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EP.178


「ライトッ」


真っ暗な隠し部屋の中が、一気に明るくなる。

丁度廊下のようになっているその場所は、目の前にいくつかの扉が並んでいた。


「2人1組で左右に分かれて、端から真ん中に戻ってこよう。

各部屋に次の隠し部屋に繋がる扉が無いか、確認するのも忘れないようにね」


エリオットの指示で、私達は自然に私とエリオット、クラウスとノワールに分かれて左右に別れた。

右側の1番端から始める事になった私とエリオット。

慎重に扉を開くと、そこには見た事もないような絵画が丁重に飾られていた。


先程の、乱雑に山のように物が積まれていた表の保管庫とは違い、こちらは少数の絵画が丁寧に飾られ保管してある。


『はっ、それはっ!』


妖精を通して、ライヒアの声が聞こえた。


『一枚一枚詳しく映して頂けますか?』


若干焦ったようなライヒアの言葉に、私とエリオットは頷くと、妖精達に絵画を丁寧に映すように指示をした。


『………やはりこれは……間違いないですね。

そこにある物は全て、盗品です』


ライヒアの言葉に、私とエリオットは驚いて顔を見合わせた。


「盗品って、どういう事?」


私の問いに、ライヒアは直ぐに答えた。


『それらは非常に歴史的価値の高い絵画ですが、全て所有者、または美術館などから盗まれた物です。

我々は各方面から依頼を受けて、そういった品をリストアップし、行商の合間に各地で捜索をしているのですが、まさか大陸を超えていたとは、盲点でしたね。

本当に王太子殿下にお声掛け頂き、暁光でした。

このようなところで発見出来るとは』


驚いた様子のライヒアだが、どうも嘘くささを感じる………。

実は既にグェンナに当たりをつけていたんじゃなかろーか。

ある程度は最初から怪しんでいたと思って間違いないような気がする。


「盗まれた物をどうやって、グェンナはここまで集めたと言うの?」


私が問うと、ライヒアは顎を掴み難しい顔をした。


『恐らく、闇のオークションや、窃盗団から直接買い取るなど、不法な取引で手に入れたのでしょうね。

私達はあくまで正規で取り戻す事しか出来ませんから、その辺の関係者には疎まれて敬遠されてしまいます。

なので、どうしても彼らとの交渉は長くなってしまうのです。

ですが、グェンナなら大陸の向こうから来た異国人。

足がつきにくく、そういった人間に好かれやすいのでしょう。

帝国のような大国では無く、王国規模の商団という点も丁度良い。

盗んだはいいが扱いに困り、たらい回しになっていたところを、グェンナが買い集めた、といったところでしょうね』


いや、やっぱりめっちゃ調べ上げてるじゃんっ!

最初からここに盗品があるって目星はついてたよね?

なんかもう、お前に踊らされた感が半端ないわっ!


