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EP.100

誤字報告ありがとうございますっ!助かります(ぺこぺこ)



「あ〜〜飲みすぎた」


王宮の庭園の、お茶の用意をしてあるテーブルに突っ伏して、私は掠れた声で呻いた。



「だからいい加減にしておけと言ったんだっ!」


その私に声を荒げるレオネル。


あっ、やめて……。

頭に響くから。

もっと優しくお願いします、お兄ちゃん。


ガンガンする頭を抱えて呻く私に、ノワールが心配そうに指を振った。

その瞬間、額にヒヤッと気持ちの良い感触がして、私は椅子の背もたれにダラ〜ンと体をもたせ掛けた。


冷えピタみたいじゃん、便利だなぁ。



「あ〜〜気持ちいい、ありがとう、ノワール」


礼を言う私に、ノワールはふふっと花を背負って笑った。

毎回思うのだが、いる?その花。


私はぼや〜っとノワール(の背後の花)を眺め、ふと気になっていた事を思い出し、ちょいちょいとノワールを手招きする。


ノワールは不思議そうな顔で小首を傾げ、私の隣に座った。



「そういや、陛下から褒美を貰える事になったじゃない?

アンタ何を頼んだの?」


私の問いに、ノワールが途端に顔を曇らせ、俯いてしまった。


えっ?あれ?

そんなアレだった?

聞いちゃいけないやつだった?


その様子にアワアワとしている私に、ノワールは微笑を浮かべた。


「大陸を渡る許可が欲しかったんだ」



ノワールの言葉に、私はなぬっと目を見開く。

聞き捨てならねーなぁ。

もしやお前も冒険者希望か?


ってか、どうだったのっ⁉︎

許可降りんの?それ?

それいけたんだったら、私も肉まんの店の許可じゃなくてそっちにしたのに〜。


興味津々で目を輝かせ、ノワールの方に身を乗り出す私を、ノワールはクスッと笑って宥めるように優しく手で制した。



「許可は貰えなかったんだ。

今は大陸の向こうは情勢が不安定だからね。

王国の将軍を父に持つ僕が不用意に渡れば、どんな嫌疑を掛けられるか分からないから」


そう言って目を伏せるノワールは、その瞳を哀しげに揺らした。



……なんか、冒険者希望とかじゃ無さそうだな……。


どうやら私の質問は不躾なものだったようだ……。


二日酔いの回らない頭で不用意な事を聞いてしまい、私は反省と共に項垂れた。



その私を見て、ノワールがまたクスッと笑う。


「そんなに気にしないで、シシリア。

実は大陸を渡りたい理由は、人探しなんだよ」


そう言って憂いを纏うノワールに、私はアッと小さく声を上げた。


「例のアンタが探してるっていうご令嬢?」


小声の私の問いに、ノワールが小さく頷く。

私は自分の顎を掴み、う〜んと首を捻った。


「でも、王国のご令嬢が大陸なんか渡るかしら?」


私の疑問に、ノワールはフッと笑う。


「僕もね、確率は低いと思っているんだ。

だけど方々手を尽くして探しているんだけど、彼女はどうしても見つからない……。

それで、もしかしたらと、そう思ったんだけど……」


そう言って俯くノワールの哀しそうな様子に、流石にこちらまで胸が痛んだ。



コイツ、そんなにそのご令嬢に会いたいのか……。



「その人に最後に会ったのはいつよ?」


ふと気になって聞いてみると、ノワールは遠い目をして笑った。


「僕と彼女が10歳の頃だから、もう少しで9年になるね……」


その横顔に憂いを浮かべるノワールに、私はタラリと冷や汗を吹き出した。



きゅ、9年っ⁉︎

待て待て、いや、待て。

そ、それってさぁ……。

向こうはノワールの事、覚えてない可能性もあるんじゃね〜か?


申し訳ないけどっ!

大変申し訳ないけどっ!

それ、望み薄いぜ、ダンナっ!


