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EP.199


ジェイズを捕縛できた事だし、さて問題は、ビーストマスターだ………。

皆でジッと見ていると、ビーストマスターは子供のようにオロオロしている。

そのビーストマスターを守るように、2頭のコカトリスが翼を広げてビーストマスターを守っていた。


ビーストマスター自身にこちらへの敵意は無いようだ。

自分の意志ではなく、ジェイズの命令に従っていただけなのだろう。


体は大きく、見た目は異様ではあるが、子供のように不安そうなビーストマスターの様子に、こちらの戦意はすっかり削がれてしまった。


………それにしても。

見れば見るほど異様な姿だ。

肩と脇腹から浮き出ている子供達の顔も、不安そうにしている。

これで本当に感情が無いのだろうか?

そもそもパペットとは、どういった存在なんだろう。


その不安げな様子を見ていると、限りなく人に近い存在であるように思えるけれど、動物の子供でも、親と離れ離れになれば不安そうな鳴き声を出す。

そう考えれば、魔獣と心を通わせられるくらいだし、動物的な要素が高いのか……。


謎に包まれたビーストマスターの存在に、さてどうしようかと頭を捻っていたその時、サイモンに殴られ伸びていた筈のジェイズがカッと目を見開き、ビーストマスターに向かって大きな怒鳴り声を上げた。


「何を呑気にしているっ!さっさとコイツらを殺せぇっ!」


サイモンがハッとして、ジェイズの口も拘束したが、どうやら遅かったようだ。

ビーストマスターは充血した目を見開き、コカトリス達に手を当てると、人では無い、獣のような唸り声を上げた。


途端に目を赤く光らせ、怒気をはらんで毛を逆撫でたコカトリスが、ギロっと私達に向かってその目を向ける。


「サンダーバレットッ!」


私は咄嗟にコカトリスに向かって雷の弾丸を放った。

コカトリスと目が合うと石化してしまう。

光魔法の治癒が受けられれば石化から回復出来るけど、ここにミゲルはいない。

なので石化されてしまっては戦力が削られてしまう。


「クケェェェェェェッ!」


私の攻撃はコカトリスの目に命中して、コカトリスが悲鳴を上げた。

しかし、それでも全く怯まず、一頭が真っ直ぐサイモンに突っ込んでいった。


ヤバいっ!

サイモンからジェイズを取り返す気だっ!

次の魔法を撃ち込もうとした瞬間、突風が巻き起こり、私達の中からローズの爺様が飛び出して行った。

砂埃を上げながら、サイモンを襲おうとするコカトリスに向かって行き、その体を素手で掴むと、ズザザッと押さえ込んだ。


「ふんっ!」


身体強化されたローズの爺様の筋肉が一回り太くなり、血管が浮かび上がる。

巨大なコカトリスを2本の腕だけで押し留めると、ローズの爺様はコカトリスの首を手で掴んだ。


バギィッッッ!!


「グゲェェェェェェッ!」


骨の砕ける音がして、コカトリスの断末魔の鳴き声が洞窟内に響いた。


ローズの爺様が片手でコカトリスの首をへし折ったのだ。

血の泡をクチバシから吹き出しながら、絶命するコカトリス………。


いやっ!だから物理っ!

素手ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!

魔獣を素手で倒しやがったぁぁぁぁぁっ!

規格外過ぎんだろっ!

アンタの方がよっぽど化けもんだわっ!


ドサっと土埃を上げながら、コカトリスの巨大がローズの爺様の目の前に倒れる。

爺様は片手で肩を押さえながらグルグルと回し、首を左右に倒しパキパキと鳴らしている。


余力ぅぅぅぅぅぅぅっ!

まだまだ余力有り余ってるぅぅぅぅぅっ!

ウォーミングアップ程度にコカトリスを素手でいっちゃったよっ!この人っ!


