EP.103
春だなぁ〜〜……。
今日は新しく入学してくる生徒達の入学式の日。
私達は王立学園の2年生になっていた。
いよいよ私が生徒会長として、学園を自治していく訳だが。
ぶっちゃけ、クラウス達の世代より楽勝だと思う。
なんと言っても生徒の質が違う。
皆優秀な人間ばかりだし、もうフィーネのような準魔族に踊らされる人間もいないだろうし。
ちなみに今回弾かれた生徒達の為に、組織とアロンテン家で私立学園を建設した。
落ちこぼれた生徒達の家からガッポリ寄付金をゲットして、貴族好みの金銀ギラギラした目に優しい建物になっている。
実は組織によって、3年も前からうちの父上が全面に出て建設を進めていたので、いつでも生徒を迎えられる状態ではあった。
弾かれた生徒達の親がこぞってそこに寄付金を積んだので、彼ら好みのギラギラした装飾を追加しまくって、ハイ出来上がり。
貴族、または大商家の人間で、金さえあれば誰でも入学出来る素敵な救済措置となっている。
貴族を一つの場所に纏めておけば、不穏な動きも分かりやすくなり、まさに一石二鳥。
まったく組織はどこまで見越して、いつから動いていたのやら……。
ちなみに組織組織と言っているが、この組織に名前は無い。
何故ならメンツがエグいから。
王立学園が正常な状態に戻れば、速やかに解散する為に、元から名前をつけなかったようだ。
今はまだ学園の様子見の為に継続しているが、近い将来には解体されるだろう。
この組織がいつまでも継続されては、権力の一点集中になりえるので、それは適切な処置だと言える。
名前をつけてそこに集えば、下手したら国の全てがそこで回ってしまう。
目的を達成したら速やかに解散して、仲良し程度の関係に戻らなければ、逆に危険なのだ。
まぁ、その辺を十分に理解している超優秀な人間ばかりの組織なので、問題は無いんだけど。
そんな訳で、我々学生レベルの問題は解決しているので、さて、あとはテキトーに学園を回して卒業。
フリードとスッキリ婚約破棄して、傷モノになったって理由をつけ、国外逃亡。
冒険の旅にレッツラゴーッ!
……と、やりたい。
やりたい放題したい。
ってかそうなる筈だったのにっ!
襲いかかるシャカシャカ問題……。
もう、何なんだよ……アイツ。
面倒クセェなぁ。
アイツが何をやらかすかが分からない以上、こっちも気が抜けない。
フィーネと違って、奴の目的が読めない以上、どうしてもこちらが後手に回ってしまうのが歯痒いところだ。
シャカシャカにも監視は付けてあるが、どうやら意味を成していないという事が、奴とシャックルフォードとの接触で明るみになった。
うちの監視をどうやってすり抜けたのか……。
更に奴には、エリオットが王家直属の監視だって付けていたのに。
奴がスキル持ちだという事は分かっている。
少なくともシャックルフォードに譲渡した、触れた人間に化けれるスキルは確実に保有してしていた。
そして、スキルを人に譲渡出来るスキル。
これは逆もあり得ると思っていた方がいい。
つまり、人のスキルを自分のものに出来る可能性もあるって事だ。
邸の玄関を抜け、自分の馬車に向かいながら、私は悶々と考え続けていた。
今日からシャカシャカの相手が始まるのかと憂鬱な気分で、御者の開けてくれた馬車に乗り込もうとして顔を上げる。
「おはよう、リア、いい朝だね」
バターンッ!
思わず馬車の扉を思いきり閉めた。
……うん?何だ、今のは。
朝から気分悪い幻覚が見えたが、いやいや、気のせい気のせい。
気を取り直して、今度は自ら馬車の扉を開けてみる。
「おはよう、リア、いい朝だね」
バターンッ!!
再び馬車の扉を思いきり閉めた。
……う〜ん。
うちの、私専用の馬車にエリオットが乗っているように見えるが?
何の冗談だろう。
朝っぱらから見る幻覚が濃いなぁ。
疲れてんのかな?
