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EP.228


絶望に打ちひしがれるゴルタール。

床に蹲り、廃人のようにブツブツと何かを呟いているアマンダ。

そして、まだ状況を理解し切れていない、フリード。


そのカオスな状況を作り出した陛下と父上は、悠然とそれを眺めていた。


いやっ!鬼畜っ!

エゲツないっ!

この人達一体いつからこの日の為に色々仕込んできたんだろうっ!

フリードやアマンダをやりたい放題の野放しにしてきたのは、ゴルタールを徹底的に追い詰める為だったんだなぁ。

いや、知ってたけど。

それにしても気が長いというかなんというか………。

よく我慢出来たな、コイツらに。


親世代の底力を見せつけられたような気がして、もう本当に脱帽ですよ……。


……特に陛下なんか………。

さっきから、最愛の王妃様にゴミを見る目で見られてるからね。

王妃様、陛下がアマンダと関係を持っていなかった事とか、フリードが陛下の子供じゃないとか、知らなかったからね。

そんなの王妃様が知ったら、ブチ切れるに決まってるじゃん?

王妃様、毎年フリードに誕生日プレゼント贈ってたんだよ?

アマンダの事も、陛下を支える女性の1人として、丁寧に接してたよ?

それを知ってて、何も教えてくれなかったんだから、この後陛下、ボッコボコだろうなぁ………。


これが陛下の元気な姿を見る最後になるかも知れないから、もっとしっかり見ておこう。


カッと目を見開き陛下を見つめると、そんなつもりじゃなかったのに、王妃様から放たれる圧と合わさり陛下に更なる負荷をかけてしまった。


余裕の笑みを浮かべながらも、小刻みに震えている陛下………。

いやぁ、悪いねぇ。

そういや私も、フリードの事では陛下に迷惑掛けられた1人だし?

王妃様には及ばないにしても、ちょっとくらいの恨みは込めてもいいよね?

ちょっとくらいなら。


私と王妃様の圧に耐えられなくなったのか、陛下は父上を見上げ、助けを求めるようにちょっぴり震える声を出した。


「ジェラルド、アマンダとフリードの罪は、いかようになりそうだ?」


問いかけられた父上は、やはりゴミを見るような目で陛下を見下ろしてから、ゴルタール達の方を見た。


「そうですね、アマンダ婦人については、王家についての虚偽の流布による名誉毀損でしょうね。

フリード公子については………」


早速フリードに対しての殿下呼びをやめた父上に、ゴルタールがカッと顔を真っ赤にして叫んだ。


「それを公子だなどと呼ぶなっ!

ワシとは血の繋がりもない、穢らわしい親子の事などっ、我が家には何の関係も無いっ!」


フリードとアマンダの方を見ようともせず、指だけ指して怒鳴るゴルタール。

そのゴルタールに、父上は小さく溜息をついた。


「貴方はアマンダ婦人を認知されていますし、ゴルタール家の人間として正式に貴族登録もされています。

フリード公子についても、ゴルタール家門の血脈として出生届を出されていますよね?

破門届が出されていない現状では、フリード公子はゴルタール公爵家の当主の娘アマンダの子、という事実は変わりませんから、公子と呼んで差し支えないのでは?」


激昂するゴルタールとは対照的に、あくまで冷静沈着な父上にそう言われて、ゴルタールはチッと舌打ちをして苦々しい顔で父上を睨んだ。


「では、フリード公子についてですが。

我が娘である、アロンテン公爵家の令嬢、シシリアに対しての、罪の捏造及び不当な拘束……しかも、地下牢に投獄した事は万死に値します………。

私としては、社会的にも物理的にも抹殺したいところですが、陛下はどうお考えですか?」


あっ、父上全く冷静沈着じゃなかったわ、ごめん。

まぁ、フリードのやった事は、我が家門に盛大に中指立てて、唾まで吐いてピンポンダッシュしたくらいこっちを馬鹿にしてるからなぁ。


私がそう仕向けたんだけどねっ!

