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EP.218


脳内で軽くディスりながら、私はフッと鼻でフリードを笑った。

その時……。


「ふぁ〜あ。まだそれかかんの?」


フリードの後ろで自分の枝毛を探していたシャカシャカが、欠伸をしながらそう言うと、くだらないというようにフリードをチラッと見た。


「ニ、ニーナッ!ご、ごめんっ!

こんな女かまっててごめんなっ!

よしっ、もう行こうっ!

そうだ、今日は宝石商を呼んであるから、好きな物を買えば良いっ!」


途端にアワアワとシャカシャカの機嫌を伺い始めるフリード。

力関係がこんなにハッキリしているとは、逆にいっそ清々しい。


「あっ、ねぇ。シシリア。

楽しい?学生ごっこ」


そんなフリードをまるっきり無視して、シャカシャカは急に私に話しかけてきた。


「相変わらずアンタはどこでも楽しそうで良いね。

でも本当に大丈夫?そんな沢山の人間と関わりもっちゃって。

アンタの被害者が、そんだけ増えるだけだよ?」


ニタァ……と笑うシャカシャカに、私も負けじとニヤッと笑い返した。


「宝石商が待ってらっしゃいますよ。

早くフリード殿下とお帰りになったら?」


シャカシャカは私の言葉に片目だけ歪に細めると、急に興味を失くしたようにクルッと背中を向け、スタスタと歩き始めた。


「ま、待ってくれよ〜〜、ニーナァッ!」


慌ててシャカシャカの後を追うフリードと、その側近1、2、3。

2、3さんがチラッとこちらを振り返ったが、私はそれには気付かないフリで素知らぬ顔をして見送った。



「シシリィッ!大丈夫っ!」


ガバッと飛びついてくるキティと心配そうにこちらを伺うリゼに、私はニッと笑いながらキティの頭を撫でた。


「大丈夫、予定通りよ。

あっちはあっちでうまくやってくれてるみたいね」


フフンッと笑う私に、リゼが心配そうな顔で口を開いた。


「私はやはり不安です。

いくらシシリア様の計画とはいえ、やはり危険過ぎます」


何とか私を思い留めようとしたいのだろうけど、申し訳ないが事は動き出してしまった。

全ては私の思い描く通りに。

私は心配するリゼの肩をポンポンと叩き、安心させるように優しく微笑む。


「大丈夫よ、私の実力はリゼも知っているでしょう?

万が一の時は、アイツら全員薙ぎ払って逃げるから、大丈夫」


ニッコリ笑うとリゼは何故だか小刻みにカタカタ震え出した。


「くれぐれも、やり過ぎないで下さいね……」


あっ、そっちの心配ね。

ハイハイ、肝に銘じておきます。

まぁ、ここは森やダンジョンじゃなく王都のど真ん中だから、いくら何でも制御くらいしますから、安心して下さい。


………たぶん。


私の心の中の呟きを察知したかのように、リゼか密かにゲオルグを手招きし、王都民の非難経路について入念に相談し始めた。

いや、待ってっ!

私は謎の超巨大生物とかじゃないからっ!

口から有害な火も吐かないし、腕から謎の光線も出さないよ。

建物壊したりもしないから、私の仮称までつけようとしないでっ!

目標〇〇が〇〇の地点で暴走した場合〜とか、具体的な話に突入しないでっ!

ごめんなさいっ!大人しくしますんでっ!


キティが撫でやすいように屈んで頭ヨシヨシしてもらいながら、私は自分の側近の優秀さに1人涙を流した……。






「オイっ!デカ女っ!貴様、またやってくれたなっ!」


今日も今日とて、イキイキと勢い良く私に絡んでくるフリード。

さて、今日は何だってんだ。

内心かなりウンザリしながら立ち止まると、フリードはハァハァ肩で息をしながら追い付いてきた。


どうやら、かなり前から私に声をかけていたらしいが、全く気付かない私に追いつく為必死に走ってきたらしい。

すまんな、足の長さが違うもんで。

こっちは普通に歩いていただけなんだが。


「ご機嫌よう、フリード殿下」


ロイヤルスマイルで振り返ると、フリードは既に真っ赤な顔でブルブル震えながら私を指差していた。


「うるさいっ!しらばっくれやがってっ!

お前っ、ニーナの宝石を盗んだなっ!

自分が俺から何も買ってもらえないからって、俺に可愛がられているニーナに嫉妬するなんて、見下げた奴だっ!」


ギャンギャン捲し立てるフリードに、相変わらずボキャブラリーが貧しいなぁと内心辟易しながら、微笑みは崩さず小首を傾げた。


「まぁ、何の事でしょう?」


宝石?宝石、ねぇ。

それはお前とアマンダの馴染みのあの宝石商から買った宝石か?

純度も加工もイマイチの、所轄二流宝石商だよな?

何であんなのが王宮に出入りできるんだか。

あっ、そうかっ!

お前ら、一流からは相手にされないんだったな。

ほら、どこも一流は相手を選ぶから、お前らじゃ選ばれないんだったな。

ちなみに我が家は一流宝石商から宝石を買ってるから、お前がシャカシャカに買ってやった宝石の何に嫉妬すればいいのか分からん。


ああ、アレか?

