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EP.220


二学期の最終日。

所謂終業式というやつが行われ、皆が長期休みに入る事にそれぞれ浮かれていた時、やはり奴が動いた。


生徒会長(つまり私)の挨拶が終わった瞬間、壇上に上がってきて、強引にマイクを奪うと胸を逸らし生徒達をビッシィッ!と指差す。

どうでも良いが、お前はまず人を指差さんと喋れんのか。


「オイっ!貴様ら、喜べっ!

この俺様が、今日の夜、この学園の大ホールで盛大なパーティーを開いてやるから、皆来るがいいっ!

特別にっ!本来なら絶対にあり得ないがっ!今回だけっ!

平民共も参加させてやろう。

俺様の温情をありがたく受け取るがいいっ!

いいかっ!?学園の生徒は全員参加だからなっ!

来なかった奴は俺様への不敬罪で処罰してやるからなっ!

分かったなっ!?」


言うだけ言って、ニヤリと笑うフリード。

生徒達は困惑して、ザワザワと騒ぎ始めた。


多分、フリードの予想では。


まぁっ、フリード殿下主催のパーティだなんてっ!

私達の為にパーティを用意して下さるフリード殿下っ!サイコーッ!

俺達下賤な一般生徒まで参加させてくれるなんてっ!

次代の国王はフリード殿下に決まりだなっ!

フリード殿下っ!フリード殿下っ!フリード殿下っ!


と、なる筈だったのだろうが、現実は皆困り顔でコソコソと囁き合っているだけ。

馬と鹿には空気さえ読めないのだろうが、ぶっちゃけ皆喜ぶどころか迷惑がっている。


予想と違う皆の反応に、顔を真っ赤にして今にも爆発しそうなフリードから、私はスッと華麗にマイクを奪い返すと、落ち着いた声で皆に語りかけた。


「皆様、お聞きになった通り、フリード殿下が皆様の為に学園でのパーティをご用意下さっているようです。

私達3年生は、冬の長期休暇が終われば、この学園での生活もあと僅か。

どうか思い残す事の無いよう、学友との、後輩との親睦をより一層、そのパーティで深めて頂ければと思います。

無理のない範囲で、どうかお時間のある方は、フリード殿下主催のパーティにお越し下さい。

さぁ、そのような素敵なパーティを用意下さったフリード殿下に、感謝の意を込めて拍手でお返し致しましょう」


言い終わり、私が優雅に微笑むと会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こり、フリードはご機嫌で両手を上げ、その拍手にふんぞり返って応えていた。


やれやれ、さっきのアレじゃ下手したら誰も参加しなかったかもしれない。

それじゃ困るんだよ、こっちが。

私はド派手なのが好きなんだ。

デッカい花火を打ち上げるなら、せっかくなら大勢で見た方が楽しいだろ?

ここまでお膳立てはしてやったんだ。

こっからは幼稚園児でも出来るお遊戯会だからな。

しっかりやってくれよ?


……あっ、でもコイツ、幼稚園中退してんだったっけ?






夜になり、学園の大ホールに続々と生徒達が集まり始めた。

普通この規模のパーティを当日に招待しても人なんか集まらない。

私や主要メンバーならいざ知らず、フリードの招待で集まる人間など、とうにこの学園から追い出されている奴らばかりだ。


案の定、皆は都合の良い誤解をしたまま、今夜集まってくれたようだ。

つまり、私が生徒達にサプライズで用意したパーティを、婚約者のフリードの顔を立て、フリード主催のパーティとして発表した、と。

まぁ、じゃないと生徒達だってこんなに集まらないだろう。

なんのかんのしがらみのある貴族生徒ならまだしも、日頃から我が物顔で偉そうに学園内を闊歩し、未だ一般生徒を虐げるフリードに反感を持つ一般生徒など、絶対に来なかった筈だ。


実際は私主催のパーティだと勘違いしてくれているから、一般生徒達も大勢集まってくれている。


まぁ……あのフリードにパーティの主催などはなから無理な話なので、実は側近2、3を介して、こちらから優秀なパーティプランナーを送り込んでいた。

お陰で第三王子主催のパーティらしくそれなりに豪奢なパーティになっているので、王家のメンツは保たれているだろう。



「シシリィ……会場の近くでそれはないわよ……」


呆れ返ったキティの声に、私は大股を左右に広げて地面に座り込むスタイルのまま、あっ?と顔を上げた。

知ってる人は知っている、所謂ヤンキー座りというやつだ。


「ドレスでやっちゃダメなヤツ、それ」


キティが誰にも見られてないよね?といった感じでキョロキョロするので、私は仕方なくいつもの結界を張ってやった。

これで私とキティは優雅に立ち話しているように周りからは見えるだろう。

実際はヤンキーに絡まれている小学生女子の図にしか見えないのだけど。

おい誰か、コイツにランドセルとたて笛。

あと、強風と向かい風。


はぁぁぁぁっと地面に向かって溜息をつく私に、キティはおいたわしや……と憐憫の目を向けた。


「お疲れだねぇ……シシリィ」


労わってくれる言葉が五臓六腑に染み渡る……。

本当に、大変だった。

あのキメラの相手をしつつ、裏で操りながら、アイツの都合の良いように全てを準備して、秘密裏に与え……。

何から何まで、一から十までっ!