アガアガと私の顎が外れかけていたその時。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


ビーストマスターの悲痛な咆哮が轟き、それに呼応するように、残ったもう1頭のコカトリスが、鼓膜をつんざくような鳴き声を上げた。


「クケッ、クケェェェェェェッ!」


大きく開けたクチバシの奥が、真っ黒な空洞のようになって、そこから深緑色の毒の霧を吐き出した。


「スキル展開、毒無効」


エリオットが咄嗟に皆にスキルをかけ、間一髪、その毒から皆を守った。


「ローズ閣下、天井をぶち抜いて下さいっ!」


エリオットがそう叫ぶと、ローズの爺様はニヤリと笑い、グルグルと肩を回した。


「やれやれ、老骨をこき使いおる」


そう言って、ローズの爺様はその場で両足を踏ん張る。

両足をついた地面にビキビキビキィッと亀裂が走った。


「ふんっ!」


掌に魔力を込めるローズの爺様。


『保護結界、浮遊』


その動きに皆が一斉に自分の周りに結界を張り、浮遊魔法で浮かび上がった。


怒りの兄ちゃんの拳、第二弾を喰らい、今度こそ完全に伸びているジェイズの襟首を掴み、サイモンが一緒に浮き上がっている。

兄ちゃんって、本当に大変だな。



「さぁて、皆巻き込まれるでないぞ。

クラッグプレスッ!!」


馬鹿かっ!アンタはっ!

土属性の上級魔法を天井に撃ち込むローズの爺様に、私はギャァァァァァッ!と悲鳴を上げた。


今頃超巨大な岩が、外からこの洞窟に激突してきている筈だ。

その名の通り、下にいる人間をその場所ごと押し潰す超大技っ!

って、私らごと押し潰すんじゃねぇよっ!

馬鹿なのっ!馬鹿だなっ!馬鹿野郎だなぁっ!


ドッガァァァァァァァァンッ!!


洞窟内に衝撃が走り、天井を突き破り超巨大な岩が私達に迫って来た。


イヤァァァァァァァッ!

押し潰されるやつーーーーっ!

これ私達ごと、押し潰されちゃうやつぅっ!


涙目で呆然と、その岩に向かってイヤイヤする私を横目に、ローズの爺様はグッと地面に亀裂を入れながら踏ん張ると、バッと飛び上がり、その岩目掛けて何発も拳を撃ち込んだ。


「烈砕拳っ!」


ガガガガガガッと目にも止まらぬ速さで岩を拳で砕いていく。

超巨大な岩があっという間に小さく砕かれ、突き破られた天井と共に無数に降ってくる。


「皆、上に逃げるんだっ!」


エリオットがそう言うと同時に、皆を飛行スキルで飛ばし、パッカと開いた天井から皆無事に脱出した。


後ろを振り返ると、バラバラと石や砂が洞窟を埋めていっている。


「これでジェイズの巨大魔法陣も片付けられたね」


若干冷や汗を流すエリオットは、自分の犯した明らかな人選ミスを誤魔化すように口角をヒクつかせている。


いつものように上手くヘラヘラ笑えないか?

だろうなぁっ!

天井ぶち抜く役を、ローズの爺様に振ったの、お前だもんなぁっ!