私という婚約者がいながら、他の女性に宝石を贈るなんて、キィィィィィッ!許さないっ!

こんな物、こうしてやるっ!的な、物に罪はないのになぁ……みたいなやつ?


オイオイ、冗談は顔だけにしてくれよ。

何で私がそんな事に嫉妬せにゃならん。

マジで言ってんのか、コイツ。

私に一欠片でも好意を寄せられた事があるか?

お前から何も貰った事は無いが、私だってお前に何か贈った事なんかないぞ?

別にお互い様なんだから、そんなもん私が気にする訳がないだろ?


と丁寧に説明してやりたいとこだが、フリード劇場に付き合うと決めた以上、そうもいかない。


とりあえずニコニコ笑って首を傾げるを続行していると、フリードが背にしている教室の入り口から本を片手にシャカシャカが出てきて、おもむろにポーンと何かをフリードに向かってる放り投げた。


「あっ、それ要らないから。

好みじゃないし、物も悪過ぎ」


シャカシャカが放り投げたネックレスを、フリードの側近1が慌ててキャッチする。

デカいだけの品の悪いそのネックレスを見て、私は思わずフッと笑った。


「良かったですわね、見つかって。

では殿下、ご機嫌よう」


そう言ってクルッと背を向け、スタスタ歩き始める私に向かって、フリードが言葉にならない喚き声を上げていた。

大勢の生徒達の前でご苦労さん。

次はもっと鋭い切り口で頼む。





次の日、早速リベンジにやってきたフリードは、今度は私の正面に立ち、ふんぞり返って勝ち誇ったようにこちらを指差していた。


「あら、ご機嫌よう、殿下」


これ、もう録音しといてそれを流すだけで良くない?とか思いつつ、今日もフリードに向かって優雅に微笑む。


「今日こそ貴様の終わりの日だっ!

お前、とうとう一線を超えただろうっ!

俺の寵愛を受けるニーナを憎み、とうとう彼女を害そうとしたなっ!

今日の午前中、ニーナを階段から突き落とし、亡き者にしようとしたろうっ!」


ビシィィッ!と私を指差し、鼻の穴をおっ広げているところ悪いが、それで人を殺したのはそのお前が寵愛しているニーナとやらの方なんだが?

前世での話とはいえ、奴とはその辺まだ決着がついてないからなぁ。

その話題で私を追い込むと言うのなら、それ相応の覚悟は出来てんだろうなぁっ!


優雅な微笑みはそのままに、ゴゴゴゴォッ!と私からの怒りの圧を受け、フリードは側近1と抱き合い、真っ青な顔でガタガタ歯を鳴らしている。

ビビり散らすフリードを助けようと、キティが私の腕に自分の腕を絡ませ私を抑えながら、果敢にもフリードに食ってかかった。


「恐れながら、殿下。シシリア様は今日、候補者全員の応援演説に回っていらっしゃったので、ニーナ嬢にそのような事をする時間などございませんでした。

立候補者16名全ての応援演説です。

移動でさえ秒刻みでしたのに、どうやってそのような事をするのですか?」


キティが毅然と声を上げた事により、周りにいた生徒達も口々にその事について口にする。


「そうよね?その事は事前に公表されていたのに、殿下は知らなかったのかしら?」


「シシリア様は、貴族生徒、一般生徒関係なく、平等に全ての候補者の応援演説をされていよな、俺も全部見に行ったぜ」


「僕も行きました。候補者全員の事をよく把握されていて、本当に驚きましたよ」


「あのスケジュールのどこに、人を階段から突き落とすなんて暇があったのかしら」


「そもそも、シシリア様はそんな方じゃないのに……殿下、あんまりだわ……」


生徒達からのフリードを非難する目と、私を庇護する言葉に、フリードは焦ってキョロキョロ目を泳がせながら、小声で側近2、3に声をかけた。


「おい、本当にこんな方法で上手くいくのか?

だいたい、こんな面倒な事をする必要が本当にあるのか?

俺は王子だぞ?その俺がしたいと言えば、あんなデカ女なんか直ぐに黙らせて、ニーナと婚姻出来るんじゃないか?」


流石に音を上げそうになっているフリードに、側近1、2が慌てて首を振って、小声で返している。


「いえ、遠回りに見えるかもしれませんが、これがニーナ嬢との婚姻を確実にする唯一の道なのです」


「そうです、まずはシシリア様を失墜させなければいけません。

それもなるべく皆の見ている前で」


コショコショと耳打ちされて、フリードはやっとその気になったのか、また私に何か言おうと大きく息を吸った。

その時。


「あっ、シシリア、お疲れ〜〜。

見たよ、演説。面白かったわ」


何処からともなく現れた(普通にA組の教室から出てきただけ)シャカシャカが、気安く私に話しかけてくる。


「あら、ニーナさん。階段から落ちたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」


わざとらしくそう聞いてやると、ニーナはハァ?という顔をしながら、くだらないとでも言うように軽く鼻で笑った。


「アンタら案外仲良いよね?

