表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/248

EP.1

誤字報告ありがとうございます。

大変助かりました!



前世で神様のペットに踏み殺された、私。

元、花も恥じらう女子高生。

現、乙女ゲーの悪役令嬢。


……どうしてこうなった?


窓に映る自分の姿に、私はギリギリと奥歯を噛み締めた。


長く艶やかなパープルブラックの髪に、瞳の色はアメジスト。

白磁の様な肌、スラッと長い手足。

この世界の10歳の平均身長より高い背。

既に居住まい正しいロイヤルな佇まい。

公爵令嬢、シシリア・フォン・アロンテン。


これが、6年後には悪役令嬢と呼ばれる訳だ。


あの、ヘッポコ人殺し神っ!

なんでよりにもよって乙女ゲーの世界なんかにッ!

これじゃ踏まれ損じゃないっ!


私がブスっくれていると、1人の少年が近付いてきた。


「どうした、シシリア。

朝から不機嫌そうだが?」


この少年は、シシリアの兄である、レオネル・フォン・アロンテン(12)。

このアロンテン公爵家の跡取り息子。


私は兄である彼をジトッとした目で見つめた。


お前、知ってるぞ。


金の瞳に、漆黒の長い黒髪。

綺麗な顔なのに、いつも気難しそうな表情をしている。


……お前、アレだよな?

さては、乙女ゲーの攻略対象だな?


やさぐれ気味にウザ絡みしたい気分だが、まったく通用しないだろうし、我慢した。


レオネルは乙女ゲーム〈キラおと〉の初代攻略対象の1人だ。


そう、私が悪役令嬢として登場するのは、〈キラおと2〉。

2があるということは、1がある。


初代〈キラおと〉は王道のよくある乙女ゲームだった。


庶民から貴族に引き取られた主人公が貴族の集まる学園で攻略対象者達と出会い、好感度を上げていく、というごくごく一般的なもの。


その初代の攻略対象の1人が、このシシリアの兄、公爵令息、レオネル。


こいつが、いつも冷静沈着で喜怒哀楽の少ないキャラで、攻略に苦労するんだわ。


1では妹の存在は明かされていなかったから、2制作時に後付けで登場させたんだなって丸わかり。


キャラ設定手抜き過ぎでしょ。


まぁ、王子の婚約者になれる令嬢がそうホイホイいても困るし、考えるのも大変よね。

別にそこはいいんだけどね。


ってか、も〜何もかも、もう、どうでもいいんだけどねぇ。



私の、俺TUEEEEっ……。

魔法と冒険と仲間との日々……。


うっうっうっ……。


私は手で顔を抑えて、咽び泣いた。


「やはり、この間の落馬の影響か?

医者は問題ないと言っていたが……。

まぁ、無理はするな。

今日の殿下とローズ侯爵令息と令嬢を招いた茶会は、お前は欠席で構わない。

内輪のごくごく小さなものだしな」


レオネルの言葉に、私はハッとして顔を上げた。



ローズ侯爵……令嬢……。


そうよっ、そうだわっ!

今は〈キラおと〉の2どころか、1も始まっていないんだっ!


〈キラおと〉は、王立学園に入学した1年生の1年間が初代の世界線。

攻略対象が全員3年生だから、彼らの卒業と共にエンドを迎える。


〈キラおと2〉は攻略対象が同級生なので、2年生から卒業まで。



つまり、15歳の社交界デビューを終えて直ぐに王立学園に入学、そこから〈キラおと〉初代のストーリーが始まる。


今はそれより5年も前だっ。


つ、つまり、会えるっ!

麗しの合法ロリ(この時点ではまだ合法では無い)キティ・ドゥ・ローズ侯爵令嬢っ!


〈キラおと〉初代悪役令嬢っ!


一部ニッチなファンに絶大な人気を誇った子ヌコ令嬢。

またの名をチワワ令嬢。

更にまたの名を死にたがり令嬢。


フワフワのピンクローズの髪をツインテに結び、大きな瞳は猫の様な吊り目のエメラルドグリーン。

低身長(公式148㎝)凹凸の無いスタイル(公式トリプルAカップ)


トレードマークのふわふわツインテールをワフワフさせ、大きな猫目を吊り上げて、ヒロインと攻略対象の周りをキャンキャン吠え回る。

それだけで実はあまり実害のないヘタレな悪役令嬢。


しかし、美少女。

何してても、どの角度から見ても文句のつけようの無いビジュアル。


悪役令嬢というからには、婚約破棄や断罪ルートがお約束だか、キティにはそんなもの存在しない。


そもそも、キティは王子の婚約者でも何でもない。

侯爵家令嬢という理由で、婚約者候補に名前は辛うじて引っ掛かってはいるが、順位はとても低い。


異例のヘッポコ悪役令嬢として乙女ゲー界隈を賑わした。


とにかくおバカでヘッポコ、高位貴族の気品も無く、我儘で癇癪持ち。


たが、見た目が良い。

全て許せる。

逆に中身とのギャップに萌える。


だが、しかし、この子ヌコチワワ令嬢。

とにかく死ぬ。やたらと死ぬ。断罪イベントも無いのに死ぬ。そう、まったく必要も無いのに死ぬ。


どんなエンドだろうが、関係ねぇっ!