その頬をギリギリ捻り上げながら、私達は洞窟から脱出し、地上に着地した。

ローズの爺様も自力で脱出してきたところで、私達は改めて洞窟の中を覗いた。

岩や土に埋もれ、もう洞窟は見る影もない………。


「……アイツも、埋まっちゃったよな、これ………」


少し悲しげなジャンの声が溢れる。

アイツとは、ビーストマスターの事だろう。

何だか、敵として倒し辛い相手ではあったが、あのままでは危険な存在だった事に間違いはない。

これで良かったのかもしれない………。

私がそう思っていると、ローズの爺様が平気な顔で首を振った。


「いや、奴は生きておるぞ、その証拠に、ほれ、見てみろ」


ローズの爺様が親指で指し示す先を目で追うと、師匠とサイモンが張ってくれた結界だった。

その向こうから複数の影がこちらに迫って来ている。

その正体は、多数の魔獣達だった。


コカトリス、リンドウルムにワイバーン、オーガやミノタウロスまでいる。

魔獣達は結界など気にもせず、ガンッガンッと空から地から結界に体当たりしていた。


「………コイツらって……」


私が呆然と呟いた時、洞窟から大きな影が飛び出してきた。

咄嗟に距離を取り、戦闘態勢に入る。

目の前にコカトリスの巨体が現れ、そのクチバシにビーストマスターが咥えられていた。

コカトリスはビーストマスターをそっと地面に下ろすと、ドシーンッと片足を地面につけた。

よく見るとコカトリスは傷だらけで、大量の出血をしている。

吐く息も荒く、瀕死の状態だと見て分かるほどだった。


「大した忠誠心じゃな、こやつも、あ奴らも」


ローズの爺様の言う通り、コカトリスはまだビーストマスターを守ろうとしている。

結界の外の魔獣や魔物達も、自身が傷を負う事も厭わず、一心不乱に結界に体当たりを続けていた。


その時、フッとビーストマスターが意識を取り戻し、体を起こした。

私達の方を見ると、全てを思い出したのか、ふーっふーっと威嚇するように荒い息を吐いた。

それに呼応するように、結界の外の魔獣、魔物達が一層激しく結界に体を打ち付ける。


やはり、コカトリスを倒し、ビーストマスターも倒すしかないのか………。


そう決断を下そうとした丁度その時、辺りの警戒に当たっていたエリクとエリーが、こちらに走り寄って来た。


「凄い音がしましたがっ!」


「シシリア様っ、ご無事ですかっ!」


2人が大きな声を出すのは珍しい。

それだけ私を心配してくれていたのは嬉しいが、今はそれどころじゃない。


「こっちに来ちゃ駄目よっ!」


2人にそう叫ぶと、エリクエリーはコカトリスとビーストマスターと対峙している私達を見ると、凄い速さで走ってきて、コカトリスと私の間に立った。


「やめなさいっ!危ないわっ!」


2人も立派なフリーハンターではあるが、戦い方は後方支援。

飛び道具を駆使して前衛を後ろから守っている。

その2人が私の前に立った事につい声を荒げると、2人は私を振り向き、真っ直ぐに見つめた。


「コイツがビーストマスターですね?」


「シシリア様、私達にお任せ頂けませんか?」


真剣な2人の表情に、私は2人には何か策があるのだろうかと、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「分かったわ、でも無理だと思ったら直ぐに引きなさい」


2人はコクリと同時に頷くと、一歩、ビーストマスターの方に踏み出した。

その後ろ姿を見守りながら、2人で駄目ならせめて一瞬で楽にしてやろうと、ビーストマスターに狙いを定め攻撃魔法の準備に入る。


エリクエリーはキツくお互いの手を握ると、聞いたことも無いような言葉を、小さな声で呟き出す。

途端にさっきまで晴れていた空が曇り、落雷が轟き出した。

そして2人の背後から青白い光が輝き出し、それが灰色の空まで一直線に伸び、そこに光を纏った一匹の龍が現れた………。


ああ〜〜〜。

なるほどぉ。

不思議なボールをいつの間にか集めちゃってたのかな?

アレかな?

願い事言ったら、叶えてもらえんのかな……?


空を見上げてアガッと顎を外しつつ、脳内で現実逃避する。

いやだって、龍だよ?