「リア〜〜、僕だよぉ、君のエリオットだよ〜〜」
馬車の中から聞こえる声に、私は青筋を立て、荒々しく扉を開いた。
「誰が私のじゃっ!要らんわっ!」
怒りに震える私に、エリオットはニコニコして席をずれ、ポンポンと自分の隣を軽く叩いた。
深い溜息を吐き、全てを諦めた私は馬車に乗り込むと、エリオットの正面に座る。
ガンッ!と分かりやすくショックを受けるエリオットを真正面から睨み、腕と足を組んだ。
「何の用よ、朝っぱらから」
ジトッと見つめる私に、エリオットは落ち込むように肩を落とした。
「僕、学園の理事長になったからさ。
今日は挨拶しに行くんだよ。
ってリアにも伝えてあったのに、忘れちゃったの?」
イジイジと人差し指を合わせるエリオットに、あぁ……と呟いた。
そういやそんな事言ってたな。
コイツの存在がウザすぎて忘れてた。
「それで、何でうちの馬車に乗り込んでんのよ。
自分ので行きなさいよ」
冷たく返すと、エリオットは悲しそうに目尻に涙を浮かべる。
「そんな、酷いよ。
僕の密かな夢がやっと叶ったっていうのに……」
ウルウルした目で見つめられ、鳥肌が止まらない。
190近くあるデカ男に、なぜ朝からそんな目で見られなければいけないのか。
「夢って何よ?」
どうせくだらない事だろうけど、と思いつつ、一応聞いてやると、エリオットは途端にモジモジと体をくねらせた。
うん、キモいな。
朝からキモい。
「こうやってリアと、朝登校するのが夢だったんだ……」
ポッと頬を染めるエリオットのやはりくだらない夢に、ブルっと反射的に体が震えた。
相変わらず青春拗らせてんなぁ……。
マジ、その拗らせに私を巻き込まないで欲しい。
23の男が、何が登校だよ……。
もう勘弁してくれ。
「去年は毎日、クラウスとキティちゃんが王宮から学園に一緒に登校してたでしょ?
アレ本当に羨ましかったんだぁ。
僕もリアと一緒に登校したいって、ずっと夢見てたんだよ?」
頬を染め、キラキラした目で夢心地のように語るエリオットに、いよいよ本格的に震えが止まらなくなる。
あ〜〜………。
キショい、キショいなぁ……。
何でコイツこんな少女趣味なんだろ?
学園恋愛物の読み過ぎなんだよなぁ。
頼むから学園くらい1人で行ってくれっ!
朝から私を巻き込むなよっ!
どう青春を拗らせたらこんなになるのか全く理解出来ないが、エリオットがどう勘違いしようと、学園の理事長と一生徒が一緒の馬車で登校してくるという、逆に青春物の真反対な状態なのだが、コイツはそれでいいのか?
理事長直属の学園機密部隊のリーダー→私。
とかなら、まぁ、納得してやらん事もない、うん、良い。
なんか一気に格好良くなったではないか、ふっふっふっ。
そんで私はコイツに弱みを握られてるわ、暗い過去があるわ、でもめちゃ強いわで、学園を中心に行われる悪事をバッタバッタと薙ぎ払……ったな……もう。
なんだよ、ちぇっ。
テンション上がりかけていたのに、スンッと真顔になった私に、エリオットはニコニコ笑ってその口を開いた。
「リアはトラブルを格好良く収めないと息が出来ない病気か何か?」
コテンとあざとく首を傾げるエリオットの耳を引きちぎる勢いで引っ張ると、悲鳴を上げてジタバタともがき始めた。
「いだいいだいっ、ご、ごめんっ!リアッ!
図星だっただなんてっ、なんて残念な子なんだっ!て、いだいいだいっ!ごめんなさいっ!
千切れちゃうって、本当に耳がっ!
耳がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悪鬼の如く瞳だけ煌々と光らせる私に、エリオットがガタガタと震え、涙を流している。
耳?
耳がどうした。
これの次はピーチクパーチク煩いその口を引きちぎってやんよっ!
アハハハハハッ!
きっとコンパクトな顔面になるぞ?
良かったなぁ?
馬車が学園に着いた時には、エリオットは真っ赤になった自分の耳を押さえながら、シクシク泣いていた。
ちっ、これくらいで情けない奴め。
御者が扉を開くと、エリオットは先に降りて私に向かって手を差し伸べて待っている。
ヤレヤレ。
仕方ない。
大人しくその手にそっと自分の手を重ね、ゆっくりと馬車から降り立った。
よしっ!
アロンテン公爵令嬢(学園バージョン)始動っ!
「ありがとうございます、殿下」
ニッコリ微笑む私に、エリオットも同じように微笑み返してきた。
「シシリア嬢、今日の私は学園の理事長としてここにいますから、どうかそのように」
あくまで学園の関係者として私と接してこようとする、エリオットの青春への執着に寒気を感じながら、すぐに申し訳なさそうに目を伏せた。
「失礼致しました、理事長」
その時。
私達のレーダーがピコンと反応して、私とエリオットはほぼ同時に顔を上げ、レーダーが反応した先をバッと見た。
「あ、あの、クラウス様……。
私、もう行かないと……」
「ああ、キティ。こんなに可愛い君をこの手から離さなければいけないなんて……。
すまない、俺には出来そうにない」
そこにはクラウスに抱き上げられ、一方的に耳やら頬やらデコやらにチュッチュッとされているキティの姿が……。
……お前らか。
私らのイチャラブレーダーに引っかかったのは……。
朝から学園の正門前で何をやっとんのじゃ。
「キティ、やはりこのまま連れ帰って、今日は君と一日部屋で過ごす事にするよ。
ねっ、良いよね?」
ニッコリ微笑むクラウスに、ワタワタ慌てているキティ。
良いよね?(ニッコリ)
じゃね〜〜わっ!
よくないわっ!
