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EP.214


私達は学園の鍛錬上に移動して、正式にユランとダニエルの決闘を行う事にした。

何かあった時にはゲオルグが2人の間に入り、決闘を中断させる取り決めをして、決闘にかけるお互いの要望を聞く事にする。


「それじゃあ、決闘に勝ったら、貴方はダニエルに何を望むの、ユラン」


私の問いに、ユランはギッとダニエルを睨み、ハッキリと言った。


「僕が勝ったら、金輪際フィリナ・ドナクルに近付かないと誓ってもらうっ!」


ダニエルを真っ直ぐに見つめ、ユランがそう言うと、ダニエルはまさか自分が目の前の美少女にしか見えないショタに負ける訳が無いと思っているのか、口角を上げて余裕で答えた。


「受けようっ!」


見た目だけは騎士らしく、キリッとキメ顔でダニエルがそう言うと、まぁまぁそれらしくは見える。

いつの間にか集まってきていたギャラリーの中から、主に騎士科の生徒達がワァァァァッと歓声を上げた。

まぁ、中にはアイツ死んだな……っという同情の目でダニエルを見ている奴もいるが。

ユランの実力は、知っている者なら既に知っている。

理由は様々だが、その愛らしい見た目にマジ惚れしてしつこくいい寄り、ボッコンボッコンに返り討ちにあった男も少なくはない。


「では、ダニエル、貴方は何を望むの?」


私の問いに、ダニエルは嬉々として口を開いた。


「まずっ、俺とフィリナについて口を挟むなら、もっと条件の良い令嬢との縁談を紹介する事っ!

それが駄目なら、もうフィリナとの事に何も言わない事。

それから、アルケミス近衛副団長に俺を紹介して、次年度の新近衛騎士に入れて欲しいっ!

あと、俺がアルケミス家の人間に決闘で勝利した事を周りに公言する許可もっ!」


多い多い、多いなぁっ!

決闘で得られる要望を、そんなに並び立てる奴初めて見たわ。

これには流石にギャラリーからブーイングが起きているが、ダニエルは一切気にしていない様子だ。


そりゃ、ユランみたいな高位貴族から決闘を申し込まれるなど、普通はあり得ない事だからな。

そもそもが、ハナから相手にされないのが当たり前だからだ。

ダニエルのような人間から見れば、これは棚からぼた餅的にラッキーで、最大のチャンスだ。

決闘の条件を反故にする事は紳士として面目が立たなくなるので、ここで言いたいだけ言っておけば、高位貴族であるユランなら必ず言われた通りにすると踏んだのだろう。


ダニエルの欲深さにギャラリーがブーブー言っていると、それを掻き消すようなユランの凛とした声が響いた。


「受けようっ!」


全く動じていないその姿に、ギャラリーから歓声が上がった。


まぁ、相手の要望などあって無いものと思っているのはユランも同じ事。

お互いが、万が一にも自分が負ける事は無いと思っているからこそ、決闘だというのに独特のピリピリとした空気が流れない。

ダニエルなど、どうやってユランに大きな傷を負わさず勝つか、とブツブツ言いながらシュミレーションしているくらいだ。


………そんな事より、自分の心配しといた方が身の為なのだが……。


「お互いの要望を両者が受けた事により、ここに決闘が成立した事を宣言します。

決闘の条件は学園の規則に則り、木刀と己の体のみで戦う事。

魔法及び、剣や刀等の刃物は禁止とし、それらを使用した者は直ちに失格、相手の勝利とします。

重大な事故に繋がりそうな場合は直ちに決闘を中断、後日、再度決闘の申し込みをしてもらいます。

では、両者、準備は良いですか?」


チラッチラッと2人にそれぞれ視線を送ると、ダニエルは気合い十分に頷き、ユランは至って冷静に頷いた。


「では、両者見合って、構えっ!決闘開始っ!」


私の掛け声と共に、フッとユランの姿が消えた。

何が起こったのか理解出来ず、ダニエルが呆然としながら目をパチクリさせた、たったそれだけの短い間に、ユランは既にダニエルの脇腹に滑り込みドゴッとその脇腹を強く打ち抜いた。


