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EP.22



ワイバーン討伐からの、王国の裏で蠢く策略、エリオットの隠してきた力。

色々な事を聞いてしまい、自室のベッドに横になると、流石に頭がクラクラした。

リラックスして、緊張の糸が切れたせいだと思う。


今までのエリオットに対する疑問は晴れたが、しかし問題は山積みだ。

北の大国の事、ゴルタール、ロートシルト。

コイツらの事は大問題だか、しかし。

今身近な問題として、私の頭をよぎるのは……。


エリオット、ガチロリコン説、だ。


今更と思われるかも知れないが、奴のストーカー対象である私は、今までまったく思い付きもしなかったのだ、奴がガチのロリコンである事を……。


奴も言っていたが、私の事は溺愛が過ぎる娘の様な感覚で執着しているのだと思っていた。

たまにいる、いつまでも子離れ出来ない、娘に全振りしちゃってる、父親。アレ。

そう思っていたからこそ、奴のストーカー行為も、非常に腹立たしく迷惑極まりなかったが、どこか呑気に捉えていた。


ちっ、あの親父っ!またかよっ!私を何歳だと思ってんだよっ!

程度で流していた、が。


最近のエリオットは、どうも様子がおかしい。

何か、見つめる瞳の奥とか、抱きしめる腕とか、いつもの様にふふふと微笑む表情さえ、何というか………甘い。


こう、艶っぽい?

狙いを定めてる感じ?

ぶっちゃけ、口説きにかかってる?


とにかくっ!そんな感じで、大変宜しくないっ!

健全な少女時代を過ごす為には、早急的速やかに、アイツを排除しなきゃいけないっと、第六感がそう告げているっ!


ってか、お互い婚約者がいるのに、何をやっとんじゃっ!


言いたい事がありすぎて、頭が沸きそうだが、やはり物事は順序立てて、冷静に考えるべきだ。


まず、エリオットはロリコン。

これは間違いない。

アイツは少女趣味。


そんで、エリオットの婚約者は3才年上だから、今20歳。


つまりアイツは婚約者では満たされない性的趣向を、私で満たそうとしているのだっ!

けしからんっ!


だが、残念だったな、エリオット……。

お前は知らないだろうが、私はもう4〜5年もすればっ!

172センチ、Gカップ(公式)に成長するのだっ!


そうっ!なんとっ!

私こと、〈キラおと2〉悪役令嬢、シシリア・フォン・アロンテンッ!

〈キラおと2〉公式キャラ設定で、172センチ、Gカップなんですよ……っ!

前世ペタンコだった私が……Gカップ……。

約束されし、Gカップッ!


身長の方は前世とあまり変わらないので、まぁどうという事はないのだが。

Gカップの方は、流石に心躍るぜっ!



しかし……制作スタッフの見事な逆振りが光る。

前作〈キラおと1〉の悪役令嬢、キティ・ドゥ・ローズが、148センチ、トリプルAだったからって、シシリアを中身どころか外見まで真逆に設定するとは……。


ちなみにそれはヒロインにも言える。

前作ヒロインが王道だったのに対して、2でのヒロインは破天荒な上に、見た目がキティたんを若干トレースしている。

フワフワでは無いが、ツインテだし、身長も低めで胸も控えめ。


前作で悪役令嬢キティが思わぬ人気だったもんだから、殺しちゃったもんは仕方ない、と、苦肉の策でヒロインの見た目に応用しちゃったのかも知れない、がっ!

これが見事、キティたんファンの神経を逆撫でした。


キティたんの劣化番コピーに用はねぇっ!

と、キティたんファンからフルボッコ。

更に、王道ヒーローファンからも、2での攻略対象者達の劣化ぶりに、ふざけんじゃねぇっ!

