家の忠臣であった事など一度も無い。

国に、国民に尽くした事とて、一度も無いのだ。

ただ弱き者から搾取し続けて、私腹を肥やしてきただけであろう?

それで高貴な貴族の血筋とは、片腹が痛いわ。

その血筋もお前の代でいよいよ潰える。

最後のゴルタール家当主として、せめてその身で先祖代々の償いを背負い散るが良い」


威厳ある陛下の静かな声に、その場がシーンと静まり返った。

水を打ったような静寂の中、ただ1人ゴルタールだけがその顔色を赤黒く染め、憤怒の炎を目の奥に揺らめかす。


「………国王よ、儂はお前にチャンスを与えてやったのだぞ?

良いか?ちゃんとチャンスは与えたぞ?

あの愚人共に騙された憐れな当主として、儂を労いこの場を解散しておけば良かったものを………。

愚かな………お前はこの国で1番愚かだった愚王として、歴史に残るだろうよ」


不気味なゴルタールの低い声にも陛下は一切怯まず、その表情をピクリとも動かす事もない。


「儂をただの公爵と侮り、随分城の警備も手薄にしてあるな、たわけ者がっ!

すぐに後悔する事になるぞっ!」


クックックッと笑うゴルタールを、それでも陛下は冷たい目で見下ろすだけ。


王宮に人が居ないのは、準魔族になり得る人間の条件が魔力や属性の無い者と判明したからだ。

お前の仲良くしている魔族に王宮内のそういった人間がまた利用されないように教会に匿っているから人気が無くなっているように見えるだけで、魔力や属性のある訓練された騎士が要所要所にしっかり配置されているのだが、パッと見でしか判断出来ないんだな〜〜、たわけ者。



「我が家門が弱い人間を踏み付けにして、何が悪いっ!

私はゴルタール公爵、この国の公爵だぞっ!

弱い者は我々尊き強き者の家畜に過ぎないっ!

人と家畜に明確な線引きが無ければ、この国はただの家畜小屋では無いかっ!

そんな事も碌に分からぬ王家に代わって、我々がそれを成してきてやったというのに、真に愚かな事よ。

国王よ、お前達愚かな王家の時代は終わりだ。

高貴な者と家畜の区別すらつかないお前達王家は、今日この時より、儂に喰われる家畜と成り果てるのだっ!

我が忠実なる(しもべ)よっ!この者共を喰い散らかせっ!」


アーハッハッハッハッ!と狂ったように笑いながらゴルタールが叫ぶと、その背後に音も無く、2人の人影が現れた。


目深に被ったフードを取ると、1人は予想通りシャカシャカだった。

そしてもう1人は……魔族アビゲイル・ゴードン。


………師匠の結界を破ったのか…………!?

ゴードンという魔族には、まさかそこまでの力が………?


ゴクリと唾を飲み込み、私はゴードンをまじまじと見つめた。


グェンナが生前残してくれた似顔絵通り、シャープな見た目の優男。

スラリとした手足、黒髪に赤黒く輪郭の濃い奇妙な瞳。

血管まで透けている青白い肌。

薄い唇の口角を上げ、物静かに微笑むその様子は中性的な美しい男にしか見えなかった。


「おや、ディナーにはまだ早いというのに、こんなに上等な食材を揃えて下さるとは、流石ゴルタール公爵。

皆魔力のたっぷり乗った美味しそうな家畜ばかりですね」


いや、脂が乗った美味そうな肉みたいに言うな。

ってか、私らは食材でも家畜でもねぇ。


昨今、鬼畜な人でなしをドS〇〇なんて言って誤魔化しありがたがる風潮があるが、私はあのジャンルには否を示したい。

女性ってのはな、家畜に例えたり縛ったり虐めたりするもんじゃねぇんだよ。

生物学的に体の作りが繊細なんだから、大事に大事に神棚に飾っとくもんなんだよ。

口汚い言葉で罵って良いもんじゃないの、お分かり?


