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EP.224


謎に悩まされながらも、何だかんだと地下牢の独房でグッスリ眠り、ん〜〜っと伸びをしながらスッキリ目覚める私。

もちろん自前の空間魔法からフカフカベッドを牢の中に設置。

快適な睡眠ゲット。

いいよね、床も天井もあるって。

ベッドも使えるしさ。

マジ快適、地下牢。

ちょっと朝日が差し込まないのが不便ではあるかな〜〜。

でも私、朝から走り込みと鍛錬を欠かさないから、体内時計がしっかり身に付いてんだよね〜〜。

お陰でこの日が差さない地下牢でも、いつも通り起床出来るのよ。


さて、今日は何しようかなぁ?

どうせ夜になったらまたあのズッコケ4人組とシャカシャカが来るだろうから、それまでに面白いイタズラでも仕掛けとこうかな。

踏んだら上から大岩が落ちてくる謎の突起とか。

鉄格子を掴んだらバリバリバリッて電流が流れるとか。

正直外から鉄格子ガシャガシャ鳴らされんの不快だったんだよね〜〜。

まぁシャカシャカがそんなもんに引っかかるとは思わないけど、フリードなら引っかかるな、間違い無く。

クックックックッ。


「おはようございます、シシリア様」


意地悪く笑っていると、エリクエリーがゲオルグを連れてまた現れた。

サッサッとテーブルセッティングをすると、朝食の準備をしていく。

いちいちゲオルグを連れてくるのは、便利な荷物運び扱いされてるからだと思うの。

エリクエリーはちょっと人を便利道具扱いし過ぎかなって……思わないでも無いけど、別にゲオルグも全く疑問にも思っていない様子なので、やっぱり使えるもんはどんどん使っていく方向で。


また、ここが地下牢とは思えない程豪華な食事が用意され、それを4人でありがたく頂く。

朝食を終えて食後のお茶を飲んでいた時、そんな私達を不思議な膜が音も無く覆い、私達は警戒して同時に立ち上がった。


何だ、これはっ!

保護結界にも似ているが、全く魔力の気配を感じない。

魔力を検知していたら、まず私とゲオルグがまんまとこの膜に覆われるなんて失態、あり得なかった筈だ。


私達を覆う謎の膜に、私達はそれぞれ臨戦体勢に入った。

エリクエリーが暗器を構え、私とゲオルグも空間魔法から刀を取り出そうとする………が、空間魔法が展開しない。

魔力がいつものように発動しなかった。


「しまったっ!スキルだわっ!」


気付いた瞬間、ドゴォッ!!と轟音が轟き、地下牢の天井が崩れ落ちてきた。


ーーーー駄目だっ!保護結界が張れないっ!

このままじゃ、皆下敷きになるっ!


咄嗟にエリーを庇ってその上に体を被せる私の上に、エリクとゲオルグが更に被さる。

轟音と共に落ちてくる天井が私達に襲いかかってきたその瞬間、私達を覆った膜が、落下してくる天井だった無数の石の塊を弾き返した。


「…………えっ?」


ガラガラと落ちてくる瓦礫を見つめながら立ち上がり、傷一つなく無傷の私達は目を見開いて辺りを見渡した。


地下牢の天井は、その上にあった筈の建物の一角ごと無惨にも吹き飛び、ただの瓦礫と化していた。

本来なら日の光など差さない地下牢に、燦々と太陽の光が差し込む。


冬の冷たい空気と共に、澄み渡った青空が私達の目の前に広がった………。


な、な、何が起きた………?

まさか、敵襲っ!

王宮が狙われたのかっ!?

でもなんでこんな端っこを狙ってきたんだ?

こんな場所、地下牢しか無いのに……。


呆然としながら辺りをキョロキョロする私の肩を、エリーが指でチョンチョンと突いた。

そのエリーに振り向くと、エリーは空を指差し無表情で口を開く。


「シシリア様、アレ」


エリーの指差す方を見上げると、そこにとんでもない黒いオーラを纏い、目を真っ赤に光らせた、控えめに言っても地獄の覇王みたいな男が宙に浮かんでいた。


なっ!魔族かっ!?

