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EP.128



海でバーベキューやビーチボールやスイカ割りなどを散々楽しんだ後、夕方からは浴衣に着替えてお祭りの時間だ。

ここでも、お互いの浴衣姿に見惚れてモジクサモジクサするレオリゼに悶絶しつつ、皆がそれぞれ楽しく過ごす事にする。



「あの、何だが僕だけ皆さんのより丈が短いみたいなのですが?」 


あざと可愛くりんご飴片手に小首を傾げるユランに、私とキティとマリーが満足気にもふ〜んと鼻息を漏らした。


「いいのよ、それで。ユラン、それが貴方の魅力を最大限引き出す丈の長さなの」


丈短めの浴衣姿のユランの破壊力っ!

これに勝てるショタいる?

可愛すぎて、りんご飴ごと食べちゃいたい。


「そうです、ユランくん。

膝小僧が見えるか見えないか……そこが絶対領域なんですよ」


にっこりキティに微笑まれ、ユランは納得いかないものの仕方なく頷いていた。

確実に絶対領域について理解出来ていない。

そこがまた、幼気なショタを騙している感があってなお良し。


「ショタはやはり丈短めで、チラ見えする膝小僧を愛でるのが醍醐味ですな、ご腐人方」


目をランランと輝かせたマリーの数々の暴言に、私とキティがブフッと焦って喉を詰まらせた。


バカマリーッ!バカッ!

ショタにショタって言うなっ!

あと勝手に私を腐らせるなっ!

ショタはイケナイお姉様に愛でられるものであって、断じてイケナイお兄さんのお膝の上に座るものではない。

私は腐ってはいない、いないぞっ!


「マリーの言っている事の80%は意味不明だね。

よく僕の事をショタって言うけど、それって何の事?」


ちょっとムッとした顔のユランに、私とキティが慌てて綿あめを買い与えると、初めて口にした綿あめに、ユランは目を見開き、大変気に入ってくれた。

どうやらご機嫌を直してくれたようだ、ヤレヤレ。


「最近、コソコソと影でショタ、とか使い魔ちゃん、とか言われている気がするんだけど、マリー、何か知ってる?」


綿あめを口の端につけて、うりゅ〜っと困り顔のユランに、マリーはハグァッと呻きながら胸を押さえた。


「それは〈うる魔女〉最新刊にユラン氏をモデルにした、黒猫の使い魔という新キャラが登場した為でしょうな。

人型になった時の姿がユラン氏をモデルにしているのであります」


大変丁寧なマリーの説明に、ユランはああっ!と頷いた。


「皆さんもモデルとして登場しているあの書籍だよね?

僕も登場出来るなんて光栄だと思って、二つ返事で承諾したけど、僕、猫でしかも使い魔なの……?