まだその遊び続けてたんだ」


アホらしと言いながら、シャカシャカは何処かに行ってしまった。

それを慌てて追いかけながら、フリードが縋るように大声でシャカシャカに呼びかけた。


「ニーナッ!待ってくれっ!誤解だっ!

俺とあのデカ女が仲良い訳ないだろっ!

これもみんな、ニーナのっ、俺たちの為なんだよぉぉぉっ!」


情けない声を出しながらシャカシャカを追うフリードを、側近1、2、3が追いかける。


もういい加減見慣れたいつもの光景だ。


フリードのドタバタ劇にシャカシャカも巻き込まれているところが、性格のあまりよろしくない私的には小気味が良い。


フィーネとは違い、フリードの巻き込み体質にはシャカシャカも辟易しているようだが、アイツから(嫌そうな)表情といえるものを引き出しているフリードはなかなかどうして、侮れない。

その調子でどんどん奴を巻き込んでやってくれ。

面白いから。


ケッケッケと笑いながら、私はドタバタ劇団員達を見送った。



その後も、フリードの難癖は続いた。

私がニーナに嫌味を言ったとか、侮辱したとか、水をかぶせたとか、皆の前で貶めたとか。

その度に(勝手に)返り討ちに遭い尻尾を巻いて逃げ出す日々。

そろそろ難癖の勢いも失くなってきたなぁ、と思った私は、緊急である人物達を旧生徒会室に呼び出した。


ここは生徒達は絶対に近付かない上、私が結界を張ってあるので密会には最適。


そこに現れたフリードの側近2、3に、私はニッコリ微笑んだ。


「いつもご苦労様です、貴方達のお陰で私の計画通りに事が運んでいます、が、最近の殿下は少し勢いが足りなくなっているようですが。

何かお困り事ですか?」


お前ら、頼まれた仕事に手を抜いてんじゃねぇだろうな……。

所謂ブラック企業の無言の圧というやつをかけてやると、側近2、3はカタカタ震えながら深く頭を下げた。


「申し訳ありませんっ!シシリア様っ!

やはり殿下は、王子である自分が望めばいつでもニーナ嬢と婚姻出来る筈、小細工は必要ないとのお考えが抜けず……」


「私達から、公爵家の、しかもアロンテン公爵家との婚約を破棄するのはそんなに簡単な事では無い、と再三ご忠言申し上げているのですが……」


2人の話を聞いて、私はう〜むと自分の顎を掴んだ。


ま〜な、あのウマシカにそんな難しい事情は理解出来んか。

何せ、王家が気を使わなければいけない存在など無い、と思い込んでいるからな。

だが王家とはあくまでこの国の統治者、代表のようなものだ。

自領を持つ領主でもある貴族にとって、王家に忠誠を誓う云々は国を円滑に運営する為のパフォーマンスであって、貴族達に王家が忠誠を誓うに値しないと判断されれば、その地位を脅かされかねない。

それは王家とて、他の貴族と変わらないのだ。


で、もし王家が貴族達に見放され場合、次に王権を握るのが我がアロンテン家になる。

うちの爺様は前王の弟だからな。

その資格を十分に有している、という訳だ。


そのアロンテン家の令嬢である私を、理由もなくフリード側からただ婚約破棄してみろ?

王家への抗議が殺到するのは目に見えている。


だからこそ、側近2、3はまず私を失墜させ、婚約破棄に足る理由を作り上げなければ、ニーナとの婚姻は無理だと言っているのだが。


残念な脳の持ち主であるあのウマシカには伝わり切らなかったようだ。


「では、ニーナさんがお望みになっていると囁いてみて下さい。

ニーナさんは公爵家という地位を利用し、嫌がるフリード殿下の婚約者の座に座り続ける私が許せないと言っている。

貴族位では無く、己自身でフリード殿下に愛される努力もしない私に、何とか一矢報いたいと思っている、と言ってやれば、フリード殿下は喜んで私を引き摺り下ろす努力をする筈です」


ニッコリ微笑んでやると、側近2、3はなるほど〜と頷いている。


コイツらも所詮は伯爵家のお坊ちゃま。

人を裏で己の意のままに操る方法など、思い付きもしないのだろう。

まぁいくらお坊ちゃまとはいえ、高位貴族であるのにそんな風に呑気な原因は、自分達が各家の嫡子では無いからだろうな。


とはいえ、フリード1人御しきれないようでは、それぞれの家の名が廃れるってもんだ。

これを機に、この2人には伯爵家の令息としての覚悟と責任をとことん自覚してもらおう。


まっ、お前らの家からの許可は得てるんで、我がブラック企業の元で王家の人間に仕えるとはどういう事か、徹底的に教え込んでやろう。

クックックックッ。


不穏な私の笑い声に、2人は抱き合ってただ震えているが、今の私の心情を二重三重に探るぐらいじゃないと生き残っていけないぞ。


さて、目の前に垂らされた蜘蛛の糸に、コイツらが気付けるか、それをどう掴むか。

楽しく見学させてもらうとしよう………クケッケッケッケッ(笑い方が魔物のそれ)。






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