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EP.182


「私の妖精を牢屋に置いてきた。

ここから牢屋にいるグェンナと会話が可能だ」


ニースさんの言葉にエリオットは静かに頷くと、自分の妖精であるエリアスに静かに命じた。


「エリアス、ニースの妖精と繋いでくれ」


エリオットの言葉に、しかしエリアスは不思議そうにキョトンとしている。


「ああそうか、相手の妖精の名前が必要だったね。

ニース、君の妖精の名は?

君のはテレーゼちゃんから受け取ったばかりだよね?

名前をまだ聞いてないんだけど」


エリオットの問いに、ニースさんは何故か戸惑うような表情をしたのち、モゴモゴと小声で何か言っている。


「………イス、だ……」


んっ?

ニースさんの小さな声に、皆が首を傾げる。


「ごめん、もう一度言ってもらってもいいかな」


真面目な顔で聞き返すエリオットに、ニースさんはカッと顔を赤くして、不機嫌そうに今度はハッキリとその名を口にした。


「ナイスだっ!」


ブフッ!

思わず吹き出してしまった私は、ニースさんに刺し殺されそうな目で睨まれ、慌てて口を両手で押さえた。


「ありがとう、ではエリアス、牢屋にいるナイスに繋いでくれ」


今度はコクリと頷き、ニースさんのナイスに繋ぐエリアス。

冷静な様子のエリオットに感心していると、その口元が微かに緩み、組んだ両指がプルプルと震えている。

めっちゃ笑うの我慢してんじゃねーーーかっ!

そのエリオットを、やはりニースさんが凍死させそうな冷たい目で睨んでいた。


ちなみに、私達のパートナーである個性付与型妖精の名付けは全てテレーゼが行っているが、テレーゼ曰く、妖精の顔を見た瞬間に名前がピーンと頭に浮かぶらしい。

名付けるというよりも、その妖精本来の名前が天から降ってくる、そんな感覚なのだとか。

だから、キティのパートナー妖精であるティティは、本来の名前はテティなのだ。

だけどそれでは、キティをテティと呼んでいるテレーゼには不都合なので、愛称でティティと呼んでいる。

まぁ、つまり、アレだ。

ナイスも天から降ってきた、ニースさんの妖精本来の名前であって、テレーゼは悪くない、悪くないんですよっ!ニースさんっ!


そこんところを声を大にしてニースさんに伝えたいが、それどころじゃ無いので今は黙っておくとしよう。

ニースサン、イマ、トテモコワイ、ワタシ。



エリアスが無事にナイスと通じたらしく、エリアスの目からスクリーンが浮かび上がり、そこに牢屋に投獄されたグェンナが映し出された。

意外に気の利くエリアスは、それとは別に私達に向かってもスクリーンを映し出してくれる。

2画面出せるのはエリアスだけの特性だ。

チートな所も飼い主に似ていて、イラっとする妖精だった。


そういや、何だかんだといって、グェンナ本人の顔を見るのは初めてだな〜とか思いつつ、そのご尊顔を是非見てやろうと身を乗り出した。

スクリーンの中に、両手を後ろ手に縛られ、大人しく跪き、首を垂れている1人の男の姿が浮かび上がった。


「私はエリオット・フォン・アインデル。

貴殿がギルバート・グェンナ、グェンナ商会の商会主で相違ないか?」


久しぶりの王太子殿下バージョン(威厳有り)に吹き出しそうになりながら、いよいよ始まったエリオットのグェンナへの尋問を固唾を飲んで見守った。


「はっ、相違ございません。

私がギルバート・グェンナ。

グェンナ商会の商会主にして、此度の全ての反乱を画策した者にございます」


グェンナの声には決意が感じられた。

逃げも隠れもせず、あっさりと国への反逆を認めるその姿には、いっそ潔さすら感じる。


「ほぅ、自ら反乱の意志ありと認めるか。

ギルバート・グェンナよ、面を上げろ」


エリオットの言葉にグェンナはピクリと肩を揺らし、ゆっくりとその顔を上げる。

精悍な顔つきに、短く刈り上げられた髪、もみ上げから顎まである髭が口髭とも繋がっている、フルベアードブリティッシュに整えられた髭。

先程から声が渋いなと思っていたが、なるほど、イケオジじゃねーかっ!