とは絶対に言えず……。

私は曖昧に引き攣った笑いを浮かべながら、ノワールと同じように遠くを見つめた……。


ちょっと……。

いや、かなり。

このブリザードから逃げ切ったそのご令嬢が気にならないでは無いけど。

そこはそっとしておこう……と密かに心に誓った。


彼女の努力を無駄にしてはならん。





 


しかし、キティ遅いな〜。

私は時計をチラッと見て首を傾げた。


今日は午後から私主催で、気の置けない仲間だけの、キティ&クラウス無事に婚約式まで漕ぎ着けたな、その執念がちょっと怖いけど、まぁおめでとうお茶会を予定していた。


もちろん準備もバッチリ。

私が二日酔いでダウンしている以外は順調そのもの。


なのだが、肝心の主役の姿がまだ見えない。

といってもまだ30分くらい遅れてるだけだけど。

しかし、クラウスはともかく、律儀なキティは常に約束の20分前行動の人だから、こんな事は珍しい。



まだノワールと一緒に遠くを見つめていた私は、そこで一つの結論に至る。


……これはアレだなぁ。

朝チュン超えて、昼チュンだな、アイツら……。


ア〜イ〜ツ〜ら〜っ‼︎

イチャラブ以外にやる事ないんかいっ!

そりゃめでたく正式な婚約を結んで色々テンション上がるのは分かるっ!

分かるけどもっ!


クラウスの奴っ!

ちっとは手加減しろよっ!

今日の予定はアイツにも伝えておいた筈なんだけどなぁっ⁉︎


眉をピクピクさせつつ、いや、いかんいかん、落ち着け、と自分を律する。

 


ボサ子ことキティがやっと掴んだ最推しとの幸せなんだ。

しかも悪役令嬢からの逆転劇をなし得たキティの、ヒーローとのイチャラブを責めるような考えは良くない。


ここは冷静にお茶でも飲みつつ、優雅に待っていてやろう。

と、お茶一口飲んだ時、慌てた様子のキティと、何も気にしてない顔のクラウスが現れた。


そのご機嫌な様子のクラウスに、やはりイラッとしてしまう私はまだまだ修行が足りないらしい。




「ご機嫌よう、キティ様」


お茶を飲みながら、優雅に微笑んで……いや、ニヤニヤしながらキティに声をかけた。


「ご、ご機嫌よう、シシリア様」


冷や汗をかきながら周りを見渡すキティ。


私の態度に咄嗟に周りのメンバーを確認しているのだろう。


お茶会にはノワール、レオネル、ミゲル、ジャン、それにエリクエリーとゲオルグ。

あと呼んでもいないのにエリオットが来ている。


普通の顔して参加しようとするエリオットに、テメーはキティにとってまだ馴染みが薄いだろうがっ!帰れっ!

と言ってやったらメソメソ泣き出して、皆に無言で指さされた私は、仕方なく、本当に仕方なく、エリオットをその辺に放牧している訳だが。


まぁとにかく、キティが私に何を言いたいかというと、私にとって気の置けないメンバーしか居ないはずなのに、何故淑女モード全開なのかって事だと思う。


何が起きた?て顔に書いてあるが、心配すんな。

お前を揶揄う為だから。



キティはノワールに席を譲られ、私の隣に座って、耳元にコソッと話しかけてきた。


「ちょっと、何でそんなに畏まってるのよ?」


私はその言葉に驚いた顔をして、手で口元を隠した。


「まぁ、キティ様は人生の先輩ですから、当然ですわ」


はっ?

て顔で私を訝しげにジーッと見つめるキティに、私はニヤリと笑った。


「だって、私より先に悪役令嬢の運命から離脱したでしょ」


私の言葉に、キティはハッと息を呑んだ。


やっと自分がもう悪役令嬢じゃないって事に気付いたらしい。

それにもう、あんなにキティが恐れていたヒロインもいない。

ここはヒロインの為の世界じゃないと、実感出来たらしい。


それに、キティ・ドゥ・ローズは……死ななかった。


確かに死は迫ってきたけど、その危険は回避出来たのだから。


私に改めて言われて、その事実をやっと実感出来たのか、キティの目尻に涙が滲み、直ぐにポロポロと頬を伝う。



あっ、さっそく泣かしちゃった。

こっからイジるつもりだったのに……。


まぁ、それだけ今まで、細い糸が切れないように気を張って生きてきたのだろう……。

それがあったからこその今のキティなんだと思うし。



「ジジリィ……あだじ、生きてる〜〜」


ボロボロのキティの泣き顔を見て、私はブハッと吹き出してしまった。


「あ……あんた、それ、ちょっ!

