番外編:そういやそんな約束してたな〜シシリアとジャンのお出かけ〜
「貴族街なんてつまんねぇし、平民街に行こうぜ」
何かご機嫌なジャンの言葉に、私は目をパチクリさせた。
「はっ?何の事?」
私の返答にジャンは途端に不機嫌になって、ブスッと私を睨んだ。
「約束しただろ。日頃は無愛想だけど、ヒロインにはツンデレな近衛騎士団長子息、俺やってやっただろ?」
そう言われてやっと私は、あ〜アレかと思い出した。
「ハイハイ、アレね。一緒に出かけるってやつ。
いいわよ、いつにする?」
気軽にそう答えた瞬間、ビキィッとうちの邸の柱にヒビが入った……。
……いるなぁ、アイツが……。
『明日は?』
察して念話に切り替えてきたジャンに、私も念話で返す。
『いいわよ、じゃあ平民らしい格好でね』
短く念話で会話して、2人で頷き合った。
次の日、平民服に身を包み、私とジャンは平民街へと繰り出した。
「アンタ意外と慣れてるわね?」
自然に街に溶け込むジャンに、私は意外に思ってそう言った。
「俺らたまに遊びに来てんだよ、騎士仲間とか、いつものメンバーとかと。
お前こそ溶け込みまくりだな、何でだよ」
ちょっと呆れ顔のジャンに、私はふふんっと笑った。
「私は子供の頃から常連だから。
よく邸を抜け出して、遊びに来てたから」
へへんっと胸を反らす私に、ジャンはますます呆れ顔になった。
「何で公爵令嬢が平民街の常連なんだよ」
何だよ?
駄目だって法律はないぞ?
そもそも私は貴族街の方が用がないんだよな。
まぁ、自分の経営してる店の様子を見に行ったりはするが、遊びに行く事はないな。
貴族街で買うものなんて無いし、ってか服とかはお母様が邸に呼んでなんか勝手に買ってるし。
食べ物もなぁ、邸や王宮とか以外では庶民食が食べたいんだよ、私は。
だから遊びに行くっていったら断然こっち。
高価なものなんてそもそもあんまり興味ないしなぁ。
そのうちキティもこっちに連れて来てやりたい。
絶対喜ぶと思うんだよなぁ、アレとか。
私は屋台で売ってる薄切りポテト揚げを眺めて、フッと笑った。
ふっふっふっ、キティ絶対アレ恋しいだろうなぁ。
「何だ?アレ食いたいのか?」
ジャンが私の眺めている屋台を指差して、首を傾げた。
「美味いよな、アレ。買いに行こうぜ」
そう言って私の手を握って引っ張るジャン。
ハッハッハッ、コラコラ。
はしゃぐなはしゃぐな。
日曜日の親父的心境で、大人しく手を引っ張られながらジャンに着いていく。
何だコイツ、平民街に来慣れてる的な事言ってたが、実はそうでも無いな。
こんなにはしゃぎおってからに。
ジャンが屋台で買ってくれたポテトを2人並んで歩き食べしながら、その後も飲み物を買ってくれたり、肉串を買ってくれたり、ジャンはいちいち楽しそうだった。
なんだかんだ言ってジャンも伯爵家の令息だからな〜、平民街で歩き食べしたり、店を覗いたり、物珍しいんだな。
私的には前世の記憶的にもこっちの方が日常だけど。
やいのやいのと2人で食べ歩きながら楽しく過ごしていたら、大きな書店の前に固まっていた少女達が、チラチラこちらを見ている事に気付いた。
コソコソと話しているのが聞こえてくる。
「ちょっ、まっ、ヤバいっ!
私の推しの最受けにマジ似てるっ!」
「えっ、マジじゃんっ!魔剣士ソックリッ!
ねぇっ、あれって魔剣士たんのモデルになったっていう、騎士のジャン様じゃない?」
「うそっ!何でそんな人が平民街にっ!
ってか、もしかしたら私の推しも来てんのっ!
えっ?どこどこ?私の執着強攻め魔法騎士様はっ!」
「はぁ?ノワール様は受け固定だから。
私の推しの受け固定だからね?」
「はぁ?ノワール様はcp自由の強攻めでしょ?