くそっ!

イケオジのくせに悪い事企みやがってっ!

イケオジってのはな、イカつい顔してるくせに不器用な優しさがあって、更に以外と細かいところまで気付いてフォローしてくれる、動物と甘い物が好きな生き物じゃなきゃいけねーんだよっ!

悪い事に手を染めたりしちゃ駄目なのっ!

一からやり直してこいっ!イケオジをっ!


見た目で判断するのは良くないが、グェンナのイケオジな見た目に、私は残念過ぎて身悶えそうになった。

ちなみにキティなど、顔を両手で覆ってすでに泣いている。

私ら界隈でイケオジに夢見ない奴いるっ!?

いねーよなぁっ!?



「王太子殿下のご尊顔を拝する名誉を頂き、このグェンナこれで心置き無く自らの罪に殉ずる事が出来ます。

どうぞ、如何様にも罰をお与え下さい」


イケオジことグェンナは、既に覚悟を決めた顔つきをしていた。

とてもではないが、あのゴルタールと結託して不法の限りを尽くし金を儲け、更には王国に牙を剥こうとしていた人間には見えなかった。


「もちろん、貴殿の行った数々の罪には、極刑をもって償わせる。

が、その前に、貴殿がゴルタール公爵と企てた全ての悪事を話してもらう」


厳しいエリオットの口調にも、グェンナは一切動じることは無かった。

王太子殿下に極刑、つまり死刑を言い渡されたというのに、顔色を変える事も無い。


「はっ、もちろん全てお話します。

私はゴルタール公爵と私腹を肥やす為の計画を立てました。

それが、東大陸で盗まれた美術品を買い集める事です。

大陸を渡っての犯行なら発覚し辛く、また東大陸の法では裁かれない。

王国で発覚したところで、大陸間の問題に発展する事を恐れ、秘密裏に処理されるだろう事まで計算の内でした。

あとは、私達は東大陸で騙されて美術品を売り付けられたと主張すれば、私達を処罰する事は出来ないだろうという算段でおりました」


スラスラとまるで予め用意していたように、グェンナは澱み無く答える。

覚悟はとうの昔に決めていたような、まるでこうなる事を待っていたかのような、そんな喋り方だった。


こんなに潔い人間が何故ゴルタールなんかと結託して、王国を窮地に陥れるような事をしでかしたのだろうか………。

エリオットの執務室に集まった皆が、妙な雰囲気に包まれていく。


「では、違法魔道具もまた、金儲けの為だったと?」


エリオットの問いに、グェンナは躊躇無く頷いた。


「はい、仰る通り、私腹を肥やす為にやりました。

違法魔道具は裏で人気が高く、莫大な利益を生み出します。

特に、魔力充填型の物は飛ぶように売れていきます。

が、今まで売却してきた物には、我がグェンナ商会で雇った魔法師達にストッパーをかけさせていますので、魔力の無い者には利用出来ないでしょう。

例え魔力があっても、帝国の魔法師のストッパーを解除出来る人間は、この王国には限られていますし、その限られた人間は王家で管理している筈です。

ですから、例え私から違法魔道具を買ったとて、使用出来た人間はほぼいないでしょう。

……ただ、ゴルタール公爵独自のルートで入手した、北の古代魔具は別です。

あれには現代の魔法ではストッパーはかけられませんでした。

なので、エクルース女伯爵の悲劇が起きてしまった。

私は当時まだゴルタール公爵とは今ほど懇意にしていませんでしたが、それでもあのような悲劇を生む古代魔具を商品として扱っていたような者です。

その罪は同罪と言えるでしょう」


グェンナの告白に、エリオットは片眉を上げた。


「おかしな事を申すのだな。

グェンナよ、貴殿は何故、わざわざ違法魔道具にストッパーなどをかけたのだ?」


皆も同じ疑問を感じていた。

そんな事をすれば、商品のリコールが相次いでしまうだけで、何の特にもならない。

そのエリオットの問いに、グェンナは初めて、商売人らしい不適な笑みを浮かべた。


「まず第一に、違法魔道具を求める人間の殆どはコレクターです。

彼らにとっては、誰も所持していない幻の魔道具、つまり違法とされ国にその殆どが処分されてしまった物、その希少性こそが最大の価値なのです。

