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EP.213


「ふ、ふ、ふざけんなーーーーーーーーっ!

このっ!馬鹿ワカメーーーーーーーーっっ!!!」


ユランの怒声にフィリナ嬢は咄嗟に耳を塞ぎ、婚約者(?)の男は目をパチクリしているが、そんな事お構いなしにユランはフィリナ嬢に詰め寄った。


「馬鹿かっ!?馬鹿なんだなっ?お前はっ!

自分を裏切った男をあっさり許してどうするんだよっ!

こんな奴、どうせまた同じ事するぞっ!

それでいいのかよっ!」


キャンキャン言っているユランに、フィリナ嬢はアワアワしながらとにかくユランを落ち着かせようと手を上げた、瞬間、そのユランとフィリナ嬢の間にダニエル何某が割って入る。


「ちょっ、ちょっと君、君一体なんなの?

これは俺らの問題だし、俺はフィリナを裏切ったんじゃなくて、悪い女に騙されただけなんだ。

フィリナが良いって言ってるんだから、君には関係ないでしょ?」


ユランを諭すようにそう言うと、ダニエル何某はフィリナ嬢に向かって小声で聞いた。


「この子、君のなんなの?

中等部の子だよね?え?女子?男子?

男子の制服を着た女子?

………あれ?何で高等部の制服を着てるの?」


ダニエル何某の言葉に、ユランの顔色がスゥッと赤から白へと変化していく……。


あっ、ヤバーーーい。

近衛騎士科の生徒なら、私達高等部の生徒会の顔を知らなくても、まぁ、仕方ないかもしれないが………。

いや、お前、でも近衛騎士科だよね?

それでユランを知らないとか……本気で言ってんのか?


真っ白な顔でプルプル震えるユラン。

流石に本気でヤバいと、私達覗き見組は顔を見合わせ頷き合い、バサっと木の葉を巻き上げながら、隠れていた木の影から飛び出した。


「ユラン、一旦落ち着きなさい」


私の声に振り返ったユランの額に浮かぶ青筋の数に、マジで一瞬遅かったらヤバかった事を悟る。


あ〜〜、あかんあかん、待て待て待て。

殺すなよ〜〜、まだ殺るなよ。


「えー、コホン、話は聞かせてもらったわ」


ユランの異様な殺気に冷や汗を流しつつ、私はさり気なくダニエル何某をフィリナ嬢から引き離した。


ダニエル何某は私の顔を見ると、ハッとして胸の前に手を置き、頭を下げる。


「申し訳無いけど、それは学園内では不要よ」


呆れつつ声を掛けると、ダニエル何某は恐る恐る顔を上げると、私とキティ、それにリゼの顔を代わる代わる見て、私越しにヒョイとフィリナ嬢を嬉しそうに見つめた。


「この方々とお知り合いなのかい?

流石、俺のフィリナッ!

唯の子爵家令嬢では無いと思っていたよ」


ふふふんっと鼻高々に笑う男に、ユランの怒りゲージがそろそろ限界だ。

私は慌ててダニエル何某に話しかけた。


「貴方、先日フィリナ嬢と婚約破棄された方よね、確か名前は……」


「はいっ!ダニエル・レントですっ!

家は子爵家、近衛騎士科3年ですっ!

どうか以後お見知りおきを、アロンテン公爵れ………いえ、アロンテン生徒会長っ!」


何だ、生徒会の存在は知っていたのか。

なら何故ユランの存在を知らないんだ?