僕も皆さんみたいにカッコいい騎士役とかが良かったなぁ」


ションボリするユランに、またもや私とキティは慌てて、今度はクレープをユランに買い与えた。

これも大変気に入って頂けたようで、ユランはパァッと顔を輝かせご機嫌な様子である。

ふ〜、ヤレヤレ。


「そういえば、僕はまだ最新刊までは読めてないんですが、ちょうど神出鬼没な吟遊詩人が出てきたところまでは読んだんです。

あの吟遊詩人のモデルって、王太子殿下ですよね?」


ユランが私を見上げて聞いてきたので、私は腰に手を当て、それは深い深い溜息を吐いた。


「自分も出して欲しいって煩くて……。

王太子をモデルにして、政治や争いに絡ませる訳にはいかないから、吟遊詩人なの」


私の説明にユランはなるほど〜っと頷き、ニコッと笑った。


「あの吟遊詩人と女剣士が何だかいい感じなのは、殿下とシシリア様のこれからの関係を先だってアピールしてる訳ですね!」


「違うわよっ!」


無邪気なユランの発言に、私は被せ気味で突っ込んでしまった。


それについては作家と揉めに揉めたが……。

作家の書きたいというものに、最終的に口を出す権利は編集には無い……。

こんな事になるなら、女剣士は自分がモデルだと自慢しまくるんじゃなかった。


小説の中での吟遊詩人は、女騎士に一目惚れしてドデカ感情剥き出しで追いかけ回す。

遂にはミステリアスな女剣士が、主人公達がピンチの時に現れるお約束かつ大事な場面にも、吟遊詩人がひょっこり現れるようになってしまった……。


2人の掛け合いはお笑い要素として、今では物語に欠かせないものとなっている……。


表面上の私とエリオットとはかけ離れている為、あくまで物語の中の現実ではあり得ない2人、として読者に受け入れられてはいるが。

どうやら作家に色々吹き込んでいる不貞の輩がいるらしいんだよなぁ……。

たまに覚えのある会話がチラホラ出てくる辺り……。


私はベキボキと拳を鳴らしながら、さてリアルの方も女剣士にやられっ放しの吟遊詩人並みに、ボコボコにしときましょうか?とニヤリと笑う。



「ユ、ユ、ユランくんっ⁈そ、その話題はもうやめましょう?」


キティがアガアガと震えながら、ユランの襟首を掴みユサユサ揺らすと、ユランもガクガク震えながら無言で頷いている。


「リアルでセレブスターな人間が、物語で大衆の好みそうな展開に利用されるのは有名税ってやつよ?

そんなムキにならなくてもぉ………ごめんなさ〜い………」


ナハハと呑気に笑っていたマリーが、ギラリと私に睨み付けられ、瞬時に目を逸らすと真っ青な顔でカタカタ小刻みに震え始めた。


有名税?

そんな税まで課せられた覚えは無いが?

どこにその税を払う義務が?


ビキビキィと青筋を立てる私に、キティが慌てたように腕をポンポンと叩いた。


「あっ、ほらほら、シシリィの好きな射的の屋台が今年もあるよ。

やってくでしょ?ねっ?ねっ?」


ご機嫌を取るようなキティの声色に釣られ、顔を上げると射的の屋台が目の前に……。



クックックッ。

出たわね?

今年こそ、キティアニマルシリーズ(大)をゲットしてやるわ。

覚悟しなっ!射的屋台のおっちゃん(エリオット)!


目線の先に屋台のおっちゃんを捉え、ニヤリと笑うと、私に気付いた相手も同じようにニヤリと笑った。



「えっ?えっ?」


私の雰囲気を和めようと提案したのに、ますます険悪になる私に、キティが困惑顔で私とおっちゃんの顔を交互に見ている。


悪いわね、キティ。

ここには因縁があんのよ……。

今年こそっ!

いざ尋常に勝負っ!


「ファイヤーッ!」


片手を屋台に向け叫ぶと、射的の景品の一部が一気に燃えてあっという間に消し炭になった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!

エリオットくーーーーーーーん(改)っ!!!」


おっちゃんの悲痛な絶叫を聞きながら、私はフゥッと額の汗を拭った。


「これで邪魔なゴミは一掃出来たわね」


いい仕事したわ、私。

腰に手をやり満足した私は、改めて景品を一つ一つ眺める。


あら?今年はcp推し?

キティカラーの猫のぬいぐるみとクラウスカラーのオオカミのぬいぐるみが抱っこし合っている。

ちっ、何だよ。

要らねーもんが引っ付いてやがる。



「あにう……ご店主、今年はご配慮頂きありがたい。

これなら、オオカミの方を撃てば、猫もゲット出来ますね」


後ろからニコニコ顔のクラウスが、まだショックで跪いているおっちゃんの肩をポンポンと叩いた。


「グスッ、王子殿下……ありがとうございます。

遊んで行かれますか?」


涙を拭き拭き立ち上がったおっちゃん……いやもうエリオットね、エリオット。

そのエリオットに、クラウスが頷くと小銭を渡した。


途端に私達から歓声と拍手が巻き起こる。


「凄いっ!クラウスが小銭持ってるっ!」


思わず感心して声を上げる私に、キティがふふふ〜んと胸を逸らした。


「私が教えたのよ?最近ではクラウス様もご一緒に孤児院訪問なさるから、その際2人でちょっと王都街をお散歩したりしてるの。

クラウス様は屋台で飲み物も買えるようになったんだから」


おおう。

いつの間に、そんな初めてのおつかいを敢行していたんだ?