攻略したい相手が1人もいねーよっ!とフルボッコ。


ボッコボコのフルボッコにされ、大コケした〈キラおと2〉の悪役令嬢、何度も言うけど、私……。


そら、Gカップくらい約束して貰わないとやってらんないっすわ。


で、それはそれとしてっ!

ロリコン野郎エリオットが、そんな我儘ボディな私に今みたいに絡んでくるか?

こないでしょっ!


更に、どうやら私は人より成長が早い。

今既に、年齢の平均身長を抜いてるし、お胸だって若干大きめ。

って事はですよ?

Gカップを待たずして、あのストーカーロリコン野郎を撃破出来るって訳ですよっ!

なーはっはっはっはっ!



ツキン……。


脳内で馬鹿笑いしていると、急に胸が痛くなる……。


なんだろ……?

変なの……。



エリオットが私から離れる事を考えていた時に胸が痛んだ……。

その事を、今の私は気付く事が出来なかった。



何だか落ち着かなくて、水でも飲もうかな、と少し体を起こした瞬間、部屋に自分以外の人間の気配を感じ、枕元に置いておいたカゲミツを素早く抜刀し、そのまま刃を振るった。


手応えがあった、が、浅いっ!


舌打ちしながら私は叫ぶ。


「ライトッ!」


あっ、ちなみにただの生活魔法です。

魔石を埋め込んだ照明家具を点灯させただけです。


急に明るくなったので、目をくらませない様、細めで相手を見る。

ベッドの端に2人の人間が立っていた。

ライトで目をくらましてくれる事を期待したが、その2人は全く動じず、私に向かってナイフを構えている。


「大丈夫?」


「問題無い」


1人が、先程私のカゲミツが掠った方に声をかける。

浅かったとはいえ、胸の前の服が裂け、そこから血を流しているもう1人が、無表情に答えていた。



私はベッドから飛びすさり、カゲミツを構えた。



暗殺者。

まず間違いなく、この2人は私の命を狙ってきた暗殺者だ。



2人は顔も背格好もよく似た男女だった。

年の頃は私とあまり変わらない気がする。

黒髪黒目、幼い顔。

前世の日本人の様な容貌。


だか、どちらも隙がない。


私は額に汗を浮かべ、カゲミツをギュッと握り込んだ。


ゆっくりベッドから離れる。

2人も同じ動きで私を追ってきた。


そして素早い動きで2人同時に襲いかかってくる。


なる程、うまい。

2人同時に相手するのは難しい。

しかもこの2人、呼吸が完全に合っている。

1人をかわせても、もう1人に確実にやられる。


が、甘い。


2人で固まってくれているって事は、纏めて捕獲しやすいって事なのよ?



「アクアボール」


大きな水の球体が、2人を捉えて浮き上がった。


「パージ」


続けて唱えた魔法で、2人の武装が解除され、ナイフがボタボタと床に落ちた。


ってか、どんだけナイフ持ってんだよ。


2人は水の球体の中で、やはり無表情にこちらを見ている。


「貴方達、誰の依頼で私の命を狙いに来た訳……ってそんな事、素直に話す訳ないか」


意味の無い質問だったな。

無表情な2人を前に、私は思案を巡らせた。


今、私の命を狙うと言えば、私とフリードの婚約を快く思っていない貴族だろう。

私はアロンテン公爵家の人間、そしてフリードの母親の生家は、貴族派のゴルタール公爵家。

この国の数少ない公爵家が、私達の婚姻で結び付く事を危惧する貴族は少なくない。


実際、私達の婚約は王族派の貴族達の反対が凄まじかった。

我がアロンテン家は穏健派だけど、ゴルタール家と結び付き、万が一にも貴族派にひっくり返れば、国内1の勢力に変貌してしまう。


当然ながら、そんな婚姻は許される筈も無く、私をクラウスの婚約者候補から、フリードの婚約者に変えるというゴルタール家の主張は、議会で揉めに揉め、あちこちで小競り合いが勃発した。

