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EP.126



クラーラアランさんの葬儀が無事しめやかに執り行われた後、エリオットが公式に自分の婚姻についての発表を行った。



『この後一年間、私は亡き婚約者の為喪に服す。

婚姻についてはその後、話を進める事にする』


……この期に及んで、まだアランさんを最大限利用してくるとは……。


勿論これは、事前にアランさんとルシエット伯爵夫妻から了承を得ている事とはいえ……。

本当に、当時5歳の時点で、エリオットはどこまでを見越してクラーラ嬢を婚約者に選んだのか……。


ちなみに当時私は0歳。

産まれたと同時に、クラウスの最有力婚約者候補に決定していた。


アランさんにこっそり聞いた話では、最初から王太子であるエリオットの婚約者として育てるより、そっちの方がまだシシリアらしく過ごせるだろうと思って、黙って見ている事にした。

と、後々言っていたらしい。


いや、変態。

0歳児に既に目を付けていたかのようなその発言に鳥肌が止まらない私を、アランさんが憐れみの目で見つめていたなぁ……ハハハハハ……。



兎にも角にも、そのエリオットの発言を受け、一気に王族派が大人しくなった。

一年間の間に私とフリードを婚約破棄させれば良いのだと思う者、自分の家門の娘を王太子妃として教育する時間が出来たと喜ぶ者。

どちらにしても、水面下では大騒ぎだが、表面上は随分と静かになった。


貴族派の方は、こっちはこっちで憚る事も無く大騒ぎしている。

独身のままでは王位は継げないので、これを機に一気にエリオットを引き摺り下ろし、私とフリードの婚姻を急いで、フリードを王位につける気満々だ。


……いやぁ、相変わらず脳内お花畑な奴らの集まりだなぁ……。

しかも、クラウスの存在忘れてるし。


例えエリオットが王太子の立場から辞したとしても、婚姻目前の婚約者がいるクラウスがその場に収まるだけなのだが?


まぁクラウスは、一部の者しか知らない事とはいえ、闇属性持ちだからして、本当にそんな事になろうもんなら、我が家を筆頭に、ローズ侯爵家やその他有力貴族が反対するから、実現は難しいかもね。


何だかんだと、弟が一応2人もいる状態だというのに、実はエリオットには後がないんだよな。

自分が王位を継ぐ以外、あまり道が無い。

ワンチャン、レオネルに回すって道があるにはあるが、それでは王家として情けなさ過ぎるので、やっぱりエリオットが踏ん張るしか無いのだ。


まぁ、まずどう間違っても、あの何の実績も無い、能無しのボンクラに王位が巡ってくる事など無いのだが。

それは例え、私と本当に婚姻したところで無理だ。

私の挙げた数々の実績をフリードの功績にするくらいはやりそうだが、それでもエリオットには敵わないだろう。


暢気な貴族派貴族達とは違い、派閥の党首であるゴルタールは流石、多少は現実が見えているというか、抜け目ないというか、早速自分の息のかかった家門のご令嬢の中から、目ぼしい令嬢を選び抜き、一年後に行われるだろう、王太子妃選抜バトルロワイヤルに備えているとの事らしい。


ゴルタールとしても、馬鹿なフリードを王位につけて、祖父として後見人になりフリードを傀儡にするのが最も理想的な姿だろうが、そんな事が本当に実現するとは思っていないのだろう。


めげずに毎日エリオットに暗殺者を送りつつ、エリオットの王太子妃を自分の息のかかった令嬢に狙わせる、という正にあの手この手を同時進行させるところなど、本当にあのフリードの祖父なのかと疑う程に狡猾でアグレッシブだ。