えっ?

ゴードンは魔族だから、マジで食材として見てるって?

美味しいディナーにされちゃうよって?


………ほぅ?良い度胸だ。

この私達を美味しく頂くつもりだと?

まず間違い無く腹を下して地獄を見る事になるが、その覚悟はあるんだろうなぁ?

エリオットには当たり外れがあるんだぞっ!


「人をあの二枚貝のカキ目類に例えるのはやめてよぉ。

お腹を下しても貝には罪はないんだよぉ」


うるせー、お前は人の頭の中を読むな。

耳元でボソッと囁くエリオットを、薄目で見つめると直ぐにうっうっと咽び泣き始めた。

ふんっ!弱虫泣き虫め。


そんな私達をゴードンは横目でチラッと見て、不思議そうに首を傾げている。

魔族を前にして呑気すぎる私達は、確かに異様に見えるだろう。


だが、私達は念の為、魔族がここに現れる事を想定して動いてきた。

既に私達に出来うる限りの手は打ったのだ。

王国に魔族と戦う知識などは無いが、それでも想定出来る範囲で出来るだけの用意をしたつもりだ。

後は野となれ山となれ。

もうこれ以上、私達に出来る事など無い。


その時、伝令用小鳥型魔法が父上の肩の上に止まった。

父上が許可をすると、小鳥から伝令兵の声が部屋中に響く。


『ご報告申し上げますっ!

只今、城の外にて魔物、魔獣と交戦中っ!

繰り返します、只今、城の外にて魔物、魔獣と交戦中っ!』


伝令の声に、そこに集まった諸侯貴族達から騒めきが起こり、既に保護結界の得意な者達が集まり大きな結界を張る。


「陛下もお早くこちらにっ!」


声をかけてきた貴族に、陛下は軽く手を上げ、必要無いというジェスチャーを返しただけで、黙ってゴルタールを見つめている。


「良くやったっ!ゴードンよっ!」


アッハッハッハッ!と高笑いしながらゴードンを振り返ったゴルタールに、ゴードンは恭しくお辞儀をして、静かに答える。


「お褒めに預かり光栄にございます。ゴルタール公爵」


涼しげな顔で、何事もない顔をしているゴードンを、ゴルタールは満足げに見つめてから、また陛下に向き直った。


「これで良く分かっただろう、愚かなるアレクシス・フォン・アインデルよ。

お前は決して逆らってはいけない相手に逆らったのだ、平民の子の分際でな。

あの不届き者達を平民だと散々馬鹿にしていたが、お前はどうだ?

市井育ちの貴族かぶれの母を持つ、お前の方がよほど嘲笑されるべき存在では無いか。

そんなお前が王だなどと、初めから間違いだったのだ。

今まで貴様のような人間に、この尊き血の末裔である私が(こうべ)を垂れてきた雪辱………。

今ここで晴らさせてもらおうっ!」


勝ち誇ったゴルタールの笑い声が王座の間に響く。

いや、陛下はアマンダとフリードが平民の血だと馬鹿にした訳では無いのだが。

むしろお前が1人でギャーギャー騒いでいただけで。

ツッコみたいのを我慢しでいると、そこに2羽目の伝令用小鳥魔法が飛んできた。

それを見て、ゴルタールは楽しげにニヤニヤと笑っている。


陛下がスッと指を差し出すと、小鳥はその指に止まり、パカッと口を開くと伝令を伝える。


『ご報告申し上げますっ!

城の外に大量発生した魔物と魔獣達は、ローズ大将閣下とローズ辺境伯閣下が応戦中ですっ!

圧倒的武力にて、魔物達を掃討しておりますっ!

こちらの心配は必要ありませんっ!

魔物及び魔獣は、魔女様の結界内に突如現れましたが、それゆえ城外には逆に出れず、王都への被害も心配ありませんっ!