最終的に、陛下が許可して、私とフリードは婚約する事になったのだ。


とはいえ、まだ正式な婚約式は執り行っていない。


私達の婚約式は、学園を卒業した後執り行う予定になっている。

これは陛下がゴルタール家に出した、私達の婚約を認める交換条件でもある。


ちなみに、婚約式にて、正式に宣誓書にサインし教会に提出すれば、どちらからか勝手に婚約破棄をする事は出来なくなる。


婚約を白紙に戻すには、教会の審問を受け、受理されなければならない。


王族や王侯貴族にとって、婚約式とは形式的なものでは無く、それ程重要な儀式なのだ。


なので、婚約式を済ませると、既に夫婦として扱われる事が多い。


王家のしきたりだけでは無く、機密についても知らされるので、婚約式を終えた王族が婚約を白紙に戻した前例はまだ一つも無い。


まぁ、つまり、陛下はゴルタール家の希望通り私とフリードを婚約者と認める事で、今のところゴルタール家を大人しくさせ、正式な婚約式を引き伸ばす事で、王族派を鎮める事に成功した。


……表向きは。

だがやはり、2大公爵家が結び付き、貴族派の勢力が巨大になる事を不安に思う王族派貴族はまだまだ少なくない。


実際、未だに私とクラウスの婚約を推し進めるべきと主張する人間までいる。


いやいや、無理無理。

クラウスは既に、公にキティたんを婚約者に決めていると主張しまくってる。

ってか、アイツからキティたんを引き離せば、魔王化待った無しなんだけど、どうすんの?


いや、そうなったら私はキティたん連れて、スタコラさっさと逃げるけど。

この国が塵に還されちゃったら、王族派も貴族派も何も無くなると思うけどねぇ。


しかし、王族派にも過激なもんが居たもんだ。

私を亡き者にしてでも、ゴルタール家の力を削ごうだなんて……。

ある意味忠義者と言えなくも無い。



「私達を殺さないんですか?」


無表情な暗殺者の、女の子の方が聞いてきた。


私は2人をジッと見つめ、その幼さの残る顔にフルフルと首を振った。


「殺さないわ。逃してあげる事も出来ないけど。

貴方達の知っている事を全て話してもらう。

って言っても、難しそうね」


ふ〜ん、どうしたものか?

首を捻っていると、男の子の方が、ズボンのポケットから掌大の水晶を取り出し、私に差し出した。


「貴女が僕達を殺さないと言ったら、渡すよう、依頼者から預かった物です」


ハッ?

男の子の言葉に目を見開き、私はその手にある水晶をまじまじと見つめた。


記録魔法用の、魔石を加工した水晶……。

一体、どんな人間が私の命を狙い、更に彼らにそんな物を持たせたのか……?


「良いわ、こっちに投げて」


私は彼らを捕らえた水の球体から、その水晶だけ通り抜ける事を許可した。

男の子が水晶をこちらに放り投げる。

それをキャッチして、両手で包み、解析魔法にかける。


本当に、ただの記録魔法用の水晶だ。

何の仕掛けも無いみたい。

既に何かを記録してある様で、彼らの依頼者は、つまりそれを私に再生して見ろと言っているのだろう。


私は魔力を流し込み、その水晶に記録されたものを再生させる。


水晶から一筋の光が放たれ、目の前にスクリーンが現れる。

そこに、パッと1人の人物が映し出された。



『は〜い、シシリアちゃ〜んっ!』



……エ〜リ〜オット〜………。

お前かよ……。


一気に力が抜けて、私はその場にヘナヘナと座り込んだ。


『もう少しでシシリアの誕生日だからね、僕から、今シシリアが1番欲しい物をプレゼントするよ!