小さく首を傾げながら、私はダニエルに向かって再び口を開いた。


「お見知りおきする気は無くてよ。

それで、貴方何の用でフィリナ嬢と、我が生徒会役員であるユランの昼食の邪魔をしにきたの?」


邪魔なのはお前の方だよ〜〜っとハッキリ教えてやると、ダニエルは両手を胸の前で開いて、いやいやと頭を振った。


「いや、違います。俺とフィリナの話にこの子が横から………って!?生徒会役員っ!」


若干のタイムラグを発生させつつ、ダニエルは驚いてユランの顔をマジマジと見つめた。


「ええ、彼は高等部2年、ユラン・アルケミス。

次期生徒会長に決まってるのだけど、知らなかったの?」


ハァッと溜息をつきつつそう言うと、ダニエルの表情がピシッと固まった。


「ア、ア、アルケミスって、あのアルケミス伯爵家ですかっ!?」


ややして素っ頓狂な声を上げるダニエルに、私は呆れて頷いた。

そうだぞ、あのアルケミス伯爵家だぞ。

生粋の騎士家系であり、皆がそれぞれ軍務の要職についているアルケミス家、の、当主の息子。

それがユランだぞ?

ちなみに父親は軍務大臣補佐で、叔父は近衛騎士団副団長なんだけど、マジで知らなかったのか?

いくらユランが次男だとはいえ、近衛騎士を目指す奴が知らないとか、お前よくこの学園の近衛騎士科に入れたな。

あのアルケミス家の令息が学園に在籍していると、騎士を目指す生徒達の間では評判の筈なんだけどなぁ。


間が抜けているというか、何というか。

確かに、フィリナ嬢の言う通り、他力本願な上昇志向の持ち主ってところだな。

自分では何もリサーチせず、基本全て人任せでやってきたのだろう。

その証拠に、今も私越しにヒョコッとフィリナ嬢に、何で教えてくれなかったの?と小声で責めるような言い方をしている。


ウゼーなぁ。

私はスッと体勢を変えると、完全にフィリナ嬢を背で隠し、ダニエルの前に立ちはだかった。

いつの間にかユランも私の隣に立ち、ダニエルからフィリナ嬢を隠している。


そのユランにダニエルはバツが悪そうな顔でへへっと笑うと、媚びるように両手を揉んだ。


「……あの、学園内では貴族位の貴賎はありませんよね?

あっ、お顔を存じ上げなかったのは本当に申し訳ありませんっ!

ですが、俺達、あっ、僕達近衞騎士科は敷地も違いますし、交流も殆どありませんし、仕方無いですよね?

いやまさか、あのアルケミス伯爵家のご子息がそんな愛らしい見た目で、中等部の女生徒のような方だとは、誰も思いませんよ。

騎士科に居られないという事は、やっぱりアレですか?

荒事はお得意じゃ無い感じで?

アルケミス家にそんなご子息居たんですね〜。

皆さん、騎士として身を立ててらっしゃるとばかり思っていましたっ!」


アハハハハハ〜〜とボリボリ頭を掻きながら、1人空笑いするダニエルを、ユランは黙ってジッと見ている。

………虫ケラを見る目で。


良かったな、お前っ!

超レアだぞっ!

ユランは育ちが良いから、基本誰にでも丁寧な対応で本心は表に出さないのに、お前には何も取り繕わないなんて、ある意味認められてる証拠だってっ!

なっ!やったじゃんっ!おめでとうっ!

だから泣くなって。

ユランの気迫でチビりそうになりながら、泣くなって。

どんまいっ!


私の(心の中での)激励も及ばず、ダニエルはユランの気迫に押され、スーッと目を逸らすとシクシク泣きながらプルプル震えている。



「それで?確認ですが、貴方は他の女性を選び、ワカメ……フィリナ嬢との婚約を白紙にしたいと言っておいて、その女性に捨てられた途端、またフィリナ嬢に婚約を申し込んできた、という事でよろしいですか?」


カッとユランの目が見開き、ビカッと黒く光る。

ますます怒りで気迫を増したユランに、ダニエルはガタガタと足を震わせた。


「ま、ま、待って下さい……。

お、俺は、いや、僕はですね、だから、騙されたんですっ!

被害者なんですよっ!

だから、フィリナと元サヤに戻るのは当たり前でしょ?

そりゃ、最初はフィリナより条件が良くて、しかも美人だったから、そっちを選びましたが。

でもそれって、普通の事じゃないですかっ!?

貴族同士の婚約なんて、より良い条件の相手をいかに見つけるか、でしょっ?