本当にアンタとは私が合わないんだけど」
ギリギリと睨み合い、一触即発状態の少女達に、私は全てを察した。
あ〜……貴腐人の方々でしたか。
うちの出版物の信者様方ですね。
本当、お世話になっております。
解釈違い、cp違い、逆リバ等で争うのも貴腐人方の様式美です。
まぁ流石に、前世仲良かった貴腐神方の領域に達してらっしゃる様子はないから、何か安心して見てられるな。
貴腐神方の通った後のコミケは草一本生えない有様になるからな……。
前世のキティを会長と仰いでいたあの貴腐神方を思い出し、ブルっと震えていると、隣でジャンが首を傾げている。
「なぁ、アイツら何言ってんだ?
何で俺とかノワールを知ってんだ?」
その無垢で純粋な問いに、ジャンに指差されている貴腐人方が浄化されて召されそうになっていた。
おいっ、勝手にうちの顧客を浄化すんなっ!
やっと書店に並べられるようになってきたとこなんだぞっ!
お陰で貴族令嬢(一部令息)だけでなく、庶民の中にも貴腐人が爆誕してきたっつーのに。
邪魔すんなっ!
私は無垢な瞳で彼女達を浄化しかけているジャンをクルッと回して、彼女達に背を向け、コソコソと話しかけた。
「いい?あの子達は〈うる魔女〉のファンで、アンタがあの本に出てくる魔剣士のモデルだって知ってるくらいコアなの。
あの本が私が経営してる出版社の作品だって知ってるでしょ?
ここは彼女達のあの本でのアンタのイメージを守らなきゃ、分かった?」
私の強めな口調に、ジャンは訳も分からず頷いている。
よしよし、お前は何も知らんでいいから、愛想だけ振り撒け。
間違っても貴腐人方の心を折るなよ。
うちが密かに出版してる、創作物の創作にモロに影響するからさっ。
せっかくマリーベルを神と讃える新人作家が増え、虹の世界が広がってきてんだからさっ!
キティの貴重な栄養源なんだよっ!
それが無いとアイツまた死んじゃうかもしんないんだぞっ!
私はジャンに顔を近付けコソコソと続けた。
「いいから、アンタはあの子達にちょっとブスっとしつつ手を振る、分かった?」
近距離でジッと目を見てそう言うと、何故かジャンは顔を真っ赤にして飛び退くように私から離れた。
「わ、分かったから、クソッ、ちけーよ……」
真っ赤な顔のまま、私から目を逸らすジャンに、おっ、すまんすまんと顔の前で手を立てる。
「とりあえず、やりゃいいんだろっ」
ぶっきらぼうにそう言うと、ジャンは貴腐人方に振り返り、片手はポケットに突っ込んだまま、もう片方の手で貴腐人方に手を振った。
凄く気が乗らないって感じの、ブスッとした顔まで完璧だ。
なんだよっ!やれば出来るじゃんっ!
貴腐人方はキャーッと黄色い声を上げ、中には目眩を起こしたり、鼻血が出てる方までいる。
うん、体にダイレクトな感じ。
君らマジの貴腐人だわ。
異世界発の貴腐人だわ。
「私の推しの可愛子ちゃんがリアルでも尊い……」
「違っ……ジャン様は私の推しの執着され受けだから……」
「流石、主人公に並ぶ総受け様……」
ウヘヘウヘヘと笑う貴腐人方からマッハで目を逸らし、ジャンは私の肩を掴んだ。
「おい……アイツらお前とキティ嬢がよく口にしてる呪文っぽい事言ってるぞ……。
なぁ、まさか、同類じゃないよな?
俺がアレ苦手だって、知ってるよな?
今、俺、アイツらに与えちゃいけない餌を与えなかったか?」
真っ青になってガクガク震えるジャンに、私はヤレヤレと肩を上げた。
何言ってんだよ……。
主人公総受け以外では攻めになれないような奴が。
それだって、途中で主人公と並べられて奴らに貪られる側になるから、結局受けのくせに。
偉そうに言う割には受けなんだよなぁ。
受け専なんだよなぁ。
まぁ、マリーベルがそれで固定化させちゃったんだけどなぁっ!
ある意味スーパー受け様っ!
