リンク話:危険物取り扱い甲種取得者〜シシリア編〜
春の麗かな日差しの下。
王宮の庭園で、私はキティとお茶をしていたのだけど……。
「ぐがーーーっ、ごーーっ、んがーーーーっ」
……このところ色々あって、つい、テーブルに突っ伏して、イビキをかいて寝てしまっていた。
夢とうつつの狭間のような所で、遠くでボサ子が頭を抱えている姿が見えて、私は慌てて駆け寄った。
『なんだよ?どうした?』
顔を覗き込むと、ボサ子はダラダラ汗を流して絶望の顔をしている。
『わ、私の部屋の押し入れに入っていた、あの至高の危険物達はどうなったっ⁉︎』
ガタガタと震えるボサ子に、なんだよその事か、と呆れて溜息をつく。
『いやぁぁぁぁぁぁっ!
アレを両親と無垢な妹に見られたかもしれないと思うと、死ねるっ!
いやっ、死んでるけどもーーーーーっ!』
髪を振り乱し頭を抱えてのたうち回るボサ子。
ふむ、面白いからちょっと見てよう。
『クラウス様魅惑のトランクス一丁姿の抱き枕ーーーーっ!
あ、アレだけは………。
何としても、アレだけは………』
うっうっうっと咽び泣きつつ、こちらに苦しそうに手を伸ばしてくる。
その時、まるで私達のいる場所の外から聞こえるように、キティの声が響いた。
「あーー、アイツ、ちゃんと処分してくれてんのかな?」
私はその声に、上を見上げで答える。
『ちゃんと、処分したっつーのっ!
たくっ!私は危険物取り扱い甲種資格なんか持ってないつーのに』
ふぅ、やれやれ。
心残りがそれとか、徹底していると言うか、何というか……。
呆れて肩を上げる私の目の前から、さっきまでいた筈のボサ子の姿が消えている。
……んっ?
あれ?どこ行った?
キョロキョロとしていると、耳元に生暖かい息を感じで、ひょわっと飛び上がった。
まるで脳に直接話しかけるかのようなキティの囁き。
「クラウス様の魅惑のトランクス抱き枕……も?」
『だぁかぁらぁっ!それも処分したって。
あんなパンツ一丁の不審物、どないせぇっちゅーんじゃっ!』
ゾワゾワしながら耳を押さえ、また辺りをキョロキョロ見渡す。
一体さっきから、このキティの声はどこから聞こえてきてるんだ?
警戒しているというのに、また耳元で直接囁かれて、私はまたもアヒャッと飛び上がった。
「タロちゃんが分裂してモフモフ倍率ドンッ!」
「んがっ!マジかっ!やいっ、タロ公っ!モフらせろっ!私をモフまみれにしやがれっ!」
ガバッと起き上がり、キョロキョロ辺りを見回す……。
んっ?
あれ?
タロは?
タロはどこだ?
私専用のモフモフ生物は何処に……?
「アンタッ!王子でしょっ!」
キティのクソでかい声にビクッと体を揺らし、あっ、ヤベッと全てを悟った。
どうやら寝ぼけて色々やらかしたようだ……。
ズビシッと私を指差すキティに、冷や汗を流しながら頬に手を当て、困ったように眉を下げた。
「お、王子?何の事かしら?
王子ってキティの婚約者じゃない。
な、何で私が王子なのか、さっぱり」
あらあら?どうなさったのかしら?って感じて困惑顔の私に、キティは後ろを指差して、ビックリ顔で声を上げた。
「あっ!タロちゃんがモフモフな子犬を5匹も連れてお散歩してるっ!」
「何だとっ!モフモフ子犬っ!まみれさせろっ!私をモフモフまみれにしやがれっ!このヤローッ!」
即座に反応してキティの指差す方を振り返る……。
もちろん、タロと子犬などそこにはいない。
「……王子よね?シシリィ、アンタ、王子だよね?」
ギギギと振り返りると、そこにはニッゴリ微笑むキティが……。
私はその笑顔に涙目でカタカタ震えた。
「……ひゃい…」
震える声でそう返事すると、キティは黒い笑顔のまま唇の端を引き攣らせた。
「何で今まで黙ってたの?」
ズゴゴゴッと青筋立てつつ迫ってくるキティに、私は恐怖に顔を引き攣らせて、座っているイスと更にテーブルまでガタガタと揺らす。
テーブルの上の茶器がカチャカチャ音を鳴らした。
「あ、あの……アンタがキティに生まれ変わってて、色々、それどころじゃないかなぁ〜と思いまして……アハハ…」
言いながら目を泳がせる私を、キティはギロリと睨みつつ、胸ぐらを掴んで額をぐりぐりと顔に押し付けてきた。
はうっ!