どうみても覚醒した魔族だよな、アレッ!

くそっ!こっちは魔法が使えないわ、刀だって手元に無いってのにっ!


その男が口を開くと、熱い蒸気のような煙が口から吐き出された。


「リ゛ア゛〜〜〜〜〜リ゛ア゛〜〜〜〜〜〜っ!」


その口から漏れる音は、低く潜もっていて、まるで地響きのように地を揺らした。


…………アレは、エリオットだな、たぶん、うん。

だいぶ地獄の覇王感が拭えないけど、うん、エリオットだ、たぶん。


えっ?えっ?

私、あんな危険な化け物に探されてる、今?

いやいやいやいやいやっ!

シンプルに嫌なんだけどっ!

いないよ〜〜っ。

こんなとこにリアはいないからね〜〜。

あっち行け、シッシッ!


コソコソとエリオットから身を隠そうと動いた瞬間、足元の石をコツンと蹴ってしまい、小さな音を立ててしまった。


その音にエリオットはギュンッとこちらに首を向けると、口の端から熱い蒸気を吐き出す。


「リ゛〜〜ア゛〜〜〜〜ッ!」


ギャァァァァァァァァァァァ!

見つかったっ!

くそっ!私とした事がっ!


宙に浮かんでいたエリオットは、もの凄い速さでギュンッ!とこちらに飛んで来て、私の目の前に立つと、手に掴んでいた何かよく分からない物体をブンッと後ろに放り投げた。


そういや、さっきから気になってたんだけど、アレ何?

なんか手に掴んでぶら下げてるな〜〜とは思ってたんだけど。


目を細めてエリオットが放り投げた物体をよくよく見てみると、それはボコボコに顔を腫らし血だるまになったフリードだった………。


ギィィヤァァァァァァァァァァァッ!

スプラッタッタッタァァァァァッ!

原型留めてねーーーじゃっ!アレッ!

ボッコボコじゃんっ!

人の顔ってあんな腫れあがんのっ!?

待て待て、首は?

首は繋がってんのか、アレ?

普通に頭持って空中でぶら下げてたけど、首と胴は繋がってんのかっ!?


ゲオルグがサッとフリードに近付き、首に指を当て脈を取って生存確認をしている。

ややして私の方を振り返り、深く頭を下に振ったので、私はホッと胸を撫で下ろした。


「エリク………アレをミゲルに届けてきて……くれぐれも内密に………」


小声でそう言うとエリクも小さく返事をして、サッと動くとフリードを抱えてその場から消えた。


……ふぅ、よし。

これでフリードは何とかなった。

あとは…………。


目の前のこの超危険人物なんだが。

フシューッと体から蒸気を噴き出しているけど、どんな原理、それ?

あと、目をビカビカ赤く光らせるのもやめてくんない?

顔とか首とか手とかに血管浮き上がらせるのもやめてっ!

無いはずの角が見えてきちゃうからっ!


ヒィィィィィッ!と数歩後ずさる私に、地獄から召喚されたとしか思えない状態のエリオットが、ピクリと敏感に反応する。


エリオットはゆっくりと私に手を広げると、ザッザッとこちらに近付いてきた。


「……リア、モウダイジョウブ……ボクガキタ………」


イャァァァァァァァァァァァッ!

来ないでーーーーーーっ!

呼んでないっ!

私こんなの召喚してないっ!

クーリングオフでっ!


はわはわガクガク震えながら、全身からジュウジュウと熱気を放つエリオット、いや、地獄の覇王を見上げる………。


ジゴクノハオウガハグヲモトメテキタ。


 ニゲル

▶︎ブットバス

 ウケイレル


イヤイヤッ!無理無理っ!