まぁ結局、騙されていただけでしたけど……。

それなら当初の予定通り、フィリナと婚約し直したいだけなんです、お、僕は。

しかもフィリナがこんなに美人だったと知っていれば、俺だっ、僕だって最初からあんな女を選びませんでしたしっ!

最初から身なりを整えてくれていなかった、フィリナにも責任があると思いませんかっ?」


まるで同情を買うように憐れっぽい声色で訴えてくるダニエル。

私達には1ミリも賛同など得られないが、何故かフィリナ嬢は自分の顎を掴み、ふむ、確かに、とでも言いたげに頷いている。

そのフィリナ嬢の肩を、キティとリゼが慌てて掴んで、ブンブン必死に首を横に振る。

ダニエルの主張に1番納得しちゃいけない人が、何故か納得しかけてしまっているカオス……。

フィリナ嬢……お願いだから、ちょっとノーリアクションでいて欲しい………。


懇願するようにチラッと後ろを見ると、キティとリゼが任せろとばかりに頷いて、ピシッと隙間なくフィリナ嬢の左右に座った。

更に腕に腕を巻き付けて、両腕を拘束してくれている。


すまん、悪いがそのまま固めといてくれ。


心強い2人にフィリナ嬢は一旦任せ、私はダニエルに向き直った。


「貴方にとってフィリナ嬢が、都合の良い相手でしか無い事はよく分かりました。

ですがフィリナ嬢は、私にとって大事な学友でありお友達です。

貴方のような男性に、再びフィリナ嬢を差し出す気には到底なれませんね」


ギラリと睨み付けると、ダニエルはヒィィッと固まったが、すぐにパァァァァッと破顔した。


「そうですっ!それですっ!

フィリナが貴女のような高貴なご身分の方と親しかったなんて、知らなかったんです。

フィリナも教えてくれれば良かったのにっ!

アロンテン公爵家のご令嬢に、ローズ侯爵家のご令嬢っ!

お二人とも王子殿下のご婚約者ですよねっ!?

それに、アロンテン公子様とご婚約なさったばかりのスカイヴォード伯爵家のご令嬢までっ!

そんな人脈を俺に隠していたフィリナが悪いですって、どう考えてもっ!

知っていれば、俺は絶対にフィリナを離しはしなかったっ!」


キラーンと白い歯を輝かせ、最後なんかカッコ良さげにキメ顔をしてみせるダニエル。

その顔面を凹む程殴りたい衝動に駆られ、拳をプルプル震わせていると、私の隣で拳どころか全身プルプル震わせているユランから、聞いた事も無いような、地を這うような低い声が漏れた。


「……さっきから……黙って聞いていれば、フィリナフィリナと気安く………」


ギリギリと奥歯を噛み締める音と、ユランの真っ黒な表情に、私はヒィィィィィッと数センチ飛び上がってしまった………。

ショタがっ!私のショタがっ!

般若の化身にっ!


ユランはゆっくりと制服のポケットに手を差し込むと、そこから真っ白なハンカチを取り出し、バシッとダニエルの顔に投げ付けた。


驚いて目をパチクリさせているダニエルに、ユランは冷徹な声で告げる。


「近衛騎士科なら、この意味が分かるでしょう」


ダニエルはユランに投げつけられたハンカチを拾い、まさかっ、といった顔でまじまじとユランの顔を見つめた。


「えっ?まさか、決闘の申し込み、ですか……?」


本来なら、手袋を投げ付けるのだが、持ち合わせていなかったのだろう。

仕方無くユランが代用したハンカチだが、公式にでは無いが、実は女性同士のキャットファイトの合図にも使われたりする……。

まぁ、男のいないところで繰り広げられるやり取りなので、ユランもダニエルも知らないのだろう。

手袋の代用だとダニエルに通じて良かった良かった。

また女の子らしいやり方ですね、とか何とかダニエルが口にしていれば、決闘など待たずして、ダニエルは明日の日の出を拝めてはいなかっただろう。


呆然として投げ付けられたハンカチをまじまじと見つめていたダニエルだが、ややしてハッとすると、慌てたように両手をブンブンと振った。


「いやいやいやっ、無理ですよ、無理無理っ!

