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EP.197


昨晩の事は無かった事にするべく、流れ星と共にヒューンと戻ってきたエリオットを土に埋めナイナイしておいたのだが、朝になって騎士達に発見され(情けで土から顔だけは出しておいた)朝から大騒ぎになってしまったが、私は悪くない。何も悪くない。


「ところで、エドワルドの捜索はまだ良い成果が出ないのね」


会議室で溜息混じりにゴチる私に、ノワールが残念そうに眉を下げる。


「皆一生懸命捜索してくれているけど、向こうには魔族がついているからね、仕方ないよ」


もちろん私だって、捜索隊を責めている訳ではない。

ただどうしても、人の捜索能力では限界があるんだなぁと思ってしまっただけで。

実は私にはエドワルド捜索の為に一つ思い浮かんでいる手があるのだが………。

それは前世の知識だから、実現は難しいというか、私では不可能。

だけど私にしか構築出来ないだろう、複雑な事情がある。

……いや、まぁぶっちゃけ、前世大好きだった(男子向け)ラノベの知識であって、現実では空想の域を超えないというか。

微妙に前世の技術の知識も無いと難しいので、私にしか構築出来ない、しかし、私には無理、という。


問題を解決する方法はあるにはあるが、この世界に前世の知識で規格外な魔法を誕生させるのも、どんな影響が起きるのか分からず躊躇しているの現状ではある。


まぁこれは、最後の手段だと思っている。

今は優秀な宮廷の捜索隊を信じて、吉報を待とう。


「ところで、ニーナからは間者を外したから向こうの動きは分かんなくなったんだろ?

魔族ってまだ王都にいんのかな?」


ジャンの言葉にエリオットが難しい顔をした。


「間者からの最後の報告では、ゴルタール家の邸にニーナと共に滞在していたらしいから、まだそこに留まっている可能性は高いね」


そうだ、今1番の問題は、アビゲイル・ゴードンの存在。

日頃は人に擬態しているが、正体はニシャ・アルガナという名の魔族。

魔族なのに伯爵位を名乗っているが、この辺は未だ謎のまま。

コイツのせいで話が全て難航している訳だ。

コッチには聖魔法の高みに達しかけているミゲルがいるので、皆で力を合わせれば奴を消滅させる事も出来るだろうけど、奴が王都にいる以上、下手に手出しも出来ない。

捕縛するにしろ、殲滅するにしろ、無益な犠牲が出てしまう事は目に見えている。


ゴルタールが奴を魔族と知っていて囲っているか否か、これもよく分からない。

グェンナの話では、エドワルドはアビゲイル・ゴードンが魔族だと気付いていない。

だが、ゴードンをエドワルドと接触させ、グェンナの家族を人質にしたゴルタールはどうか?

