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EP.193


「本当にありがとうございました。

皆様のお陰で、我が家はゴルタール家からの支配下から解放されました」


深々と頭を下げるリゼに、皆はとりあえず胸を撫で下ろした。

色々とあったが、まずはスカイヴォード家を救う事は出来た。

しかも、王家のゴルタール家への越権行為とは絶対に言われない状況で、追い込む事が出来た。

スカイヴォード家については、王家もいつかは救い出さないととずっと動いていたが、やはりゴルタールの力が強過ぎたのだ。

今までは、貴族派を扇動し国政に口を出すゴルタールを抑えるのが精一杯で、とてもでは無いが、スカイヴォード家の事まで手が回らず、ここに来るまでただ見守る事しか出来ていなかった。


しかしエリオットと私達の代で、事は大きく動いた。

ゴルタール家のゴルタール家のみの栄華もここまでだ。

グェンナ商会に続き、とうとうスカイヴォード家という金蔓まで失ったゴルタールは、必ず北に泣きつき、そこからの資金提供に頼るしか無くなる。

そうなれば、北の傀儡と成り果てる事は分かりきっている。

いくらグェンナの事件から逃げ切ろうと、必ず北に言われるがまま、再びこの国に牙を剥く事になるだろう。

その時がゴルタールの最後だ。

そちらが牙を剥くなら、こちらもそれ相応に爪を研がせてもらおう。

どちらがどちらを噛み殺すのか、楽しみだなぁ、ゴルタール。


クックックと不気味に笑う私に、リゼがいつものように静かにカタカタと震えていたが、フンッと気合いを入れてその震えを自力で止めた。


「我が家も金銭面で余裕が出来ましたし、今後は学業に今まで以上に邁進したいと思います。

学園を卒業致しましたら、必ず官吏試験に受かり、官吏になってみせます。

それと同時に、シシリア様の側近として、国政会議にもお供致しますので、シシリア様のお気持ちを皆様に誤解無くお伝え出来るような、強い自分になりたいと思います。

今はまだ未熟な私ですが、どうか今後もシシリア様のお側に侍る事をお許し下さいませ」


私に向かって再び深々頭を下げるリゼの肩を、私はポンポンと優しく叩いた。


「もちろんよ、頼りにしてるわ。

私が手が出そうになったら、全力で止めてちょうだい。

あっ、腕外すくらいじゃソッコー自分ではめちゃうから、折る勢いでお願いね」


ニッコニコと笑うと、リゼは額に汗を浮かべながら、口元を引き攣らせ、カクカクと頷いた。


「は、はい、頑張ります」


ちょっと目の焦点合ってないし、足がガクガク震えてるけど、大丈夫よね?