凄いじゃんっ!キティッ!


「去年、私がアレもこれもって屋台を回る度に、屋台ごと買えばいいの?ってクラウス様が仰るから……教えとかなきゃって思って……」


ルーッと涙を流すキティに、ああ……と私は全てを悟った。

大変だったろうな……あのクラウスに小銭の感覚を身に付けさせるの。



「……あの、僕も小銭は所持してないのですが、金貨でも大丈夫ですか?」


小首を傾げるユランを、リゼが冷たい目でバッサリと切り捨てる。


「大丈夫じゃありません。

そんな物、どうやって釣り銭を用意するのですか?

この辺の屋台での取引は、主に銅貨で十分なんですよ?」


呆れたようなリゼの声色に、後ろでレオネルがギクリと体を揺らした。


仕方ねぇなぁ……。

うちの兄ちゃんはよぉ……。


私が密かにエリクエリーに目配せすると、エリクエリーが素早くかつ隠密に、レオネルその他お坊っちゃんズの手に銅貨の入った袋を握らせていった。


去年は事前に配っておいたが、今年は少しは学んだだろうと思っていたのに……まだ甘かったようだ。



「ユランはこれを使いなさい。

女の子達はその辺の男共に遠慮無く払わせればいいからね」


そう言ってユランに銅貨の入った袋を握らせると、ユランが目をキラキラさせてニッコリ笑った。


「ありがとうございます、シシリア様っ!

これでさっきの綿あめとかクレープとかまた買えるんですねっ!」


ん゛ん゛っ!

その笑顔プライスレスッ!

可愛すぎてお姉さん貢ぎ過ぎちゃいそうっ!

やはりユランには都度買い与えて、この笑顔を都度こちらに供給してもらう方が良かったかな?

でも親心としては、初めてのおつかいも経験させてあげたいっ!


う〜むと私が悩んでいると、後ろでパンッと軽い音がして、クラウスが一発でクラキティcpぬいぐるみをゲットしたところだった。


「お〜お見事、見せて見せて」


今年のぬいぐるみの出来が気になった私は、クラウスに手を伸ばしそのぬいぐるみを貸してもらう。


うむうむ。

ちゃんと離せるようになってるんだ。

肌触りも良いし、細部まで細かく可愛いが詰まっている。

へ〜〜、そういや他にもあったけど、どんなのがあんだろ?


お礼を言ってクラウスにぬいぐるみを返そうとした瞬間、ピコンと良い事を思い付いた私は、ササッとそのぬいぐるみにある魔法を付与した。


この前、前世の記憶を元にして面白い事を思い付いたんだよね〜。

それをノリで術式に構築しといたんだけど、丁度いいからこの2人にモニターになってもらおう。

強制的に。



「何だ?」


魔法の気配に気付いたクラウスが、ピクッと眉を動かしたが、私はニヤリと笑ってぬいぐるみをなんでも無いように返却した。


「別に、何でも?」


ニヨニヨ笑う私に、クラウスは小さな溜息を吐きながらぬいぐるみを受け取る。

まぁ私がキティに害を成す事をする訳がないので、クラウスは面倒くさくなって追求を諦めたようだ。



さて、私もなんか射的で取ろうかなぁ。

などと思いつつ振り返ると、何故かマリーがへっぴり腰で射的台に齧り付き、下手っぴな腕前であちらこちらにコルクの弾を撃ち散らかしていた。


「うにゃぁぁぁぁぁっ!!!

あんな物っ!何故あんな物がこの世にっ!

回収っ!直ちに回収してあのウサギを滅しなければっ!

私の推しに引っ付きおってっ!

うぉにょれぇーーーーーーっ!」


鬼気迫る勢いだが、見事に一発も当たっていない……。

何をそんなにムキになっているのかと、マリーが狙っている(らしい)ぬいぐるみを見てみると、深いブルーの毛並みに赤い瞳のジャッカルに抱っこされている、サンディブロンドの毛並みにクリームイエローの瞳のウサギのcpぬいぐるみだった。


おやぁ、ジャマリcpぬいぐるみじゃないですか。

マリーはあのウサギが自分とは気付いていないみたいだけど。



「見てらんねーな、下手くそ。

代わってやるよ、あのウサギが抱っこされてるやつだろ」


アハハッと笑いながら、ジャンがマリーから銃を奪い、パンッとこれまた一発で撃ち落とす。


屋台のおっちゃ……エリオットからぬいぐるみを受け取ったマリーは、即座にフンッと2匹を引き離し、ウサギの耳を持ってブンブン振り回した。


「ヌハハハハハッ!この恐れを知らない小さき弱者めっ!我が推しに遠慮もなく抱きつきおってっ!