お陰で有りもしない婚約を破棄してみたり、私を地下牢にぶち込んでエリオットにボコボコにされたり、結局自分が牢に入れられたりと、忙しい日々だったなぁ、フリード?

いや、お疲れお疲れ。

いい仕事してくれたよ。


私にあそこまでしなきゃ、こんな風に諸侯貴族達を集めて玉座の間で陛下と父上に追い込まれる事も無かったのになぁっ!

まぁ、私がそう仕向けたんだけどねっ、プフ〜〜。


まっ、遅かれ早かれ、陛下と父上はゴルタール達を追い込む準備をしていた。

エリオットに追い込まれる前のゴルタールなら、こんな場を開かせるような隙は見せていなかっただろうが、議会からも追い出され、資金源も潰され、北の大国に縋りついている状態の今なら、簡単に追い込めると思ったんだよね。


現に私がフリードを面白いくらいに操れたのも、ゴルタールがフリードにまで目を光らせる余裕が無かったからだ。

馬で鹿なフリードは、幼い頃から問題を起こしていたが、ゴルタールが素早く握り潰してきたし、フリードを上手く諌めてきた。

だからこそ、今まで問題がそこまで表面化していなかったのだが、今回はそうはいかなかったようだな、ゴルタール。


陛下も父上も、今まで耐えに耐えてきた鬱憤が溜まってたんだろうな〜〜。

ホント、イキイキしてるよ。



父上から逆に問われた陛下は、顎髭を撫でながらふむと頷いた。


「そうじゃな、罪を捏造してまで、筆頭公爵家の令嬢を地下牢に、とは前代未聞。

フリードはアマンダと共に王都より追放、ゴルタール家には賠償金を請求するものとしよう」


陛下の言葉に、フリードが真っ青になって悲鳴のような声を上げた。


「そんなっ!王都を追放だなんてっ!

嘘ですよねっ、父上っ!

そんな事になったら、俺はどうやって生きていけばいいんですかっ!?」


フリードの悲痛な叫びに、陛下は冷徹な声で情け容赦なく答えた。


「余はお前の父では無い。

お前の父親は庭師のケインという男だ。

何故かお前の母親と関係を持った直後、変死してもうこの世にはいないがな。

王都で無くとも生きてはいける。

のどかな田舎ででも母親と一緒に静かな余生を過ごせば良かろう?」


随分な温情だよなぁ。

あの陛下にしては………。

果たして、フリードとアマンダはのどかな田舎で静かな余生を過ごせるのだろうか?

王都を出た途端、不幸な事故にでも遭うじゃ無いかと考えてしまうのは、流石に邪推ってもんかな?

アッハッハッハ、流石にそれは無いか。

………たぶん。


疑いの目で陛下を眺めていると、陛下に切って捨てられたフリードが助けを求めるように、蹲るアマンダの肩にそっと触れた。


「お、お母様………」


「いやっ!触らないでっ!」


その手をヒステリックに振り払うアマンダ。


「私はあの夜に、どうしても陛下の子を身籠る必要があったのよっ!

だからわざわざ、陛下に似た金髪や、碧眼の美しい男を集め、保険にしたのにっ!

そうよっ!唯の保険のつもりだったっ!

産まれたアンタは茶色い髪と瞳だったけど、私に似ただけだと思っていた……。

絶対に陛下の子供だと思っていたのにっ!

それなのに、あの時気まぐれに相手をした、あの庭師の子供だったなんてっ!

平民の子など、私の子供なはずが無いっ!

アンタは私の子なんかじゃ無いわっ!」


布を切り裂くようなアマンダの悲鳴が、玉座の間に響いた。

母親に拒絶されたフリードは、現実を受け入れられないといった顔で固まったままだ。


そこに、無慈悲な父上の冷たい声が親子に降り掛かる。


「平民が平民の子を産んで何がおかしいのですか?