フワフワの髪が頬に当たってむしろご褒美ですありがとうございます。
「いや、言えたよね?いつでも言えたよね?
隠してたんでしょ?意図的に黙ってたんでしょ?ねぇ?」
超接近戦に持ち込まれた私はダラダラと汗を流し、キティと無理やり目をらしたまま絶対に目を合わせようとしなかった。
あかんっ!
目が合ったらあの真っ暗なブラックホールに吸い込まれるっ!
大人しいやつ程キレさせたらゲームオーバーなんだよっ!
「いやいや、そんな事は……。
ただまぁ、前世の事だし?必要ないかなぁって……」
誤魔化し笑いを浮かべる私に、キティはその瞬間激昂して、掴んだ胸ぐらを前後にグワングワン激しく揺らしてきた。
「必要ないってっ!そんな訳ないじゃないっ!
私達、あんだけいっつも一緒にいたじゃないっ!
それなのにっ!必要ないってっ!」
アガガガガガッ!
失敗っ、失敗したっ!
待って待って、何この馬鹿力っ!
どっからきてんの、これっ⁉︎
うっ、で、出そうっ!
ランチで食べたもの全部出ちゃうよ〜。
あ〜世界が回る〜。
脳が揺れる〜。
信じられない馬鹿力で私をグワングワン揺らしていたキティは、急にピタリと動かなくなった。
えっ?ちょっと。
突然なに?
逆に怖い……。
私はビクビク怯えながら、下からキティの顔を覗き込んだ。
私は座ったままで、キティは立ち上がっているから、いつもと立場が逆の状態。
キティはそんな私をギラッと上から睨んで、ボソッと呟く。
「……薄情者……。それって、武士道に反してない?」
淡々としたキティの言葉に、私はウッと胸を押さえた。
な、何て事をおっしゃるんだ、このチワワめ。
私の武士道を攻めてくるとは、流石前世ボサ子だぜ……。
「それから、その胸………。
竹刀を振るう時にさぞ邪魔でしょうねぇ。
前世ではナイ胸だったくせにっ!
ちょっと溺れそうなくらいデカい胸を手に入れたからって、途端に薄情になるなんてっ!
武士道なめてんのっ!」
「胸はカンケーねぇだろっ!
あと薄情じゃねぇっ!更に武士道なめた事もないわっ!」
ハーッハーッとお互い肩で息をしつつ、睨み合う私とキティ。
「……これが薄情じゃなかったら、じゃあなんなのよ。
私はアンタの事、忘れた事なかったし、無理だって分かっててももう一度会いたいって、ずっと……思ってたのにっ……」
そう言ってキティの瞳から涙が溢れ、ボロボロと頬を流れていく。
……泣かしたい訳じゃなかった。
そんなつもりで黙ってたんじゃなかったのに。
私が、私が臆病だから……。
「……ごめん、私が悪かった。
私の事を思い出したら、余計な事まで思い出させるんじゃないかって、怖かったんだ……。
アンタがせっかく忘れてるのに……」
そう言う私の声も涙声で、ポタポタとキティの髪に涙が落ちた。
キティはギュッと私の服を掴んで、小さな体で自分よりデカい私を抱きしめてくれた。
……なんか、必死にぶら下がってる感半端ないけど。
「……もぅ、今までの事はいいよ。
なんだかんだ言っても、結局私の側にいてくれたんだし……。
でもまさか王子までこの世界に生まれ変わってるなんて。
そういえば王子って、事故で死んだんだよね?
なんで?それっていつ?」
私の胸から顔を上げて、下から覗き込んでくるキティに、私はなんて事ない顔でケロッと答えた。
「あ〜、私はアンタが死んでから1年半後くらい?
神様のペットにプチッと踏まれてね」
いや〜まいったまいったと笑う私を、キティが死んだ魚の目で見つめている。
その顔にありありと、……はっ?何を言ってんの、コイツ?って書いてある。
とうとう俺tueee拗らせて頭おかしくなったな……って思ってるのが、その表情を見ただけで分かるっ!やめてっ!
シンプルに傷付くからっ!
残念そうな顔しないでっ!
違うからっ!
転生もののお約束の、転生前に神様とか女神様とかに会ってチュートリアル説明してもらった上に、チートまで貰って俺tueeeって事を言ってるんじゃないからなっ!
いや、実際神様には会っているけどもっ!
チートな4属性も貰ったよ?
でもそれは詫びだからっ!
クリシロの詫びだからさっ!