「オガグェッ!!」


ユランの一撃に呻き声を上げながら、ピューンと天高くぶっ飛んでいくダニエル。


ちなみに、実はさっきのユランの突きは、一撃では無く三撃入っていたのだが、動きが速すぎて誰の目にも一撃にしか見えなかっただろう。


いくら近衛騎士科とはいえ、まだ騎士でも兵士でも無い生徒相手にユランがここまでするとは思っていなかったので、若干頭痛を感じつつ、吹っ飛んでいったダニエルをゲオルグが空中で無事キャッチして、スタッと着地するのを見届けてから、私はスッとユランを手で指した。


「勝者、ユラン・アルケミスッ!」


私の宣言に、当然ギャラリー席はワァァァァッと沸き立つ……とはいかなかった。

あまりにも早い勝敗結果に、皆がザワザワと不審げにユランを見ている。



「……えっ?今の、なに?」


「速すぎて見えなかったんだけど……魔法?」


「魔法って、禁止されてたんじゃ……」


「嘘……アルケミス家の人間が、不正……」



皆が口々にユランへの不審を露わにしている。

いやいや、そりゃそうなるって。

もっとこう、何度か打ち合ってから吹っ飛ばすとか、やり方あったと思うよ?

まったく、仕方ないショタだなぁ。


私がスッと手を上げると、エリーが念の為用意していた魔力探知機を頭上に上げる。

当たり前だが、数値はゼロのまま、1ミリも動いていない。

それを見たギャラリーが一瞬息を呑んだ後、ワァァァァッと歓声を上げた。



「す、すげーーっ!今のっ、剣技のみでっ!?」


「どんな身体能力だよっ!強過ぎだろっ!」


「流石アルケミス家の令息っ!格が違うっ!」


「やだっ、可愛いだけじゃなくて、あんなに勇ましいだなんてっ!

ユラン様〜〜っ!こっち向いて〜〜っ!」



一気に騒めき出すギャラリーなど目に入らないかのように、ユランはキラキラとした笑顔でフィリナ嬢の方へ振り返った。


「ワカメおん」


「ダニエル様っ!」


だが、ゲオルグの抱えているダニエルの元へと、一直線に駆け出していくフィリナ嬢。


「な………?」


それを呆然と見つめながら、ユランが浮かべていた笑顔を情けなく歪めた。


ゲオルグがダニエルを地面に下ろすと、フィリナ嬢より先に駆け出し水魔法で独自のポーションを生成していたリゼが、素早くダニエルの治療にあたっているところだった。


「これで応急処置は出来ましたから、すぐに教会に運び、治癒魔法を施してもらいましょう」


リゼの言葉にゲオルグが黙って頷いている。


大袈裟だなぁ……。

ユランだって、咄嗟に手加減してるだろ?

肋骨の2,3本くらいで、そんな……。


「肋骨が大量に折れて、肺に刺さっている状態です、痛みはとってありますから、早く教会に」


してないねぇっ!手加減っ!

リゼの言葉に驚いて、バッとユランを振り返ると、ユランは心配そうにダニエルの顔を覗き込むフィリナ嬢の横顔を見つめていた……。


今にも泣きそうな顔で……。


「ユラン………」


思わず声を掛けると、ユランは手に持っていた木刀を力無くカランッと地面に落とし、泣きそうな顔で無理に笑いながら、静かに頭を下げて、トボトボとその場から去っていってしまった………。


かける言葉も無く、その小さな背中を見送る。

魂が抜けたように、フラフラと歩くユランは、今にも風に飛ばされてしまいそうなほど儚かった。


「エリク、お願い……」


ボソッとそう言うと、どこからともなくエリクが現れ、私に一礼したのちユランの後を追い、その体を支えて歩いて行く。


私はそれを見送ってから、皆が囲んでいるダニエルの所に向かった。



「ダニエル様、大丈夫ですか?」


リゼの治癒魔法で意識を取り戻したダニエルは、薄っすらと目を開け、自分を心配そうに覗き込むフィリナ嬢に嬉しそうに笑った。


「……フィリナ……やっぱり俺を、選んでくれるん、だね……」


フッとイケメンっぽく笑うダニエルに、フィリナ嬢は不思議そうに口を開く。


「はっ?選びませんよ」


ハッキリとしたフィリナ嬢の言葉に、ダニエルは間の抜けた顔で、は?と小さな声を漏らした。


「決闘前に、ユラン君が言ってたじゃないですか?