とにかく用意してやらないと、奴は何も出来んっ!


……いや、知ってたけど……それでも疲れましたよ、私は。

普通、ヒントを与えてやったり、隙を見せてやったりするだけで十分じゃない?

それを、ここまでやってやらないと、本当に何も出来んとは……。

いや、逆に恐れ入ったわ、大したもんだよ。


「ここまでする必要が本当にあったの?

もう少し待てば、陛下が全てを白日の元に晒して下さったと思うわよ?」


キティの日和った発言に、私はうんしょと立ち上がり、そのキティの頭をポンポンと優しく撫でた。

キティが心配してくれているのが分かっているからだ。


「だとしても、私は私の事は自分で片をつけるわ。

ゴルタールがこれ程力を失っても、陛下はフリードについて一向に動こうとしない。

それはつまり、私に問いかけているのよ。

このまま傍観者であり続け、陛下や周りがフリードの件を片付けるのを待つか、当事者として自分の手で片をつけるのか」


私の言葉に、キティは少し納得のいかない顔で頬を膨らませた。


「当事者って、シシリィは陛下の事情に巻き込まれただけじゃない」


珍しく陛下を責める発言をするキティの頬を片手でムニっと挟んで、私はフッと笑った。


「貴族の婚約問題なんて、どこもそんなもんよ?

様々な思惑の上に成り立つのだから。

だけどそれを、家の為のものと達観するか、当事者としていかにより良いものにするか。

そこに個人の覚悟が反映するんじゃない?

私だって最初は、陛下の好きにさせて、全ての事が終わった後に、自分の自由を謳歌するつもりだったんだけどねぇ………。

まぁ、色々……思うとこがあってね。

やっぱり当事者として、自分で片をつけることにした訳。

つまり、私が動いたことにより、陛下達も動くって絵を、私が描くつもりがあるのか、それとも無いのか、陛下はそれを見極めたかったんだと思うわ。

今夜の事で、陛下達も一気に動き出す筈よ」


やれやれと肩を上げる私に、キティは首を捻りながら聞いてきた。


「どうしてシシリィが動くのを待ってたのかしら?」


そのキティの問いに、私はハンッと鼻で笑いながら答える。


「私の覚悟を知りたかったんじゃない?」


「えっ?何の覚悟………あっ!」


不思議そうにしていたキティだが、直ぐに意味を悟ったのか、口をあんぐり開けて驚愕した顔で私を見つめた。


「えっ?つまり……そういう?えっ?えっ?

シシリィ……ほ、本当にっ!?」


びっくり顔のキティの顎を優しく掴み、私はその顔を上向かせると、妖しく微笑んだ。


「……さぁ?どうだと思う?」


口説く勢いで甘く見つめると、キティはボンッ!と顔を赤くして頭から湯気を立てている。


「……あっ……なっ……わ、私に王子の技はき、効かないんだからね……っ」


いや、思いっきり効いてますやん。

久しぶりに王子キャラ(ちょいワルバージョン)を披露してやると、まんまと真っ赤になってアワアワ言っているキティ。

流石元王子の姫。

皆が欲しいリアクションを見事にしてみせるとか、天然の天才か?


「ご、誤魔化してないで、実際はどうなのよ?」


顎を掴む私の手をパシンと払いのけ、まだ赤い顔でそう聞いてくるキティに、私は両肩をすくめて揶揄うように笑った。


「さぁね〜〜、どうだろうね〜〜?」


ニヤニヤする私に、キティはやっぱりまだ真っ赤な顔でキーーッ!と苛立っていた。

私の色気アタックにまんまと茹で上がった事も恥ずかしかったのか、地団駄踏んで悔しがっている。


アッハッハッハッ!

あーーー、疲れが吹っ飛んだ。

流石キティ、あらゆる癒しを与えてくれるロリッ子女神。

皆の元気の元だな、マジで。


私はポンポンとキティの頭を優しく撫で、グイッと顔を近付けた。


「あのボサ子が王子妃になるって覚悟決めて頑張ってんだから、私もコソコソ逃げ回ってられないじゃない?」


ふふっと微笑むと、キティはまたもボンッ!と湯気を立て、更に真っ赤に顔を染める。


「いちいち色気を駄々漏らせるなっ!