ってか、やだこの人重症っ、みたいな目で見ないでっ!
しかも、俺tueee希望者がなんで乙女ゲーの世界にっ⁉︎て言いたそうにしてるのも、バレバレだからなっ!
それは私が一番言いたい事なんだわーーっ!
頑張って無理やり自分を納得させてきたんだから、お願いっ!もうそこは抉らないでっ!
王子の事だからその現実を受け入れきれないが為に、無理やり大好きなラノベの世界観に当てはめようとこんな事に………とか思っているのか、キティは私を憐憫の目で見つめながら、口元を押さえうっうっと嗚咽を漏らす。
だ〜か〜ら〜っ!
そんなんじゃね〜んだよぉっ!
私は青筋を立てつつブルブルと震えた。
「ちょっと、本当なんだけど」
怒りを滲ませた私の声に、キティは涙を流しつつ、うんうんと頷く。
その目が私を慰めるように優しく細められた。
可哀想に、とでも言うかのように……。
くそっ!
分かりやすく、王子にこの世界観はキツいわよね、って労わるような目で見るなっ!
キツいさっ!ああっ、キツいさっ!
私は微塵もそんなキャラじゃねぇものっ!
腰まで長い髪とか、よく我慢してるって自分でも思うさっ!
前世では常に短くしてたしっ。
それにドレスも頑張って着てんだよっ!
前世ではスカートとか履かなかったし、制服のスカートだって、下にジャージ履いてたしさぁっ!
でもなっ、お前のその、同情たっぷりの、よくここまで我慢したね、頑張ったね。
私は理解してるからねっ!
アンタがちょっと現実逃避しちゃうのも、分かるっ!分かるよっ!
みたいなその顔はやめろっ!
私の両手をグッと握ってうんうん頷くキティに、ゲンナリして吐き捨てるように言った。
「お前は何も分かっていない」
何でよっ!
って顔すんなっ!
お前何にも理解出来てないからなっ、言っとくけどっ!
神様のペットに踏み殺されたってのも、私の痛厨二病的設定だと思ってるだろっ⁉︎
設定じゃねーーーっつのっ!
キティは私の言葉にコロッと態度を変え、フンガーッと地団駄踏んで、私に猫パンチしてくる。
その後ろから、クラウスが音もなく現れ、後ろからスルッとキティに手を伸ばし、ヒョイと抱き上げた。
「ク、クラウス様っ!」
めちゃ淑女らしからぬ姿を見られてしまったキティはクラウスの腕の中で、あわあわオロオロしている。
その姿に思わずハッと鼻で笑うと、キティはぐぬぬ〜〜と悔しそうな顔でこちらを見てきた。
「おやおや、可愛い2人の仲睦まじい様子にクラウスが我慢できなかったみたいだね」
そう言ってニコニコと笑いながら近付いてくるエリオットに、クラウスに抱っこされつつ何とか礼をとろうとしているキティ。
エリオットはそんなキティをすぐさま手で制した。
そうそう、いらん要らん、コイツにカーテシーなど。
ってコイツは何しにきたんだ。
エリオットをジト目で見ていると、キティがワナワナ震え始めた。
また不敬だなんだと要らん心配をしているようだが、本当に要らん。
そんなもんはまったく必要ない。
ケッとそっぽを向くと、何だかキティの方から不穏な空気を感じる。
キティは、おやおやぁ?といった様子でニマニマしていた。
な、なんだよ、気持ち悪いな。
キティのその態度に、私はすぐにハッとして、やっとエリオットに腰を抱かれている事に気づいた。
こ、コイツッ!いつの間にっ!
それでキティがニマニマしてんのかっ、くそっ!
離せっ!離さんかっ!
ギリギリとエリオットの手をつねったり、バシバシ叩いて払い除けようとするが、ますますガッツリ腰を抱き直されてしまった。
やめっ、やめろっ!
キティの前でこれ以上はやめろっ!
しかも今さっき、私の前世がバレたばっかりなんだぞっ!
私の前世を知ってる人間からしたら、女らしさやましてや男に腰抱かれるとか、絶対に有り得ない状況なんだよっ!
男みたいな見た目で、3度の飯より竹刀ふるってるのが好きなチャンバラ男子だったんだよっ!
なんなら平気で鼻水くらい垂らしてたんだよっ!
それを知ってるキティの前でっ、やめっ、やめてくれーーーっ!
その時、キティの口がニマニマしながら動いた。
『ふっふぅ〜。
ヒューヒューッ!』
ちっがーーーうっ!
そんなんじゃないっ!
断じてそんなんじゃないんだぁっ!