うん、イケるイケる。

リゼならイケる。


うんうんと満足げに頷く私の後ろ頭に、ズビシッと手刀が刺さり、衝撃と痛みに咄嗟に振り返ると同時に拳を繰り出す。

シュッと空を切る私の拳をバシッと掌で受け止めて、レオネルがこめかみに浮かべた青筋をピクピクと小さく痙攣させていた。


「リゼ嬢にくだらない事を頼む前に、自分を制御する方法を身に付けろ」


レオネルの尤もな正論に、私はハッと鼻で笑って返した。


「それが出来たら私じゃ無いじゃない、馬鹿なの?」


ケッとディスるように手を横に広げグニャグニャと意味なく揺らしてやると、レオネルはイラっと苛ついて、私の頭を挟んでグリグリしようと襲ってきた。

そこをタイミング良くヒョイッと避ける。

レオネルはバランスを崩し、私の後ろにいたリゼに正面から突っ込んでいった。

ぶつかる事を覚悟してギュッと目を瞑るリゼ。

寸前でバッと両手を広げ、リゼを抱きしめて衝撃を抑えるレオネル。


結果。

レオネルとリゼが抱きしめ合うという、ハプニングハグの完成。

ふぅ、いい仕事するぜ、私。


「す、すまないっ、リゼ嬢っ!」


何とかリゼと衝突せずに済んだレオネルは、ちょっと上擦った声でリゼに謝る。


「い、いえ、私が突っ立っていたのが悪いのです、私の方こそ、申し訳ありませんっ!」


何故か謝るリゼ。

レオネルはちゃっかりリゼをギュッと抱きしめながら、必死で頭を振った。


「いやっ、どう考えても私が悪い。

怪我はないだろうか?」


焦るレオネルに、その胸の中でブンブン頭を振るリゼ。


「いえ、ありませんっ!私は大丈夫です。

レオネル様こそ、お怪我は?」


「私は大丈夫だ」


お互いの返答に、胸を撫で下ろす2人………。

って、もうええわーーーーーっ!

確かにハプニングハグを演出したのは私だけどさ、何いつまでもイチャコラ抱き合ってんだ、ゴルァッ!

そこはパッと離れていつもみたいにモジモジしとけやっ!

知ってんだぞ、レオネル。

お前が腕に力を入れて、リゼを逃さないように抱きしめてる事。


ちっ、自分の気持ちに正直になった途端にこれかよ。

これだから〇〇野郎はよぉ。

ラッキースケベに貪欲で嫌になるぜ。


だんだんイライラとしてきた私の肩を、後ろからキティがポンポンと叩いてくる。

あっ?と振り返ると、私に向かってめちゃ良い顔でサムズアップしてきていた。

ちなみに、身長が足りないからクラウスに抱き上げてもらっているのだが、コイツはコイツでクラウスの使用方法を正しくマスターしてきている感が怖い。


魔獣使いならぬ魔王使いとか、最恐過ぎるからやめて下さいお願いします。



「いつまでやってるんすかね、アレ」


ジャンが呆れたようにレオネルとリゼを指差した。

2人は今だに抱き合ったまま、お互い顔を真っ赤にしてあーじゃないこーじゃないとやっている。

うん、余計な事したな。

レオネルがリゼを離しゃしないわ、コレ。

やれやれ、どうしたものかと思っていると、その辺の空気など絶対に読まないスタイルのニースさんがパンパンと手を叩き、2人はハッとして慌てて離れると、お互い背を向けてモジモジとしている。

リゼは良いが、レオネル、お前は嘘つくな。

お前がリゼに抱きついてただけだって、バレてるからな。

今更モジモジされても、1ミリも信用出来ないから。


ついチベスナ顔でレオネルをジーッと見つめると、その私の視線に気付いたレオネルが、ツツツーっと目線を逸らした。

やっぱり、ワザとじゃねーかっ!

ラッキースケベを堪能しやがって、このむっつり野郎。

お兄ちゃん、サイテーよっ!



「もう良いですか?戯れなら各自のプライベート空間でお願いします。

さて、ここからの話は内密でお願いしますが、ローズ侯爵領にエリオットを送り込む事にしたので、皆さんにはこちらに置いておくコピーの方のフォローを私と共にやって頂きたい」


空気は絶対に読まないスタイルのニースさんに、摂氏0℃の目線で凍らされながら、しかし私達はその話す内容に興味津々で聞き返した。


「ローズ侯爵領で何かあったんですか?」


私の問いに、ニースさんはキラリとその目を光らせる。


「ルパートから連絡が来ました。

ゴルタールが北に武器を流していたルートを、見つけたかもしれないとの事です。

ローズ侯爵領からは離れていますが、まずは侯爵領を拠点に、そのルートを探り、出来れば潰したい。

しかし、向こうにどうやら手練れの魔法師がいるらしく、こちらはまだ様子見という段階です。

なのでエリオットを投入して、早期解決を図る算段でいます」


ニースさんのエリオットへの認識が、便利道具である事に何だか安心を覚える。

やはり同じ釜の飯を食う仲間として、認識のズレは無い方が良い。


なんか1人、激しく泣きじゃくっている便利道具がいるが、所詮奴は道具の擬人化なので、気にする必要は無いだろう。


「あのそれ、私も行っていいですか?」


手を上げて名乗り出る私に、エリオットがパァッと嬉しそうに顔を輝かせた。


「リアも来てくれるのっ!?」


ニッコニコしながら私に抱きついてくるエリオットの足を、床に向かって思い切り踏み躙り、私は呆れたように口を開く。


「皆はグェンナの後処理もあるし、エドワルドの捜索もあるでしょ?