ダニエル様が決闘に負けたら、私には金輪際近付くなって。

だから私も、金輪際ダニエル様には近付きません。

なんか凄い大怪我をしてるようだったので、心配で駆け寄りましたが、教会の治癒を受けられるなら大丈夫そうですね。良かったです。

では、ダニエル様、ご機嫌よう」


フィリナ嬢はにこやかにそう言うと、サッサと立ち上がった。


「ま、待ってよ、フィリナ……そんなっ、嘘だろっ!」


焦ったようにフィリナ嬢に向かって手を伸ばすダニエルに、フィリナ嬢はやはりニッコリと微笑む。


「はい、嘘ではありません。

私にとって、推しの言う事が全てっ!正義なんですっ!

それではっ!」


じゃっと手を上げ、フィリナ嬢は颯爽とその場から駆け出す。


「あれ?ユランく〜〜んっ!ユラン君、どこですか〜〜?」


ユランを探してあっという間に鍛錬場から姿を消したフィリナ嬢に、ダニエルがブルブルと震えながら、ボロボロ涙を流した。


「そんなぁ〜〜フィリナ〜〜」


未練ったらしくフィリナ嬢の名を呼ぶダニエルに、同情しないでも無い。

なんか、巻き込まれてボコボコにされた当て馬感がハンパ無い……。


ごめんな、うちのおねショタが迷惑かけて……。

特別にミゲルの治癒が受けられるようにしとくから、勘弁してやってくれ。


思わず手を合わせ、ナ〜ム〜っと呟く私の脇腹をキティが肘で突いて止める。


「弔わないのっ」


小声で諌められて、すまんすまんと頭を掻く。



しかしぃ、あの2人、この後大丈夫かなぁ?

まぁ、推しがカッコよく勝った瞬間、キャーーユランく〜〜んっ、私の為に勝ってくれてありがとうっ!なんて飛び付くフィリナ嬢では無く、相手が誰であろうと怪我をした方を心配して駆け寄るようなフィリナ嬢だからこそ、ユランが惚れたのだろうけど。

あのタイミングでは、ユランが傷付くのも無理は無いよなぁ……。


男同士の正式な決闘だったんだから、敗者は例え命を失っていても文句は言えないのだが、その辺の精神論はご令嬢方には理解出来ないだろうし。

いや、そんな事にならない為に、学園内での決闘では木刀を使用する訳だが……。

ユランには意味なかったな。

確実に命狙って、的確に肋骨折ってあったもんな。


まったく、その辺はまだまだガキだな〜〜。

いや、見た目だけの話では無く。

ユランにはもっと精神力鍛える特別メニューが必要そうだ。

よし、早速明日から追加しよう。


放心状態のダニエルが教会に運ばれて行くのを眺めながら、私はユラン特別メニューのプランをアレコレ頭の中で練っていた。








「ちょっと、また余計な事したわね?」


放課後、王宮のエリオットの執務室に乗り込むと、開口一番にそう言った私の言葉に、エリオットはちょっと拗ねたように口を尖らせた。


そのエリオットの頬をつねり上げながら、私は至近距離でエリオットを睨み付ける。


「なんで工作員のアフターフォローを止めたのよ。

あんな中途半端な仕事、アンタんとこの工作員がする訳ないわよね?」


そう言ってますます強く頬をつねり上げると、エリオットは痛みに涙を浮かべながら、それでも納得のいかない顔をしている。


「あのふぇ、ふぉくはぁ〜〜」


頬をつねり上げたままだと何を言っているのか分からないので、パッと手を離してやると、エリオットはつねられた頬を撫でながら、不満気に口を開いた。


「あのね、僕は好きな女性に対して、海藻に喩えたり、バカとかブスとか言っちゃうユラン君を認めたくないんだよ。

そりゃ、精神年齢が本当に低い残念な子ならまだしも、ユラン君は違うでしょ?