ライヒアに言いたい事は山程あるが、今は時間が惜しい。

扉を一つ一つ確認していく作業に忙殺されるより他に無かった。


ライヒアに細かくチェックしてもらったところ、結局この階の6部屋ある隠し部屋は、盗品の美術品で埋め尽くされていた。

絵画や彫刻、陶芸など、全て名のある有名な美術品である事が分かった。


「よくもここまで………。

流石に海を渡れば、盗品だとは分からないだろうとでも思ったのかしら」


ハァ〜と深い溜息をつく私に、ライヒアが困ったように肩を上げる。


『海を渡られては、探す術がありませんからね。

こちらの大陸で売り捌くか、探している人間に秘密裏にコンタクトを取って、元より高値で売りつけるか。

どちらにしても、グェンナ商会は十分に潤うでしょうね』


ライヒアの言葉に、私は呆れつつも頷いた。

こちらで売り捌くのは簡単な事だ。

海を渡った大陸の有名な美術品となれば、金を持て余した人間が目の色を変えて飛び付くだろう。

それに、ライヒア達が来た東大陸、そちらでこの美術品を探し求めている人間に高値で売り付ける事も十分に可能だ。

何故ならグェンナは〝被害者〟でいられるから。

何も知らない別の大陸から来た人間が、盗品とは知らずに買い取った。

東大陸で〝騙された〟憐れな人間。

という設定が有効な上に、向こうの法ではグェンナを裁けない。

東大陸の人間に売りつける際は、移送費などをふっかけて売り付ければ良いので、十分に元は取れる。


なるほどなぁ、ライヒアの言っていた、グェンナ商会が東大陸で〝好き勝手にやっている〟とは、この事か………。

実際に、高値で売り付けられた被害者が既にいるのだろう。

同じ商会同士、水面下での潰し合いは当たり前にあるのだろうが、グェンナに関してはまた意味合いが違う。

確かに、自分の慣れ親しんだ土地にそんなコソ泥みたいな奴らが現れたら、たまったもんじゃないな。

同じ商人としての信用問題にも亀裂が生じる。

商人を名乗ってそんな不法な事をされては、洒落にならないだろう。

ライヒアとしては早急に片付けたいところだったんだろうな。



「次の部屋に続く扉は、左から2番目の部屋の中にあったよ」


この階は十分に捜索し終え、私達はノワールの言葉に従い、左から2番目の部屋に向かった。

その部屋には奥にもう一つ扉があり、そこから簡単に下に続く階段に出られた。

ここには魔法の類は使われておらず、クラウスのクソ馬鹿力を使う必要も無かった。


梯子に近い急な階段を、レディースファーストって事で私から降りようとしたが、下にまだ何があるか分からないって事で、結局エリオットが先にスルスルと降りていった。

その後に続いた私だが、あと少しで降りられるというところで、足を滑らせ階段から落ちてしまう。


「おわっ!」


咄嗟に身を捩り着地しようとするより先に、エリオットが私の体を受け止めて抱えた。


「おわっ、て………そこはせめて、キャッ!とか言ってくれたら、こっちの気分もグッと上がるんだけど………」


うるせーーよっ!

ってか自分で着地出来たっつーのっ!

勝手に手を出して受け止めといて、文句言ってんじゃねぇっ!


ピキッと青筋を立てつつ、私はそのエリオットの顎を下から思い切り殴り上げて、無事に奴の魔の手から逃れた。

パンパンと手を打ちながら、部屋を見渡してみるが、どうやらここはだだっ広い空間になっているらしく、先程までのライトでは明るさが足りない。

自分のライトに魔力を注ぎ、さっきよりも大きくする。

後から来たクラウスとノワールも同じように、自分のライトの範囲を広げた。


3人分のライトで部屋全体が明るく見渡せるようになった。

どうやら先程の部屋を全て合わせ、仕切りを無くした一つの空間になっているようだ。

ぐるりと見渡すと、そこには古めかしい物がこれまた丁寧に整然と並べてある。


「わぉ、これは凄いね………」


その部屋を見渡して、エリオットが感嘆の声を上げ、こちらにニッコリと笑いかけてきた。


「違法魔道具のオンパレードだ」


オイッ!

反応がおかしいだろっ!

歴史的に価値のある何かかと思っちゃったじゃないかっ!

頭の中がバグってるエリオットの反応なんかに期待するんじゃなかった………。

猛省しつつ、私も改めて部屋中を見渡してみると、確かに何かの装置に見えるような道具ばかりだった。


「非道徳的な人間性の魔術師が作り出した魔道具や、たまたま生まれた危険な魔道具。

他にも非人道的な用途に使用する魔道具、威力の高過ぎる欠陥品………。

どれも、帝国、王国共に使用を固く禁止され、発見したら処分の対象になっている物ばかりだね。

おや?これなんか、北の大国から発掘される古代遺物の魔具だね。

なるほど、ゴルタールはグェンナから手に入れていたのか」


エリオットがチョンチョンと突いている物に、ノワールがブワッと殺気を漏れ出した。

それはそうだ。

ゴルタールからサンスに渡り、長年テレーゼをあの邸に閉じ込めていた古代魔具が、元を辿ればここから渡ったという事なのだから。


「ふ〜〜ん?グェンナは随分と、北と親密にしているみたいだね。

商人としてどこで商売するかは自由だけど、流石に王国から許可を受けて商売をしている商会が、ここまで北と深い仲では困るなぁ」


ノワールの殺気を物ともせず、エリオットは古代魔具を持ち上げ目の前でクルクル回しながら、困ったように笑った………。

が、こちらも漏れ出るオーラが黒い………。

正直、ノワールの殺気が可愛く感じるくらいだ。

案の定、エリオットから放たれる正体不明の真っ黒なオーラに、ノワールの殺気は相殺されてしまった。


オーラ勝負している訳じゃないんだけど、エリオットのこのオーラに勝てる奴、いんの?

穏やかな微笑みを浮かべながら、こんな邪悪なオーラ垂れ流せるとか、やっぱりコイツは人じゃないな。

改めてエリオットへの認識を再確認した私は、ジリジリとエリオットから離れ、そこに並んだ魔道具の数々を確認していく事にした。


曰く付きの怪しい魔道具の数々には、ご丁寧に説明文まで添えられている。


【病魔魔道具。魔力充填不可。魔法属性以上の人間が必要。

効力:半径1キロ。重篤の病を撒く】


と、こんな風にだ。



「ファイアッ」


私が呟くと同時に、その病魔魔道具とやらが燃え上がり、あっという間に消し炭となった。


なるほどな〜。

それなりの魔力がある人間なら、触れただけでその魔道具の詳細な情報を読み取り使用出来るのだが、グェンナのように魔力の無い人間には取説が必要なんだな。

へーー、勉強になるなぁ。

さて、次は?


【魅了魔道具。魔力充填不可。魔法属性以上の人間が必要。

範囲:50㎝。共に触れた相手を1時間程度魅了に似た状態にする。

注:その間相手の意識は朦朧としており、会話などは成立しない。酩酊状態に近い】


「ファイアッ!」


こめかみに青筋を立てた私の火魔法で、その魅了(?)魔道具とやらもあっという間に消し炭と化した。


「ちょっと、シシリアッ!大事な証拠を次々に消し炭にしていかないでよっ!」


ノワールに肩を掴まれ止められてしまい、私はチッと舌打ちをした。


「そうだね〜〜。ここの記録を取って、現物は証拠品として持ち帰った方がいいかな〜〜」


呑気なエリオットの声に、私は再びチッと舌打ちをした。


「まぁまぁ、グェンナを裁いたら、ここにある物は規定通り、全て処分するから、ね?

