EP.127
「ウホッウホッウェアッ!!(シャウト)
ゲオルグ氏の生胸筋キターーーッ!
逞しい胸筋に古傷っ!これこれこれぇっ!
エリク氏のスリムな筋肉もたまらんっ!
肌きめ細かっ!えっ?男子なのに絹肌って!
頬擦りさせたいっ!攻めにスリスリさせたいっ!
あぁぁぁぁっ!エリーさんの水着姿眼福です、ありがとうございました。
ユラン氏のショタな半裸に背徳感が止まらないっ!
滾るっ!私の制作意欲が滾るっ!
さぁっ!皆さんご一緒にっ!ハイッ!
尊ーーーーーーーーーいっ!!!」
海なのに山彦を響かせ、ノンストップマリーの暴走が止まらない……。
いやまぁ、それも仕方ない事なのだが……。
去年に引き続き、私達は夏季休暇を利用して師匠の所有している王国内のリゾート領地に来ていた。
早速海へと繰り出した訳だが、皆の水着姿にマリーの興奮は最高潮。
鼻息荒く何枚もスケッチしては、とにかく描き散らしている。
「それにしても……マリー、良い仕事するわね」
ふふふと無遠慮にリゼの水着姿を上から下まで舐め回すように眺めていると、いつの間にやら隣に立っていたキティが、じゅるりと涎を手の甲で拭っていた。
お前、社交界の麗しき薔薇とかって呼ばれてなかったっけ?
「グッジョブよ、マリーちゃん。
分かるっ!分かりみが深すぎるっ!
リゼちゃんにスク水着せたくなっちゃうの、分かるよっ!
もちろんセパレートで色は紺っ!
マリーちゃんは本当に分かってらっしゃるっ!」
ハァハァと変態じみた荒い息を吐くキティだが、私とてあのリゼの姿にだいぶ鼻息が荒い。
「水着を買うくらいなら夕食を一品増やします、と頑なだったリゼに誰がプレゼントするか迷ったけど、マリーに任せて間違いなかったわね」
ウヘヘヘッといやらしい目でリゼを見つめる私に、キティが何度も頷いている。
「何故かしら……1番地味で肌の露出度も最小限だというのに……エロい……逆にエロい……。
リゼちゃんのスタイルの良さとスク水のゴールデンコンビによる背徳感がヤバいっ!」
ガチ同意っ!
マジでそれっ!
ヤバいよスク水っ!
ワンピースタイプも捨て難いが、あのセパレートタイプであそこまでの色気……。
リゼ……恐ろしい子っ!
「しかしマリー……この時点であんなに興奮して大丈夫かしら?」
ゲオルグとエリクを引っ付かせて見つめ合わせている(セクハラ)マリーを、流石に心配していると、キティも心配そうにマリーを見つめていた。
「そうね、私達、やっちゃったかもしれないわね。
このままシークレットキャラが登場したりしちゃったら、マリーちゃん鼻血ふいて召されちゃうかも……」
キティの不吉な予言に身震いしていると、ビーチの上から聞き慣れた声が聞こえた。
「おーーい、合流しようぜーーーっ」
太陽を背に現れたのは、ジャンを先頭にした、やはりいつものメンバー。
が、マリーやリゼ的にはまごう事なきシークレットキャラ。
「んがっ!にゃっ、にゃっ、にゃぜ我が最推し様が……み、水着姿でご登場っ!」
ピャッとその場で数センチは飛び上がったマリーに、私とキティは同時にああ〜っと額に手をやった。
すげータイミングで現れやがる。
流石主要攻略キャラ共だな。
「よぉっ、今年も夏合宿とかお前ら本当海好きだな。
今年は屋台も花火もここだけで頼むぜ」
ジャンがニコニコ笑顔でクラウスとキティに圧をかけている。
そういや去年はクラウスがキティの為に、王宮で屋台と花火を再現したんだったな〜。
なんかもう既に懐かしい……。
クラウスが知るかといった感じでジャンから顔を背けるのを、キティが両手で押し戻しながら、メッですよ、と言い聞かせている。
お陰でクラウスの機嫌が最高潮になったところで、背後からの不穏な空気に気付いた……。
「おしゅ、おし、おしゅしゅ、推しの半裸……生筋……胸筋ヤバい……。
あ、無理……頭の中から漏れちゃうっ!