残念ながらこちらは魔族と知っていて、ゴードンと組んでいる可能性が高い。


では何故、北と親密な関係にあるゴルタールが、ゴードンを北に渡していないのか。

北は魔族を何かの理由で血眼になって探しているというのに。

ゴルタールのところに魔族がいると知れば、北が黙っている筈がない。

という事は、ゴルタールは北にアビゲイル・ゴードンの存在を隠している、という事になる。


こちらとしては、タダでさえ厄介な北の大国に、魔族まで加わる事にならなくて助かってはいるが。

一体ゴルタールは何を考えているのか。

いや、全てはどうせシャカシャカの指示だ。

奴の考えなど、理解出来るもんじゃない。

そのせいでコチラは常に後手に回っているというのに。


本当なら、シャカシャカと魔族の関係、ゴルタールの次の企みなど、探りたい事は山程あるが、流石に魔族相手ではこちらの分が悪過ぎる。

間者を忍ばせなくなった今、知りたい事を知る術も無くなった。

まぁ元々、シャカシャカの方に忍ばせていた間者からは大した報告は無かったが。

シャカシャカは殆ど変わった動きをしなかったからだ。

学園に行ったり行かなかったり、フリードの相手を適当にこなし、優雅な暮らしをしていただけで、特に怪しい動きは無かった、いや、見せなかった。

シャカシャカ付きの間者の腕が悪いのではなく、元々多数スキル持ちの奴の本来の行動や思惑を探るなど、出来ない事だったんだ。


「奴らがまた何かしでかさないように、祈るしか出来ないって事ね」


これが人間側である私達の限界なのか。

悔しくて仕方ないが、現状どうする事も出来ない。


「とにかく僕らは僕らの出来る事をやっていくしかない。

今は北の密輸ルートを壊滅させ、サイモンの弟である、北に与した魔法師を捕縛する事。

これに集中しよう。

出来ればビーストマスターも捕縛したいところだけど、そこまで上手くはいかないだろうね」


私達の知らない所で戦力を増強していた北の大国。

ビーストマスターまで手に入れているとは、本当に厄介な話になってきた。


「ビーストマスターってのは、結局魔獣や魔物ありきの力だろ?

いつも通りの取引だと思っているなら、魔獣はそんなに連れてこないんじゃないか?

だったら、その魔獣さえ倒せば、ビーストマスターだって捕らえられるんじゃね?」


呑気なジャンの意見だが、意外に的を得ているかも知れない。

奴らは戦闘を仕掛けにやってくるのでは無い。

目的はあくまでも荷物の運搬。

輸送係が自分達の運べる場所まで武器を運び、そこからあの険しい山を魔法師の大型転移魔法陣のある場所まで運ぶのが、ビーストマスターと魔獣の仕事。

だとしたら、中型の魔獣が2体程いれば事足りる。


う〜〜ん、中型の魔獣2体かぁ………。

余裕だな。

コッチには私とノワール、ジャン、ゲオルグ、エリクエリーまで揃っている。

ハッキリ言って、余裕過ぎる。

イケるか?ビーストマスター捕縛。


ニヤニヤ笑う私とジャンに、エリオットが溜息混じりに口を開いた。


「今回の狙いはあくまでサイモンの弟である魔法師だから。

あまり欲は出さないでね」


と言われても、余裕だからなぁ。


「では、ビーストマスターが他の魔獣や魔物を呼び寄せてもこちらに入り込ませないよう、私が素早く結界を張り直しますので、それでどうでしょう?

どちらにしても、武器ごとビーストマスターを転移されてはもう捕縛出来ないでしょうが、その前に弟を捕縛出来るかどうか、ビーストマスター捕縛もそこにかかっていますし」


サイモンの言葉に、私とジャンはパァァァァッと顔を輝かせた。

なんだかんだ言っても、私もジャンもビーストマスターに興味津々だった。

どんな奴か、その力はどんな属性なのか、それともスキルなのか。

未だかつて現れた事の無い存在。

捉えたら魔術師達の餌食にしてやろう、ふっふっふ。


企み顔の私に、エリオットとノワールが同時に溜息をついていた。








「さて、いよいよね」


エリオットのスキルで姿と気配を消して、私達は北の武器輸送班を待っていた。

山の登り口にこちらの計画通り、奴らはノコノコと現れた。


「おい、ビーストマスターはまだかよっ!