知ってる?龍。

空想上の生き物じゃなかったんだねぇ。

この世界、何でもありだなぁ。


エリクエリーの放つ異様なオーラに気圧されつつ、私は既に現実を直視出来ず、エヘラエヘラと笑った……。



「……あっ、うっ、ううっ………」


目の前のエリクエリーに、明らかに恐怖を浮かべ、ビーストマスターがガタガタと激しく震え出した。

それもその筈、龍は最上位種の生き物。

もはや生き物の中の神に近い存在。

明確な上下関係の存在する獣の世界で、龍を超える存在など中々いない。

生物としての、最も上位である龍に睨まれ、ビーストマスターも魔獣、魔物達も、小型犬のようにプルプル震えるしか無かった。


………勝負は決まった。


圧倒的力の前に、結界の外の魔獣、魔物達はシュンと大人しくなり、しかし心配げにビーストマスターを見つめていた。


「ううっ、うぇ〜〜ん、ええんっ」


泣きじゃくり始めるビーストマスターに、そっとエリクエリーが近付き、その目の前に屈むと肩と脇腹に生えた子供の頭を撫で、最後にビーストマスターの頭を優しく撫でた。


ビーストマスター達(?)は驚いた顔をして泣き止み、エリクエリーに向かってシュンと頭を下げた。


ふむ、竜の末裔であるエリクエリーを上位種と認め、全面降伏を示しているようだ。

いやぁ……しかし、私の周り俺TUEEE!主人公系多過ぎないっ!?

あっれ〜〜っ!可笑しいなぁ?

私主人公じゃないんだっ!

てっきり私が俺TUEEE!出来るとばっかり思ってたわっ!

アッハッハッハッ!おっかしいなぁっ!


血涙を流しながら、もう泣くしか出来ない私。

その私を、エリクエリーがつぶらな瞳でウルウルと見上げている。


………うっ、嫌な予感………。


「……シシリア様……」


意を決したように口を開くエリク。


「……この子、連れて帰って飼ってもいいですか?」


オドオドとこちらを見つめるエリー………。


カーーーッ!

保護者としての最適解が分からないっ!

ちゃんとお世話出来るの?的な道徳的な話からか?

いや、それビーストマスターッ!

生態も何も分からないし、そもそも飼ってもいいのっ!

いやいや、人として扱うべきか、ビーストマスターという新しい新種として扱うべきかっ!?

何も分からない得体の知れないものを、我が家に勝手に連れて帰れないでしょっ!


う〜んう〜んと唸る私を、エリクエリーの服をキュッと握ったビーストマスターまでウルウルした目で見上げてきている……。


……あかん、絆される………。

このままでは、絆されてしまう………。


ワナワナと悩ましげに震える私の肩をポンポンと叩いて、エリオットが眉を下げ、3人に向かって口を開いた。


「申し訳ないけど、国の許可なく勝手に一貴族の所有物には出来ないよ。

その子のためにも、教会の神官と宮廷の魔術師達に生態を調べてもらった方が良い。

神官にも魔術師にも、腕利きの医者が在籍しているから、まずは健康状態を良く見てもらおうね。

そこのコカトリスにも治療が必要だ。

アロンテン家の魔術師達は戦いに特化した人間ばかりだから、その子達の治療は出来ないよ。

エリクくんとエリーちゃんはいつでもその子達に会えるように計らうから、それじゃ駄目かい?」


優しく話しかけるエリオットに、なるほど保護者としての最適解はこれだったかっ!とちょっと感心した。

エリクエリーはエリオットに向かって大人しく頷き、ビーストマスターの頭を撫でながら、ジッとその目を見つめた。

ややしてビーストマスターも、理解したようにゆっくり頷く。


とりあえずは皆が納得したようで、私はヤレヤレと首を振った。

まぁ、見方によっては当初の思惑通り、ビーストマスターまで手に入れる事が出来たのだから、良かった良かったと言うべきか?


……だがなぁ。

私は結界の外から気遣わしげにビーストマスターを見つめている魔獣、魔物を見つめた。


思ってたより、ビーストマスターの能力が高かったというか、魔獣、魔物との関係が親密というか………。


結界の外から魔獣、魔物にまでウルウルした目で見つめら、私はああ〜〜っと顔を両手で覆って天を仰いだ。


王国が愉快な魔獣、魔物王国になりそうな予感に、どうすっかなぁ……と頭を抱えた……。


食費……凄そうだなぁ………。


龍の去った空に青い切れ間が見え、私はそれを眺めながら遠い目をして思考を止めた。

隣で同じ顔で空を眺めるエリオットと共に………。





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