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EP.200


一先ず、ビーストマスターと瀕死のコカトリスをローズ領の砦に連れ帰り、治癒師達に応急処置だけしてもらう。

ちゃんとした治癒はやはり、教会の治癒師じゃないと無理だと言われたが、流石魔獣、自己治癒力が高いのか、それだけでもかなり回復してきていた。


ビーストマスターについては、皆を驚かさないよう黒いフード付きの外套を与えて来て貰ってる、が、エリクエリーがヒョイヒョイ外套を捲って肩と脇腹にいる子供達にも構うので、最初は驚いていたローズ領の兵士達も、勝手に名前をつけて可愛がるようになってしまった……。


流石、ローズの爺様の部下達。

肝っ玉が座ってる上に、色々と雑。

これが他の領だったら、化け物扱いされて領地内にも入れてもらえていない筈だ。


「リア、ローズ閣下と相談したんだけどね。

彼らはこのままローズ領に預かってもらって、教会の神官と宮廷の魔術師達にこちらに来てもらう事にしようと思うんだけど、どうかな?」


エリオットとローズの爺様の提案に、私もそれが最善策だろうなと頷いた。


「ただ、そうなると、エリクくんとエリーちゃんにもこっちに残ってもらう事になるから、リアにその許可を貰いたいんだ」


エリオットがそう言って、兵士達とキャッキャッ言いながらビーストマスターとコカトリスと戯れるエリクエリーを見た。


うん、取り敢えず、投げたボールをコカトリスに拾いに行かせて遊ぶのは止めようか?

そいつまだ傷口完全には塞がってないからね?