ニマニマニマニマ笑うキティに、私は真っ赤な顔でブンブン頭を振った。
だが、クラウスがスリっとキティの頬を撫でて、キティの気が私から逸れた。
よっしゃっ!良くやったっ!クラウスッ!
「泣いていたの、キティ?」
優しくキティの涙の跡をなぞり、ややしてギラリと私を睨みつけるクラウス。
「……シシリア」
責めるようなクラウスの声に、私は負けじと額に青筋を立てる。
「あっ?私らの問題にまで首突っ込んでくるなら、それ相応の覚悟してからにしろよ?」
ビキビキィッと首にまで青筋を立て、あんっ?コラッ!やんのかっ⁉︎と睨み上げる。
私の相変わらずのガラの悪さに、キティはハァッと溜息を吐いて、クラウスを見上げた。
「クラウス様、悲しみの涙ではなく、これは嬉し涙です。
あと、ちょっとシシリィに怒ってたけど、そこは痛み分けなので、もういいんです。
だから、シシリィが私を泣かした訳じゃありません。
責めたりしないで下さいね」
クラウスの頬を両手で包んで微笑むキティに、途端にショボンとして耳をぺシャン(幻覚)とさせるクラウス。
キティが目をハートにして、そんなクラウスにきゃわわわわわっ!とハフハフしているが、いや、それどっからどう見ても猛獣……。
猛獣クラウスにハァーハァーしているキティをカタカタ震えながら見つめ、隣のエリオットにコソッと話しかけた。
「あの子、まだアレが可愛い大型犬に見えてんのよ……。
アレ、どっからどう見てもヤバい狼だよね?」
「そうだね、狼の王、フェンリルになら見えなくもないけど、間違いなく犬には見えないね」
コソコソと話し合う私達に、キティはぷぅっと頬を膨らませた。
いやもう、お前が可愛いわ。
キティは私達に否定されてむくれながら、無意識なのかクラウスの髪をナデナデして、すぐにハッとしていた。
あ〜あ、このパターンは、アレだなぁ。
ノンストップクラウスだなぁ。
私が思う通り、クラウスは気持ちよさそうなうっとりとした顔で、キティに向かって頬を染めている。
「……キティ、それもっとして。
出来れば、2人きりで、ね?」
そう言ってキティを抱えたままスタスタと歩き出すクラウス。
ハイハイ、いつものやついつものやつって事で、ハンカチを振りながら達者でな〜っと叫んでおいた。
その私の隣で、エリオットがグスグス鼻を鳴らしている。
「うっうっ、あんな簡単に個室に連れ去れるなんて……羨まし過ぎて、お兄ちゃん辛い」
個室とかって生々しいワードを出すなっ!
あとそんな事でいちいち泣くなっ!
キティはクラウスの肩越しにぐぬぬぬっと悔しそうな目で私を見ていた。
なんだよ?そのドナドナ状態に対して私が出来ることは何もないぞ?
いつもの事じゃないか。
だがしかし、今日のキティはそのままでは引き下がらなかった。
あろう事か、キティはエリオットに向かってありったけの大声を張り上げ叫んだのだ。
「エリオット様〜っ!シシリィの弱点は耳ですーーーっ!
日頃は隠して平気な顔してるけどっ、本当はコソコソ話も出来ないくらい、弱いんですーーーっ!」
バカお前っ!
それ前世での話だろっ!
今世での私はなっ!
今世ではっ!
耳が弱点だっ!バカやろーーーっ!
キティのリークにエリオットがパァァァッ!と顔を輝かせて、楽しそうに私の耳たぶに口を近付け、そこに口づけた。
「あひゃあっ!」
悲鳴を上げて飛び上がる私の姿に、キティが満足そうに笑いながらクラウスと共に消えていった。
あ、あ、アイツーーーッ!
許さんっ!
メラメラと怒りに燃える私の腰を、エリオットがますますグイッと引き寄せて、耳にフッと息を吹きかけた。
「ひゃあっ、やっ、やめっ!」
耳を押さえて涙目でエリオットを睨むと、エリオットはハァーハァーと荒い息を吐きながら、私に迫ってくる。
「ヤバい、普通にムラムラする……」
ボソッと呟き顔を近付けてくるエリオットを、必死で押し戻しながら私は涙声で叫んだ。
「バカキティーーーッ!覚えてろよっ!コノやろーーーーッ!」
この状態になったエリオットは面倒なんだよっ!
やっぱりアイツは何も分かってなーーーいっ!
チワワとのリンクになっています。
クラウスとエリオットのイチャラブ格差が酷いことになっていますね。
エリオット……ごめん。