あんなのに勝てるかっ!

地獄の業火に焼かれてコンテニューだわっ!

やり直しっ!


ジゴクノハオウガハグヲモトメテキタ。


▶︎ ニゲル

 ブットバス

 ウケイレル


だからっ!どうやってっ!?

マッハで逃げても光速で追いかけてきて即捕まる未来しか見えんわっ!


クソッ!

もう私には、これしか残されてないのかよっ!


ジゴクノハオウガハグヲモトメテキタ。


 ニゲル

 ブットバス

▶︎ウケイレル


私はガタガタ震えながら、涙目でエリオットを見上げた。


「あ、あり、あり、ありがとう、エリオット………。

助かったわ………」


カクカクと両手を広げ、エリオットに抱き付くと、エリオットの体からプシュ〜〜ッと空気が抜ける音がして、エリオットがギュウッと私の体を抱きしめた。


「ああっ!リアッ!可哀想にっ!

こんな所に閉じ込められてっ!

さぞ辛かっただろう………想像するだけで胸が潰れそうだよっ!

僕がきたからもう大丈夫だからねっ!」


………ワタシ、シシリアサン。

イマ、ジゴクノハオウニダキツブサレテルノ………。


誰かっ!助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!

へールプッ、ミーーーーーッ!








「もうっ!リアが地下牢に入れられたって聞いて、本当に胸が潰れてどうにかなっちゃいそうだったんだからねっ!」


プンスコ怒るエリオットに、私はソファーの肘掛けに肘をつき、片手で顔を支えながらへーへーと適当に返事をしていた。


あの後、サッサと地下牢から連れ出された私は、そのままエリオットの自室に連れ込まれ、ぐちぐちネチネチとエリオットの愚痴を聞かされていた。


予定より早くセブラン王国への訪問を終え、航路ではなく、スキル全開でそれこそ本当に飛んで帰ってきたエリオット。

それでもセブラン王国でやる事はキッチリやってきたらしいので、いちゃもんもつけられ無い。


大変不本意ではあるが、こうして大人しくエリオットの愚痴に付き合うしかない状態なのだ。


「だいたい、リアは自分の邸に閉じ込められる程度だって言ってたじゃないか。

わざわざフリードから婚約破棄なんて引き出す必要なんて無いのに、一芝居まで打って。

その上地下牢に入れられるだなんてっ!

なんて事してくれるんだっ!」


プンスコプンスコ煩いエリオットに、顔だけ振り向いて私はニヤリと笑った。


「どんな事になってた?」


ニヤニヤ笑う私に、エリオットも楽しげにニヤリと笑って返す。


「それはもちろん、大変な事になってるね」


見つめあってクックックッと悪い顔で笑う私達。


「フリードと側近達は近衛兵に捕えられ、貴族牢に入ってるよ。

直ぐにゴルタールとアマンダが異議申し立てに来たけどね、流石に今回のフリードの件は2人にもどうする事も出来ないようだね」


楽しげに笑ってそう言うエリオットだが、お前がさっき血だるまのフリードの頭を掴んで宙に浮かんでいた事を私は忘れてないからな?

たぶん今、貴族牢にいるのはエリオットの作ったフリードのコピー、偽物だろう。


「ニーナはどうなったの?」


私の問いに、エリオットは当たり前の事のように答えた。


「もちろん、一緒に貴族牢に入ってもらってるよ」


………へぇ、アイツが大人しく入ったんだ……。

とっくに姿でも消しているかと思ってた。


「それにしても、リアったらやり過ぎだよ。

地下牢になんか入るだなんて。

可哀想に、あんな場所で………。

不便だったでしょ?辛かったよね?

もう2度とそんな目には遭わせないからね」


ヨシヨシと頭を撫でながら、私の顔を覗き込むエリオットに、私はハンッ!とデッカい鼻息で返した。


一晩しかいなかったっちゅーねんっ!