なっはっはっはっはっ!
ちなみにジャンは推しの固定受けだったり、皆の所有受けだったりして、決して推しにはなり得ないところがなんか私のツボだ。
お前を推してるのはこの世界の虹神と呼ばれしマリーベルだけなんだよなぁ。
それも最高に私のツボ。
「ううっ、何かここにいると具合が悪くなってきた……早く行こうぜ」
もう少しジャンと貴腐人方のめったに無い交流を楽しみたかった私だが、ジャンに腕を掴まれズルズル引き摺られていってしまった。
アディオースッ!貴腐人方っ!
ウルスラ(マリーベル)先生の新作をお楽しみにっ!
「ねぇちょっと、アレやりたい」
ジャンの肩をバシバシ叩いて、私は立ち飲み屋台の隣を指差した。
昼間からお酒を飲んでご機嫌な男性陣が、即席腕相撲大会をやっていた。
「へーー、肩慣らしにもってこいだな」
途端に肩をグルグル回し始め、ノリノリのジャン。
私達は顔を見合わせると、ニヤリと笑い合った。
「お互い強化魔法無しね」
私の提案に、ジャンは片眉を上げる。
「お前大丈夫かよ、流石にキツいんじゃねーの?」
筋肉隆々は男性陣をチラッと見るジャンに、私はハッと鼻で笑った。
馬鹿者め。
勝負は筋肉のみじゃ無いんだよ、筋肉のみじゃ。
確かに筋肉は正義だけどな。
「おっちゃん達っ!私らも入れてっ!」
ウキウキしつつ声をかけると、皆人の良さそうな顔でニコニコとコチラを見た。
「おっ!えらいベッピンさんが来たな。
お嬢ちゃんの彼氏が参加するのかい?」
ワラワラとジャンを取り囲み、バシバシ肩やら胸やらを叩いてご機嫌な様子の、陽気な酔っ払い達。
「兄ちゃん、綺麗な彼女の前でいいとこ見せなきゃな」
「もう付き合ってんのか?まだなら早くものにしなきゃ、あんだけのベッピンさん、横から掻っ攫われちまうぞっ」
「違いねぇや、俺があと10年若けりゃなぁ」
「バカ、20年の間違いだろっ!」
ガッハッハとジャンを揶揄う酔っ払い達に、ジャンはまた顔を赤くして、無愛想にボソッと呟いた。
「……分かってるよ」
そのジャンの返答に、酔っ払い達は一瞬目を丸くしてから、またガーハッハッハッと大笑いをする。
「いいねいいね、青春だっ!」
「さっ、兄ちゃん、やろうぜっ!
っても手加減はしねーぞっ!」
そう言いながら、腕相撲の為の樽を囲む酔っ払いとジャンに、私はオイッ!と声をかけた。
「いやっ、私も参加すんだけどっ!」
その私の言葉に酔っ払い達はポカンとして、一瞬私を見てから、すぐにガーハッハッハッとまた笑い出す。
「そーか、そーか、嬢ちゃんも参加するかい?
いやぁ、ベッピンさんの手を握れるなんて、今日はツイてるなぁ」
ご機嫌な様子で樽に腕を乗せる1人の酔っ払いに、私はニヤリと笑う。
「私は強いから、負けても不名誉だなんて思う必要ないからね」
その手をガッチリ掴んで、その酔っ払いの目を見つめると、相手は楽しそうにご機嫌に笑っていた。
ククク、その笑顔がいつまで続くかしら?
審判役がガッチリ重ねた私達の手の上に手のひらをおき、掛け声をかける。
「レディー、ゴーッ!」
その声と共に、私は自分の覇気を全開にした。
剣道界の鬼夜叉として、数々の大会を総なめにした私の気迫に一瞬で完全に呑まれた相手は、真っ青になって体から力が抜けている。
うりゃっ!喰らえっ!
ダンっとその腕を樽に叩きつけると、周りがシーンとした。
何だよ?
別にズルはしてないぞ?