繰り返します、こちらの心配はまったくっ!必要ありませんっ!』


伝令の興奮気味の報告に、陛下がニヤリとゴルタールに向かって笑った。

ゴルタールはポカンとした間抜けヅラで、先程の伝令の意味が理解出来ていないようだ。


いやぁ、伝令の興奮する気持ち分かるわぁ。

ローズ将軍とローズの爺さまの共闘なんか、そりゃ興奮しかないっ!

くそっ!私も見たいっ!

今すぐ外に出ていって、なんなら参戦したいくらいだっ!


ウズウズする体を押さえているのは私だけでは無く、ジャンやゲオルグ、ユラン辺りも同じように拳を握り、体をプルプル震わせている。

ちなみにルパートさんはローズ組に参加しているので、その戦いっぷりも気になるところだ。



「……な、何故……辺境伯まで………」


呆然としているゴルタールは、まだサイモンの存在を知らない。

超大型転移魔法を使えるサイモンが居れば、ローズの爺さまとその精鋭部隊を北の辺境から移動させる事など容易い事。

ちなみにエリクエリーのお友達、あのビーストマスターのビィ(とシーズとディ)も魔獣達を従え到着している筈だ。

魔獣VS魔獣対決とか、特撮モノっぽくてかなり気になるっ!

くそぅっ!何故私はこっち組なのか………。


こっそり玉座の間から抜け出そうとしているジャンを、ゲオルグとユランが羨ましそうに見つめていたので、私は2人に小さく頷いて許可する合図を送った。


良い経験だ、2人とも行ってこい行ってこい。

ローズ将軍と爺さまの戦いを見て、多くを学んできなさい。


私から許可が下りた事に、2人は目をキンラキンラに輝かせ、ジャンに従い静かに大広間から出ていった。

まぁ、あっちの戦力を増強しておく事に越した事はないからな。

離れているとはいえ、王妃宮に万が一魔族や魔獣が流れたら、危ないし。


そっちはそっちで、テレーゼ率いる魔道士魔術師が守りを固めているから、本当に万が一にも被害が出る事は無いだろうけど。


「おやおや………ローズのお坊ちゃまとその倅ですか………。

せっかく魔物や魔獣を大量に放ったというのに、これは骨が折れますね」


ゴードンが溜息混じりに困ったような声を出し、私はその言葉に目を見開いてゴードンを見つめた。


えっ?コイツ、爺さまの事をローズのお坊ちゃま、って言った?

嘘だろ?

あの爺さまの事を?


驚愕する私に気付いたゴードンは、ふふっと妖しげな視線をこちらに送ってきた。

その視線を遮るように、スッとエリオットが私の前に立つ。


「さて、どう致しましょうか。

今すぐ私があちらに行って、全て片付けて参りましょうか?」


そうゴルタールに問いかけるゴードン。

ゴルタールは真っ赤な顔でプルプル震えながら、怒鳴り声を上げた。


「もうあっちは後でもよいっ!

それより先に、ここにいる奴らを皆殺しにしてしまえっ!」


唾を飛ばしながら大声で怒鳴るゴルタールに、ゴードンは涼しい顔で、恭しく頭を下げた。


「御意に。それでは………」


ゴードンがパチンと指を鳴らすと、スケルトンソルジャーやリビィングデッド、レイスなどのアンデット系モンスターが、床や壁からわらわらと湧き出てきた。


「血は血に、肉は肉にお還り頂きましょう。

さぁっ!血の晩餐会(ブラッディバンケット)の始まりですっ!」


まるで指揮者のようにゴードンがバッと両手を広げると、湧き出てきたアンデット系モンスターが一斉にこちらに襲い掛かってきた。


混乱するその場でただ1人、シャカシャカだけが退屈そうに欠伸をしながら、ゴードンの肩を指でチョンチョンと叩き、その耳元で何事かを囁いた。

ゴードンはそれを聞くと、ゆっくりと私の方を向き、ニャァッとその顔を楽しげに歪める………。


まるで血の滴っているかのようなその口内が、ヌラヌラと赤く黒く光って見えた。




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