推しと攻め達のハーモニーが漏れちゃうっ!
いや、やめてっ、そんなの勿体無さ過ぎるっ!」
半狂乱で悲鳴を上げたと思ったら、マリーがおもむろに凄い速さでスケッチを始めた。
その姿はもはや、何か悪い物に取り憑かれているかのようだった……。
「なんだ?マリーだっけ?何描いてんの、お前」
急にジャンがマリーの手元を覗きこんだものだから、私は慌てて指を鳴らす。
直ぐにエリクエリーがシュバッと目にも止まらぬ速さで動き、あっという間にマリーのスケブを回収していく。
その辺に書き散らしている、ゲオルグ×エリクや、レオリゼ(水着バージョン)などのスケッチもサササッと回収していく。
ふ〜〜危なかった……。
ウルスラ先生があのレベルで盛り上がっている時の絵は、ピーでピーが〇〇でぐっちょんぐっちょんだからな。
推し様には見せらんないんだわ、悪いな、ジャン。
「うぉっ、ビックリした……。
何なんだよ、お前ら……」
訝しげに私達を見つめる目の前のジャンに、マリーがやっと気付いた。
「推しのご褒美ショットがこんな近距離で……。
えっ?なに死ぬの?私今日死ぬの……?」
間近でジャンの半裸をまじまじと見つめ、マリーは開き切った瞳孔でぶつぶつと呟いている。
「何だよ、大丈夫か?お前」
流石に異様なマリーの様子に気付いたジャンが、マリーの頭にポンと手を乗せ、その顔を覗き込んだ。
「んがふっ!推しの半裸ぁぁぁぁっ、からの頭ポンに顔近っ!
今日が我が人生、最良の日とみたっ!
尊死不可避ーーーーーっ!」
ブッと鼻血を噴き出すと、マリーはそのまま後ろにフラァと倒れた。
本当に鼻血ふいてぶっ倒れやがったっ、コイツっ!
「おいっ!いきなりなんだよっ⁉︎大丈夫かっ⁉︎」
咄嗟にジャンがマリーの背中を支え、その勢いで抱き上げると、心配そうにその顔を覗き込んでいる。
流石に鼻血は可哀想なので、私が綺麗に拭いておいてやりながら、ジャンにマリーをさり気なく押し付けておいた。
「多分、日光に当たり過ぎたのね。
ジャン、あっちで休ませといてくれる?」
私の水魔法と風魔法の結界で、快適空間となっているパラソルとビーチチェアなどが並んでいる場所を指差した。
「あっ、あとミゲルはついでに光魔法で紫外線カット効果も付与しといて」
やっと便利なのがきたわ〜〜。
「分かりました、紫外線も皆さんのお体に障りますからね。
個別にも付与しておきますから」
直ぐに私の結界と、皆にそれぞれ光の加護を付与するミゲル。
はぁ、やれやれ。
これでビーチチェアで何も気にせずダラダラ出来るぜ。
マリーをビーチチェアに寝かせ、冷たいタオルを額に乗せたりと、意外にも甲斐甲斐しく看病しているジャンを眺めながら、幸せそうに気を失うマリーから魂が抜けていく(幻覚)のに気付いて、慌てて手の風圧でバサバサと元に戻しつつ、周りにフヨフヨ浮かんでいる天使(幻覚)をシッシッと追い払っていると、キティが遠い目をしつつ、私の隣に座った。
「見事に召されたわね、マリーちゃん……。
私も去年の夏イベはヤバかったわ……。
何度浄化されて召されそうになったか……」
ええっ、こっわっ!
何で男の半裸如きで召されそうになるの、コイツら……。
しかも召される事に躊躇が無いのが余計に怖い……。
憐憫の目で隣のキティと、気を失ったままのマリーを交互に見ていた時、マリーがうぅん……と小さく唸りながら、幸せそうな声を出した。
「……オモォ………オ、オモォ…………」
あかーーーーーーーーんっ!!!