死ぬったら死ぬんだよっ!のスタイル。


理由は様々、事故に病気に自殺に他殺。

だが、必要ない。まったく必要ない。


毎回どのルートをエンドまで攻略してもキティが死ぬもんで、何度ゲーム機を叩き割ろうと思ったかっ!


友達が必死に止めてくれてなかったら、エンドの数だけ叩き割ってたと思う。



えっ?しかし、めっちゃ語るやんって?


そりゃそうよっ!

何を隠そう、キティたんは私の前世最推しキャラっ!


もう単純に好みっ!

ビジュアルが凶器っ!

好きすぎて、あの愚作と悪名高い〈キラおと2〉までやり込んじゃったわっ!


……あるかと思って。

ワンチャン、キティ復活あるかと思って……。

細い希望に縋ってしまった……。


……無かったけど……。

あの無駄な時間を返してほしい。



だが、ここはっ!その〈キラおと〉の世界っ!

会えるのだっ!

画面越しじゃない、最推しキャラにっ!


しかも、原作にも出てこない、正真正銘のロリ年齢でっ!


こんな希少な機会をこのキティ廃オタの私が逃す訳がないっ!



「お兄様、私はお医者様の言うように、もう大丈夫です。

お茶会には参加致しますわ」


私は居住まいを正し、ハッキリと告げた。


会えるっ!生キティたんに会えるっ!


私は少しでも好印象を持たれたくて、いつもより念入りに身支度に取り掛かった。





うららかな春の午後。

アロンテン公爵邸の庭園に、子供達が集まり、お茶会が始まった。


今日はレオネルの主催の、子供達だけの本当にささやかなお茶会だったらしい。


私は速る気持ちを抑えて、庭園に赴いた。


まず、目についたのは、王宮の近衛騎士団、団長の息子。

ジャン・クロード・ギクソット。

黒に近い深いブルーの髪を短く刈り込んでいる。

瞳の色は燃える様な赤。

もちろん、1での攻略対象の1人。

こいつのエンドでは、キティの死因は刺殺。

対して語られる事なく、謎の死を遂げる。



次は、大司教の息子、ミゲル・ロペス・アンヘル。

背中の中ほどまである淡い水色の髪をゆるく後ろで結んでいる。

瞳の色は、神秘的な銀色。

こいつのエンドでは、病死。


前世でも何回も突っ込んだが、改めて言わせてもらう。

いやお前、光属性の治癒能力持ちだよな?

何で助けなかった?



そんで、あそこで王子の隣に座っているのが、ノワール・ドゥ・ローズ。

キティたんの兄。

真紅の薔薇の様な髪に、キティたんより深い緑の瞳。

優しげで中性的な見た目をしている。


こいつとヒロインと、一緒に住むのが嫌で家出して飛び出したキティたんは、馬車の事故で、転落死。


おい、ボンクラ。

お前が勝手にヒロインを選んだんだから、お前らが出ていけば良かったのでは?

そうすればキティたん、死ななかったのでは?


……制作側の体のいい小姑潰しにしか、思えない。

リアルのストレスを作品に持ち込んでんじゃね〜よ。



そして、我が兄、レオネル・フォン・アロンテン。

公爵家の次期当主。


こいつのエンドでは、キティたんは絞殺される。

これまた謎の死を迎えるが、やはり深く語られる事は無い。



この4人が、初代〈キラおと〉の攻略対象で、メインヒーローの第二王子の側近。



それで、だ。

お茶会の中心で優雅に紅茶を飲んでいるあの輩が、クラウス・フォン・アインデル。

金髪にアイスブルーの瞳。

〈キラおと〉のメインヒーローだけあって、一際整った容姿をしている。

このアインデル王国の第二王子で、私と兄にとっては再従兄弟にあたる。


こいつのルートでのキティたんは、自殺……。

1番可哀想な最期だった……。

思い出すだけでも胸が痛い……。



こいつら5人とシシリアは幼馴染になるが、特にお互い興味も無かったので、今まであまり接点も無かった。


まぁ、クラウスは2年前まで、シシリアが婚約者候補序列第1位だったのだが、今は第三王子の婚約者なもんで、特に関係は無い。


それよりも、私はクラウスの膝の上でプルプル震えている牧羊犬が気になって仕方なかった。


なん?あれ?


人間でいえば、8歳くらいの大きさ?

ワフワフの綺麗な毛並みは、珍しいピンクローズだ。

長くて厚い顔周りの毛で隠れていて、目の色は分からない。


ちょっと、私は子ヌコ様の下僕ではあるが、犬も大好きなんですよ?


そんな、毛並みのいい、どう見ても触り心地の良さそうなワンちゃん、放っておける訳が無い。


ひと撫でさせて貰おうと足早で近付いた時、春風がそのワンちゃんの顔を隠した毛を巻き上げた。


現れたその顔に、私は息を飲む。



大きな瞳は少し吊り上がり気味で、新緑を思わせるようなエメラルドグリーン。

透き通った白い肌に血色の良い頬と唇。

小さな顔にふわふわの髪。


どこからどう見ても、完璧な美少女っ!

私の、私の、私のキティたんーーっ!


キティたんは慌てて、風に乱された前髪を手で直して、またその可愛い顔を隠してしまう。



ど、ど、どう言う事っ!

これが、あのキティ・ドゥ・ローズッ⁈


何がどうして、こうなったーーーっ!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