私はスタスタと2人に近寄ると、キティを抱くクラウスの肩をギリッと掴んだ。
「ご機嫌よう、クラウス様、キティ様」
優雅に微笑む私に、キティが助かったとばかりに目だけでSOSを送ってくる。
キティが本気を出せば、本当ならこれくらい何とでも出来るんだろーけど、通常時から無双キティ状態では無いんだよなぁ、まだ。
飼い主のくせに、この駄犬をまだ制御しきれていないとは。
「ところでクラウス様、そろそろ離して差し上げないと、キティ様が困ってしまいますわ。
お二人の毎朝の日課に水を差してしまい、大変申し訳ありませんが、お時間もございますので」
意訳)毎朝毎朝、ようも飽きずにこの場所でキティを困らせおってからに。
つい最近まで学園に通っていたくせに、始業の時間も分からんのか?
ふふふっと微笑ましげに見つめる私に、クラウスは無表情でつまらなさそうに口を開いた。
「時間など知らん。俺とキティの時間を邪魔するものなど、消し去れば良いではないか」
オイッ!
あんだけ苦労して守り切った学園を、そんな理由で消し炭にしようとするなっ!
やいっ!飼い犬なら飼い犬らしく、ご主人様の留守をクンクン言いながら大人しく待ってろよ。
ふふふっと笑う私と、無表情のクラウスで睨み合っていると、その間にエリオットがスッと入ってきた。
「クラウス、今日は僕は学園の理事にかかりきりだからね、王宮で代わりに僕の分も政務を行ってくれなきゃ困るよ。
キティちゃんだって、仕事を投げ出すクラウスなんて見たくないし、好ましく無いと思うなぁ」
ニコニコ笑うエリオットに、クラウスは少し顔色を悪くしてキティを見た。
「キティ、俺は別に政務を放り出す訳じゃないからね。
それくらいキティを抱っこしたままでも出来るから、ねっ?
一緒に帰ろう」
いや、来たばっかりだろっ!
何しに来たんだ、お前らはっ!
呆れ顔の私をチラッと見て、キティが意を決したように小さな拳を握った。
「なりません、クラウス様。
私は学生の本分が、そしてクラウス様には大事な政務があります。
そのように仰るなら、もう明日からここまで送って頂かなくて結構ですから」
キリッとした瞳でクラウスを見つめるキティに、クラウスは一瞬息を呑み、微かに頬を染めた。
「……ごめん、キティ。
大事な大事な婚約者の事が心配で……。
学園には男もいるし……。
でもキティがそう言うなら、もう困らせないようにするよ」
そう言ってクラウスはやっとキティをそっと降ろした。
そしてキティと向かい合いながら、その頬を愛おしそうに撫でる。
「明日からもう困らせたりしないから、ここまで送る事は許して欲しい。
少しでも愛しいキティと一緒にいたいんだ」
キティは耳まで真っ赤にして、コクコクと頷いた。
「は、はい、そういう事なら……」
甘っ!
判断ゲロ甘っ!
コイツはそうやって1許すと10許した事に持っていく常習犯だぞ。
いい加減、学習しろよ……。
キティの躾の甘々加減にイタタと眉間を押さえていると、エリオットが耳元でコソッと話しかけてきた。
こそばいからやめんかっ!
ぶん殴って空の彼方にぶっ飛ばしたい衝動を抑えつつ、グッと気合いで我慢する。
「クラウス、嬉しそうだね。
キティちゃんに叱られたから」
エリオットの謎の発言に首を傾げつつ、隣に立つエリオットをチラッと見た。
「そういや、クラウスってキティに叱られたり注意されると妙に嬉しそう、っていうか若干赤くなったりするけど、あれなに?」
凄くキモいんだけど。
前々から疑問に思っていた事を問いかけると、エリオットは楽しそうにニヤニヤした。
「クラウスは子供の頃から完璧な子だったからね、加えて人に興味がないから、迷惑をかける事も無かったし。
唯一普通に接していたリア達から注意されても、全く理解出来ていなかったと思うよ。
クラウスはキティちゃんの話しかまともに聞いてないから。
だから、キティちゃんに注意されたり叱られたりすると、自分の人間らしい部分を感じられるんだろうね。
あと、キティちゃんの怒った顔や厳しい表情が堪らなくゾクゾクするみたい」
うふふっと笑うエリオットに、私は全身鳥肌を立て、嫌なものを見る目でクラウスを見つめた。
い、嫌だ……。
コイツがドSの皮を被ったドMかもしれないなんて、その可能性だけでも嫌だ。
頼むからキティにSを求めんでくれっ!
私のcp解釈が瓦礫と化すだろうがっ!
どうしてくれんだよっ!
心の底から要らん情報を寄越してきたエリオットの足を、丁寧にグリグリと踏みながら、これは、ウルスラ(マリー)先生に伝えて新境地を開くべきか……否か……と悩みながら、まだイチャコラしているキティとクラウスを遠い目で眺めた。
……ドSキティって………。
お願いだから、私の新しい扉をこれ以上開かないで下さいありがとうございますっ!
第二部まったりとスタートさせて頂きます。
ブクマや★、いいね、ご感想等頂けましたら、執筆の活力になりますので、是非ともよろしくお願いします!