腕力だって普通に引けをとらないくらいあるんだし、良いじゃん。
周りの反応にんっ?と首を傾げると、ややしてワァッと歓声が上がった。
「スゲーじゃねぇかっ!お嬢ちゃんっ!」
「アンタ、鬼みたいなオーラだったぜっ!」
「こりゃっ!つえーやっ!」
ワァワァ私を取り囲み、口々に称賛してくれる陽気は酔っ払い達っ!
流石昼間っから飲んでるだけあるぜっ!
そこからは皆でワイのワイの、白熱した勝負が繰り広げられた。
当然の如く、私とジャンは順当に勝ち進み、いよいよ最終決戦。
もちろん、私とジャンの一騎打ちだ。
「四天王最弱のくせに、よくここまで勝ち進んできたわね」
樽を挟んで向かい合い、スッとジャンに向かって手を差し出すと、ジャンがその手をギュッと握り返してきた。
「誰が四天王最弱だっ、余裕でいられんのも今のうちだぜ?」
ニヤリと笑うジャンだがしかし、台詞が既に噛ませ犬のそれだ。
仕方ない、主人公の本気を見せてやろう。
さぁっ!かかってこいっ!
噛ませ犬ジャンッ!
「レディー、ゴーッ!」
掛け声と共にグッと力を込める。
お互いの覇気がぶつかり合って、樽がミシミシと音を立てた。
が、しかし、徐々にジャンに押され始め、私は冷や汗を流した。
あれ?
これ勝てる気がしないな?
コイツいつの間にこんな強くなったんだ?
クソッ!
このままじゃ、主人公としての矜持がっ!
私はグッと上半身を樽の上に持ち上げ、片腕に思い切り自分の体重をかけた。
その時、フッとジャンの力が何故か緩んだのを感じて、もちろんその機を逃さず、私は思い切りジャンの腕を樽に叩きつける。
「お嬢ちゃんの勝ちだーーーっ!」
ワァァッと歓声が巻き起こり、私は勝利のガッツポーズでそれに応えた。
「……クソッ」
片手の甲で口元を覆い、何故か真っ赤になっているジャンに、慰めるように何人かがその肩を叩いている。
「いやいや、アレは仕方ないって」
「俺らもお前側にいたから、モロ見ちゃったし」
「樽の上にあんなデカ…ち……なぁ、乗っちゃってたもんな……」
「アレには勝てんっ」
何やら同情されているが、何だよ?
圧倒的強者である私に、もっとひれ伏せよな。
何か釈然としないが、その後皆からお酒を奢って貰って、結局私もご機嫌な酔っ払いに混じって、ワイワイ騒いで大いに楽しんだ。
「あ〜〜楽しかったっ」
酔い覚ましに街の高台に登り、沈んでいく夕日をジャンと眺めた。
街を一望出来るこの高台は、綺麗に整備されていて、お洒落な柵に、何か色とりどりのリボンが沢山巻かれていた。
「あ〜、これ、何かクラスの子が言ってたなぁ。
恋人同士でお互いの瞳の色のリボンを結ぶらしいよ?」
私がそれを指差すと、ジャンが興味無さそうに、シラッとして口を開く。
「で、んな事して何になるの?」
「知らんっ」
私の返答に、ジャンは急に声を立てて笑い出した。
「おまっ、そーゆーの本当興味ないのなっ」
柵に寄りかかりながら、ジャンが楽しそうにそう言って、フッと笑って俯いた。
「俺さ、何か、女の子のらしい感じ?そーゆーの苦手で、何話せばいいのかも分かんないしさ。
だからお前の、何つーか、らしくないとこが何かイイなって、最初はそんな程度だったんだけどな……」
急にヘタレな話を始めるジャンに、私は首を傾げた。
女の子の女の子らしいところの良さが分からんとは、相変わらずのヘタレっぷりだな。
何話せばいいか、じゃなく、何話せば楽しんでくれるかな?って常に考えろよ、呆け者め。
前世王子役だった私がその辺徹底的に叩き込んでやろうか?この四天王最弱に。
などと思いつつ、拳をベキっと鳴らしていると、今度はハハっと笑い出す、ジャン。
な、何だよ?
情緒不安定か?