ちっ、こっちは危ない橋渡ってるってのによぉっ!」


王国の兵士に扮した男が怒鳴り声を上げている。


「いいじゃねーか、俺はアイツ薄気味悪くてさぁ。

アイツの連れてる魔獣に喰われやしないか、ヒヤヒヤするしよぉ」


その男の隣にいた男が、身震いしながら嫌そうな顔をしている。


輸送班と思われる男達は全員で10人。

偽装とはいえ今回は武器を多めに用意したので、ゴルタールが潜り込ませている全ての人間が輸送班として駆り出されている筈だ。

コイツらは全員、後で捕縛させてもらう。


その時、ローズの爺様とジャンとゲオルグと、山の頂上付近で待機していたサイモンから連絡がきた。


『魔獣の背に乗り、ビーストマスターらしき人影が空から接近してきました。

結界を一部解除し、ビーストマスターが通過しましたら、また塞ぎます。

これで魔獣は他に入ってこれませんが、招き入れた魔獣も外には出せなくなります。

大丈夫ですか?』


そのサイモンの言葉に、私はニヤリと笑って答えた。


「大丈夫よ、手筈通りお願い。

ちなみに魔獣の種別は分かる?」


私の問いに、サイモンは冷静な声で答えた。


『コカトリス、ニ頭ですね』


ほう、コカトリスか。

あの神経質な魔獣を手懐けるとは、相手のビーストマスターはかなりの手練れだわ。

となると………。


『ビーストマスターは1人でニ頭を操っています』


やはり、複数のビーストマスターでは無く、手練が1人か。


魔獣や魔物の多く出没する北には、昔から魔獣や魔物を使役する術を使う人間がいる。

原理は分からないが、ある一定数そういった人間が生まれる為、魔獣や魔物は奴らにとって貴重な戦力だった。


しかし、北の使役する術は、無理やり魔獣や魔物を押さえ付け、操り人形のように操るもの。

当然相手からの抵抗があるし、力負けすれば使役者が魔獣や魔物の餌になる。

正に諸刃の剣。

戦場に投入すれば、下手したら自軍の混乱を招くような、使えそうで使えない力。

だから今までは、このローズ辺境領への嫌がらせ程度にしか使えなかった。


ビーストマスターはそれとは全く違い、魔獣や魔物と意思を疎通し、契約して服従させる力。

契約した魔獣や魔物は、マスターの言う事には絶対服従で、逆らう事は無い。

つまり、戦闘の際にも安定して使用出来る強力な戦力になる。


複数で魔獣や魔物を押さえ付け使役する方法とは違い、ビーストマスターは本人の能力さえ高ければ、何体でも契約して服従させる事が出来る。

本当に厄介な存在なのだ。


で、今回ビーストマスターと見られる人間が連れて来ているコカトリスという魔獣。

コイツは警戒心が高く、動きが素早い。

まず捕まえるのに苦労するし、契約を結ぶのも大変な事だと思う。

見た目は鶏冠のある雄鶏の体にドラゴンの翼、蛇の尾を持つ。

その吐く息には毒があって、木は枯れ、草は焼けただれ、石は砕かれる。さらにその視線に睨まれただけでも人は死んでしまう。

まず近付くだけでも最高難易度の魔獣だと言っていい。


………まぁ、私達は討伐依頼で何体も倒してきてる訳だが。

2体程度ならジャンでも余裕。

あのジャンで余裕レベル。

ハッキリ言って雑魚。


とはいえ、ビーストマスターと契約したコカトリスとは戦ったこと無いんだよなぁ。

聞いた話によると、ビーストマスターと契約した魔獣や魔物は、そのビーストマスターの力量に応じて強化されるらしい。

今回相手にするビーストマスターの力量によっては、そのコカトリスは私達が今まで相手した事無いくらいの力があるかもしれないのだ……。


ふむ、滾るっ!

なにそれ、めっちゃ滾るっ!

はよ来いやっ!

かかってこいやっ!

ビーストマスター&コカトリスッ!


私の脳内でかなり目的がズレていってしまった、その時、上空から大きな影が現れ、巨大な翼による風圧で、風が巻き起こった。


私達の頭上に現れた2頭のコカトリスが、羽ばたきを緩め、武器の詰まれた荷の前にバサバサと羽音を鳴らして着地する。


「よお、遅かったな、ビーストマスター」


開口一番、嫌味っぽくそう言う男に、コカトリスの背から降りた黒ずくめの男が不思議そうに首を傾げた。

その瞬間。


「クケェェェェェェェッ!」


黒ずくめの男の後ろから、一頭のコカトリスが嫌味を言った男を威嚇するように鳴いて、ブルルッと体を震わす。


「ヒィィッ!馬鹿お前っ!余計な事言うなよっ!