私の計画では1週間は居座れる筈だったのにっ!

どっかの誰かが上の建物ごと吹き飛ばしてくれたお陰でなぁっ!

バーサクモード初めて見たわっ!

瞳孔全開なの怖いからやめろっ!


不服気にチッと舌打ちする私。

エリオットは悲し気な溜息をついて、静かに口を開く。


「リアがどうしたかったかくらいは理解しているけどね、それを僕が許容出来るかはまた別の話だよ。

大事な人があんな場所に入れられて、正気でいられる男なんていないからね。

僕の気持ちも、少しは分かって欲しいな」


シュンとしてコチラを見つめるエリオットに、私は諦めたようにデッカい溜息をついた。


はぁぁぁぁぁ、あ〜あ〜〜〜。

まぁ流石に無理があったんだよな〜〜〜。

むしろ、一晩だけでも入れてた事に感謝するしかないかぁ。


ブスッとしつつも理解はしている私に、エリオットはホッとしたように胸を撫で下ろし、ニッコリと笑った。


「父上と母上も諸侯貴族達の領地への視察を切り上げ、急ぎ戻って来ているから。

クラウスは既に王子宮についているし、他の皆んなも呼び戻したよ。

近日中には、皆が一堂に会する。

そうしたら、いよいよ、最後の一手だね、リア」


ふふっと笑うエリオットに、私もニヤリと笑い返した。


長かった………。

本当に、長かった………。


フリードと婚約云々あっても、奴と婚姻するつもりはサラサラ無かったが、やはりスッキリサッパリとはしておきたい。

奴が私の婚約者ヅラするのも、いい加減我慢の限界だったし。


当初の私の予定では、学園を卒業した後に婚約宣誓書云々の話を向こうが言ってきた筈だから、その時にハッキリさせておこうと思っていたが、もうこれ以上、一瞬だってアイツらに権力を持たせておくべきじゃない。

そう思ってフライング気味に事を起こしたが、上手くいったようだ。

まぁ、私の考えた計画なのだから、万が一にも失敗する訳がないんだけどねー。


クックックと黒く笑っていると、エリオットに顎を掴まれクイッと上向かされ、ジッと瞳を覗き込まれてしまった。


「ところで、リアはフリードと婚約破棄になって、もう自由になった訳だけど………。

僕の喪もそろそろ明けるしね……。

これはそろそろ、僕が本気を出していいって事だよね?」


そう言って甘く瞳の奥を揺らめかすエリオット。


やれやれ、お前もフライングかよ………。

もう少しくらい、待てんのか。


おまいう?状態の私だが、まだその辺を許容するつもりは無い。

エリオットの口の前に片手をかざし、私はキパッと答えた。


「まてっ!」


バカ犬にも分かりやすい、基本の指示だ。

エリオットはその私にキュウンッと悲し気なつぶらな瞳を向け、ペロッと私の掌を舐めた。


うん、なるほど。

指示が難し過ぎたか。

よし、分かった。


「しね」


そう言った瞬間、ボオォォォッ!と私の掌から炎が放たれ、至近距離でエリオットの顔にヒットし、炎に包まれたエリオットはアヂッ!アヂッ!と悲鳴を上げながら、床をゴロゴロ転がり回った。


ふぅ、ヤレヤレ。

駄犬の躾も楽じゃないな。

こんがり焼き上がった頃には、もっと賢くなっている事だろう。


そう思いつつ、床を転がるエリオットを眺めながら、何だか急に腹の奥から笑いが込み上げてきた。


「ふふっ、ふっ、アハッ、アハハハハハッ!」


何だかくすぐったいような、暖かいような、変な気分だ。

長くかかったけど、やっと、やっとなんだな………。


そう思うと、胸の奥が妙に暖かくなって、やっぱりくすぐったい。


私は自分の気持ちを誤魔化すように、まだ床をゴロゴロ転げ回っているエリオットを指差し、腹を抱えて笑い続けた。





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