マリー、それあかんやつやっ!
どんな寝言ぶちかましてんだよっ、この歩く猥褻腐作家っ!
「なに?重いのか……?よしよし、直ぐに軽いやつに変えてやるから、な?」
ジャンがマリーの額に乗せたタオルを持ち上げると、直ぐに取り替えに行った。
セーーーーーフッ!
マジかよ、奇跡が起きた……。
良かったな、マリー。
神はまだお前を見捨ててなかったよ……。
「素人さんの真っ直ぐな反応が眩しい……っ!」
キティがウッと胸を押さえて苦しそうに息を吐いている。
うん、そうだな。
お前らの腐はちょっと浄化されといた方が良いかもな……。
濃過ぎんだよっ!
その時、ピコーンとキティの乙女脳レーダーが反応して、ガバッと顔を上げると、ある一点を凝視し始めた。
私も直ぐに、キティの視線の先を追う。
なになに、今度は何だよ。
その視線の先には、何やら所在なさそうな雰囲気でモジモジとしている一組の男女が……。
キターーーッ!
レオリゼ、キタコレッ!
一気にその2人に神経を集中して、耳をそば立てる私達。
「リゼ嬢、いつも丁寧な手紙に素晴らしい贈り物をありがとう」
リゼの方を一切見ようともせずに、レオネルがそう言うと、リゼも同じようにレオネルの方を一切見ずに答える。
「私の方こそ、いつも過分な贈り物を頂いてしまって……あの、この間頂いたピンブローチは制服につけさせていただいています……」
「む、そ、そうか。使ってもらえて良かった……」
それだけ言って、お互い真っ赤になってモジモジしているだけの、ペンフレンド2名……。
「……風、とか吹かないかしら……。
ここで都合良く、風とか吹かないかしら……」
「そうねぇ……」
キティの呟きに、私も呟き返しながら、指で2人に向かってスイッと風魔法の追い風を吹かせてみた。
「キャッ……」
急な風に背中を押されてよろけるリゼを、咄嗟にレオネルがその胸で受け止めて支える。
「リゼ嬢、大丈夫か?」
心配そうにリゼの顔を覗き込むレオネルに、リゼはますます顔を真っ赤にして、か細い声で答えた。
「……はい、大丈夫、です……」
お互い水着姿である事に気付いたレオネルが、直ぐにバッとリゼを離して、誤魔化すように咳払いをしながら、ボソッと呟く。
「すまない……」
「……いえ……」
お互いそれだけ言うのが精一杯といった様子だった。
「甘酸っぱーーーーいっ」
「アオハルかよーーーーーっ」
一部始終を見ていた私とキティは、体をプルプル震わせて、叫びたい気持ちをグッと抑え、なんとか小声で我慢する。
「キティ、アオハルって、何?」
急に割り込んできたその声に、キティがピャッと数センチ飛び上がり、条件反射で威嚇するように毛を逆立てて(幻覚)叫んだ。
「ク、クラウス様っ!」
キティの動揺などお構い無しに、クラウスはその顔を覗き込んで、不思議そうに首を傾げている。
「アオハルって、何?誰?ってか、男の名前……?」
口元だけかろうじて微笑んではいるが、完全に瞳孔がパッカーンしている……。
おぉう………ゲロ怖い………。
「青い春、略してアオハル。
つまり青春って意味よ」
ガタガタと震えるばかりで使い物にならないキティの代わり答えてやると、クラウスの目がスッと正常に戻った。
スゲーな、それ。
自由自在かよ……。
白目くらいならまだしも、瞳孔好きにコントロール出来るって、お前は何余計なもん内蔵してんだよ。
「それで?さっきから何を夢中で見てたの?」
途端に甘くなったクラウスの声に、体の力が抜けたキティはレオリゼを黙って指差した。
キティの指差した方に視線を移し、クラウスも一緒になってレオリゼを眺める。
2人は相変わらずモジクサモジクサしている訳で………。
「ぶふっ……………!」
珍しくクラウスが吹き出し、レオリゼから顔を背けると肩を揺らし始めた。
おい、笑ってやるな。
うちの兄ちゃんあれで精一杯なんだから。
頑張ってる方なんだぞっ!