古代魔具だけは破壊出来ないから、王家の保管庫に封印されるけど、それも破壊出来る方法を研究するから、ね?」


ご機嫌をとるように私の肩をモミモミと揉むエリオット。

今すぐ全ての魔道具に破壊の限りを尽くしたいところだが、仕方ない。

ここは我慢してやろう。


私とクラウスとノワールで、それぞれの空間魔法にその違法魔道具をポイポイと投げ込み、証拠の品を押収していく。



『あの、先程の美術品の回収はどうなりますでしょうか?』


急にライヒアがそう話しかけてきた。

それにエリオットが申し訳無さそうに眉を寄せる。


「アチラは出入りしている気配がここより多かったからね、申し訳ないけど、囮としてあのままの状態にさせてもらうよ。

こちらは万一使用されたら人命を脅かすような物もあるからね。

早急に回収しなくちゃいけないんだ。

アチラの物まで無くなっていたら、コチラの物が無くなっている事にも勘付かれてしまうから、本当に申し訳ないね、ライヒアくん」


エリオットの言葉に、ライヒアは納得したように頷いた。


『いえ、そうですね。人命には変えられません。

こちらこそ、失礼致しました』


ライヒアが納得してくれて良かった。

不当に東大陸から持ち込まれた盗品の数々だ。

本来なら、それらの捜索を一任されたライヒア

には、今すぐにでも返却請求をする権利がある。

それをコチラの都合で抑えてくれると言っているのだ。

心苦しいが、今はとにかく助かる。

すまんな、ライヒア。

さっきからエリクエリーがライヒアにピッタリ引っ付いて、超近距離からじーーっと無表情で見つめている事も含めて、すまんな。

エリクエリーなりの脅し行為なのだが………ライヒアが幸せそうだから、まぁいっかっ!



「それにしても、この次の部屋に繋がる扉が見つからないね」


広いスペースを3人で捜索するも、次への扉がまったく見つからない。


『その事なんだが、少し妙なんだ。

〝梟〟の報告では、その階の下は一階の販売店舗になる。

バックヤードから倉庫、商談に使う小スペース、全て調べたが、一階には秘密部屋の痕跡がないらしい。

だが、地下の存在があるのでは無いかと〝梟〟は報告してきている。

つまり、その2階は1階へとは繋がっていないが、地下の秘密部屋に繋がる扉が必ずどこかにある筈だ、という事だ』


妖精を通してレオネルの顔が浮かぶ。

その言葉に、私達は顔を見合わせ、はは〜んと同時に笑った。


「なるほど、探すべきは扉では無かった、という事か」


ニヤリと笑うクラウスに、私も同じように笑って答えた。


「そうね、探すべきは、魔法陣だったわね」


私がそう言った瞬間、呑気なエリオットの声が部屋に響いた。


「それって、丁度こんな感じのかな?」


ラグを持ち上げそう言うエリオットの足元に、確かに移動の為の魔法陣が敷かれていた。

私達はエリオットの側に集まり、う〜むと首を捻った。


「これって、間違いなく移動した先に魔法師がいるわよね?」


私の言葉に、エリオットがジッと魔法陣を見つめながら答えた。


「そうだね、グェンナが帝国で雇った魔法師が常駐しているんだろうね」


次にノワールが、困ったように笑う。


「こちら側とあちら側、グェンナは間違いなく最低2人は魔法師を雇っている事になるね」


1人でも莫大な契約金を払わなければいけないのに、グェンナはそれを2人、もしくはそれ以上雇っている事になる。

随分と荒稼ぎしてんだな〜〜。


さて、盗品の美術品に違法魔道具………。

お次は何が出てくるのやら。


「じゃ、移動先の魔法師はぶっ飛ばす方向で」


私が両の拳を打ち合わせていると、妖精を介してミゲルの悲鳴のような声が聞こえた。


『いけませんっ!相手は何も知らない、罪の無い雇われ人かもしれないのですよっ!

まずは対話を試みて下さいっ!』


なるほどな〜〜。

確かに、ありがたいミゲル様のお説教通りかもしれない。

ただグェンナに雇われただけで、悪事には加担してないかもしれないよな。


「じゃ、間髪入れずにぶっ飛ばす方向で」


皆に再確認する私に、ミゲルがなっ!と衝撃的な声をあげている。


「おーーーっ」


皆で拳を打ち合わせていると、ミゲルが絶叫に近い声で叫んだ。


『貴方達はっ!少しは人の話を聞きなさーーーーーいっ!』



ごめん、何か電波悪いわ、ここ。

シレッとミゲルの言葉を無視して、私は一気に魔法陣に魔力を注いだ。





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