好きな女性を尊び、大事に出来ないユラン君には、多少のお仕置きがあっても良いと思うな」


珍しく厳しい顔で真面目にそう言うエリオットに、ちょっと息を呑みつつ、何だ、唯の解釈違いか、と納得した。


「あのねぇ、アレはそういうんじゃないの。

おねショタのショタのツンデレは様式美なのよ。

むしろそれが無けりゃ、おねショタじゃ無いじゃない」


ふふんっと胸を逸らす私に、エリオットはまだ納得のいかない顔で、ふ〜むと首を傾げている。


「それでも僕は、好きな女性にあんな物言いをする事は感心出来ないけどね……。

それより、ねぇ、リア。

ユラン君とフィリナ嬢は正しくはショタおねなんじゃ無いの?」


急なエリオットの質問に、はぁ?と首を傾げる。

その私に、エリオットは首を捻りながら、説明を始めた。


「だから、ユラン君がツンデレなら、男女カプにおける男性側ツンデレは攻めであるべきじゃない?

つまり、ユラン君攻めのフィリナ嬢受け。

ショタ×お姉さんで、ショタおね。

おねショタだと、無垢で純真な何も知らないショタにお姉さんが全部教えてア・ゲ・ル、となる訳で、これだと2人のキャラに合わない。

僕なら、ユラフィリはショタおねを推すけどなぁ」


エリオットの思わぬ考察に、私はハッとして、そのエリオットをまじまじと見つめた。


「……確かに、アンタの言う通りだわ。

私は今までショタとお姉さんの組み合わせを総じておねショタと呼んでたけど……。

そんなに浅い世界では無かったわね。

ユランがフィリナに対してツンデレである以上、攻めはユランであるべきよ。

なら、ショタおねと呼ぶ方がしっくりくる……。

………エリオット、アンタ、やるわね……」


ニヤリと笑うと、エリオットもニヤリと笑い返してきた。


「まぁね、伊達にマリーちゃんにコピーを貸し出してはいないからね。

コピーが得た知識は僕の知識……。

今の僕に、マリーちゃん界隈の会話で分からない事は存在しないよ」


歴戦の戦士のようなエリオットの表情に、私はフッと笑い、静かにエリオットに片手を差し出した。


「アンタとは話が合いそうだわ……」


「光栄だよ、リア……」


そしてガッチリ握手する私達。

私とマリー、そしてキティの創り出した虹の世界に、新たな住人が生まれたその瞬間であった……。



「あっ、ところで……」


急に思い付いたように、エリオットがパチンと指を鳴らすと、目の前でエリオットがポンッと小さくなった。

その見た目年齢、推定7歳。


「ぼくはリアとなら、おねショタ希望だな」


エヘっと可愛く首を傾げるショタエリオット。

その見た目の破壊力に、私はグハァッと血を吐いた。


「ハァハァ……そ、そうなの………?

お、おねーたまに、色々教えて欲しいのね……?」


口の端の血を手の甲で拭いながら、荒い鼻息でにじり寄る私を、ショタエリオットは大きな瞳に涙を溜めて見上げている。


「……色々って、なぁに?リアおねーたまぁ」


変声期前の甘い鼻声に、ブフォッと咽せながら、ガシッとその体を捕まえて、エヘエヘと焦点の合わない目で笑う。


「色々は色々でちゅよ……。

さっ、あっちでおねーたまのお膝の上でおやつを食べましょ〜ね」


エヘラエヘラ笑いながら、ショタエリオットをヒョイと抱き上げ、おやつの用意されたテーブルへと連れて行く。


私の胸に抱き潰されたショタエリオットが、ニヤァリといやらしい笑いを浮かべている事には気付かないまま………。




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