「やめなさい、クラウス……失礼だよ…ふ、ふふふ……」
そう言うお前も笑ってんじゃん、としか言いようの無いノワールが、諌めるようにクラウスの肩をポンポンと叩いた。
その後ろでミゲルがレオリゼに神の祝福を与えようとしている……。
やめんかっ!
簡易結婚式を挙げようとするなっ!
簡易過ぎるわっ!
「ミ〜ゲ〜ル、余計な事やめて」
スパッと私に祈りを中断されて、ミゲルはシュンと肩を落とした。
「ですが、この機を逃したらレオネルにもう二度とお嫁さんなんかきませんよ?」
不吉な事言うなっ!
あとリゼに本人の知らないとこで強制すなっ!
「あのねぇ、ミゲルの心配はまぁ、ごもっともだけど、アンタやノワールだってかなりヤバい状態じゃない」
女の影さえない貴様が何を言ってるんだ。
「私は別に世襲性ではありませんから。
神の元では皆が家族です。
光属性の強い者、そして神の意志を正しく広める事ができる者が、代々大司教を務めるだけですよ。
高位神官の地位とて同じ事です。
皆さんには申し訳ありませんが、婚姻は完全に個人の自由なんです」
ふふふっと余裕で微笑むミゲルだが、私は知っている。
コイツが山ほど持ち込まれる見合い話から、毎日必死で逃げ惑っている事を……。
ようは腹を括れない独身男の言い訳だよね?
「僕には心に決めたご令嬢が既にいるからね。
いずれ彼女をお嫁さんにもらうから、心配いらないよ」
花を背負ってニッコリ微笑むノワールに、キティがパァッと顔を輝かせた。
「お姉様の行方が分かったのですか?」
ウキウキした様子のキティに、ノワールは申し訳無さそうに顔を俯かせた。
「ごめんね、キティ……それはまだなんだ。
でも必ず僕が見つけてみせるから、安心して?」
背中に背負った薔薇がみるみる真っ黒になっていっているが、何を安心しろと?
折角この粘着黒薔薇男から逃げ切っているというのに……そのご令嬢の事はそっとしておいてあげなさいよ……。
「そうですわね……お兄様なら必ずお姉様を見つけ出して下さるわね……」
ふふふっと笑うキティの背後にも、真っ黒な大輪の薔薇がっ!
いや、お前もかいっ!
逃げてーーーっ!
名も知らないご令嬢だけども、頑張って逃げてーーーっ!
一体そのご令嬢は、この粘着兄妹に何をしてこんな大捜索されるような事になってんの?
人の恋路に何とやらで馬に蹴られちゃうから、ってかぶっちゃけノワールの執着が怖すぎて今までスルーしてきたんだけど、何かもうここまできたら流石に気になるわっ!
とはいえ、まだ聞く勇気は無いけども……。
「それにしても、エリオット様は来られないのね?」
キティが辺りをキョロキョロと見回し、不思議そうに小首を傾げている。
「ああ……アイツは色々と忙しいのよ……」
そう答える私に、クラウス、ノワール、ミゲルが同時に小さな溜息を吐いた。
「王太子殿下だもの、お忙しくて、私達のお遊びにそうそうお付き合い頂けないわよね」
キティが残念そうな声でそう言うと、皆がニコニコとうんうん頷いた。
そう、アイツは色々と忙しいのだ……。
屋台の用意とか屋台の用意とか屋台の用意とか。
さて、今年こそ、射的の屋台のおっちゃんの額を撃ち抜いてやるぞ。
結局貰えなかったキティアニマルシリーズ(大)もゲットしなきゃだしな。
それに、またあの犯罪アイテム(エリオットくん人形)が並べられてたら、端から燃やしとかなきゃだし。
いやぁ、午後からも忙しくなりそうだ。