ひっどい顔っ!面白過ぎるんだけどっ!

や、やめて、その顔でこっち見ないでっ!」


キティを指差し、アーハッハッハッと大爆笑する。


おい、貴様………。

って顔で涙が引っ込むキティに、私は慌てて口を開いた。


「いや、ご、ごめんごめん」


目尻の涙を指で拭いながら、まだニヤニヤしている私に、キティは呆れ顔で口を開く。


「あんたは、どうするの?

ニ年の新学期早々に2のヒロインが編入してくるんでしょ?

何か対策とか、断罪回避とか、もちろん考えてるのよね?

私も全力で協力するから、計画を教えてよ」


なるほど、キティは自分だけ乙女ゲームの運命から逃れるつもりはないらしい。


まぁ、らしいっちゃ、らしい。


同じ転生者であり悪役令嬢である私の運命も、変えてみせるつもりなのだろう。


が、その2のヒロインはシャカシャカだ。

あまりキティに張り切って関わって欲しくはない。



意気込んで私にグイッと身を寄せるキティに、私は軽く肩を上げて、なんて事ない風に言った。


「無いわよ、対策も計画も。

前にも言ったでしょ?私は断罪回避しないって」


私の言葉にキティは大きな瞳を更に見開く。


「な、何言ってるの?

回避しないって、じゃあ断罪されちゃうじゃ無いっ!

そんなの私、嫌よっ!」


グイッと私のドレスを掴むキティに、私はニヤリと笑うと安心させるようにその頭を撫でた。


「大丈夫よ。この私があんな小物共にどうにかされたりしないわ。

ヒロインだって、小指で捻り潰してやるわよ」


クックックッと笑うと、キティは何故かガタガタ震え始めた。


んっ?何でだ?

ここは安心して、流石シシリィさんっ!

思う存分やっちまって下さいよっ!て言うとこだぞ?


まぁ、いいや。

私の事は本当にどうでもいい。

相手が相手だけに、どうせゲーム云々など関係ないのだから。

それにフリードの事だって、本当は既にカタがついているようなもんだし。



「私の事なんかより、今はあんたが無事だった事を祝いましょうよ。

キティ、改めて、おめでとう。

あんたは良く頑張ったわよ」


そう言って微笑むと、キティの瞳に再び涙が込み上げてきた……けど、気合いで止めやがったっ!


また私に爆笑されんのを警戒しやがったな。

キティのクセに学習能力を発動させた……だとっ⁉︎




「なんだ?正式な婚約の祝いか?

それなら俺にも言わせてくれよ」


ジャンがご機嫌で、ニコニコしながら近寄ってくる。

何だよ、無粋な奴め。



「キティ嬢、あのクラウスを引き取ってくれて、ホント〜〜〜っにありがとな。

キティ嬢にしか出来ない事だから、くれぐれも返品はしないでくれよ、なっ」


後半かなり本気の顔で念押しされ、キティはコクコクと頷いた。


額に汗を浮かべて何を言ってんだ。

流石にキティも首を傾げてんじゃねーかっ!

返品不可強調しすぎ。

60点。



「本当に貴女はこの王国を救った女神です。

どうかくれぐれも、クラウスと末長くお幸せに。

くれぐれも、末長く、少しでも長く、出来ればクラウスを看取って頂きたい。

キティ様、どうかお願い致しますっ!」


次はミゲルだが、もう懇願するように胸の前で手を組み、ジャン同様額に汗を浮かべている。

キティにクラウスの永眠補助を嘆願するなっ!

40点っ!



「キティ嬢、まずはクラウスとの婚約が正式なものになった事、祝いを述べる。

そして、私の言いたい事も、この2人と同様だ。

少しでも長く、アイツの側にいてやってくれ。

だが、もし逃げ出したくなったら、先ずはクラウス本人には秘匿にして、我がアロンテン家を頼ってくれ。

出来る限りの対策を練ろう。

いいか?その時はくれぐれもクラウスに悟られないように気を付けてくれ」


至極真面目な顔でレオネルにそう言われて、キティはポカンと口を開けてている。

我が家に匿うのは私も大賛成だっ!