ですから、私から購入した違法魔道具の使い道は、人知れず所持して楽しむ、これだけです。

使用してしまっては価値が下がると思っているので、まず使用される事はありません。

しかし、万が一の事もありますから、その為のストッパーです。

それから、第二に、稀にですが使用目的で購入する者もいます。

しかし彼らが使用しようとすれば、魔法師のかけたストッパーが作動します。

そうなれば、魔道具の扱いに慣れていない人間は、不良品を掴まされたと私に苦情をいれます、が、そこで扱いに問題があったのだと説明致します。

扱いが悪く故障した事にすれば、修理費を請求出来、二重に儲かる、という仕組みでございます」


少しは悪徳商人のような顔になったグェンナだが、残念ながら滲み出る、親切丁寧がモットーです!なところが隠しきれていない。

アレなら私の方がよっぽど悪辣商人に見せる事が出来るだろう。

実際、テレーゼの妖精型通信魔道具(量産型)が世に出せる準備が出来たら、レンタル2年縛りにしてやろう、とかゲスい心算でいたしね?

量産型とはいえ、妖精ちゃん達を大事に扱ってもらう為の縛りよ?

決して、解約金でウハウハとか思ってないわよ?ゲスゲスゲスっ。


と、これくらいのゲスさが欲しいところだ。

グェンナからはそんなものが感じられない。

自分の懐に入る金を増やす為にストッパーをかけた、みたいに言ってはいるが、結局はじゃあ、コレクターに売った分にはなんでわざわざ?ってところが明白になっていない。

つまりは違法魔道具を間違っても使わせない為、その為のストッパーだったと言っているようなものだ。


「売却先については、秘密裏にリストにしてあります。

そのリストは、既に提出済みです」


グェンナの言葉に、エリオットがニースさんをチラッと見ると、ニースさんは素早く頷いた。


「既に購入した者の所へ人を向かわせている」


そのニースさんの返答に、皆が密かに感嘆の息をついた。

流石、宮廷一仕事が出来る男。

騎士団上がりだとか宮廷では馬鹿にする人間もいるらしいが、そんな事はニースさんより仕事が出来るようになってから言えっての。



「もちろん、リストは後で脅迫して更に金を巻き上げる為に作成していたものです」


聞かれてもいないのに、自分の悪辣商人アピールを忘れないグェンナ。

いやもう、そこに潔く跪いている時点で、残念ながらそのアピールもあまり意味を成していない。

って事に気付いていない時点で、本当に堅気な人生を歩んで来た人間だとバレバレなんだか、グェンナイケオジ。


「リストについては、礼を言おう。

では、グェンナ、あの地下の大量の武器については?」


いよいよ核心に迫ったエリオットの問いに、グェンナは眉間に皺を寄せ、重苦しい声で答えた。


「殆どが、北の大国、今はゾウール国と名乗る、彼の国へ秘密裏に輸出する為の物です。

ゾウール国は今、密かに武器を買い集め、何事かを画策している最中なのです。

しかし、殆どは、軍事部を取り仕切る4大老家が一つ、サフ家からの注文になります。

現在国を治めているゾウール家とはまた別の腹づもりが、サフ家にはあるのでしょう」


超貴重な情報を、アッサリこちらに明け渡してきたグェンナ。

これには皆が目を見開いて驚いていたが、コピーを北に潜入させていた事もあるエリオットは、特に驚く訳でもなくニヤリと笑った。


「なるほど、サフ家か。

あそこは強硬派の家柄だったな。

そのサフ家とゴルタールが結び付いていると見て、間違いないか?」


エリオットの問いに、しかしグェンナは首を振った。


「いえ、むしろゴルタール公爵の資金源になってきたのはゾウール家の方でしょう。

ゴルタール公爵も、ゾウール家の指示で動いていたようですが、ここにきてサフ家に鞍替えしようと、武器を集め出した、という流れが正しいかと。

ゾウール家とゴルタール公爵に何があったのかは分かりかねますが、ゴルタール公爵はミコのご意向だと言っていました」


グェンナの言葉に、私は片眉をピクリと動かした。

ミコというのは、前世で言うところの、巫女の事だろうか?