それに皆で宮廷から姿を消したら、不審に思われるじゃない。

その点私はまだ学生だし、宮廷に毎日顔を出す訳じゃない。

ちょっとその手練れの魔法師ってのが気になるし、私くらいが着いていくのは大した事じゃないでしょ?」


私の言葉にエリオットはうんうんと頷いて、ギュウッと後ろから抱きしめてきた。


「嬉しいよ〜〜リアッ!

ニースったら僕をこき使う気満々なんだもん。

でもリアが居てくれれば、僕張り切って頑張っちゃう。

2人でローズ侯爵領に避暑だね。

あ〜〜楽しみだなぁ」


旅行じゃないっつの。

いまいち緊迫感の無いエリオットを、ニースさんが凍てつく目で見つめている。

あの、やめて……。

エリオットに引っ付かれてる私にまで刺さってますから、その視線。

心が凍り付いちゃう。


「分かりました、シシリア様の同行も許可しましょう。

それともう1人、同行させたい人物がいるので、2人はその人間と打ち合わせてからローズ侯爵領に向かって下さい」


ニースさんの言葉に、エリオットがムッと口を尖らせた。


「嫌ダァッ!僕はリアと2人っきりが良いっ!」


駄々っ子のような事を言うエリオットを、ニースさんが無言で凍て付く目で見つめる……。


「リア………なんか急に、寒い………」


凍死寸前になりながら、ハァと白い息を吐くエリオット。

だろうなぁっ!

私も寒いわっ!

お前とセットで凍らされる寸前だわっ!

凍らされるならお前1人で氷のオブジェになっててくれっ!

頼むから私を巻き込むなっ!

ってか、離せっ!

今すぐ私を離せっ、この馬鹿もんがっ!