アマンダ婦人の母親はゴルタール公爵の贔屓にしていた娼婦で、平民では無いですか。

ゴルタール公爵の子を身籠ったと謀っていた彼女を、ゴルタール公爵は病死に見せかけ、世間には死んだ事にして、密かに囲って子を産ませた。

その後その女性がどうなったかは分かりませんが。

アマンダ婦人はゴルタール公爵の子ではありませんが、その平民の女性の子である事は確かです。

ですから、平民の女性から産まれた貴女が平民の子を産んでも、何らおかしな点は無いと私は思いますね」


父上の話に、私は目を見開いた。

その話、どっかで聞いたな………。

どこでだったか………。


う〜んと首を捻り目を閉じると、地下牢のあの暗く湿ったカビ臭い匂いが鼻を掠めた気がして、私はハッと思い出した。


そうだっ!テレーゼの義母だった、パトリシアッ!

アイツがそんな話をしていたっ!

自分が娼婦だった頃、姐さまと慕っていた先輩娼婦が、ゴルタールの子を身籠ったと言った直後に病で亡くなったって。


つまり、アレか。

パトリシアはその姐さまは病と見せかけゴルタールに殺されたのだと思っていたが、その実その死は偽装されたもので、実は彼女は生きていて、自分の子を身籠ったと騙されたままのゴルタールに密かに囲われていた、と。

そしてその女性こそがアマンダの母親………。


父上ぇ………。

アンタどこまで調べてやがんだよ。

エゲツないよ。

奴らを追い込む為に、どんだけ手札を用意してたんだよ………。


自分の父親のエグいほどのリサーチ力に、流石の私も震えが止まらない、が。

震えているのは私だけでは無かった。

ゴルタールは怒りで、アマンダは自分の出自に関する事実へのショックで、それぞれガタガタと震えている。


「お、お祖父様……お祖父様は俺を助けてくれますよね」


未だ状況が理解出来ていないのか、真実から目を背けているのか、固まったフリードの表情からは分かりようも無いが、フリードは今度はゴルタールに向かって震える手を伸ばした。

だがゴルタールは、そのフリードの手を、持っていたステッキで思い切り叩き落とした。


「ワシに馴れ馴れしく話しかけるで無いっ!

貴様は我が孫でも何でも無いのだっ!

ワシはゴルタール公爵じゃぞっ!

貴様のような下賎な者が、ワシを祖父だなどと、2度と呼ぶなっ!」


怒気を露わにして、激しくフリードを拒絶するゴルタール。

フリードはゴルタールにステッキで叩かれた手を押さえて、とうとうその顔に絶望を浮かべた………。


何てこったい、フリードよ。

今まで散々、下賎で穢らわしい愚民だと平民を馬鹿にしてきたのに、実の母親と、自分が祖父だと思っていた人間に、平民の子だからって理由で拒絶されるとは……。

人生一体何が起こるか分からない。

常日頃から人を虐げ貶めてきたお前に、今何が残っている?

権力もプライドも高貴な出自も一瞬にして失ったお前に、何が残っているんだろうな?

もっと人を大事にしていたら、今とは違ったかもしれないのに………。



「あ〜あ、シシリアったら、酷いね〜。

この状況、作り出したのシシリアでしょ?

引くわ〜、流石に私でも引くわ。

フリードが流石に可哀想じゃない?」


その時、それまで全てに無関心だったシャカシャカがのんびりした声でそう言うと、フリードの隣に立った。


「ニーナ………」


縋り付くようにシャカシャカを抱きしめるフリード。

シャカシャカはそのフリードの肩に腕を回し、髪に手を伸ばして優しく撫でた。


「可哀想なフリード、アンタは何も悪くないのに。

嫌な大人のおもちゃにされちゃってさ。

アンタが王子じゃない事も、ゴルタール公爵の孫じゃない事も、アンタのせいじゃないのにね」


ヨシヨシとフリードの後ろ頭を撫でながら、シャカシャカはこちらに向かってニャァ……っと笑った。


………何だ………?