その巫女ってのは、やはりシャカシャカの事か?

だとしたら、シャカシャカが強硬派のサフ家とゴルタールを結び付けた事になる。


確かに、何だかんだと回りくどかったゾウール家に比べて、サフ家の思惑は単純明快。

武力による王国殲滅に、続く帝国侵攻だろう。

しかし、サフ家には重大な見落としがある。

それはここ10年くらいで、王国の武力が格段に跳ね上がっている事だ。

そう、つまり、私達の存在。

申し訳無いが、いくら北の軍勢が湧いて出たところで、そんなものは私達が薙ぎ払う。


あと、これはリーサル・ウェポンだが、その気になれば北の大地ごと、焦土に化しちゃう奴がいるっちゃーいる。

……まぁ、ちょっと?

そうなると、魔王化しちゃうけど?

王国産の魔王が爆誕しちゃうけど?

そっちのが洒落にならないんだけどねっ!


そんな訳で、今は北の大国の兵力などあまり脅威では無い。

帝国からの支援もあるし、合わせれば北の大国如き、軽々と退けられる。


シャカシャカがゴルタールを通じてサフ家と繋がっているなら、その辺はサフ家とて当然情報として知っている筈だ。

私達のことを調べ上げているシャカシャカから聞いているのなら。


………だが、聞いていないなら?

シャカシャカが故意に私達の情報をサフ家に隠していたなら?


そう考えれば、ゴルタールが私について、未だ何もしてこない事も頷けた。

ゴルタールはわざわざテレーゼをオークションに出品させ、手の者に落札させようとした。

それは、魔力量の高いテレーゼに、フリードの子を産ませようとしたからだ。

リストレイントリングによって先祖代々魔力を削がれ続け、今やゴルタール家には魔力のある者などいない。

その家門の雪辱を、微かな魔力を有するフリードにかけているのだろう。

だが、だとしたらわざわざテレーゼに目を付けなくても、婚約者である私がいるじゃん?って思うよね?


実は私の魔力量や属性は公表されていない。

王家と違い、その義務が無いからだ。

レオネルはアロンテン家の嫡男として公表されているが、私のは産まれてすぐに、父上と母上が伏せる事に決めたらしい。

そりゃ、魔力量は高いし、4属性既にカンスト状態だったからね。

嫡男よりも能力が上とか、余計な軋轢を生まないように、非公表となった訳だ。


しかし、これがゴルタールが私を誤解するきっかけとなった。

貴族家では、産まれた子供の魔力量や属性の有無は、その家の名誉に直結する。

まぁ、表立ってはそうは言わないが、裏ではそれが暗黙の見解だ。

つまり、産まれた子供の魔力量が高かったり、属性持ちだったりすれば、嬉々として公表する。

逆にそうでなければ、公表はせず、あえてそこには触れない。


この事で、ゴルタールは私に大した魔力が無いと誤解している。

だが、シャカシャカと通じているから、その誤解もとっくに解けて、私とフリードの婚姻を急ぐように騒ぎ出していてもおかしくはないのに、未だゴルタールにその動きが無いところを見ると、シャカシャカは故意に私や皆の情報をゴルタールや北に隠している事になる。


………一体、なぜ?

相変わらず考えの読めない奴だ。

マジで何がしたいのか分からん。


奴の事など考えたくは無いのに、奴の意味不明な行動のせいで嫌でも考えてしまう。


ゴルタールに、北の大国。

そんなものを使って、奴は一体何がしたいのか………。

奴の思考を読んで、先回れる事が出来ればとも思うが、それと同時に、シャカシャカの思考を理解出来るようになったら終わりだとも思う。


奴については理解不能である方が、正常の状態なのだと自分に言い聞かせた。





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