何とかニースさんの凍てつく視線から逃れ、私とエリオットはもう1人の同行者に会いに、何故かグェンナを匿っている部屋に向かった。

ニースさんにそこに行けって言われたからなんだけど、何でだろうと首を捻っていた私はすぐにその理由を知る事になる。


グェンナの部屋で私達を待っていたのは、グェンナ商会のお抱え魔法師であるサイモンだった。


「あの時以来ですね、改めてご挨拶申し上げます。

フリー魔法師のサイモンです」


胸に手を当て頭を下げるサイモンには、どこか品が感じられる。

見た目は筋肉隆々の熟練戦士みたいなのだが。


「やぁ、同行者とは君の事だったのか」


ニッコリ笑いながら手を差し出すエリオットに、サイモンは戸惑いながらもその手を握った。


「あの時は、王太子殿下とは知らず、失礼致しました」


恐る恐るといった感じでエリオットの手を握り返すサイモンに、エリオットは穏やかな微笑みを返した。


「気にしなくていいよ、あの時はそんな場合じゃなかったからね」


エリオットの返答にサイモンは安心したように息をついた。


「さて、立ち話もなんだし、座って話そう」


エリオットに促され、皆がソファーに座る。

グェンナが手早くお茶を淹れて、それを机の上に置いていった。


「お茶まで淹れられるの?」


驚く私にグェンナは照れたように笑う。


「商会の下積み時代には、お客様へお茶を淹れる仕事もありましたからね」


無骨な手で淹れたとは思えない程、繊細なその味に、私はへぇっと驚きと共に称賛を込めてグェンナを見た。


「美味しいわ、ありがとう」


ニッコリ笑うと、サイモンが不思議そうな声で呟くように言った。


「公爵家のご令嬢だとお聞きしましたが、平民にもそのようにお心を砕いて下さるのですね」


サイモンが不思議がるのも仕方のない事だけど、こちとら前世で既に18年、今と同じ年だけ庶民として暮らしていたのだから、一風変わっている事は仕方ないと思う。

確かに、普通の公爵令嬢ならこんな風に平民と同じ席に座りお茶までしないだろうが、これが悪いとも思わない。

貴族と平民だろうがなんだろうが、茶くらい一緒にすれば良いじゃん。

あっ、レオネルには内密にしといて欲しい。

日頃から高位貴族の自覚がなさ過ぎると、ガミガミガミガミうるさく言われてるもんで。


「これが私なの、だからサイモンも余計な気遣いはしないでね。

これから一緒行動する仲なんだし」


サイモンに向かってニッコリ笑うと、サイモンはまだ畏れ多いとでも思っているのか、戸惑いながら頷いていた。


「ところで、今回なぜ貴方が私達に同行する事になったの?」


私の問いに、サイモンは真剣な顔でコクッと頷いた。


「実は、ローズ侯爵領の近辺で、北の大国に武器を運ぶルートを守っているのが、私の知っている魔法師かもしれないのです」


サイモンの言葉に、私とエリオットは思わず顔を見合わせる。


「それは一体、どういう事?」


私の問いに、サイモンでは無くグェンナが小さく咳払いをしてから口を開いた。


「まず、北への武器の密輸方法について、先にお話ししましょう」


グェンナの言葉に、私はそちらに向き直った。

確かに、その方法は気になっていた。


「全ては、武器商権を牛耳っていたゴルタール公爵だからこそ成し得た荒技です。

ゴルタール公爵は、ローズ領への武器の輸送に紛れ込ませ、北へ密輸する武器を運んでいました。

そもそも、ローズ領から発注された武器の注文書自体を改竄し、発注より多くの武器を運べるように目眩しをしていました。

もちろん、武器を運んだ後は、またその注文書を元に戻しておきます。

これで国にもローズ侯爵領にもバレず、大量の北への武器を運んでいたのです。

そして、ローズ領に近付くと、誤発注が発生した、または数を間違えていたと、ゴルタール公爵の手の者が北への武器だけ移送班から切り離します。

そして、王都に戻ると見せかけ、北との取引の現場に運んで行くのです。

書類上は何の不備も見当たりませんから、これで誰にも気付かれません。

この方法で2回、北へ武器を流しています。

私へ捜査が及ばなければ、もっと続けていたでしょう。

そうなれば、いつか誰か不審に思い調べる人間が現れたかもしれません。

そしてそうなれば、その人間はゴルタール公爵に秘密裏に消されていたでしょうね。

そんな事になる前に、殿下と皆様が動いて下さって本当に良かった」


グェンナの話に、私とエリオットは同時に頷いた。

やはりゴルタールお得意の、利権を使ってのゴリ押しだったか。

取引を取り仕切っているのが公爵家だというだけで、誰も何も言えず、言われた通りに動くしかなくなる。

ローズ侯爵領の武器の発注に疑問を持ったとしても、それを口にする者はいないだろう。


「そして、北との取引場所から武器を北の大国に運び込むのが、その例の魔法師の仕事だったのだと思います。

ニース様にお話を聞きましたが、怪しい人影を目撃した人物は、一瞬でその人影が消えてしまったと話していたそうです。

恐らく転移魔法でしょう。

武器と人とを運べるくらいの転移魔法、そんな魔法陣を構築出来るのは、かの偉大な赤髪の魔女様、と私………」


サイモンはそこで言葉を区切ると、眉間に深い皺を寄せ、苦しげに続けた。


「そして、私の弟くらいです」




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