普通に言えないのっ!普通にっ!」


目尻に涙を溜めながら、ダンッダンッと地面を踏みならすキティ。

いやいや、すまんね。

そんなつもりじゃなくてもダダ漏れちゃうのよ、色気。

特に可愛いロリッ子相手だと制御が効かんなぁ〜〜〜。

あれ〜〜〜、おかしいなぁ?


さてっ!キティにウザ絡みしてたら疲れも吹っ飛んだしっ!

いっちょ気合い入れて行きますかっ!


う〜んっ、と一つ背伸びをしてから、私はキティにスッと手を差し出した。


「美しいお嬢さん、今夜貴女をエスコートする名誉を、この愚かな私にお与え下さいますか?」


フッと目の端を甘く煌めかせると、キティはまだ赤い顔をしながら私の手を取った。


「もぅ……王子はいい加減引退してよね」


ブツブツ言うキティにブハッと吹き出しながら、私は優雅にキティをエスコートしてパーティ会場に向かった。


いよいよ楽しい舞台の幕開けだ。

いい感じに肩の力も抜けて、コンディションバッチリッ!

王子役の次は、令嬢役をしっかり演じてみせるぜ?

私も皆も、お待ちかねのやつをな。




キティをエスコートして会場の中に進むと、あちらこちらから黄色い悲鳴が上がった。

エスコート役が私で、その私にエスコートされているのがキティなのだから、皆のテンションが上がるのも仕方ない。

掴みはオッケー、というヤツだ。


学生の集まるパーティなのだから、これくらいのおふざけは許容範囲だろう。

皆も喜んでくれているし、良かった良かった。


「シシリア様、お待ちしておりました」


すかさず側に侍るユランとリゼ。

エリクエリーとゲオルグは、今夜は警護として会場の外を巡回してもらっている。


妙に大人しいシャカシャカが何かを仕込んでいないか、警戒する為だ。


周りを見渡すと、皆なんだかんだとパーティを楽しんでくれているようだ。

そりゃ、何も知らない何も出来ないフリードの代わりに、私が密かに全てを用意したのだから、不手際の一つもあるはずが無い。


学生のパーティにしては、若干豪奢なものになったが、王族の開くパーティなのだから、こんなもんだろ。


皆が満足してくれている事にホッとしながら、私は顔見知りの生徒達に声をかけていく。

キティとマリーが楽しそうにお喋りしているのを横目で眺めながら、私もついうっかりパーティを楽しでしまっていた、その時。


大ホールの、半円形の階段が5段ほどあるステージの上から、フリードがやかましい声を張り上げた。


「皆、俺様のパーティによく集まったっ!

ここにいる皆は、俺様に賛同して集まった者達だろうっ!」


その声に振り返った生徒達が、ポカンとした顔で声の主を見つめている。

皆一様に、何言ってんだ?コイツ、顔である。


しかし懐かしいなぁ、あの場所。

約2年前に、あそこでフィーネを捕らえる為の一芝居を打ったんだよなぁ……。

もう既に懐かしいとか、私も年取ったなぁ……。


何だか感慨深い気分でステージを見つめていると、フリードはノリに乗った様子でバッと片手を広げた。

どうでもいいが、動きがうるせぇ。


「そんな皆の前で、今夜は重大な話があるっ!

オイっ!シシリア・フォン・アロンテンッ!

いるんだろっ!前に出てこいっ!」


偉そうに名指しされて、私は密かにニヤリと笑った。

おやおや、ご指名が入っちゃったわ。

フゥッフゥーーーッ!

ご指名ありがとうございますっ!

どうも、ドン・ペリ男ですっ!


と、ふざけたいのはやまやまだが………。

くっ、出来ないのが苦しい………。


苦悶の表情を浮かべる私の手を、キティが両手でギュッと握って、真剣な目で見上げてきた。


「シシリィ、短気は損気、分かった?

ハイ、リピートアフターミー?」


やかましわっ!リピートせんわっ!


たくっ!

フリードのあの態度に短気起こして全てを台無しになど、この私がする訳ないだろ?

この日の為に私がどれだけ耐えてきたか……。

それを自分でめちゃくちゃにする訳が無いっ!


まぁいいから黙って見てなさいよ。

いよいよ私が舞台に上がる番なんだから。


フリード、私は逃げも隠れもしねーぞ?

だからお前も覚悟するんだな。

自分のやった事は必ず自分に返ってくる。

それがどんな結果になろうと、それは自分の責任なんだよ。


いいか?今までやりたい放題、貴様が周りを巻き込みやってきた事の全てが一気にお前に返ってくるぞ?


その覚悟を今からでもしておくんだな。

キツい一発がお前を待ってんだから。





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