「いいわよ、エリクとエリーだってそうしたい筈だから。

私が許可しないとそう出来ないものね。

ローズの爺様、あの子達の事よろしくね。

落ち着いたら迎えに来るから」


私の言葉に、ローズの爺様はガッハッハッと大口を開けて笑った。


「急に可愛い子供が増えたなぁ。

この砦も楽しくなりそうだ、兵達も喜ぶわい」


エリクエリーはまだしも、コカトリスとビーストマスターまで可愛い子供と表現する辺りが、爺様の雑さを物語っている……。

トップがこんなだから、下の人間も大らかなんだなぁ。

キャッキャッ楽しそうにエリクエリー達と遊んでいる兵達を、私は目を細めて見つめた。


……色々、自由だなぁ、ローズ辺境伯領………。



その後、ローズの爺様の提案で、結界の外にいたビーストマスターの魔獣や魔物までローズ領に迎え入れる事になった。

ローズの爺様にひと睨みされた魔獣達は、くぅぅんと大人しく爺様に従い、良い子でぶっとい鎖に繋がれた。


……いや、アンタがビーストマスターやないですか、それ。


と、ツッコみたいのを我慢しつつ、何とか事態が収まった事に胸を撫で下ろした。


当初の目的通り、サイモンの弟ジェイズは捕縛出来たし、悩みの種だったビーストマスターも北から奪えた。

蓋を開けてみればかなりの大収穫だった訳で。


ジェイズには色々と聞きたい事があるので、連れ帰って厳しい尋問をする必要がある。

それにはサイモンも加わってくれるらしい。

ジェイズを確実に押さえられる事が判明しているサイモンがいれば、万が一に逃げられる心配も無いからだ。


「それにしても、どうしてジェイズは自分の実力がサイモンより上だと思い込んでいたの?」


ふと疑問が浮かんだ私に、サイモンは困ったように眉を寄せた。


「アイツは自分の力を驕って見ていましたからね。

出世欲も無く、派手に魔法を使おうとしない私の力を見誤っていたのでしょう。

幼い頃から私に魔法で勝てなかった事など、頭からすっかり消し去ってしまっていたようですね………。

全く、アイツの思い込みには昔から手を焼かされます」


ハァッと深い溜息をつくサイモンに、流石に同情を禁じ得なかった。

自分の都合の良いように思い込みだけで行動する身内がいると、そりゃ苦労するよなぁ。

そもそも、大型転移魔法を己の力のみで成し遂げるサイモンが、転移先に同等の大量な魔力を必要とするジェイズより力が下な訳が無い。


誰にでも分かりそうな簡単な話さえ、自分にのみ都合良く働くオツムには理解出来ていなかったんだなぁ。

つくづく残念な奴だ、ジェイズ。



「さて、僕らもいい加減王都に戻ろう。

随分長く王都を空けてしまったからね」


ニッコリ笑うエリオット。

そういえば、確かに2週間以上王都を空けてしまっている。

そろそろ戻ってエドワルド捜索に加わらないとな。


私達は王都に帰る準備に入った。

ちなみにジャンは、あと1週間程ローズ領に残りたいと我儘を言っているので、私達と入れ替わりにこちらに来る手筈の神官と魔術師の世話役として置いて行く事が決定した。

脳筋にとってはパラダイスなローズ領に残りたがるジャンの気持ちも分からなくもない。



「それじゃ、エリク、エリー。

ビーストマスター……ビィって名前をつけたんだっけ?」


「はい、本体がビィ、右肩の男の子がシーズ、脇腹の女の子がディズです」


いつもの無表情とは違い、何だか嬉しそうなエリクエリーに私は微笑んで、2人の頬を両手で包んだ。


「ビィとシーズとディズのお世話をしっかりするのよ。

神官と魔術師と一緒にライヒアにも来てもらうから、ビィ達に必要な物は彼に頼んで。

落ち着いたら、帰ってらっしゃい」


私の言葉に、2人はホワホワした顔で頷いた。

どうやらよっぽどビィ達が気に入ったらしい。

魔獣、魔物とも楽しそうにやっているし、生き物の頂点である竜の末裔のサガなのかも知れない。


「じゃあ、ローズの爺様、皆をよろしくね」


ローズの爺様に振り向くと、ぶっとい腕を腰に当て、ヒラヒラと手を振った。


「もちろんじゃ。シシリアはこちらの事は心配せず、王都でやるべき事を成してきなさい」


好好爺然としたローズの爺様からは、皆を包み込むような懐の深さが伝わってくる。

ここでなら、ビィ達も安全に暮らせるだろう。


「それじゃあ、お世話になりました。

王都に戻って今回の事態の全てを終わらせてくるわ」


ニッコリ微笑むと、ローズ領の兵士達も笑って手を振ってくれた。


サイモンが大型転移魔法を起動させ、私達はあっという間に王宮に戻ってきた。

事前に連絡していたので、そこにはミゲルが神官達と待っていてくれた。


「皆さん、ご無事で何よりです。

彼らと魔術師達がローズ辺境伯領に向かってくれます。

サイモンさん、続けての大型魔法になりますが、大丈夫でしょうか?」


気遣うようなミゲルに、王宮の兵士にジェイズを引き渡していたサイモンが本当に平気そうな顔で答えた。


「それくらいならなんて事はありません。

グェンナにはもっとこき使われていましたからね」


ゴリゴリの商売人の下で働くのって、やっぱ大変なんだなぁ……。

しかもサイモンの再就職先はローズの爺様のとこだし。

サイモン、働き過ぎに気をつけて欲しい、マジで。


サイモンが神官と魔術師を連れて、再びローズ辺境伯領に旅立つのを見送った後、さてニースさんから進捗でも聞こうかね、などと思いつつ、私は辺りをキョロキョロと見渡した。

目の前にはミゲルとニースさんしかいない……。


「あれ?レオネルは?」


私の問いに、ミゲルが何とも言えない微妙な顔をした。


「レオネルはエドワルド捜索の為、郊外にまで出ているところです。

……あの、実は、レオネル……いえ、リゼ嬢の事で、シシリアにお話が………」


言いにくそうに口籠るミゲルに、私はカッと目を見開いてその肩を掴んだ。


「……どういう事……?リゼに何があったの?」


ギロッと睨みながら低い声で問う私に、ミゲルは身震いしつつ、王宮を指差した。


「詳しい話はここではちょっと……。

エリオット様の執務室で、ちゃんと報告しますから」


依然オドオドした態度のミゲルのいう通り、私達は王宮のエリオットの執務室に向かった。


……一体リゼに何があったのか。

騒つく胸を抑えて、私は黙ってミゲルに従う事にした………。








「リゼがエドワルドと接触して襲われたっ!!」


ガタンッとソファーから立ち上がる私に、ニースさんが落ち着かせるように手で制した。


「しかし、彼女は自分の力でその窮地を脱し、手出しはされていません。

彼女とて一フリーハンターとして、体術くらいは身に付けていたのでしょう。

平民の商人でしか無かったエドワルドに遅れを取ることなど無かったようですね」


淡々としたニースさんの言葉に、私はホッとしてソファーに腰を下ろした。


「それで?リゼは今自分の邸?

警備体制はどうなってるの?」


私の質問に、ミゲルとニースさんは目を合わせて何事かを押し付け合うように見つめ合った。

ややしてミゲルがニースさんの眼力の前に敗退し、言いにくそうに口を開いた。


「……実は、リゼ嬢はアロンテン家の邸で保護されています」


チラッとこちらを見るミゲルに、私は首を傾げた。


「うちの邸に?あっ、レオネルが保護してるって事?」


なんだ、それなら安心じゃない。

なんでそんな言いにくそうにしてる訳?