アルケミス家のご令息に怪我でもさせたら、俺マジで終わるじゃんっ!」


勝手に焦ってアワアワ言っているダニエルに、ビキィッとユランの額にぶっとい青筋が立った。


………まぁ、終わるっちゃ〜終わるんだけど………。

お前がユランに傷を負わせられるかどうかは別にして。



「いいわ、その決闘、私、シシリア・フォン・アロンテンが見届け人になりましょう。

今この時より、この決闘においての身分や家格を排除致します。

決闘の形式に則って、お互いの怪我について後に責められる事はありません。

我がアロンテン家の名において、この決闘を公正無私に執り行う事を誓います」


私が片手を上げ、そう誓うと、ダニエルはホッとしたような顔をした。

まぁ、決闘の手袋は、ハッキリ言って投げた者勝ちだ。

相手が自分より身分が上だと、これ程厄介な事は無い。

場合によっては、おいそれと勝つ事さえ出来ないのだから。

この場で家格的に言えば、1番身分が高いのは私になるので(個人的には、第二王子の婚約者であるキティだが)その私がこの決闘の見届け人になる事で、どちらも後から異議など口に出来なくなるだろう。


「さて、この決闘で使用出来るものは木刀のみとします。

魔法は一切禁止、刀や剣も禁止よ、ユラン」


ひっそりと空間魔法から自分の愛刀を引き出そうとしていたユランは、その私の言葉にギクリと体を揺らした。


ユランの愛刀、菊一文字則宗はヴィクトールさん自らが打った、業物中の業物。

その菊一文字則宗の刀のサビにするには、ダニエルでは役者不足が過ぎる。

ってか、学園での決闘は木刀でって決まってるでしょ?

真剣を使おうとすなっ!

斬って捨てる気満々じゃねーかっ!


まったくも〜っと横目でユランを睨み付けると、可愛くキュルンと小首を傾げられてしまい、私は胸を押さえてウッと呻いた。


ちくしょう……あざと可愛さをここで使ってきやがった。

が、ダメなもんはダメだ。


私の魔法で空間魔法を強制的に閉じられたユランは、プク〜ッと頬を膨らませ、唇を尖らせながら下を向く。


あっ、ちょっ、ちょっとヤメテ……。

そんな可愛く拗ねられたら、ウッカリ許可しちゃいそうになるでしょっ!

公正無私って言葉の意味知ってる?

ちょこちょこ小技使って私を操ろうとするのやめなさいっ!

どんな手を使おうと、真剣の使用は禁止ですっ!


フンっと鼻息荒くユランを睨むと、やっと諦めたのか、テヘッと可愛く小さな舌を覗かせる。

だからっ!それをやめなさいってっ!



「フィリナ様っ!しっかりして下さいっ!」


リゼの慌てた声に後ろを振り返ると、フィリナ嬢が鼻血をブハァッと吹き出して後ろに仰け反っていた。


間近でユランのあざと可愛いをモロに食らったせいだろう。

ダラダラと鼻血を流しながらも、幸せそうなフィリナ嬢。


キティがハンカチで鼻血を拭っている間に、リゼが治癒魔法をかけている。

光属性ほどでは無いが、実は水属性は治癒魔法と相性が良い。

リゼの水属性での治癒魔法はかなりのレベルで、貴重な光属性の人材がなかなかいないギルド内では、もの凄く重宝している。


えっ?

お前も水属性もってるだろって?

うんまぁ、そこは……アレかな?

本人の資質というか……私は全属性、攻撃能力に全フリしているというか……。

ぶっちゃけ、怪我ぐらい唾つけとけば治るだろって思ってるからっ!

回復は得意だが、治癒は知らんっ!

私とパーティ組むなら、その辺は自己責任で、各々適当によろしくっ!


って訳で、そこのアナタ、私と一狩り行ってみないっ!?

自己責任で、ねっ!





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