「でも、違ったんだよな。
お前の女の子らしい可愛いとこをさ、エリオット様が引き出してんの見て、あっ、俺も本当はそうしたかったんだっ、て気付いたんだ。
で、同時に自分じゃ無理な事にも気付いてさ」
夕日を背に立つジャンは、今どんな表情をしているのか、私には分からなかった。
けど、そのジャンらしくない力の無い声に、急に胸に不安が広がっていく。
「俺はさ、相手を困らせるくらい執着するとか、なりふり構わないくらい追いかけるとか、まだ分かんねーし、お前にそうしたいとも思わない。
だから、もういっかな、って思ってる。
どうせあの人には敵わねーし」
自嘲的に笑いながら、ジャンは寄りかかっていた柵からゆっくり身を起こし、私の方に歩み寄ってきた。
そして、私の頬を撫でると、泣きそうな顔で笑った。
「今日、ありがとな。最高に楽しかった」
そう言ってニカッと笑ったジャンは、もういつものジャンで、私は目をパチクリさせてその顔をマジマジと見つめる。
んっ?
マジどうした、コイツ?
何かあったのか?
流石に心配になって口を開こうとした時、ジャンが両手を上げて、急に降参のポーズをとった。
「気が済んだんで、もう良いですよ」
ジャンがそう言うと、背後の草むらからガサっと音がして、そこからエリオットがヌッと姿を現した。
……頭に葉っぱつけて、何やっとんじゃ、コイツは。
エリオットはスタスタと一直線に私に向かってくると、スルッと腰に腕を巻き付け、ギュッと背後から抱きしめてきた。
「おい、やめろ、離せ」
「無理っ!」
被せ気味に私の言葉に反抗してくるエリオットに、イッラァとしながら腰に巻き付いたその腕をベシベシ叩く。
「何が無理だよっ!いいから離せっ!」
「無理無理無理っ!」
「だから、何でだよっ!」
ギャーギャー言い合う私達を見ていたジャンは、アハハっと声を上げて笑いながら、私達を切なげに見つめた。
「じゃ、俺帰るわ。
送ってやれないけど、エリオット様にちゃんと送ってもらえよ。
またなっ」
はっ?
子供じゃないんだから、一人で帰れるが?
呆然とする私に片手を上げて走り去るジャンは、何か吹っ切れたみたいなスッキリとした様子だった。
……何だったんだ、アイツは?
まぁ何か、スッキリしてたし、いいのか?
首を傾げながら、去っていくジャンを眺めていると、エリオットが後ろからギュ〜ッとますます抱きついてきて、涙声を出した。
「無〜理〜」
だから、何がだよっ!
こっちもこっちで訳が分からん。
エリオットはグジグジした陰気な声色で、ボソボソと呟き始めた。
「シシリアが他の男と触れ合った回数……ちゃんと数えてあるから……。
あと、樽の上に胸乗せてたあのサービスショット……絶対に許さないからね。
僕にも同じ事してくんなきゃっ、許さないんだからっ!」
訳の分からん言いがかりをつけるなーーっ!
んな事しとらんわっ!
何だよっ!サービスショットって!
思い切り後ろに肘を振り上げると、見事にエリオットの脇に刺さり、よしっ、この隙に逃げようっと思ったのに、エリオットの力がまったく緩まず、私はドッと冷や汗を流した。
なにぃっ!
コイツ、今のを耐えやがった……だとっ⁉︎
「くっ……今日の僕の忍耐力は神の領域だから……」
いや、効いてるじゃん。
思いっきり効いてるじゃん。
エリオットは苦しそうに息を吐きながら、ゴソゴソと自分のポケットを探ると、私の目の前に2本のリボンを垂らした。
……ロイヤルブルーとアメジスト。
それはエリオットと私の瞳の色のリボンだった。
「き、貴様っ!まさか……」
戦慄が走り、わななく私を、柵までズリズリ引き摺っていくエリオット。
「さぁ、リア、ここにこのリボンを、2人で……」
ニヤァッと笑うエリオットに、私はイヤイヤと顔を振った。
「や、やめろ……やめてくれーーーーっ!」
高台に私の絶叫が響き渡り、眼下に見下ろす街の家々から、それに共鳴するように無数の犬の鳴き声が聞こえてきた……。
ジャンが一歩大人になりましたね。
エリオットは後退して更に乙女化が止まりませんが、大丈夫でしょうかね?