首を傾げる私に、ミゲルは尚も言いにくそうに口を開いた。


「……実は、リゼ嬢はエドワルドによって古代魔具による呪いにかけられていました。

その状態でエドワルドを退け、アロンテン家に助けを求めに来たのですから、どれ程大変だった事か………。

衰弱したリゼ嬢をレオネルが発見し、アロンテン家に保護しました。

リゼ嬢にかけられた呪いは命を脅かすもので、レオネルが発見した時には呪いがかなり進行した状態でした。

レオネルは直ぐに師匠に連絡を取り、解呪を依頼しましたが、古代魔具の解呪は師匠にも難しく、唯一呪いを解呪出来る方法をレオネルに授け、それをレオネルが実行し、リゼ嬢の呪いは無事に解呪に至りました………」


古代魔具っ!

呪いっ!


私のいないところで大変な目に遭っていたリゼを思うと胸が痛んだ……。

自分の側近であるリゼをこの手で守りきれなかっただなんて情けない。

でも私の代わりにレオネルがリゼの命を助けてくれたんだな。

本当に良かった……。

レオネルにはどれ程礼を言っても足りないくらいだ。


「良かったわ、じゃあ私、リゼの顔を見に邸に戻るわ」


そう言って席を立とうとする私の手を、ミゲルが慌てて掴んだ。


「シシリア、待って下さい。

リゼ嬢のかけられた呪いは古代魔具の呪いで、一般的な呪いとは違い、特殊なものです。

解呪方法も一つしか無く、特殊なものでした。

それを理解してから、リゼ嬢に会って頂けませんか?」


尋常じゃないミゲルの様子に、私は嫌な予感を抱きつつ、またソファーに腰を落ち着けた。


「これがその呪いの概要と、解呪方法を記したものですが、その特異性によりこの書類は転写禁止とし、限られた人間にしか目を通せないようにしていますので、取り扱いにはくれぐれも気を付けて下さい」


ニースさんがそう言って私に渡した書類に、首を傾げながら目を落とし、速読したのち私は目を見開きブルブルと震えた。


書類を破り捨てそうな私にいち早く気付いたノワールが、その私を刺激しないようにそっと私の手から書類を抜き取る。


「僕にも読む権利があると思うかい?」


気遣うようにそう聞かれて、私は仕方無しに頷いた。

レオネルと同じ、クラウスの側近であるノワールにはその権利があるだろう。

……もちろん、エリオットにも……。

だが、リゼの呪いについてこれ以上人の目に晒したくない。

グッと唇を噛む私を気遣うようにノワールは席を立ち、窓辺に移動してから書類に目を通した。

その後ろからエリオットが書類に目を通し、困ったように眉を下げた。


「………それでも命が助かったのだから……。

リゼはうちの邸でまだ保護されてるのね?

レオネルは何て言ってるの?」


私の問いに、ミゲルが深い溜息をついた。


「もちろん、責任を取って婚姻すると言っています。

こうなってしまっては、確かにそれも理解出来るのですが、問題は、リゼ嬢本人の意思を確認する事が出来ない事でして………」


両方の人差し指をチョンチョンと合わせ、私からツツツと目を逸らすミゲル……。


「………あ゛っ!?」


コオオオオオオッと息を吐きながら、髪の毛を逆立て、黒い目をビカーッと光らせ、ミゲルに悪鬼の如く迫る。


「なぁんで肝心の、リゼの気持ちを無視してんのよ………アンタら………」


血の底を這うような私の声に、ミゲルはガタガタブルブルと震えながら、神に祈るように胸の前で両手を組んだ。


「レ、レオネルがっ、リゼ嬢を邸から出さないのです。

私達も、古代魔具に触れたリゼ嬢の状態を確認すると共に、レオネルとの婚姻を承諾しているのか本人の口から聞きたかったのですが………」


涙目で無実を訴えるミゲルから背を向け、私はコオオオオオオッと熱い息を吐きながら、ドシンドシンと部屋の扉に向かった。


「エリオット様、あれ、良いんですか?」


ノワールが落ち着き払った声でエリオットに聞く声が後ろから聞こえる。


「ちょっとレオネルは暴走が過ぎたね。

とりあえず、リアの好きにさせよう」


こちらも落ち着き払っている風を装ってはいるが、明らかに私への恐怖で声が微かに震えていた。


ドガンっと荒々しく扉を開き、私はエリオットの執務室を後にした……。




あ〜の〜や〜ろ〜うっ!

リゼを囲いやがった。

腰抜けムッツリ〇〇野郎っ!

リゼが呪いをかけられて、それを自分が解呪したからって、一方的にリゼを邸に閉じ込めやがって。

見損なったぜ、兄ちゃん。

テメーをぶん殴るのは後だ。

まずはリゼの安否を確認してから。

その後ゆっくり話を聞かせてもらおうじゃねぇか………。


どんな言い訳が飛び出すか、楽しみだなぁ、レオネル…………。





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― 新着の感想 ―
[一言] シシリアー((((;゜Д゜))))次回ヘタレ元〇〇野郎が再起不能にならないよう祈ってます( -_-)/Ωチーンあちらのお話も読んでます( ̄▽ ̄)ニヤッ
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