胸がザワザワする……。

鳥肌と冷や汗が止まらない。

頭の中で危険信号が鳴っているようだ。


まるで全身総毛立つような感覚に囚われた瞬間、後ろから手が伸びてきて、グイッと私の体を後ろに引っ張った。

驚いて振り返ると、真面目な顔をしたエリオットが、素早い動きで私をその背の後ろに隠した。


「………まずいな」


エリオットはボソッと呟くと、ニースさんと一時帰還しているルパートさんに目で合図を送る。

ニースさんが素早く結界の得意なミゲルとレオネル、リゼを呼び寄せた。

ルパートさんはノワールとジャンを密かに呼び寄せ、何かに警戒している様子だった。


……野生の動物のように、何かの危機を察知した私も、ゲオルグとユランに視線を送り、ルパートさん達と合流するように促す。

それからエリクとエリーにキティやマリーの周りを守るように目だけで指示を出した。


各人がそれぞれの動きを終え、固唾を飲んでシャカシャカとフリードの動向を伺う。



「ねぇ、フリード、アンタはもっと怒っていいんだよ。

アンタは今、酷い目に遭ってるんだから。

悪い奴らから、自分を守れば良いじゃない」


シャカシャカがそう言うと、焦点の合わない目で、フリードはフラフラと体を揺らした。


「……俺は、悪くない……俺は、怒っていい……俺をこんな目に、遭わせやがって……どいつもこいつも………………ふざけやがってっ!」


正気を失ったようにブツブツ呟いていたフリードが、まるで覚醒したように咆哮した瞬間、フリードの体から怒気を孕んだ風圧が放たれ、玉座の間を激しい風が吹き抜けた。


一瞬早く、ニースさん率いるミゲル、レオネル、リゼが保護結界を張り、集まった貴族達を守る。

陛下と王妃様の所には、テレーゼが結界を張り、2人を守っていた。


「俺はっ!俺がっ!俺が王子だぁぁぁぁぁっ!

俺がこの国でっ!1番偉いっ!存在なんだよぉぉぉっ!」


まるで魔獣の咆哮のようなフリードの雄叫びと共に、フリードの背中がバキバキと音を立て、腐臭を放ちながら縦に引き裂かれた。

そこから真っ黒な禍々しい羽根が生え、更にフリードの体はバキバキと音を立てながら変形していく………。


歪に筋肉量が増え、口には牙が、額には2本の角、指には鋭く長い真っ黒で鋭利な爪が………。


2倍に体が膨れ上がったフリードは、ビリビリに破けた服を布を纏うように体に引っ掛けているだけで、ほぼ半裸の状態だった。


その姿は、もはや人では無く、魔獣や魔物に近い………。



「………エリオット、あれ……」


ゴクリと唾を飲み込み、背中の後ろから問いかけると、エリオットも微かに冷や汗を流していた。


「……準魔族として覚醒した、ってとこだね。

フリードは、魔族の種を植え付けられていたんだ」


やっぱり、そうか。

エリオットの返事に、私は密かに頷いた。


フィーネ事ニアニアが植え付けられていた魔族の種。

あの時現存する貴重な種を回収出来たから分かった事だけど、ニアニアの種はまだ発芽していなかった。

だから取り出す事が出来たのだ。


だが、目の前のフリードの種は、完全に発芽してしまったようだ。

植え付けられただけでも、人の姿を保てず異形に成り果てると言われているのに、フリードの種は発芽してしまった……。


あれこそが、正真正銘の準魔族の姿………。


フリードから放たれる悪臭に顔を歪めつつ、私はシャカシャカを睨んだ。


アイツが姿を消さなかったのは、こういう事だったのか……。

恐らく、私がフリードに張った罠に気付いていて放置していたのは、今この瞬間を狙っていたからだ……!



ギリッと奥歯をすり潰し、私は異形に成り果てたフリードを見つめた………。






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