いい歳して本当に元気だよなぁ。

マジでそこだけは呆れるを通り越して、一周回って呆れるわ。


そんな訳で、私の周りが一気に騒がしくなったのだが……。



「はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ」


盛大なため息をつきつつ、生徒会室の実務机に突っ伏する私に、リゼが労わるように黙ってお茶を差し出してくれる。


そのお茶を有難く飲みながら、げっそりとした表情の私に、皆が同情の目を向けてくれていた。



「シシリアも災難ねぇ……。

フリード殿下の婚約者として、何の問題も無く過ごしていれば、その内向こう有責で婚約破棄出来て自由になれたってのに」


マリーが憐憫の目で私を見つめそう言うと、キティが残念そうに首を振った。


「最初からそうはいかない事は分かっていたじゃない。

エリオット様がシシリィを逃す訳ないもの……。

今までは、エリオット様なりのせめてもの情けだったのよ。

少しでもシシリィに自由でいさせてあげたいって思ってたのね。

今回の一年喪に服すっていう話も、結局はシシリィの為でしょ?」


キティの言葉に、ますますため息を吐く私。

しかし、その話にリゼがムッと眉を寄せた。


「エリオット殿下はクラーラ様を一途に想ってらっしゃると思っていました。

病弱な婚約者を一途に支え、想い続ける殿下の姿は、貴族だけでなく、平民の間でも美談として語られていたというのに。

それがシシリア様を想っての事だったなんて……。

シシリア様には何の非も有りませんが、私は少しエリオット殿下に失望致しました」


自分の考えは何も憚らずちゃんと言うリゼだが、流石にここまでの事は私達仲間内でしか言わないだろう。

そのリゼの見解を、私は少し意外に思って片眉を上げた。


「リゼなら、公爵家の、しかもアロンテン家の私の方が、王太子妃として合理的で理想的ですね、とか言うかと思ってたわ」


私の言葉にリゼは焦ったような顔で辺りをキョロキョロ見渡し、直ぐにゴホンと咳払いをした。


「もちろん、そう思っています。

ただ、少し、亡くなったクラーラ様が憐れに思えまして」


キリッと前を見てそう言うリゼに、私は罪悪感に一杯になってまた机に突っ伏した。

そうだよなぁ〜〜。

クラーラ嬢が亡くなった途端、貴族達が目の色を変えてこぞって王太子妃を狙い始めたんだから、確かにそりゃ見るに耐えんよなぁ。


しかし、落ち込む私を嘲笑うかのように、マリーが笑い声を上げる。


「何言ってんのよ、前に病弱な婚約者様を早く諦めて、王太子殿下は然るべき令嬢と婚姻して王位継承を確固たるものにするべき、って言ってたのはリゼじゃない。

シシリア、気にする事ないわよ。

この子最近、浮かれてんのよ。

人生初の乙女モードで色々拗らせてんの。

今まで見もしなかったロマンス小説とか読んだりして、溜息吐いたり、涙ぐんだり。

お花畑の住人になっちゃったのよね〜〜」


そのマリーの話に、私はバッと顔を上げ、ニヤニヤ笑うマリーの顔を見た。

直ぐにリゼが焦ったような声を上げる。


「な、何を言うのっ!そんな事無いわっ!

ロマンス小説だって、ただ自分の見識を広げるのが目的でっ!

そ、そんな、お花畑だなんてっ」


珍しく動揺するリゼに、私もマリー同様ニヤニヤしてしまう。


「……見識ねぇ……。

それにしては本のタイトルが偏ってんのよねぇ。

『貧乏令嬢と公爵様』とか『麗しの公子は堅物女史を離さない』とかぁ……?

一体、誰と誰を妄想して読んでるんだかぁ?」


ニヤニヤとわっるい顔でリゼを見るマリー。

コイツ、本当に意地が悪い顔している時はイキイキしてるよな……。


リゼはといえば、真っ赤な顔ですでに涙目になっている。



「何だがそのタイトル、リゼとレオネル様を当てはめたみたいだね?」


そこに鈍感な上に無邪気なユランが、マリーとは違い、全くの悪意なくとどめを刺して、リゼはとうとう泣きながらキティに抱きついた。



「あ〜もう、マリーちゃんも、あと一応ユランくんも、リゼちゃんをあんまり虐めないの。

リゼちゃんの言っている事は至極最もな意見の一つよ。

でもね、リゼちゃん。

クラーラ様の事は実はクラーラ様自身が納得して、エリオット様の寵愛深い婚約者を演じていたのよ。

クラーラ様はお身体の事もあって、婚約や婚姻の話が煩わしく思っていたの。

だからエリオット様に協力して、エリオット様の婚約者を演じる事にしたのよ。

そうすれば、自分も煩わしい見合い話から逃れられるでしょ?

そうして余生を静かに過ごす事がクラーラ様の望みでもあったのよ。

エリオット様とは利害の完全に一致した、いわば同志として、最後まで良い友情を貫いた間柄だから、クラーラ様を憐れに思う必要はないのよ?」


リゼの頭をよしよししながらキティが(表向きの)説明をしてやると、リゼは涙に濡れた顔をやっと起こした。


「それでは、何故エリオット様はそんな遠回しな事をなさったのですか?