こうしてやるわっ!こうしてやるわっ!」


まだそれが自分のぬいぐるみ化された物とは気付かないマリーから、ジャンが呆れたようにそれをサッと奪い去った。


「コラコラ、やめてやれよ。

可哀想だろ?ほら、よく見ろ、可愛い顔してんのに。

毛の色とか目の色とか、何となくお前に似てんじゃん、なっ?

こっちは要らないなら、俺が貰ってやるよ。

こんな可愛いのに、酷いことされたな、お前」


そう言ってジャンがウサギのぬいぐるみにキスした瞬間、マリーはそれが誰を模して作られた物なのかやっと理解したらしく、ボンッと頭から湯気を出し、顔を真っ赤にしてフラフラとおぼつかない足取りで後ろに下がっていく。


「おいっ、バカッ、危ないっ」


そのマリーが足を絡ませて倒れそうになったところを、ジャンが咄嗟に腕を伸ばして背中を支え、グイッと自分に引き寄せた。


ジャンの胸に抱きしめられる形になったマリーは、もうドロドロのスライム状になってもおかしく無いくらい、ますます顔を赤くして目を回している。


「何か、こんなのばっかだな、お前」


呆れつつもマリーの頭をポンポン叩くジャンに、マリーはヘロヘロになりつつも何とか答えた。


「しゅ、しゅみましぇん……」



……その一部始終を見ていた私とキティはもうニヤニヤが止まらない。


「何か……既にお腹いっぱいなんですけど」


フヘヘとニヤつく私の袖をキティがぐいぐい引っ張って、手の甲でジュルリと涎を拭いている。


「まだまだぁ、おかわりならいっぱいあるわよ」


ギラつくキティの目線の先には、大好物のリオリゼの姿が……。



「オゥ……もう消化不良起こしちゃうヨォ」


文句を言いつつ再び目をギラつかせる私の視線の先で、リゼが射的の銃を抱き抱えて困ったようにウロウロしている。

それを気遣わしげに見つめるレオネル。


「んっ、ごほんっ、リゼ嬢、何か欲しい物でもあるのか?」


自然体を装おうとして、逆に不自然なレオネルの咳払いに、私とキティは密かに笑いを押し殺した。


「あ、あの……アレが……」


リゼが遠慮がちに指差したのは、漆黒の毛並みに金色の瞳のキツネに抱っこされた、藍色の毛並みに水色の瞳のハリネズミcpぬいぐるみ。


それを一目見て、レオネルはカッと目を見開き、無言でリゼから射的の銃を受け取ると、パンッとやはりコチラも一発でぬいぐるみを撃ち落とした。


多分自分達を模したぬいぐるみだと瞬時に悟り、衆目に晒されるのが恥ずかしくなったんだろうなぁ、兄ちゃんよ。


手に入れたぬいぐるみを、これまたリゼに無言で手渡すレオネル。

始終頬が赤いのは許してやってくれ。

うちの兄ちゃん、純情なんだよ。



「レオネル様、ありがとうございます」


嬉しそうなリゼの笑顔に、レオネルはカッと顔を赤くすると、無言でコクコク頷いている。

アレだな、いつもは無表情な彼女がたまに笑った時の破壊力な。

頑張れっ!うちの兄ちゃんの心臓っ!

耐えろっ!耐えてくれっ!



もう楽しくて堪らない私とキティは、顔を見合わせウシシッと笑い合う。

人の恋路を盗み見てお腹いっぱいにする私達もどうかと思うが、耐え切れず後ろを向いて、密かに肩を震わす奴らもどうかと思うよ?


なぁ?クラウス、ノワール、ミゲル?






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