もう行こうぜっ!

こ、これが今回の納品書だから、じゃあな、ちゃんと渡したぜっ!」


最初にビーストマスターに怯えていたもう1人の男が、震えながら走り出して、それに釣られるように、皆も走り出した。



「あの彼、実はソル・サイドレンなんだ。

彼は輸送班捕縛の為の誘導係だよ」


ボソッとエリオットに耳元で囁かれ、私は咄嗟に裏拳でそのエリオットの顔面を殴りながら、なるほどなぁと頷いた。


素早くルパートさんが兵士達に手だけで合図を送る。

その指示に従い、輸送班を捕縛する為、兵士達が素早くしかし静かに奴らの後を追って行った。


「ソルを入れる為に1人は既に捕縛済みなんだよ。

ソルはその人間に変装して、今回彼らをうまく誘導する役割に就いてくれた。

彼らの人数の把握と、それぞれの特徴など、全てソルが調べ上げてくれたんだ。

彼らを無事に捕縛出来たら、ソルの功績は大きなものになるね」


マジかよっ!

やっぱ使えるなぁ、ソル。


私はノワールに治癒魔法をかけてもらい、私の裏拳で吹き出した鼻血がやっと止まったばかりのエリオットに、ウルウルした目で振り返り、下から見上げた。


「おにぃたん、シシリア、アレが欲しい」


ソルが輸送班を誘導して去っていた方向を指差してそう言うと、エリオットはせっかく止まった鼻血をブバァッ!と再び吹き出しながら、ハァーハァーと変態特有の息を吐き、ジリジリと私に迫ってくる。


「よよよよしっ、おおおにぃたんが、アレをリアにあげるからね………」


荒い鼻息が気色悪いが、ソルが手に入るなら致し方ない、我慢我慢。

そんな私の努力を無駄にするが如く、ノワールが頭を片手で押さえながら、私ににじり寄るエリオットの襟首を掴んだ。


「ソルはクラウス付きの間者ですから、エリオット様にその権限はありませんよ。

シシリアも、使える人間を見ると何でもかんでも自分で囲おうとするのはやめなさい」


ハァァァッと深い溜息をつくノワールに、私はチッと舌打ちをした。

くそっ、せっかく無理して頑張ったのに。

クラウスのとこにいたって、どうせ大した任務も無いのにさぁ。

私のとこならアレコレいくらでも働いてもらうのに。


プゥっと不貞腐れる私の耳元に、ノワールがコソッと囁いた。


「それにソルはああ見えて、旅道楽だから。

あまり任務を言い渡さないクラウスのところから離れないと思うよ。

今はエリオット様に貸し出されているからその能力をフル活用されているけど、そろそろ旅が恋しくなる頃だから、この件が終わったら行方をくらますと思うな」


超フリーランスッ!

クラウスのとこ、フレックス制かよっ!

ってか、アレか、ただ野放しにされてるだけか………。

人は見かけによらないというか、何というか……。

ソルがそんな自由人だったとは……。


確かに私は、頼みたい時にパッと頼める人間に側にいて欲しい人だから、ソルとは合わないのか〜〜。

ちぇっ。


「ハァハァ、リアたん。

おにぃたんがソルの事は何とかしてあげるから……」


私に自主規制必要なレベルの顔を近づけ、まだ興奮しているエリオットの顔をグググッと手で防御しつつ、私は冷たく言い放った。


「あっ、もういいんで、地面にでも埋まっといて貰えます?」


私の言葉にシクシクと泣きながら、どこかから取り出したスコップで地面を掘り出すエリオットを、騎士達が必死で止めている。


騎士達も大変だなぁ。

そんな奴のお守りで、こんなとこまで引っ張り回されて。

いいから埋めときゃいいのに、そんな奴。


スンとしてエリオットから目を逸らす私を、ノワールがデッカい溜息をつきつつ、呆れた目で見つめていた。




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