シシリア様ならエリオット様の婚約者として申し分のない家柄ですのに。

最初からシシリア様を婚約者にしていれば良かったのでは?」


鼻をグスグスいわせながら、リゼがそう問うと、キティが緩く頭を振った。


「その時点ではエリオット様に見合ったお年頃のご令嬢が沢山いたからね。

産まれたばかりのシシリィは年の近いクラウス様の婚約者候補になる事が決まっていたし、王太子の婚約者より、第二王子の婚約者候補の方が安全だったのよ。

加えて病弱なクラーラ様なら、その内婚約者を自ずと辞するだろうと考えられていたから、その身を狙われる事も無かったし。

そうこうしている間に、エリオット様に丁度良い年頃のご令嬢は次々にお嫁にいかれて、今に至る訳。

今はシシリィはフリード様の婚約者だから、貴族派から狙われる事は無いし、傍系王族であるシシリィを王族派が狙う事なんて最初から有り得ないし。

エリオット様はシシリィの身の安全が確約出来るまで、動くつもりはなかったんじゃ無いかな?

更に今では本人が超一級戦闘民族にクラスチェンジしちゃってるから……。

おいそれと命を狙われる事もないし……」


キティが遠い目をした瞬間、エリクエリーとゲオルクが私を守るように戦闘スタイルを真似て前に立つ。


「そうそう、最強の戦士も従えているし、ね……」


更に遠い目をするキティに、リゼが納得したように頷いた。


「第二王子の婚約者であるキティ様でさえ、その身に危険が迫ったくらいですものね。

王太子の婚約者であれば、その危険は計り知れないという事ですね。

アロンテン家のご令嬢に万が一も無いとは思いますが、エリオット様はそこまでシシリア様を想ってらっしゃったという事だったのですか……」


そう言ってこちらを振り返ったリゼの表情に、私はヒェェェッと震え上がった。


えっ?

どちら様?

なにその乙女な表情っ!

恋に恋する典型的な乙女の潤んだ瞳っ!


可愛いよ?

可愛いけど、キャラ崩壊し過ぎじゃ無い?

いいのか?

今後それでいくのか?

いくんだな?

よし、分かった。

うちのレオネルも既にキャラ崩壊起こしてるしなぁっ!

君ら本当に似た者同士やなっ!



そのリゼに、マリーが心から楽しそうにクックっと笑った。


「普通に考えて、オットーの腹黒さにドン引きするとこだと思うけど。

いやぁ、恋は人を馬鹿にするって本当だね。

こんな馬鹿なリゼ見れるなんて、もう一生ないかも」


そう言いながら、いそいそとそのリゼをスケッチしまくるマリー。

ああ、次回作が楽しみで仕方ありませんっ!先生っ!



「さてっ!何か色々鬱々する事ばっかりで、気分がスッキリしないわねっ!

ここは一発っ!行きましょうか?」


ガタンッと立ち上がった私に、リゼとユランが何事かと目を見開いている。

マリーは既に察したようで、その瞳を見開きランランと輝かせていた。


「行くって、何処にですか?」


呆然としたままユランがそう聞いてきたので、私はズビシっとそのユランを指さし、高らかに発表した。


「何処って、海よ海っ!

師匠の所有している領地でバカンスよっ!

親睦会を兼ねた夏合宿といきましょうっ!」


うおっしゃーーっ!と拳を振り上げる私に、勢いよくマリーが乗ってきて、一緒になって拳を振り回す。


「うっひょ〜〜ぉ、いぇあっ!やっ!やっ!

水着祭りだっ!うっひょほ〜〜いっ!

前からゲオルグ氏の生筋が気になってたのよねっ!

エリク氏のガリ筋もしっかり拝みたいところっ!

ショタ枠のユラン氏にロリッ子枠のキティたんっ!

もちろん、リゼの秘めし美スタイルにエリーさんの大人な水着姿も見逃せないっ!

ハァハァ……脳内だけじゃ足りないわ、これ。

スケブ担げるだけ担いでいかなきゃ……」


目を充血させ、涎を垂らしながら荒ぶるマリーに、私とキティは密かに視線を合わせると、ニタァッと同時に薄気味悪く笑った。



……マリーもまだまだ甘いわね。

私達の夏合宿がそんな生温い訳ないじゃない……。


リゼを笑っていられるのもここまでやで?

君も突き落としてあげるよ?

その、乙女を拗らせたお花畑の住人?でしたっけ?

恋は人を馬鹿にするらしいし?

マリーの場合それ以上脳がアレになるのはちと心配ではあるが……。

まぁ、いいでしょうっ!

夏だしっ!


ヒャッホーーーイッ!

夏だぜっ!

海に祭りに花火に屋台っ!

虫捕りに市民プールの夏がっ!

今年もくるんだぜぇぇぇぇっ!


行くぜっ!

毎年(?)恒例っ!

生徒会夏イベっ!

夏合宿〜〜〜〜っ!(という名のバカンス)







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