【銀月の牙】から引き抜いた、とびきり優秀な双子だよ。

その2人は、東の国にかつて存在した、霧の里の末裔なんだ。

ちょっとしたスキルも持っていて、そこそこのレベルだから、育てれば便利に使える様になると思うんだ』


スクリーンに映し出された満面の笑顔のエリオットに、ゾゾゾッと背筋が寒くなる。


確かに、情報を掴む為、諜報員を雇おうとしていた。

魔法結界で守られたアロンテン家の邸に忍び込むほどの腕前を持つこの双子を雇えるのは、今の私にはかなりの幸運だと思う。


だか、何故お前がそれを知っている……?


な、無いよね?読心系スキル。

持ってないよね?

頼むから持ってないと言ってくれ〜っ!


ガタガタと震えながら、スクリーンの中のエリオットを涙目で睨み付けた。


『ちなみに、【銀月の牙】は各種調査、諜報、潜入、暗殺まで請け負う、街の裏の便利屋さんだよ。

僕が運営してるんだけどね〜。

そうとは知らず、貴族派の人間が僕の暗殺とか僕の暗殺とか、僕の暗殺とか依頼しに来て面白いとこだよっ、あっはっはっ!』


笑うとこが狂ってんだよっ!

マジで頭大丈夫かっ⁈


『って事で、その2人はシシリアちゃんにあげる。

上手に使ってあげてね。

あっ、それから、くれぐれもおイタはいけないよ?』


ふふっと黒く微笑まれ、私はヒィッとその場で飛び上がった。


『あっ、それから』


……まだ、あんのかよ。

スクリーンに映るエリオットに向かってぶうたれる。


『愛してるよ、シシリア。

良い夢を、おやすみ』


艶っぽく微笑むエリオットに、ドキリと胸が高鳴った。


な、何?何だ?


私は自分の胸を押さえて首を傾げた。

何だろう、さっきから。

胸がツキツキしたり、ドキドキしたり……。


持病の癪?

シシリアにそんな設定あったかな?


う〜んと頭を捻っていると、まだ水の球体に囚われたままだった双子と目が合った。


あっ、忘れてた。


私はパチンと指をならして、2人を解放する。


「えっと、そんな訳だから、貴方達には今日から私の下についてもらうわ。

えっと……貴方達、名前は?」


私の問いに、2人はやはり無表情のまま、同時にフルフルと頭を振った。


「名前はありません」


「呼び名なら、あります。

私が黒2、こっちが黒1」


女の子の方がそう言って、男の子を指差した。


よく知らないけど、そういう組織って事かな?

コードネームで呼び合う的な?


う〜ん、でも私の下につくなら、名前がないと不便だし。


私は頭を捻りながら、ジーッと2人を見た。


「そうねぇ、じゃあ貴方はエリク」


男の子を指差し、まずは名付けた。


「貴女は、エリーね」


女の子にも名付け終わると、2人は、エリク……エリー……エリー……エリク……とお互いを見合いながら呟いている。

何だか若干嬉しそうだ、良かった。



「シシリアッ!大丈夫かっ!

私だっ!レオネルだっ!

今、王宮から戻ったら、邸の結界が一部破られていたっ!

何があったんだっ?無事か?シシリアッ!」


ガンガンと扉を叩く音がする。

私は2人を連れて、ベッドルームから居間に移動し、自室の扉を開いた。


そこにいたレオネルが、私の顔を見て、ほっと息をついたのも束の間、エリクとエリーに気付き、サッと私を背に庇い、ビリッと緊張を張り巡らせた。


「誰だっ⁈シシリア、この2人は?」


私はレオネルの背からひょっこり顔を出し、その顔を見つめた。


「エリクとエリー。エリオットからの、誕生日の贈り物……」


私の言葉に目を見開いたレオネルは、ややして緊張を解き、はぁ〜っと深い深い溜息を吐いた。


「……あの人の仕業か」


諦めの混じった声色に、私も溜息を被せた。


「そうよ、アイツの仕業よ……」



すっかり夜も更けたアロンテンの邸に、私達の溜息だけが響いた……。





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