よし、80点。



「キティ、コイツらの言う事は気にしなくていいよ。

少しでも嫌な事があれば、いつでも、直ぐに、家に帰っておいで。

こちらから婚約を白紙に戻す申請理由なんか、いくらでもどうにでもなるからね」


ノワールの、女神も裸足で逃げ出しそうな美しい微笑みに、キティは顎が外れそうになっている。

つい昨日婚約式を終えたばかりの妹に鬼畜過ぎんだろっ!

大陸超えても追っかける気満々のご令嬢の分も含めて、0点っ!



「おいっ!ノワールっ!何言ってんだよっ!

そんな事になったら、この国が塵になっちまうだろっ!」


ジャンがノワールの肩をガックンガックン激しく揺らす。

ノワールはそのジャンに、ツーンっとそっぽを向いた。



「随分、楽しそうな話だね、キティ?」


スルッと腕がキティの後ろから伸びてきて、クラウスがキティをその胸の中に抱きしめた。


「クラウス様」


見上げるキティにニッコリと微笑むクラウス。

お前がその皮を被る為に、何万匹の猫が犠牲になった?



「皆、キティに何か余計な事言ってないよな?」


皆に向かってニッゴリ黒く微笑むクラウス。


私とノワール以外、皆ブンブンと頭を振っている。



「そう、ならいいんだけど。

ねぇ、キティ、ちょっとあっちへ散歩しない?」


クラウスが庭園の奥にある林を指差す。

キティは不思議そうにしながら頷いた。


クラウスはキティをヒョイと抱き抱えると、スタスタと歩き出しさっさっと行ってしまった。


ん?散歩……とは?

犬でも自分の足で歩くと思うのだが。



林の中に消えていった2人を呆然と眺めていると、いつの間にやらエリオットが後ろに立っていて、耳元でボソッと呟く。


「そう言えば、宝物庫から誓約の指輪が消えていると、朝から専属管理人が騒いでいたなぁ」


エリオットの呟きに私はその顔を見上げた。


「誓約の指輪?」


私の問いに、何故かエリオットはその顔に憐憫を浮かべ、林の方を見つめたまま答える。


「うん、術者の瞳の色と、術をかけたい相手の瞳の色を映す不思議な宝石の嵌め込まれた指輪だよ」


へ〜〜。

魔道具って訳か。

宝物庫にあるって事は相当年代物だよな?

ひょっとして帝国由来の物かな?



「で、どんな魔道具なわけ?」


続く私の問いに、エリオットは堪え切れないといった感じで口元を手で覆った。


「その指輪に向かって誓約を交わすと、指輪が光り輝き、誓約が発動する。

術者から持ち主が一定距離離れたら、自動的に術者の元に瞬間移動する魔法が付与されているんだよ。

キティちゃんがもしあの指輪に誓ったら……」


エリオットがそこまで言った時、林の奥が微かにパァッと光った……。



ああ……。

誓っちゃったよ、アイツ……。


クラウスの事だから、どうせ碌に事前説明も無かったんだろうなぁ……。



「ちなみに、アレ、お互いの承認が無ければ外せないんだよね……」



もうそれ呪いの指輪じゃねーかっ!

火山の火口まで捨てに行く旅に出なきゃいけないやつっ!



ややして、林の奥からキティの絶叫が聞こえてきた。


「クラウス様のっ!へんたいーーーっ!」




そのキティの叫びに、どこかイチャラブな気配を感じ、私はイラッとしてボソッと呟いた。


「爆ぜろっ!リア充っ!」


隣に立つジャンが、遠い目をして、同じように呟く。


「また新しい呪文か何かなんだろうけど……何となく激しく同意したくなるな……」


後ろで、レオネルとミゲルも深く何度も頷いていた……。




春の風が庭園を吹き抜け、澄んだ青空を見上げていたノワールが何かを呟いたような気がしたが、その呟きは誰にも聞かれる事なく、春風に溶けて消えた………。







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